少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 2000年も五月に入り、ゴールデンウイークの初日を迎えた。

 

 今日から千穂が泊まりに来る予定だ。

 

 ……そういえば、千穂は高校二年生になったのか。

 

 「お嬢様、そろそろお時間です」

 

 色々と考えているとメイドから声がかかる。

 

 千穂を九時に迎えに行く約束だ、そろそろ行こう。

 

 

 

 

 

 

 「お世話になります……千穂、失礼な事はしないようにな」

 

 「大丈夫だよ、心配しすぎじゃない?」

 

 車の前で千穂の両親と挨拶をする。

 

 彼女は両親にかけられた言葉に返事を返すと、車へ乗り込んだ。

 

 「千穂は責任を持って預かる、では行こう……出してくれ」

 

 私も彼女の両親に声をかけてから車に乗り込み、出発させた。

 

 一度泊まりに来た時から、彼女の両親が妙に私に礼儀正しい気がするな。

 

 「言い忘れていたが、忘れ物は無いか?」

 

 「大丈夫、出かける前にも確認したから!」

 

 

 

 

 

 

 クレリアちゃんに車で迎えに来ると言われて待ってたけど、何か想像と違う……。

 

 多少お金持ち……みたいな事を言っていたような気がするけど。

 

 運転手さんは服装といい態度といい、親という感じじゃない……専属の運転手?

 

 車も高そうで大きいし、冷蔵庫とテレビまでついてる……!これが多少?

 

 「私の部屋で一緒に寝るのだったな?」

 

 予想外の状況に戸惑っているとクレリアちゃんが声をかけて来た。

 

 「うん、お泊りといったら同じ部屋で寝ないとね」

 

 ゴロゴロしながら眠くなるまで話すのがいいんだよ!

 

 色々と気にはなるけど、今更気にしても仕方ないよね。

 

 それよりもクレリアちゃんと楽しもっと。

 

 「大会って7月の末だったよね?」

 

 「そうだな」

 

 クレリアちゃんは何とも無さそうに答える。

 

 二か月以上あるけど、私だったらもうソワソワしてるかも。

 

 「この冷蔵庫って何が入ってるの?」

 

 「色々入っている。気になるなら見てみると良い、飲みたければ飲め」

 

 「良いの?じゃあ……」

 

 私は冷蔵庫に入っていた高そうな飲み物を避けて、ジュースを飲ませて貰った。

 

 

 

 

 

 

 クレリアちゃんとお話しながらふと周囲を見ると、周りに家が無くなっている。

 

 「ねえ、クレリアちゃん。周りに何もなくなっちゃったけど……ここはどこなの?」

 

 私は隣に座っているクレリアちゃんに聞く。

 

 「私の家の敷地内だ、ここは庭のような物だな」

 

 ……え?

 

 この自然公園みたいな所が庭……?

 

 車で移動する必要がある庭って……。

 

 クレリアちゃんって私が思っていた以上に凄いお金持ちなのでは……?

 

 

 

 

 

 

 家に着いた私達は車から降り、控えていたメイドから挨拶を受けて入り口に進んで行く。

 

 「し、城……?」

 

 千穂がそう呟くが、建築様式が違う。

 

 「城ではない、一般的な日本建築の家だ」

 

 「……一般的?」

 

 何ともいえない表情の彼女だが、規模が大きいだけで間違ってはいないはずだ。

 

 「倉森千穂様。ようこそいらっしゃいました……お荷物をこちらへ、すぐに必要な物はございますか?」

 

 「あ、ありがとうごじゃいます!大丈夫です!」

 

 千穂は噛みながら荷物を手渡す。

 

 「お嬢様のお部屋にお持ちいたします」

 

 そう言ってメイドは去って行った。

 

 「お嬢様、これからどういたしますか?」

 

 別のメイドに尋ねられる。

 

 「ゲーム部屋に行く。千穂、こっちだ」

 

 「かしこまりました、後の事はお任せください」

 

 私達はそのままゲーム部屋へと移動する、千穂は周りを見回しながらついて来た。

 

 

 

 

 

 

 「好きにくつろいでくれ」

 

 「ひろっ!?……うわぁ!ゲーム一式揃ってる!」

 

 部屋に驚きながらも、ゲームを見つけて喜ぶ千穂。

 

