少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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067-02

 

 時は変わる事無く流れ続け、イシリスと生命達にもざまざまな変化が起きている。

 

 急激に数を増やした生物達は更にその種類と数を増やし、イシリスは気温の急激な上昇、下降を繰り返した。

 

 一方宇宙でもいくつか気が付く事がある。

 

 遠くに見えていた星が輝きを増した後に消えてしまったり、以前と位置が違っている事などがあった。

 

 私はそんな変化を観察しながら、イシリス自体に致命的な被害を与えそうな巨大な隕石などを防いでいる。

 

 変化を繰り返すイシリスで、生物達は何度も数を増やしては絶滅を繰り返す。

 

 時折、私が問題無いと判断した隕石が落下してイシリスの環境が大きく変化する事もあった。

 

 幾度も危機を迎える生物達。

 

 だが、それでもイシリスから生物が絶滅する事は無く……ある時、とうとう生物が海を離れ上陸する。

 

 それからは次々に陸上に生物が現れ始め、生物達は陸上で数を増やして行く。

 

 イシリスは、再び陸にも海にも生物が溢れる惑星となった。

 

 以前の様な姿を取り戻したイシリスの姿を見た時、娘達と共にその回復力に感心し、嬉しく思った。

 

 私は様々な生物を捕まえる為に頻繁にイシリスへと降りていた。

 

 大きな昆虫達が私を狙う事もあったが、全て死ぬか私のマジックボックスに入る事になっている。

 

 生命に溢れたイシリスで絶滅と繁栄が繰り返され、隕石が降り注ぐ。

 

 そして現在。

 

 イシリスは巨大な生物が数多く生きる惑星となっていた。

 

 

 

 

 

 

 「中々大きくなったわね。お母様が望む知的生命体にはまだ遠そうだけれど、まだまだこれからよね」

 

 カミラがイシリスの現状を話す、意外と楽しんでいる様だな。

 

 「私はこれからイシリスに行ってくる。降りたい者がいれば自由に降りて構わないが、気を付ける様に」

 

 「分かったわ。行ってらっしゃい」

 

 カミラの返事を聞き、私はイシリスに転移した。

 

 

 

 

 

 

 イシリスの上空に転移した私は、眼下を見下ろす。

 

 最初に生物が上陸した当時は、まだ所々に小さい植物が生えていただけだった。

 

 しかし、現在は巨大な植物が生い茂り、その中を巨大な生物達が生きる世界が広がっている。

 

 私は目に付いた生物の元に降り立つ。

 

 この生物は、私が近づいても特に気にしていないようだ。

 

 大人しいな、肉食では無いからだろうか?

 

 草を食べている生物を観察していると足元を小さな生物が横切る、その生き物は草に紛れて離れて行った。

 

 小さな生物達も逞しく生きているようだ。

 

 そう考えながら草を食べている生物を触ってみる……ガサガサした硬い肌だ。

 

 しばらく生物を観察していたが、やがて私は生物から離れ空へ移動した。

 

 上空から周囲を調べると、大きな角を持つ大型の生物や、中型の生物が群れを成している光景が見える。

 

 興味を引いた生物を見つけては観察する、と言う事を繰り返していた時、突然大きな咆哮が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 「おら!かかって来いよ!」

 

 私が咆哮が聞こえた場所に向かうと、生い茂る森の中でヨツバが巨大な肉食と思われる生物と向き合って叫んでいた。

 

 近くにはヒトハ、フタバ、ミツハも居る。

 

 「全く……戦ってみたいからとわざわざ来るなんて……」

 

 ヒトハが溜息を吐いて呟くのが聞こえた。

 

 「ヨツバちゃんならこうなるわよね」

 

 「ヨツバー!やれー!やっけろー!」

 

 フタバは困ったように笑いながら言い、ミツハは楽しそうにヨツバの応援をしている。

 

 四姉妹達も楽しんでいるようだな。

 

 たまには姉妹だけの時間も必要だろうと考え、私は彼女達に気が付かれない様にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 それから私は、生い茂る森の中を歩きながら植物や生物を集めていた。

 

 使う機会があるかは分からないが、いつ消えてしまうか分からない生物や植物達だ。

 

