「そうだ、二人に土産を用意していたのだった」
他の星系から来た知的生命体に帰って貰って、ある程度の時が過ぎたある日。
私は彼らから艦を貰っていた事を思い出した。
「お土産?」
ヒトハは無言で不思議そうに私を見て、カミラは疑問の声を上げた。
「彼らの艦を貰ったんだ、見てみないか?」
「見たいわ!……んっ、少し興奮しすぎたかしら」
「……興味深いですね、是非見てみたいです」
カミラは嬉しそうに声を上げ、その後少し恥ずかしそうにした。
ヒトハは静かに話すが、楽しみで仕方ないといった表情をしている。
「じゃあ宇宙に行って取り出そう、すぐ行くか?」
二人は頷くと転移していった、私は二人を追いかけて転移する。
転移先では、二人が待ちきれないといった表情で待機していた。
『早く出して、お母様。見てみたいわ』
カミラがせかしてくる、ヒトハも隣で楽しみにしている様だ。
こんな様子の二人は珍しい。
『分かった』
私がマジックボックスから貰った艦を取り出すと、何も無い宇宙空間に大きな艦が現れる。
『中々大きいわね』
『これが宇宙を移動する乗り物なのですね』
二人は艦を見て呟く。
この艦の大きさは魔道戦艦よりもはるかに大きい。
『外見は何となく海洋生物のような雰囲気を感じるわね』
『確かにイシリスに居た海洋生物のような特徴が所々にありますね』
二人が言うように、外見はイシリスの海中に生息していた生物のような流線型をしている。
ただ、生物でないのは一目で分かる。
『入り口はどこなのかしら?』
『そうですね、どこでしょうか?探してみます』
『私も探すわ』
二人はそう言って艦を見て回り始める、転移で入ったので私も正式な出入り口の場所は分からない。
調べようと思えば調べる事は出来たが、二人が楽しそうに探しているのを見て一緒に探す事にした。
『お二人共、それらしきものを見つけました』
しばらく三人で周囲をうろついていたが、ヒトハがそれらしい場所を発見する。
ヒトハの所へ行くと、船体中央下部の側面に、それらしい扉のような物が付いていた。
『どうでしょうか?扉の様に見えるのですが……』
『確かにそれっぽいわね……』
『近づいてみよう』
私はそう言って扉の様な場所に近づく。
出入り口では無く、格納式兵器の搭載場所という可能性もあるかも知れないな。
表面を触って見ると、滑らかな金属のような感触がする。
『ここじゃないのかしら?』
『他にそれらしい場所を探して見ますか?』
傍に居た二人が話しているが、これ以上外をうろついていたくも無い。
少し調べてみると、内部の通路とつながっているのは間違いない、大きさからしてもここが入り口の可能性が高いと感じた。
『少し調べたが、ここが入り口の可能性は高いな。中につながっている』
『でも、何の反応もしないわよ?』
『何か条件が必要なのではないでしょうか?宇宙空間で突然開いてしまうのは問題だと思いますし……』
中につながっているという私の言葉にカミラは船体を撫でながら話し、ヒトハは何か方法があるのではと推測した。
『ヒトハの言う事が当たっていそうだな。確かに、何かが近づいただけで勝手に開いたら話にならない』
『……仕方ないから転移で中に入りましょうか』
カミラがそう提案してくる。
『それが良いと思います』
『私も転移で入ったからな、そうしよう』
ヒトハと私は賛成し、転移する事にした。
転移した先は、私が彼らと会話をした指令施設のような場所だ。
確か、中央部の高い場所が群長と呼ばれていた者がいた場所だったな。
その周囲には座席と様々な設備が扇状に設置されている。
「ここはイシリスに近い環境なのね、普通に話せるわ」
「その様ですね、生活環境が大きく違うのでは無いかと思っていましたが……」
「この艦、動力も動いたままなんじゃないかしら?」
「……確かに、周囲の魔動機のような物は動いているようですね」
そう言いながら二人は物珍しそうに見て歩く。
「まだ余計な物は触るなよ?どんな機能があるか分からないからな」
「分かったわ」
「心得ております」
そう返事をして二人は思い思いの場所へと進んでいった。
私は一番何かがありそうな、群長の席であった中央に向かう。
中央に着いた時、下からカミラの声がした。
「あら?この死体は……。これがやって来た知的生命体よね?へぇ……血は人類と変わらない色なのね」
「私も見てみたいです」
カミラの声に反応してヒトハが飛んで行く、私は中央を見ながらカミラに釘を刺す。
「その血は飲むなよ。何があるか分からないからな」
「流石に飲まないわよ……」
カミラから少し不貞腐れたような声が帰って来た。
「船の見た目もだけど、彼ら自身も何となく海洋生物っぽいわよね?」
「そうですね。しかし何故ここに死体があるのでしょうか?」
私は群長の席を調べながら説明する。
「私がここに侵入した時、そいつが攻撃して来てな。船が傷つきそうだったから殺したのを忘れていた。ヒトハ、その死体は回収しておいてくれ」
「かしこまりました、回収しておきます」
ヒトハに頼むと、すぐに返事が返って来る。
気が向いたら調べよう。
この艦をマジックボックスに入れておいて良かったな、そうでなければ腐っていた。
中央の設備を時間をかけて慎重に調べた所、この艦の設備は魔力的な物では無い事が分かった。
