少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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066-02

 

 現在、私は魔法の授業を行っている。

 

 「うむむぅ……」

 

 ミツハが唸り声を上げた。

 

 「ミツハ、何処が分からないんだ?」

 

 「ここです……」

 

 彼女は頻繁に質問をして来るが、その度に私は詳しく説明している。

 

 多少時間はかかるが問題は無い。

 

 「フタバお姉ちゃんはともかく、ヨツバはなんで分かるんだよぉ……」

 

 弱っているように見えるが、ヨツバに絡むという事はまだ元気がある証拠だ。

 

 「戦闘の役に立つんだ、覚えるに決まってんだろ」

 

 「戦闘馬鹿」

 

 「あぁ?」

 

 この二人はいつも通りだな。

 

 「ミツハ、苦手であろうと戦闘能力と魔法技術はある程度は必ず身につけて貰う。いつ何があるか分からないからな」

 

 「頑張ります」

 

 ミツハはそう言うと再び私が書いた説明を読み始める。

 

 ふむ……効くかは分からないが話してみるか。

 

 「ミツハは魔道具に興味はあるか?」

 

 「え……?はい、あります」

 

 突然の話題にミツハは不思議な顔をしつつも答える。

 

 「魔道具には魔法の技術も使われている。分からないままだとどうにもならないぞ」

 

 「主様!私!頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 その後、ミツハは授業を積極的に受け続け、最低限必要な知識を身につけた。

 

 やり切ったミツハの頭を撫でて褒めてやると、嬉しそうにはしゃいでいたな。

 

 気になっている物に関係があると知れば多少は苦手意識が無くなり、やる気も出るかと思って言ったのだが……予想以上に効いたようだ。

 

 

 

 

 

 

 ある日の夕方。

 

 厨房の前を通った私は、厨房でフタバが料理を作っている事に気が付いた。

 

 夕食の準備にはまだ早い。

 

 そう思いながら私が厨房へ入ると、鼻歌を歌いながらフタバが料理を作っている姿が見えた。

 

 「フタバ。今日はお前とヒトハの当番だが、まだ作るには早いぞ?」

 

 私を見て、喜色を増した微笑みを浮かべたフタバが話し出す。

 

 「ご主人様!実はヒトハお姉様から一品だけ、全て私が作る事を許して貰えたのです!」

 

 ヒトハが許可を出したか。一定以上の技術は身につけたと考えてもいいな。

 

 「ご主人様、味見をして頂けますか?」

 

 私は差し出されたスープの入った器を受け取り、口にした。

 

 これは……バランスが崩れているな。

 

 酸味と鼻に抜ける香りが強すぎる。

 

 「フタバ、これは正しく調理したか?」

 

 「始めて一人で作るので少しアレンジしました、いかがでしたか?」

 

 嬉しそうに聞いてくるフタバだが、アレンジをするとこうも味が崩れるか。

 

 レシピ通りに作っていれば上手く行っただろうに。

 

 「フタバも味見をしてみろ」

 

 「はい……っ!?」

 

 口にしておかしい事に気が付いたのだろう、笑顔が目に見えて弱くなった。

 

 「分かるか?酸味が強く、香りも強すぎる。レシピ通りに作っていればお前の腕ならかなり期待出来たと思う」

 

 「……申し訳ありませんご主人様……このような物を……」

 

 すっかり落ち込んでしまった。

 

 癖は強いが不味い訳では無い。

 

 この子がアレンジの仕方を知らないだけだ。

 

 「酸味も香りも僅かな量に押さえておけば、アレンジとしては成功だったかもしれない。もし、アレンジを覚えたいのならカミラとヒトハに教えを乞うと良い。それと、この料理は夜に出す様に」

 

 「え……?でも……」

 

 私の言葉に、困った様な微笑みを向けて来るフタバ。

 

 「不味い訳では無い、バランスが悪いだけだ。それに、娘が作ってくれた料理を私が捨てる事は無い。次も期待している」

 

 「……はい。私……頑張りますから」

 

 震える声で答えるフタバの頭をひと撫でしてから、厨房を後にした。

 

 近い内に美味いアレンジ料理が食べられるかもしれないな。

 

 その火の夕食時、フタバが作った料理は賛否両論だった。

 

 ミツハは駄目だったがヨツバは中々好みだったようだ、カミラとヒトハは私と似たような感想だった。

 