 ある程度は保存しておきたい。

 

 そんな事をしながら歩き回っていると、背後から唸り声が聞こえる。

 

 近づいているのは気が付いていたが、私に絡んで来るとは。

 

 振り返ると、先程ヨツバと対峙していた生物の同種と思われる生物が私を見ている。

 

 当然別の個体だと思うがこちらの方が多少大きいな。

 

 そう思いながら、噛みついてきた生物の顎を障壁で防ぐ。

 

 もっと食べ応えのある相手を選んだ方が良いのではないかと思うが……目に付いた生物を何でも襲うのかもしれないな。

 

 「残念だが、私はお前が食べられるような体ではないんだ」

 

 意味が無いと思いながらもそう告げ、久しぶりに髪の一本を使い首を薙ぐ。

 

 するとすぐに頭が落ちる。

 

 その後、切断面から血を噴きながら胴体が重い音を立てて倒れた。

 

 こいつは美味いのだろうか。

 

 そう思った私は、その場で生物を解体して殆どを収納し、残りを食べてみた。

 

 意外と美味いな。

 

 やや硬いが、良い歯ごたえと言えるかもしれない。

 

 最近柔らかい肉の生物はあまり見ない気がする。

 

 そんな思いを抱きながら全ての肉を完食した私は、またのんびりと探索して回る。

 

 やがて侍女から食事の時間が迫っていると連絡を受け、月へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 「それで、戦ったんだけど強くなかったんだ。デカくて見た目も強そうだったんだけど……」

 

 食事をしながらヨツバが私に話をする。

 

 周囲ではカミラや四姉妹、他の侍女達も食事をしている。

 

 「主様やカミラ様を相手に訓練している私達にあの程度の相手が敵う訳が無いでしょう……当然です」

 

 呆れたように言ったのはヒトハだ。

 

 しかしそう言いながらもあの場所に居たという事は、妹達と共に外出する事自体は嫌では無く、少なからず心配もしていたのだろう。

 

 「ヨツバちゃんが殺した生物は問題無い事を確認したので、今日のお食事に使われていますよ」

 

 フタバが私に説明してくれる。

 

 珍しい味と食感だが、食べた事があると感じたのはそういう事か。

 

 「見てた私は面白かったよ?迫力があったと思う!」

 

 ミツハは満足したらしい。

 

 「大きくて鋭い牙と多少の力がある程度じゃ、私達の中の誰にも勝てないわ。ヨツバは強敵を見つけたいようだけど、私達並の相手がそうそういるとは思わない方がいいわよ?」

 

 「そうかぁ……」

 

 カミラが軽く苦笑いして話すと、ヨツバは残念そうに肩を落とした。

 

 「ヨツバ、カミラ様程の相手はこの先見つかるか分かりませんよ?主様と同等となると……居るかどうかも分かりません」

 

 ヒトハがヨツバに話す。

 

 私は今も私に近い存在がどこかにいると考えている。

 

 いつか会える時が来るだろうか。

 

 「ヒトハ姉さんに言われなくても、カミラ様と主様が実力者なのは知ってるけどよぉ……。ヒトハ姉さんも色々な相手と戦ってみたいだろ?」

 

 「私は戦う事を目的に戦う気はありませんよ?」

 

 「私もヨツバちゃんみたいには考えていないわよ……?」

 

 「こいつは戦闘馬鹿だから仕方ないよ。考える事も出来る癖に、戦う事を優先しちゃうんだもんなぁ……」

 

 「必要な時は考えてるよ!」

 

 他の姉妹達の言葉に叫ぶヨツバ。

 

 本当にただ戦いだけを求めて問題を起こすのなら私も考えるが、必要な時に考えているのならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 大型の生物達はそれなりの時間イシリスに存在している事になった。

 

 数が減る事もあったが完全に絶滅する事無く残り続ける。

 

 その間に大陸も再び動き出した。

 

 毛が生えた空を飛ぶ生物など、様々な生物が現れては消えて行く。

 

 生物達は繁栄と衰退を幾度も繰り返していたが、ある隕石が落ちた時に状況が変わる。

 

 その隕石が落ちた後、吹き飛ばされた地表はイシリス全体を覆い気温を大きく下げた。

 

