人類の文明は発生しては滅びるという事を繰り返していたが、その中で滅びる事無く発展した文明も存在した。
それらの文明は各地で国となり、法、宗教、神話などを作り出す。
神話は口頭で聞いたが、それなりに面白かったな。
それ以外にも様々な物語が作られた。
以前聞いたのは実在した何処かの王が主役の物語だったと思うが、あの物語は中々良い出来だった。
知識を得て技術を生み出した彼らは国として繁栄したが、今度は争っては滅ぶという事を繰り返す様になった。
私はイシリス各地を移動しながら傍観し、時には自分から首を突っ込んだ。
カミラと四姉妹、侍女達はそんな私をいつも微笑みながら見送ってくれる。
どうやら、人類が発展していく中で魔力を扱える者達が現れている様だ。
各地で話を聞いた限りでは、風を起こす、水を出す、ある物を別の物へ変える。
そういった者達が稀に現れ、他の人類からある時は神の様に、またある時は神の後継者や神の加護を得た者として扱われていると言う。
彼らの多くは殺されているらしい。
彼ら、彼女らは僅かに魔力への適性があり、生まれつき少しだけ魔法を使えていたのだろう。
今の人類は基本的に魔力が使えない、その為そういった者達は非常に珍しい。
現時点では、多くの人類の中に現れる突然変異としか呼べない。
しかし可能性の一つとして、人類が魔力を扱う種へと進化する事もあり得る。
かなり貴重な人類なのだが、今のイシリスでそういった力を持つ者達は穏やかな日々は送れないようだな。
肉体強化などを生まれつき無意識に行っていると思われる者は、強者として名を残している事が多かった。
他者に知られる事無く、隠したまま消えて行った者もいるかも知れないな。
現在、私が色々な事を長々と考えているのは、珍しい状況を見ているからだ。
複数の者達が魔力適性を持ち争っている地域を発見した私は、彼らの争いへと多少干渉し彼らの事を観察している。
極稀にしか現れない珍しい人類が、一部の地域で同時期に、複数現れるとは思っていなかったが……見ていて中々面白い。
この辺りは周辺地域より魔力が僅かに濃い。現在のイシリスは地域によって魔力が濃い地域や薄い地域が出来ていて、時間と共に少しづつ変化しているようだ。
二百年もたたない内にその争いは終結したが、それなりに楽しませて貰った。
魔力適正者の子供達がどうなるかが気になり、私はその後もしばらく見ていたが、子供達の中に魔力適性を持つ者はいなかった。
興味を失った私は、他の地域へと行く前に一度月へと帰る事にした。
「魔力適性者……が現れていたの?」
「呼び方は好きに呼べ。どうやら以前から人類の中に極稀に魔力適性を持ち、生まれつき僅かに魔法を使える者や身体能力の向上が起きている者が生まれていた様だ」
月に帰った私は談話室でカミラ達にイシリスについて尋ねられ、魔力適性者の事を話した。
「そういう人類が生まれてもおかしくは無いわよね。魔法人類という前例が居るし」
「彼らと比べると遊びのような物だが、現在の人類からすれば驚くべき力なのだろう。身体能力向上者は大抵の場合英雄扱いされ、それ以外の者は神の関係者扱いされている様だ」
私がそう言うと、一緒に聞いていたヨツバが疑問を口にする。
「じゃあ私らはどうなるんだ?」
「本物の神様だとおもわれるんじゃない?主様に聞いた程度で神の力扱いなんでしょ?」
ヨツバの言葉にミツハが答える。
「私は御主人様の侍女が良いわ、神様なんて思われても困るだけですもの」
「そうですね。それに……私達程度で神ならカミラ様や主様はどうすれば良いのでしょう?」
「んー……カミラ様が神様の神様で……主様が神様の神様の神様!」
フタバの言葉にヒトハが疑問を口にすると、その言葉にミツハが元気に答えた。
それを聞いた娘達は笑う。
「何で笑うのさ!?」
「そういう事は勝手に思わせておけばいい、違うと言っても中々信じて貰えないからな」
私はそう言って飲み物を一口飲んだ。
「一度思い込んでしまうと中々考えを変えられない物よね……私達も気を付けないといけないわ」
カミラは侍女達と自分に言い聞かせるように言った。
人類はゆっくりと発展を続ける。