 ヒトハに「初めて一人で作る時はアレンジをしない様に」と叱られていたが、アレンジを教えて欲しいというフタバの頼みをカミラとヒトハは了承していた。

 

 

 

 

 

 

 三人の戦闘訓練と魔法の勉強の終わりが見えて来たある日。

 

 世界樹の枝の上で私が本を読んでいると、根元にフタバ、ミツハ、ヨツバが揃ってやって来た。

 

 『お?三人共、やっほー』

 

 世界樹は私にも聞こえるように念話をしているようだ。

 

 「やっほー!」

 

 「世界樹ちゃんは今日も元気そうね」

 

 「よう、時間が出来たから会いに来たよ」

 

 元気に言うミツハ、フタバとヨツバもそれぞれ話しかけながら根元に腰を下ろした。

 

 『みんな、訓練は上手く行ってる?』

 

 「そうだな、主様からはそろそろ終わりだと聞いているよ」

 

 世界樹の言葉にヨツバが答える。

 

 ヨツバの言う通り、後少しで三人の訓練は終わる。

 

 訓練が終われば、彼女達は当番はある物の、それ以外の時間はそれぞれ好きなように過ごす事になる。

 

 三人の訓練が終わったら、私は教育係となる使用人を作る作業に入るつもりだ。

 

 最初は五人作るつもりでいる。その五人に教育を任せる事が出来るようになれば、人数は増やしやすくなるだろう。

 

 『みんなはさー。クレリアさん……主様に対して嫌な所とか無いのー?』

 

 突然、世界樹が私の事を話題にする。

 

 折角の機会だ、現在の彼女達が私をどう思っているのか聞かせて貰おうか。

 

 「敬愛するご主人様に嫌な所なんてある訳無いわ!それに……わ、私達のお母様でもあるし……大好きよ?」

 

 フタバがいきなり声を上げる。

 

 後半は小声だったが、しっかりと私の耳に届いている。

 

 彼女は私の事を母親だと思い、慕っているようだ。

 

 「私も大好きだよ!厳しい時もあるけど頑張ったら褒めてくれるし!」

 

 嬉しそうに言うミツハ、「頑張ったら褒める」これは人類の親子から学んだ事だ。

 

 これだけで相手の精神に良い影響を与える事が出来る。

 

 しっかりと伝える事が重要らしい。

 

 私のように他者の思っている事が分かるような相手で無い限り、言葉や行動でしっかりと伝えなければ相手に伝わらないからな。

 

 普段は深く読む事は無いが、いざという時に便利なのは間違いない。

 

 「私も……その、す……好きだぞ。カッコいいし、何よりあの圧倒的な強さ!私の母は最強だ!」

 

 最初は恥ずかしそうに言っていたが最終的には叫ぶヨツバ。

 

 彼女にとっては強さが一番なのかも知れない。

 

 「私達でしょ!ヨツバだけのお母さんじゃないんだからね!」

 

 「そうよ、皆のお母様なんだからね?」

 

 ヨツバの言葉を二人が訂正する。

 

 今の時点で彼女達が私の敵になる事は無さそうだ。

 

 敵になって欲しいという訳では無いが。

 

 『だってさー。皆に好かれてて良かったね、クレリアさん?』 

 

 私がそんな事を考えていると、世界樹が私に声をかけて来た。

 

 「え……?」

 

 「はっ?」

 

 「まさか……!?」

 

 気の抜けた声を上げるフタバとミツハ、ヨツバは気が付いたのか上を見上げた。

 

 「あ、主様……」

 

 ヨツバが小声で言う、見つかったか。

 

 「何故わざわざ教えたんだ?」

 

 私はそう言いながら三人の前に降りた。

 

 『ほら、家族が仲良くするためには思っている事を伝えないと?』

 

 そんな事を言う世界樹、三人は固まったまま反応が無い。

 

 「確かにそうだな。さあ、遠慮なくお前達の好きな母に甘えるといい」

 

 私はそう言いながら腕を広げたが、三人はまだ固まっている。

 

 反応がおかしいな。

 

 今まで関わって来た友人達を見る限り、子供は父より母の方を求める傾向が強かった。

 

 その為、無性ではあるが母という事にして接していたのだが。

 

 彼女達は父の方が良かったのだろうか?

 

 その後、三人は大慌てで弁解をして、最終的に私に甘えてくれた。

 

 世界樹は私が居る事を知っていた上であの質問をしたお詫びとして、三人に果実と樹液を渡した様だ。

 

 やはり母で問題無い様だな。

 

 

 


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