 その状況自体は今までもあった事だ。

 

 ただ、その期間が問題だった。

 

 落ちた場所が問題だったのか他の原因があったのか、今までよりも遥かに長く続いたその状態は、生物を弱らせ植物を枯らす事になる。

 

 大型の草食生物達は食料を失い数を減らし、それを捕食していた大型の肉食生物も同様に減り始めた。

 

 そして、僅かな期間で大型の生物達は全て死に絶える事になる。

 

 小型の生物はまだ多く残っているため問題は無いと考えていた私だったが、その後火山の噴火が起こる。

 

 以前起きたイシリス全体を覆う程の物では無かったが、あの時とは違い今回は生物達がいる。

 

 火山活動によって溶岩が、新たな陸地を作りながら森と残っていた小型の生物達を焼き払う。

 

 結局、全ての事がおさまり環境がある程度安定した時、生物は極僅かしか残っていなかった。

 

 だが、今回も生物は生き残った。

 

 途切れそうで途切れない生物達の営み。

 

 極僅かに残った生物達は生き続け数を増やし、新たな種が生まれ、再び世界へと広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 あれから、生物達は比較的小型の生物が多くなった。

 

 稀に巨大な生物を見かける事はあったが、いつの間にか居なくなっている。

 

 この頃から、大きな絶滅や生物に被害を出す程の隕石の衝突が減り始め、比較的安定して生物達は時を過ごしていく。

 

 

 

 

 

 

 私は、時々イシリスに向かい自分の目でイシリスを確認している。

 

 そんなある日の事。

 

 久し振りにイシリスを探索していた私は、毛が生えた小型の生物が手……前足か?

 

 それを使い、小さな石を転がしている姿を目にした。

 

 ただ生物が悪戯に石を転がしているだけ。

 

 他の者が見ればそう感じたかもしれない。

 

 だが、私にはその姿がその石を取ろうとして失敗しているように見えた。

 

 私はその生物に近づいてみる。

 

 その生物は私に気が付くと樹の上に逃げ、そこから私をじっと見ていた。

 

 「よく見ていろ、こうするんだ」

 

 私はそう話しかけながら、その生物に見えるようにゆっくりと足元の石を掴み、その生物へと見せた。

 

 その生物は特に反応を示さない。

 

 恐らく、私の行動を理解出来るような知性は無いだろう。

 

 ただ、その生物は間違いなく私の手を見ていた。

 

 やがて、私の手を見ていたその生物は森の奥へと姿を消し、私も再び周囲の探索を始めた。

 

 珍しい事をする生物だったが、その様な生物は今までも多くいた。

 

 あの生物も似たような物だろう。

 

 

 

 

 

 

 やがて隕石は極端に減り、イシリスも特別大きな変化をする事が無くなった。

 

 この頃になるとほぼ無くなっていた世界の魔力が極僅かに回復していた。

 

 私は魔力が増える原因に心当たりが無かったが、すぐにある事に思い至る。

 

 イシリスには魔素は十分にある。

 

 今まで様々な生物や植物が生まれて来たが、その中に魔素に関わる生物や植物がいたのかも知れない。

 

 私は長い間イシリスに降りて様子を見ていたが、あまりにも変化が無くなったため、しばらく時間を空ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 そして、ある程度の時が過ぎたある日。

 

 久しぶりにイシリスへやって来た私は、以前の人類にどことなく似ている生物の住処を見つけた。

 

 人間と言うには無理がある外見だが、特徴は似ている。

 

 彼らは私を見つけると騒ぎ出す。

 

 その騒ぎの中、私は彼らの元へと向かい声をかけた。

 

 「私の言葉が分かるか?」 

 

 私が話しかけると、彼らは分からない言葉で叫ぶ。

 

 念の為声をかけたが、彼らは新しい生物だ。

 

 言葉が通じる可能性が低い事も分かっていた。

 

 彼らの言葉を覚えられるだろうか?

 

 そう思いながら襲い掛かって来た彼らを蹴散らすと、地に頭を擦り付け何かを言い始めた。

 

 以前もこんな事があったような気がする。

 

 私はそう思いながら彼らを見ていた。

 

 

 


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