ヒトハの妹達を製作する作業は問題無く進んだ。
一度ヒトハを作っている事が理由だろう。
途中、カミラやヒトハが様子を見にやって来る事があった。
特にヒトハは妹達の事が気になるのか、頻繁に私の元へと訪れている。
この調子なら四姉妹として良い関係を築けるかも知れない。
私は二人と日々を過ごしながら、妹達の製作を続けた。
妹達の製作に取り掛かってからどれ程の時が流れただろうか。
今日、三人の妹達が完成した。
現在、リビングには私とカミラ、ヒトハの他に三個の球体が飛んでいる。
それぞれの球体にはそれぞれ違う色の帯状の印が入っている、分かりやすくするために私が付けた物だ。
青色の印が次女のフタバ、紫色が三女のミツハ、赤色が四女のヨツバだ、この色は以前イシリスに生えていた花の色を参考にしている。
名前については、ヒトハと合わせて四姉妹になるのだから共通の何かが欲しいと考え、花の葉を想像してつけた。
初期設定を終えた三人を部屋に連れて来た後、この部屋から出ない様に自由に飛んでいるように言ったので、彼女達はそれぞれ漂ったりうろついたりしている。
用が無いのなら止まっていればいいと思ったが、この子達は生まれたばかりで今は命令を受けて動く魔道具と大して変わらない。
自由に飛べと言われれば飛ぶ事が命令で、止まって待機などしないという事にたった今気が付いた。
「フタバ、ミツハ、ヨツバ。私の傍で待機しろ」
『かしこまりました』
声色の違う三つの声が同時に届き、三体は私の傍に飛んで来て待機する。
「作られたばかりの頃のヒトハを思い出すわね」
「そうだな。そういえば、ヒトハは私に作られたばかりの頃の記憶はあるのか?」
ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「うっすらと思い出す事が出来る事が僅かに存在しますが、最初期の物と思われる記憶はありません。……しかし、中には覚えている事もあります。例えば、お二人と都市へ行きカミラ様とこの装飾品を選んだ事、ルーテシア様やクログウェルさんの事などもハッキリと覚えています」
そう言いながら水色の装飾品をマジックボックスから取り出して見せるヒトハ、そういえばそんな事もしていた。
きっかけがあれば、思い出す事もあるだろう。
あの時の私は、確か別行動をして本か何かを見に行っていた気がする。
「嬉しいわ、記憶に残っているのね。……でも、覚えているのも分かる気がするわ。貴女はあの時初めて、自分の意思で好きな物と嫌いな物を選んだのよ?」
「はい、今なら分かります。私はあの色使いとデザインは嫌いです」
「貴女が危険と言ったアクセサリの事ね。今だから言うけど……あのデザインがヒトハの好みだったらどうしようと思っていたのよね」
カミラが苦笑いして言う、もう一つはそんなに酷かったのか。
「中にはそういった者もいると思いますが、私の好みではありませんでした」
そんなカミラにヒトハは微笑みながら答えた。
「この子達の事だが、成長しそれぞれの個性を持つまでには時間がかかるかも知れない。ヒトハの時と違い、今回は周囲に私達しかいない。外部からの刺激は少ないだろうし多種多様とも言えないからな」
「ヒトハの時は情報収集が色々な刺激を得る機会にもなっていたけれど、それが無いものね」
「そういう事だ。出来るだけこの子達に構ってやってくれ、何か簡単な事を頼んだりただ話すだけでも良い。子供に構ってやる感じで良いと思う」
「そうする事にするわ」
「やってみます……姉ですから」
姉を強調するヒトハにカミラが優し気な視線を送る、私も気が付けば少し微笑んでいたようだ。
それからの生活は三体の娘達を主体にした生活になった。
常に共に過ごし、話しかけ、簡単な物事を頼み、本を読み聞かせ、訓練も見学させた。
そんな事をしながら長い間生活を続けていると、やがて妹達に多少の個体差が現れ始める。
フタバは家事などに興味を示し始め、ミツハは新しい事や道具に興味を持つようになり、ヨツバは戦闘訓練に興味を持ち始めた。
今もリビングでヒトハが彼女達に自分の経験を話して聞かせているが、それぞれ反応が僅かに違う。
順調に個性が現れ始めている事が分かる。まだ時間はかかるだろうが、これからが楽しみだ。
私はいつもの様に妹達に少しだけ手伝って貰いながら作られた朝食を食べた後、本を読もうと世界樹のもとにやって来た。