その間に魔力適正者達も僅かに現れていたが、そのほとんどが力を失った事にしたり、隠したりする様になっていた。
過去に同じような者達がどうなったかを考えれば、そうする気持ちも分からなくは無い。
大体の場合、人類から見て不幸と言える結末を迎えているからな。
だが、それでも堂々とその力を見せる者はいる、私が現在観察している少女のように。
可愛らしい姿をした少女の名は、ジャンヌと言う。
彼女は人類からすればかなり強力な他者への強化魔法を使えていた。
神の姿を見て、その声を聞いたと言う彼女だが、それは彼女自身が無意識に行った物だ。
私から見ると、少女は自分で作り出した映像と声に感動して泣いた事になる。
それからの彼女は強化魔法を使い勝利を重ね、大いに自らの国に貢献した。
しかし、結局は人間に陥れられて処刑される事になった。
彼女が魔法を隠す事無く使った理由は、家族の為だ。
恐怖を感じながらも戦場に向かい、時には傷つきながら戦った彼女に待っていたのは自国の裏切りと仕組まれた裁判だった。
現在、私達は姿を消し空からジャンヌの処刑を見ている。
炎に包まれて燃え尽きて行く彼女を見ながら私は隣にたたずむ女性へと声をかける。
「自分の処刑を見る気分はどんな物なんだ?ジャンヌ」
「特に何も感じる事はございません。私は既に主様の眷属なのですから」
そう答えるジャンヌは本当に何も感じていないようだ。
私は彼女を観察している内に会ってみたくなり、ある時彼女に会いに行った。
そこで私は彼女が他の人類とは大きく違う精神構造をしている事に気が付いた。
信仰心に溢れた彼女は、私こそが神であると思い込み、私の眷属となり共に永遠を生きる覚悟を語った。
かつての巫女達の様な狂信を感じた私は、いつか試してみたいと思っていた短命種を長命種に変えるという対象の最初の一人に彼女を選ぶ事にした。
現在の彼女は精神以外は侍女達と大して変わらぬ存在となっている。
自分の力が魔法であると知った彼女は神の御業を与えて貰ったと涙を流し、真なる神である私に永遠の信仰を捧げた。
私が彼女に「神では無い」と言うと「分かっております」と答えるのだが、内心では私が唯一絶対の神であると思ったままだ。
彼女の私へ向ける信仰心は偽りなく、本物だった。
私を神と呼ぶのをやめ、異常な信仰心を隠す事。
私に対して侍女の態度で接し、行き過ぎた真似をしない事。
私に固執せず他にやりたい事などをして楽しむ事。
彼女は様々な私の要求を全て受け入れ、過ごしている。
抑え込みすぎるのも問題があるかと考えたが、彼女が言うには問題無いらしい。
本人がそう言うのなら良いだろうと、そのままにしている。
信仰も自由にすると良い。
「これで人間としてのお前は死んだ。これからは私達と共に過ごす事になる」
「はい、御身に永遠の信仰を捧げます」
そう言って空中で跪くジャンヌ。
魔法を習い始めてまだあまり時間が経っていないのに中々器用だ。
その後、ジャンヌは眷属という言葉を好んで使い、それが侍女達の間で気に入られ使われる事になる。
カミラは眷属であり娘、ジャンヌは眷属であり侍女、四姉妹と侍女隊は眷属であり侍女であり娘、という事になった。
発展していく人類を見ながら世界を回っていた時、私はある島国にしばらく滞在した。
この島国の季節によって姿を変える景色を気に入った私は、この島国、日本に拠点を持つ事を決める。
この日本もかなり独自の発展をしている地域だった。
狭い島の中に多くの勢力が存在し、他の地域と同じように争いを繰り返している。
私は北寄り、中央、南寄りの三か所の海に景色を楽しめるように島と家を作り、北寄り島、中島、南寄り島と名付けた。
家は日本の物を使用し、風呂や休憩時にも景色を楽しめるようにした。
畳は始めて使ったが意外と悪くなかったな。
侍女達に管理する家を増やした事を話すと、全く問題無いと言われたため、私は感謝を伝えて管理を任せた。
それからすぐに当番が再編成され、新しく作った三つの家が侍女達の管理下に加わった。
新しく島を作った事で日本に住んでいる人類に騒がれるかと思っていたが、船はあっても陸地からあまり離れる事は無く、島に気が付く事は無かった様だ。