 「ここで一緒に出来るようにメイドに揃えさせた」

 

 「やろう!」

 

 目を輝かせていい切った彼女はとても嬉しそうだ。

 

 「そう言うと思ったよ」

 

 

 

 

 

 

 それから彼女は時々訪れるメイドに恐縮しながらも、私とゲームをしている。

 

 ある程度の時間が経ち、休憩を挟んでいる時に千穂が尋ねて来た。

 

 「あの、クレリアちゃんのご両親は?ご挨拶とかしとかないと……」

 

 私はそう言われて人としての設定を思い出す。

 

 「両親は忙しくてもう長い間会っていない。ここは私に用意された家だが、忙しくて会えない両親がせめて苦労しない様にと用意した物だ」

 

 「……っ!?そうなんだ……」

 

 彼女の表情が歪む。

 

 「言っておくが寂しい、悲しいという感情は無いから平気だぞ?」

 

 そう言うと彼女が私を抱きしめて来た。

 

 「分からないだけだよ……大丈夫。私はずっと友達だから……傍に居るから……」

 

 何やら変な感じになったぞ……この設定で平気なのだろうか。

 

 しばらくそうしていたが、やがて彼女は私を開放した。

 

 その目は少し赤い。

 

 「でも、ご両親は何をしているの?この家を見る限りかなり凄いお金持ちみたいだけど……」

 

 「月下グループの取締役会長と代表取締役社長をしている」

 

 「……納得したよ。自然公園みたいな広い敷地と大きな家、多くのメイドさん達。どれだけお金がかかるのか分からないけど、並のお金持ちじゃ無理だと思ったし……」

 

 千穂は私を見ながら話す。

 

 「私はずっとクレリアちゃんの友達で居たいけど……いいかな?」

 

 「お前が私に敵対せず、今のままでいるのなら友人で居られると思うぞ」

 

 「敵対って……あはは!そんな事する訳無いじゃない!」

 

 彼女は笑いながら言うが、人類の変化は激しいからな。

 

 ただ、彼女がそうなる可能性は限りなく低そうだ。

 

 

 

 

 

 

 私達はゲーム部屋で昼食を取った後、私の部屋へ移動する。

 

 彼女が私の部屋の広さやベッドの大きさに一通り驚き、落ち着きを取り戻した後、そのまま部屋で過ごし夕食も取った。

 

 食事の美味しさに感動しながら食べていた千穂は、恥ずかしそうにしながらもおかわりが出来るかを聞き、一度おかわりをした。

 

 その後は風呂だ。

 

 千穂は私の部屋に運び込まれていた荷物から服を引っ張り出し、ついて来る。

 

 「うわぁ……凄い……」

 

 風呂を見て呟く千穂。

 

 「私は広い風呂が好きだからな」

 

 「クレリアちゃんは着替えを用意しなくていいの?」

 

 「入っている間にメイドが用意してくれる」

 

 「あ……そっか、クレリアちゃんはそれが普通なのか」

 

 そんな会話をしながら千穂が浴室を歩いて行く。

 

 「ねえ、背中洗いっこしない?」

 

 「いいぞ」

 

 洗い合うのは今でも娘達としているからな。

 

 こうして背中を洗い合い湯舟に浸かり、出た後はベッドで会話していたのだが……。

 

 「千穂?」

 

 少し話していると彼女の反応が無くなった。

 

 彼女は寝てしまった様だ、慣れない環境で疲れたのかも知れないな。

 

 「まだ初日だ。ゆっくり休め」

 

 私は翌日の朝までベッドで本を読んでいた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 千穂がトイレに行っている間に私は服を着替える。

 

 ただ、今日はいつものワンピースでは無い。

 

 人間は同じ服をずっと着ないからな、私もいつものワンピース以外の服を時々着るようになった。

 

 今日は青のストライプシャツに、白のふんわりとした生地のフレアスカートだ。

 

 「可愛い!センスいいね!」

 

 「メイドが用意した物を着ているだけだ」

 

 「私はこれなんだけど……」

 

 彼女は学生用のバッグから白いゆったりとした服を取り出した。

 

 「中々良さそうだな」

 

 私はゆったりとした服が好きで、装飾品もあまりつける事が無いからな、これは良い。

 

 「え?ただのスウェットなんだけど……」

 

