新しい屋敷は大人数を想定しているため色々と規模が大きいが、今は六人だけだ。
現在、私達は三階の食堂で食事を取っている。
人数が増えて来たら二階の食堂で皆と共に食事を取る事にしようか。
食事の準備は、人数が少ない内はヒトハかカミラのどちらか一人と、妹達の中の誰か一人で行う当番制にした。
今日の食事当番はヒトハとフタバだ。
「フタバ、何故見ている」
フタバは自分の食事に手を付けず、私が食事する姿を微笑みながら見つめている。
「ご主人様のお口に合うか心配になってしまって……お味は如何ですか……?」
微笑みながらも不安そうな表情をするフタバ。
「練習時間を考えれば十分な味だと思う、美味い」
カミラやヒトハが単独で作った料理と比べる事はまだ出来ないが、このままいけば彼女はあの二人と同等かそれ以上になるかもしれない。
私の言葉を聞くと、彼女の微笑みが明るくなった。
「ご主人様のお口に合って良かったです……」
「フタバ、私が付いているのですからそこまで主様の好みから外れた味にはさせませんよ」
ヒトハがそう言って私に飲み物を注ぐ、人数が揃ったらこういった役割も当番制にしよう。
「美味いなこれ、フタバ姉さん上達早いな」
「おいひぃよね……フタバお姉ちゃん凄いよー!」
ヨツバが静かに食べながら感想を言い、ミツハは勢いよく食べながら言う。
「ミツハちゃん?その食べ方はやめるように言ったでしょ?」
「はーい」
フタバが微笑みながら少し怒ったように言うと、ミツハは返事をしてゆっくりと食べ始めた。
「毎回言われてんのに分かんねーのかお前は」
「うるさーい。それよりも!ちゃんとミツハお姉ちゃんって言ってよー!」
「誰が言うか!なんでお前が三女なんだよ!どう考えてもお前が四女だろうが!」
ミツハとヨツバの言い合いが始まる。
「ヨツバ、それは作った順番だ」
私がそう言うとヨツバが私を見て言う。
「主様が悪い訳じゃないです、こいつがガキなだけだから」
「ふふん!お姉ちゃんだぞーぅ!甘えていいよー?ヨ、ツ、バ、ちゃん?」
「この野郎!」
煽るミツハと怒るヨツバだが、これでも仲は良い。戦闘訓練の時に良い連携を見せたりもする。
「二人ともそこまでです。主様は楽しそうに見ていらっしゃいますが……それ以上は食事の場では許しません。フタバも見ていないで止めなさい」
「ヒトハお姉様……申し訳ありません」
フタバは気が付いたように謝る。
「ごめんなさい……ヒトハお姉ちゃん」
「……悪かった、ヒトハ姉さん」
騒いでいたミツハとヨツバも大人しくなる。
フタバ、ミツハ、ヨツバの間ではそれほど差は無いのだが、ヒトハに対しては何というか、一人だけ年の離れた姉に対する反応に見える。
実際にかなり離れているからな、どうやら下の三人はヒトハに頭が上がらないようだ。
「ふふ……私はこういう雰囲気は好きよ?こんな騒がしい日々はいつぶりかしらね……」
四姉妹のやり取りを私と共に見ていたカミラが楽しそうに言う。
今まで殆どの日々を静かに過ごして来たが、私もカミラも騒がしいのが嫌いという訳では無い。
「カミラお嬢様……」
そんなカミラを見てフタバが呟いた。
「カミラ様……それでも限度があります。あまりにも見苦しい事をさせる訳にはいきません」
呟いたフタバを横目に、ヒトハはカミラに話す。
ヒトハもしっかりと私達に意見をぶつけるようになっている、実にいい傾向だ。
「その辺りはヒトハに任せるわよ?ただ賑やかなのも悪くない……それだけよ」
カミラが微笑んでヒトハに言うと、ヒトハも微笑んだ。
「ミツハ、ヨツバ。カミラ様が仰ったからといって調子に乗らない様に、いいわね?」
「はい!」
「分かりました」
ヒトハがそう言うと二人は元気よく返事をし、フタバはその様子を見ながら微笑んでいた。
私は彼女達の騒ぐ様子を見ながら、食事をする。
こんな食事も悪くない。
ある日、本でも読もうと世界樹へ向かうと根元にミツハがいた。
どうやら魔道具を見ているようだ。
「あ、主様だー」
『クレリアさんいらっしゃーい』
近寄ると、ミツハと世界樹から声をかけられる。
「何をしているんだ?」
「これはどうなっているのかなー?って思って」
そう言って魔道具を見せて来る。これは屋敷の廊下に使っている明かり用の魔道具だな。
「知りたいのか?」
「うん、気になるんだ」
『ボクもこういうのは分からないからさ、一緒に見てたんだ』
「これは廊下の明かり用の魔道具だ」
「そうじゃなくて、どうやって動いてるかが気になるんだよー」
構造が知りたいのか。
「主様はどうしたの?」
座り込んだまま私に聞いてくるミツハ。
「本を読もうと思ってな」
「本!?」
立ち上がり興味深々と言った様子だ。
「その魔道具は良いのか?」
「う……気になる……でも主様と本……」
魔道具と本を交互に見ながら迷うミツハ。
「時々でいいのなら魔道具について教えてやる、だから今日は本にしよう」
「本当!?やった!」
そんな話をしていると、私は転移の反応を感じた。
その直後、ヒトハが転移で現れる。
「失礼します主様。……ミツハ、屋敷の明かりが一つ無くなっているのですが何か知りませんか?」
聞かれたミツハは、持っていた魔道具を後ろに隠している。
「廊下の明かりの場所はちょっと知らないかなー?」
