最初に主人公達と出会った人間達の話が混じります。
言語は全部日本語で書きますが、実際は各国の言語で話している、という事にしています。
俺の国は酷い所だった。
戦争が続き国は崩壊し、秩序は失われていたんだ。
その日を生きて行く事で精一杯な毎日。
この国をどうにかしたい……そう思いながらも何か出来る訳も無く、ただ生きていた。
ある時、食料と仕事を探しに町へ出た俺は、争いに遭遇してしまった。
俺は何とかやり過ごそうと、必死に物陰に隠れて伏せていた。
すると、近くで歩く音が聞こえたんだ。
もし見つかったら何をされるか分からない……そう思いながら、俺は祈るように息を潜めていた。
だが、そこに現れたのは長い黒髪をなびかせたワンピースの少女だった。
……ああ、見惚れたとも。
話を続けるよ?
「おい、お嬢さん……!そっちは戦闘が起きてる……!行くんじゃない……!」
言葉が伝わるかも分からないまま俺は少女を止めた。
すると少女は地面に伏せている俺に顔を向けて言ったんだ。
「人類の戦争を見物しているだけだ、気にするな」……と。
その時の俺は、きっと間抜けな顔をしていただろうね。
「何を言っているんだ」と思った。
当然だろう?彼女は戦争を見物に来たと言ったんだから。
国が荒れ、家族も友人も死に……!今も大勢が苦しんでいる……!
その戦争を見物しに来たと言った彼女に、俺は怒りが湧きあがったよ。
ただ、その後を……はっきりと覚えていないんだ。
近くで戦闘が起きているにもかかわらず、怒りに任せて色々と自分の気持ちをぶつけたと思う。
叫び散らし、肩で息をする俺に……少女はその美しい顔を向けて言ったんだ。
「では、お前をこの国のトップにしてみよう」……と。
「その少女が貴方を……?」
ある国の大統領の部屋に四十後半程の男が座り、傍に立っている若い男と話をしている。
「そうだ、彼女は俺に色々な事を教えてくれた。そして見る見るうちに国から戦争が減り、安定し……俺は大統領になった」
「それで……その少女は?」
「いなくなった。ある日突然な……私の胸ポケットに「後は任せる」と書いた紙切れだけを残して」
大統領と呼ばれた男は部屋に飾ってある写真立てを見た、そこには一枚の紙切れがある。
「……何者だったんでしょうか?」
「分からない……ただ……」
「ただ?」
「彼女の姿は最後まで……初めて出会った時と変わっていなかったよ」
仕事を首になった。
俺達が手掛けていた仕事が失敗し、大損したからだ。
「なんで俺が……」
失敗したのは俺達のせいじゃない、俺達が言った事を無視した上のせいだ!
一緒に働いていた俺の親友も辞める事になっちまった……。
俺も、親友も、今は新しい仕事を探してる。
お互いにまた安定したら飲もうと約束して別れてから二か月……。
俺も親友もまだ新しい仕事は見つかっていない。
「はあ……」
公園に座り、コンビニで買った弁当を食べる。
今までの稼ぎがあるから、すぐに金が尽きる事は無いけど……。
「失礼、真西 春木(まにし はるき)さんでしょうか?」
突然声をかけられ顔を上げると、スーツを着た凄い美女がいた。
「そうですが……何の御用でしょうか?」
内心動揺しながら言葉を返すと、彼女は名刺を出して言う。
「私はこういう者です、よろしくお願いします」
「はい……」
受け取った名刺には月島商業株式会社人事部長ミスミ・アーティア……と書いてあった。
月島……月!?
現在世界最大のグループである月下グループ……子会社の名前に月が入る事が多いと言うのは有名な話だ。
その会社の人事部長がなぜ俺を?
「お話を聞いて頂きたいのですが、お時間をいただけませんか?」
「はい、問題ありません」
話しを聞かないという選択肢は無い……今より悪くなる事は無いだろうしな。
「単刀直入に申し上げます、貴方をわが社に迎え入れたいのです」
月下グループの傘下の会社に俺が!?
「とても嬉しいですが、俺の事は調べましたよね?」
「はい、全て知っています。手掛けていた仕事に失敗し、大きな損失を出して解雇された……と、合っていますか?」
俺達のせいじゃない、そう言いたかったが言えなかった……もうあの事は俺達の失敗という事になってしまっている。
「はい……合っています……」
俺は下を向いて答えた。
「嘘はいけませんね、正直に言って貰わなければ困ります」
すると彼女はそう言った、俺は勢いよく顔を上げて彼女を見る。
「あの失敗は貴方が原因ではありません。秋元 安道(あきもと やすみち)……彼のせいでしょう?」
俺は驚いた。
彼女が言った名前は、俺達の言った事を無視した上司の名前だったからだ。
「ご心配無く、彼と上層部はもう処理しましたから」
処理……いや……なぜそんな事が……そもそも……。
「貴方がいた会社は名前に月が付いていませんが、孫会社なのです。貴方に目を付けてやって来たら、勝手に解雇しているではありませんか……。私達が貴方の力を十分に発揮出来る場所をご用意しましょう」
彼女は混乱し始めた俺にゆっくりと話して聞かせてくれる……なるほどな……。
でも、俺だけじゃ……俺だけじゃ駄目なんだ。
「そうそう、来ていただけるなら貴方が信頼する方を一人だけ連れて来て頂いても構いませんよ。言ったでしょう?全て知っている……と」
そう言って彼女は笑う、全て分かった上で言ってくれている……俺は涙がにじむのを感じながら親友の名を言った。
ミスミさんに誘われ再就職した俺達は二人で改めてミスミさんにお礼を言おうと上司に聞いたのだが……。
「いない……?」
「ああ、そんな人は人事部に居ないよ?」
俺達は呆然とした。
どういう事だ?彼女は偽物……?