二人は途中から私の作業を見ていたが、恐らくよく分かっていなかったな。
教えてくれる者がいればいいが、何も分からないまま調べるのは理解するのに時間がかかりそうだ。
「群長席の設備を調べた事で得られた情報を共有しよう」
「何が分かったのか気になるわね」
「楽しみです」
二人とも興味があるようだ。
現在、私達は複数が並んで座れる席に座って話をしている。ここは休憩所の様な場所だったのだろうな。
「まずは彼らの事だ。彼らはニアレ星系種、という種族らしい」
「ニアレと言う惑星に生まれて進化したのかしら?」
「恐らくそうだろう。同名の惑星も出て来ている」
「星系と言う事は……やはり複数の惑星にまたがって生活しているのでしょうか?」
「その様だ、そして数も多い。恐らく魔法人類を遥かに超えるだろう」
私はヒトハに答えながら思う。
私に宇宙の知識があったのは幸運だった。突然頭に現れた知識だったが、恐らく一部でしかない知識であっても役に立っている。
この現象で私に害があった事は無く、今の所は有益なだけだ。
「次に、この艦の事を話そう。この艦は戦艦だ。正式名称は、ニアレ統一宇宙軍ラディアス級戦艦シフィス、というらしい。登録番号がN83884529だという事も分かったが、これは無数にある艦を管理するための物だと思う」
「統一宇宙軍ね……」
カミラが艦内を見回しながら呟く。
「かなり規模が大きそうな名称ですね。登録番号の桁が大きいのはそれだけ数が作られているという事でしょうか?」
「恐らくな。得た情報によると、この艦が彼らの主力戦艦だった様だ。この程度なら二人を戦わせても問題無かった」
こういう事を過保護と言うのだろうか。
「気持ちは嬉しいわよ?でも、次は私達も戦いに出たいわね」
「はい、実戦経験は必要だと思います」
カミラとヒトハはそう言ってやる気を見せる。
「そうだな、次からは二人も一緒に戦おう」
いざという時は私が何とかしよう。
「次の情報が二人の話した疑問の答えになるかも知れない。ニアレという本星らしき名の惑星を始めとした、多くの座標や惑星の地図と思われる物も見つかった。この戦艦を使う事が出来れば彼らの本星にも行けるだろう」
「ニアレ星系種の名前の由来と、彼らが数多くの惑星にまたがって生活している証拠……って事ね」
カミラがヒトハと目線を合わせながら言う。
「それで……彼らの本星に行くの?」
「どうするのですか?」
二人はそう聞いてくるが、あまり乗り気ではないようだ。
惑星に乗り込んで彼らを滅ぼすと思っているのではないだろうな。
私は攻撃して来た相手は種族ごと滅ぼす、といった考え方はしていないぞ。
「どちらにしてもこの艦を動かすには手が足りない。行く場合は手を増やす事から始めなければならないな」
「今はどうするか迷っている感じ?」
カミラにそう聞かれ、私は正直に答える。
「そうだな、イシリスの事もある」
私は考える。
人手が必要……。
身の回りの世話をヒトハだけに任せている。
それでは彼女は他の事をしようと考えないかも知れない。
艦の事はともかく、人手は増やすか。
「艦の事は一旦後回しだ、話がある」
「あら?何か思いついたの?」
「嫌ならやめる。取り敢えず話を聞いてくれ」
「分かったわ」
「主様、お帰りになられますか?」
「帰るぞ」
それから、私達はすぐに艦から出てマジックボックスに仕舞い、転移で月へと帰った。
月へと帰った私達は飲み物等を用意し準備を整えてから、話を始めた。
「まずはヒトハの生活についてだ」
「私の……ですか?」
ヒトハが意外そうな顔をする。いきなり自分の生活についての話になるとは思っていなかったのだろう。
「長い間お前は訓練と私達の身の回りの世話だけをする生活になっている。そこで、自由な時間を与えるために新しく人手を増やそうと思う。ヒトハから見ると妹の様な者になるな」
「妹……?いえ、私は今のままで何の問題もありませんが……」
「自由な時間を作るだけだ。その時間で私達の世話をしたいのなら止めはしない」
「つまり、自由な時間を作るけれど何をするかも自由って事ね?」
「そうだ」
私はカミラの言葉に頷く、今はこれで良い。
「人手を増やす事でヒトハに自由時間を作り、艦の乗員も兼任させる。構わないか?」
数が揃ったら一度ニアレの戦艦で本星に行ってみるのも良いな。
もしイシリスに生命が生まれたら、イシリスを優先するつもりだが……どちらが早いだろうか。
「私は構わないわよ?のんびりと三人で過ごすのもいいけれど、賑やかなのも嫌いじゃないもの」
あっさりと答えたのはカミラだ、妹が増える事が嬉しいのか微笑んでいる。
「私は……」
ヒトハは少し表情を暗くして考え込んでいる。
今のヒトハは訓練と私達の世話が生きがいなのかもしれないが、いずれ他の事にも目を向けて欲しい。
「ヒトハ、そんなに真剣に悩む事無いわよ。さっきお母様が言ったでしょ?他の事が出来るというだけで、やる事は貴女が決めるのよ?」
カミラがそう言うとヒトハはいつもの表情に戻る。
ヒトハ自身が考えを変えなければ、今と変わらない事に気が付いたか?
「主様、何の問題もございません」
「よし、では決まりだな」
こうして新しく人手を増やす事が決まった。