私は月と日本に作った三つの島にその時の気分で滞在し世界を見続ける事にした。
皆も日本の四季をそれなりに気に入ったようで、自由な時間を使い時々各島へ訪れるようになって行く。
日本に訪れる事が増えた私は、同時に日本の様子を見る事が多くなった。
最近では鉄砲と言う携帯出来る遠距離武器が現れた。始めは日本人が開発したと思ったがどうやら他国から伝えられた物のようだ。
鉄砲とは筒状の本体に爆発物を詰め、その爆発の勢いで鉄の塊を飛ばす武器だ。
初めて見た時は武器だと思わなかった。
ただ鉄の球を飛ばすだけの子供の玩具だと思っていたのだが、しばらくしてから人類の脆さを考えればこれでも十分な威力である事を思い出した。
どうやら日本は他の地域の国々よりも技術の発展が遅いようだったが、刃物の技術は素晴らしかった。
私は現時点で二名の刀工に一本ずつ刀を打って貰っている。
腕の良さそうな刀工に女神装備を見せ「これと同じ程度の刀が欲しい」と言って魔法金属を手渡した。
しかし、彼らは魔法金属を加工出来なかった。
そこで彼らの代わりに私が加工準備をし、それ以外は全て刀工である彼らに任せた。
そして出来たのが「妖刀正宗」と「妖刀村正」だ。
生きていた時間が違う二人の刀工は、出来上がった刀に同じ「妖刀」という名を付けた。
完成後、何故か彼らは泣いていたが、私は金を渡し礼を言ってその場を後にした。
後に、二人は刀工として有名になったようだな。
長い間戦争と平穏を繰り返す世界だったが、日本に少し興味を引く男が現れた。
彼は同じ時代を生きる他の人間の考えからかなり離れた考え方と価値観を持っている男だった。
寝ている所に私が尋ねても、彼は全く動じず会話に応じていた。
私は彼……信長と交流を持つようになり、彼の周囲の者とも関わるようになる。
彼はいつも私の事を大事な友人だと紹介し、紹介された者は大抵の場合私を見つめたまま固まっていた。
彼らと交流を持った事で、私は日本にいる時間がますます増えた。
彼の家臣達ともそれなりに仲良くなり、彼の天下統一は目前に迫っていた。
ある日、私はいつもの様に信長の元へと向かう。
場所は分かる、今は本能寺にいるな。
転移で本能寺へ向かった私は、本能寺が燃えているのを見た。
周囲に軍もいる様だ。
私はすぐに信長の所へ転移した。
「信長」
「クレリアか……」
そこには槍を持ち、死んでいる蘭丸を抱えた血まみれの信長が座っていた。
「謀反か?」
「……ああ」
「誰だ?」
「……光秀だ」
彼か、そんな事をするようには見えなかったが。
火の手は回っている、もうここから出る事は出来ないだろう。
私は考える。
彼もまたジャンヌとは違った方向で一般的な人類とはかなり精神構造が違うし、何より男の実験体も必要だ。
月の皆も彼の事は知っているし、カミラを始めとした数人は顔も合わせている。
私達の正体を知った時、彼は笑いながら「この世は面白い、出来る事ならお前達のようにいつまでも見ていたい物だ」と言った。
その時は、その願いを叶える事が出来る事を言わなかったが。
私は考えた末に、彼を男の実験体にする事にした。
「信長」
「……何だ?」
彼は友人でもある。
最後の決断は彼自身に選ばせよう、彼が望むのなら眷属にする。
私は燃え盛る部屋の中で問いかけた。
「お前は人を捨て、私の眷属として長い時を歩む気はあるか?」
信長は私の言葉を聞いて目を見開いた、彼のこんな表情は珍しいな。
「お主は……」
彼は何かを言いかけるがその先を言葉にする事は無く、すぐに別の言葉が返って来た。
「人の身などに未練は無い。お主の下についてやろう……儂は飽きるまでこの世を生き続ける!」
信長は不敵に笑い私に答える。それを聞いた私は彼を月へと連れて行った。
ジャンヌと信長を思い付きで足してしまいました。
邪魔になったら何か理由をつけて退場して貰います。
男が入りますが、男女があるのなら実験体も男女そろえるべきだと思います。
以前も書いたかもしれませんが、念のために明言しておきます。
主人公が恋愛をする事はありません。