『あ、クレリアさんいらっしゃーい』
すると突然、間延びした声が聞こえる。
「世界樹か?」
私は世界樹からの念話だとすぐに気が付いた。
『あれ!?分かるの!?……そうだよー、こうして話せるなんて嬉しいなぁ』
幼い声と話し方だが、しっかりとした意思を感じる。
世界樹は私と同じ位の時を生きている筈だから当然か。
いや、最初はただの樹だったな。あの時点で自我が無かったのなら、年齢的には私より少し下になるのかも知れない。
「いつから話せたんだ?」
取り敢えず彼か彼女か分からないが、聞きたい事は聞いておこう。
『ついさっきだと思うよ?いつも伝えてたけどクレリアさん分かって無いみたいだったし……今日も伝えたら答えが返って来たから驚いた!』
「お前が使っているのは念話だな、自然に使えるようになったのか?」
『もしかしてボクって凄い?』
「そうだな、凄いと思う」
『えへへ……』
精神的にも樹としてもそれなりの年齢のはずだが、なんだか子供の様だな。
「それと、お前の声は聞こえていなかったが嬉しそう、楽しそう、悲しそうといった雰囲気は感じていたぞ」
『それは知ってるー。言葉は伝わらなかったけど、何度か行動で意思の疎通は出来てたもんね?』
「お前に意思のような物があるのは知っていたが、ハッキリと自我があるとは思っていなかったからな。植物の無意識の反応だと思っていた」
『そう思われても仕方ないかなぁ。ボクは他の樹達の言葉も分かるけど、ボクみたいにはっきりしてる子は居なかったし』
「樹の言葉が分かるのか?」
『うん。多分ボク以外には無理なんじゃないかな?クレリアさんだってこうして話せなければきっとあのままだったでしょ?』
確かにそうだ。
こうして話しかけられる事が無ければ、私の世界樹に対する認識は意思のような物がある珍しい樹のままだっただろう。
「いくつか聞きたい事があるんだが、答えてくれるか?」
『いいよー』
「性別はあるのか?」
『両性だよー』
「どちらでもあると言う事だな?」
『うん、ボクだけで苗が作れるよ』
「他に何か出来る事はあるか?」
『何かー?んー……魔素を魔力に変えたり、果実とか樹液が作れるよ?』
「魔法は使えるか?」
『クレリアさん達が使ってる色々出来る奴だね!……無理なんじゃないかなぁ?』
「そうか」
恐らく戦闘力は無いな、いざという時のために何かしておくか。
後々、本当に魔法が使えないか確かめてみるのも良い。
「お前はこれからどうしたい?」
『ん?このままここでみんなと居たいよ?クレリアさん達もいるし、向こうの皆は死んじゃったけどここには仲間がいっぱいいるし』
「分かるのか」
『うん……ずっと消えていく皆の事を感じてたよ』
樹なので表情は無いが、この声が寂しそうな、悲しそうな声である事は分かる。
『クレリアさんが少しでも皆を助けてくれていて嬉しかったよ』
イシリスの植物を月に持って来た事を言っているのだろうか。
「たまたまそうなっただけだ」
『それでも……ありがとうね』
言葉が途切れ、風と葉擦れの音が聞こえる。
幼い声と話し方で誤解されそうだが、どうやらその精神はそれほど幼くはないようだ。
「皆に紹介しよう。カミラとヒトハの他に新しく三体増えているから、彼女達にもな」
『最近よく見る丸い子達だね』
「知っているなら話が早い。ヒトハの妹達だ、気にかけてやってくれ」
『え……?ヒトハちゃんの妹なの?全然形が違うんだけど。ボク達はそこまで違う形にならないけど、そんな事もあるんだね』
「彼女達は少し特殊でな」
私はヒトハ達の事を世界樹に説明した。
彼……彼女でもあるが、とにかく彼は私の話を聞いて納得したようだ。
『その内同じような姿になるの?面白いねー?』
こうして私は皆に世界樹を改めて紹介した。
カミラとヒトハは特に驚く事無く受け入れた。三体の妹達も樹が意思を持ち話す事が珍しいと知らないため、問題無く受け入れた。
ある程度妹達が個性を出し始めた後、自由に行動している際に妹達が世界樹の根元に集まっている光景をよく目にするようになった。
今も世界樹の枝に座って本を読んでいる私の下で集まっている。
全く動かない彼女達だが、念話で会話している筈だ。
盗み聞く事も出来るが、やめておこう。
私は読書を中断し、世界樹の根元に集まっているヒトハの妹達をしばらく見ていた。