いや、そんなはずはない!実際に俺達は再就職してるじゃないか!
「そんな外国人みたいな名前の社員がいたら忘れないよ」
本当にいないのか聞きなおすと、上司は笑いながらそう答えた。
「総理……どこへ行くんです?」
「荒谷(あらや)、お前は次の総理大臣だ……だから、知らなくてはいけない」
スーツを着た二人の男が首相官邸の中を歩く。
やがて何もない行き止まりへ着くと地下への階段が現れ、そのまま地下へと降りて行く。
「何ですこれ!?こんな所があるなんて……!」
入り口は勝手に消え、二人は更に深く奥へと歩いていく。
やがて厳重に閉じられた扉の前に着くと二人は足を止める。
「いいか荒谷……これはふざけて言っている訳じゃない。真剣に聞いて欲しい」
「……はい」
男のあまりにも真剣な顔に、荒谷と呼ばれた男は緊張気味に返事をする。
「これからある方にお前を会わせるが、どんな相手が出て来ても甘く見るな。多少失礼な程度で怒るような方では無いらしいが……敵対を匂わす様な事は絶対に言うな!分かったか!?」
「あの……総理……?話が良く分からないのですが……誰に会うんです?」
「地球の支配者だよ……私達の間では「月の庭園」と呼ばれている」
総理と呼ばれた男がそう言うと静寂が訪れ、しばらくすると荒谷が口を開く。
「月の庭園……?総理もそんな冗談を言うんですね……あはは……は……」
笑う荒谷。
だが、全く表情を変えない総理を見て黙ってしまう。
「言ったはずだ、ふざけて言っている訳では無いと。……本当に機嫌を損ねれば地球が消えてなくなるかもしれないんだ」
「何を……何を言ってるんですか!?そんな漫画みたいな……!どうしたんですか総理!?……松本さん!」
荒谷に松本と呼ばれた男は静かに言う。
「私も前任者から話された時は同じような反応をしたよ……。だが何を言っても、お前が信じなくても……現実は変わらない」
沈黙がおりる。
そのまましばらく時が経つと、荒谷が口を開いた。
「何されてるんですか……?人類は……。餌にでもなってるんですか……?」
流石に冗談では無いと分かったのか、静かに言う荒谷。
「いや……何もされていない。あの方達が望んだのはあの方達の事を多くの人類に知られないようにする事だけだ。頼まれる事はあっても命令される事は無く、それ以外は好きにするように言われている」
「どういう事です……?」
「言葉通りだよ。あの方達は裏で世界を支配しているが、何かを求める事はほぼ無い……。それどころか私達人類の事を助けてくれる事もある」
「もう訳が分かりませんよ……。何が目的なんですか……?」
「……お母様が人類の世界で過ごす為だと言っていた」
「お母様……?」
「実はな、今日会う方は私も初めて会うんだ。今まで支配者だと思っていた方は地位としては二番目……。もう一人……本当の支配者がおられるそうだ」
「それがお母様……?」
「話の内容から考えるとそうだろうな。ああ……言い忘れていた。どんな想像をしているのかは知らないが、全員驚くほどの美人だぞ?特徴も人間にそっくり……すまん、間違えた……私達があの方達に似ているんだったな」
松本がそう言うと、荒谷は顔に手を当てて座り込んだ、色々処理しきれなくなって来たらしい。
「……総理になんてなるんじゃなかった……」
「なる前に聞いただろ、覚悟はあるかと」
「こんな意味だなんて思いませんでしたよ……」
「悪いな、大国と言われる各国のトップや大きな組織の長。……あの方達が知る事を許した立場の者にしか話せないんだ」
「歴代の総理も知っていたんですね……」
「そうだ。一体いつからそうだったのかは知らないが、誰にも言う事無く……言えなかったのかも知れないが。……全員人生を無事に終えているよ」
「広めようとした者は居なかったんですか?」
「私も生まれていない頃の事だから詳しくは知らないが……昔、国のトップが突然いなくなり国が荒れた事があったらしいな……」
「絶対関係ありますよね?それ……」
「どうだろうな。さあ、そろそろ時間だ。いいか?絶対に失礼な事はするなよ?」
「分かりました……。もう逃げられないんです、やってやりますよ……」
最初の彼は大統領になりましたが、小国なので顔合わせをする事はありません。