「……どうして廊下の明かりだと知っているのです?」
ヒトハの言葉に焦ったような表情になるミツハ。
この反応、これは恐らく……。
「ミツハ、お前。屋敷に使用していた物を持って来たのか?」
「うぅ……」
私の問いにミツハは縮こまった。
「予備から持って来たのならばいいが、それは駄目だ。大人しく叱られて来い」
「はい……」
「ミツハが犯人でしたか、行きますよ」
大人しく魔道具をヒトハに渡して連れて行かれるミツハは反省している様だ。
あの様子なら必要以上に叱られる事は無いだろう。
『あーあ、連れて行かれちゃった……。でも、使っている物を持って来たら駄目だよね』
「そうだな」
私は世界樹の根元に座り、本を読み始めた。
私は今、イシリスに降りている。
時が過ぎ、現在のイシリスはそれなりの変化を見せていた。
いつの間にか植物が生え始めているが、動物などはまだ生まれていない。
そんなイシリスの大地で、ミツハとヨツバが一対一で戦闘訓練をしている。
周囲に被害が出ない様に張った障壁内で模擬戦中だ。
「おらぁ!」
「うわっ!?」
戦闘は一方的にヨツバが押している。
三人の中でヨツバが一番上達が早い。
次はフタバで、ミツハは戦闘が苦手なようだな。
「くっ!?もー!ヨツバのくせにー!」
「ミツハはまだまだだな」
寸止めされたミツハは、文句を言いながらヨツバに引き起こされた。
「ヨツバ、私と一戦どうかしら?」
「ぜひお願いします!」
カミラに模擬戦を申し込まれ、嬉しそうに答えるヨツバ。
そして戦い始める二人だが、ヨツバは回避や受け流しが苦手なようだ。
いいように翻弄されて、まともに戦えていない。
普段もそうだが、力押しでどうにかする傾向があり、繊細な技術は苦手なようだ。
「だー!くっそ!当たらねぇ!」
思った様に動けない事に苛立つヨツバが叫ぶ。
「そんなに分かりやすい真っ直ぐな攻撃だと、ある程度以上の相手には通じないわよ?……ほら」
「おわっ!?」
ヨツバは攻撃の勢いを利用され、転がされる。
「あっははは!かっこわるーい!」
そんな姿を見てミツハが大笑いしている。
「私もミツハちゃんも、ヨツバちゃんに最近勝てていないでしょう?そんな事を言っちゃ駄目よ?」
「むー……そうだけどさー」
ミツハはフタバに頭を撫でられながらたしなめられ、大人しくなる。
訓練を開始した頃はいい勝負をしていたが、フタバとミツハが他の事をしている時もヨツバは好んで戦闘訓練をしている事が多い。
流石に差も生まれるだろう。
「まだまだぁ!」
「良いわね、折れない子は好きよ」
跳ね起きながら牽制し体勢を整えるヨツバ。
それを見たカミラは嬉しそうに笑っている。
その後のフタバとミツハの訓練は私とヒトハが行った。
結局、今日の訓練が終わるまでカミラとヨツバはずっと戦い続けていた。
今日の夕食の当番はカミラとヨツバだ、ヒトハが言うにはヨツバが気合を入れていたらしい。
カミラの料理はいつも通り素晴らしい出来だ。
ヨツバの料理はどうだろう、以前より上達しているだろうか。
以前のヨツバの料理は、あまり良いと言える物では無かった。
それでも過去のカミラの料理よりは遥かにまともだったが。
そう思いながら、私は料理を口にする。
……なるほど。
カミラの助けが大きいが、間違いなく上達はしているな。
前回を思えば、かなり良いと言える。
私の感想を待っているヨツバに、私は話しかけた。
「まだまだカミラに助けて貰っている部分が多いが、間違いなく上達している。美味いぞ」
「ありがとうございます!」
笑顔で私に返事をするヨツバ。
「やったじゃん!」
「良かったわね、ヨツバちゃん」
「よく頑張りましたねヨツバ」
ミツハとフタバ、ヒトハも嬉しそうにヨツバに声をかける。
かけられた言葉に微笑んで頷いたヨツバは、満足そうに自分の食事を開始した。
楽しそうに食事をする四姉妹。
その光景を見ながら食事をしている私に、カミラが懐かしそうに言う。
「思い出すわね……私も初めてお母様に美味しいと言って貰えた時は嬉しかったわ」
「今では私達の中で一番の腕前だが、当時は私以外が食べていたら危険な味だったからな」
「続ければヨツバも上手くなるわよ」
「どうしても無理であればヨツバを料理から外そうかとも考えていたんだが、もう少し様子を見ようと思う」
私はやれば出来る、などと言うつもりは無い。
自身が男女間の恋や愛を理解出来ない様に、どうしても難しい事は存在するだろう。
それなりに努力をして上達しなければ、無理にやらせようとは思っていなかった。
それに、料理は出来なくてもそれほど問題では無いからな。
戦闘が苦手であった場合は、無理矢理にでもある程度は叩き込んでいただろう。
そうでなければ単独行動の時に本人が被害を受ける可能性がある。
これから先、いつ何が現れ敵対するか分からないからな、念の為だ。
「成長は感じた、私の考えは杞憂だったな」
「伸び悩む事があるかもしれないけれど、それは別に構わないんでしょ?」
「他に問題が起きない内はな。少なくとも今の所は、本人のやる気がある限り練習を止めはしない」
私は退室する際、通りすがりにヨツバの頭をひと撫でしていく。
その後、後ろから騒ぐ声が聞こえたが、気にせず部屋を後にした。
こうして私は、騒がしい時間を過ごしている。