 「スウェットか」

 

 私は内線で用件を伝える。

 

 「今度スウェットと言う服を用意してくれ……ああ、その辺りは任せる……頼んだ」

 

 「……なんか凄い高級なスウェットが出てきそう」

 

 彼女はそんな事を言いながら着替えていた。

 

 

 

 

 

 

 着替えも終わり、これから何をするかをベッドの上で話し合う。

 

 「千穂はスポーツなどはしないのか?」

 

 「スポーツかぁ……。苦手とは言わないけど、やる場所が無いし……あまりやらないのに道具を買うのもねー」

 

 そう言って彼女は仰向けに倒れた。

 

 「私の家には色々揃っているぞ?何かやってみたい物はあるか?」

 

 「へー、何があるの?」

 

 「テニス、水泳……後は卓球、バドミントン、バスケットボールなどだな。体育館やグラウンドもあるからやろうと思えば大抵のスポーツは出来ると思う」

 

 「ほぇー……あっ、でも二人で出来る物じゃないと駄目だね」

 

 「メイド達を連れて来る事も出来るぞ?」

 

 「いや、それは流石に悪いよ……」

 

 そう言って起き上がる千穂。

 

 「無理にやる事は無い、お前がいいのならずっとゲームでも構わないしな」

 

 「んー……。じゃあテニスしよ?ルール知らないけど……」

 

 「じゃあ朝食を食べて少ししたらやろうか、用意をさせておこう」

 

 

 

 

 

 

 「勝負だ!クレリアちゃん!」

 

 三つの基本ルールだけでプレイする事にした私達は、メイドが用意したジャージに着替えた。

 

 私は白の、彼女は赤のジャージを着てコートに立つ。

 

 他には審判役と球拾いのメイド数人がいる。

 

 「いくぞぅ!」

 

 彼女はそう言って天高くボールを投げてラケットを振り抜き……その後にボールが落ちて来た。

 

 私がもう一度打ち直すのを待っていると、彼女は少し顔を赤くしたまま打ちなおした。

 

 彼女が打ったボールはしっかりとコートに入りそうだ、バウンドしてきたボールを私は彼女が打ちやすい所へ打ち返した。

 

 「やあ!……あっ!」

 

 力んで打ったボールがネットにかかる、私の得点表にポイントが加算された。

 

 「ぐぬぬ……」

 

 ネット前に転がっていたボールをメイドが回収している間に、別のメイドが私にボールを手渡してきた。

 

 「行くぞ」

 

 「こーい!」

 

 私はボールを上に投げ、十分に手加減して打つ。

 

 打ったボールは大きく山なりの軌道を描いて千穂のコートに入る。

 

 「うりゃ!」

 

 十分手加減したおかげで彼女も返す事が出来た、これ位で平気そうだな。

 

 

 

 

 

 

 「勝者、クレリアお嬢様」

 

 メイドの声が響き、千穂はその場に崩れ落ちた。

 

 「ひい……はあ……もう、駄目だ……」

 

 千穂はテニスが気に入ったのか何回も試合を続けた。

 

 負け続けてはつまらないだろうから、時々勝ちを譲りながら試合をしていたのだが……彼女の体力が限界なようだ。

 

 「無理するな。ほら、酸素だ」

 

 「はー……はー……うー……」

 

 私はスプレータイプの酸素を吸わせる。

 

 

 

 

 

 

 その後、メイド達が彼女に処置をして回復させ、今は上体を起こしてスポーツ飲料を飲んでいる。

 

 「あー……。こんなに運動したの久し振りかも……」

 

 「学校では体育という授業があるだろう?」

 

 「学校の体育はみんな真面目にやってないかなー。運動部の子がそれなりに真剣にやってるぐらいで、大体は適当だよ?」

 

 「そうなのか」

 

 「……クレリアちゃん、もしかして学校行った事無いの?」

 

 「必要な教育は全て受けている。行く必要が無いし、行く気も無い」

 

 という設定だ。

 

 「……何も勉強する事が無くても、クレリアちゃんに必要な何かが見つかるかもしれないよ?」

 

 「考えておこう」

 

 学校か。

 

 今の所行く気は無いが、これから長く人類との生活が続くなら一度くらいは行ってみるのもいいかも知れないな。

 

 

 


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