少女(仮)の生活   作:YUKIもと

150 / 260
071-02

 

 人類を一人処分しホテルに戻ってから一夜明け、翌日。

 

 私達は午前中にゲーム会社へと向かい、チームを組むメンバーと共に説明を受けた。

 

 彼らは私の表向きの年齢と姿に驚いていたな。

 

 本番まで練習をする事になり、現在は練習の合間の休憩中だ。

 

 カミラは練習が始まってから別行動している。

 

 「いやぁ……驚いたわ。一緒に居た女性がくれりあだと思ってたら、隣の貴女がくれりあだったなんて」

 

 くすんだ金髪をショートカットにした女性が私の元へやって来て、親し気に話しかけて来る。

 

 チームの中で彼女だけが女だ。彼女は私の年齢と容姿を気にして声をかけている様だな。

 

 「彼女は叔母だ。今回、保護者としてついて来てくれた」

 

 「まあ、貴女一人じゃ駄目よね」

 

 そう言って首をすくめる彼女、するとチームメイトの男性がやって来た。

 

 「最初は何の冗談かと思ったけど……一緒にプレイして本人だって確信したよ」

 

 「正式に招待されているのよ?偽者な訳無いでしょ」

 

 「同感だ。あんな反応するプレイヤーがその辺りにいる訳無いだろ……間違いなく彼女がくれりあだよ」

 

 そう言いながら、別の男性がやって来る。

 

 「でも、本名と同じとはね。誰も何も言わなかったの?」

 

 彼女に千穂と似たような事を言われた。

 

 「あまり本名はつけないのか?」

 

 「そうだな……基本的にこういった名前は本名は避けるのが常識ではあるな」

 

 私が尋ねると男性の一人が答える。

 

 そうなのか。

 

 その後大会の開催日まで毎日練習を行い、大会当日がやって来る。

 

 

 

 

 

 

 「お母様、お疲れ様」

 

 大会が終わった日の夜、ホテルでカミラに酒を出された。

 

 備え付けの冷蔵庫にある物では無い、ルームサービスを頼んだのだろう。

 

 私はあまり酒は好きでは無いが、美味しいと感じる物もある。

 

 主にフルーツやクリーム、チョコレートなどを使った物だが……世界樹の実を超える物は無いな。

 

 「ふむ。これはなかなか良いな」

 

 「良かったわ、お母様の口に合う物があって……お母様は飲める物が少ないから」

 

 「無ければ飲まないだけだ」

 

 そう答えてもう一度口を付ける。

 

 エキシビションマッチの結果は私達の勝利で終わった。

 

 私達のチームを応援する者達も多く、会場は大いに盛り上がったと言えるだろう。

 

 勝利後、その場でコンシューマーランキングの一位のプレイヤーとしてインタビューを受け、PC版を行う事を話しておいた。

 

 帰る前にチームのメンバーに「会場の男共はくれりあに夢中だ」と言われ、どういう事かと尋ねると、笑いながら私の容姿のせいだと教えてくれた。

 

 私は先日の男の言葉を思い出し納得した、大会には男が多かったからな。

 

 

 

 

 

 

 その後ゲーム関係の雑誌や、インターネット上のサイトなどには私の事が大々的に報じられたようだが、私の姿は掲載されてなかった。

 

 カミラに聞いた所、微笑みながら一言「手を回したわ」と答えた。

 

 会場の者達が私達を撮影していたにもかかわらず、全く私の姿は露出しなかった。

 

 カミラが会場全体に魔法を使用していたからな。

 

 それと、皆が私を見て驚いていた理由も判明した。

 

 私の今の身長は130センチ程なのだが、現在の人間の基準だとそれは九歳前後の身長らしい。

 

 十三歳にしては身長が低すぎた事が原因だった訳だな。

 

 発育が悪いと言っておけばいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 一人暮らしの狭い部屋にキーボードを叩く音が響く。

 

 俺はいつもの様にゲーム関係の情報を読んでいた。

 

 「バトルグラウンドコンシューマー世界大会に一位のプレイヤーがゲスト参加ねぇ……」

 

 独り言を呟きながら記事を読み進めていく、途中でそのプレイヤーが怖ろしいほどの美少女であると書いてあった。

 

 「……なんだよ。そんな事書いといて写真無いのかよ……」

 

 その記事には肝心の姿が掲載されてなかった。

 

 俺は検索欄に「2000年 バトルグラウンド 世界大会 美少女」と入力し検索をかける。

 

 「……あれ?出て来ないな」

 

 こういう時は大抵誰かが撮影していて、検索をかければそれらしい画像が出て来るもんだけど……。

 

 結局、関係ありそうな言葉で何度検索してもそれらしい映像は全く出て来なかった。

 

 

 

 

 

 

 「まさか一位のプレイヤーがあんな幼く美しい少女だったとは、驚いたなぁ……」

 

 彼女を見た時、俺は衝撃を受けた。

 

 カメラマンとして様々な女性を撮影してきたが、あんな女性は初めてだ。

 

 二次元と三次元は違う、それは誰もが知っている事だ。

 

 だが彼女には……何と言えば良いか分からないな。

 

 ……そう!二次元から違和感を無くして出て来たような美しさ……とでも言えばいいだろうか?そのような物を感じた。

 

 気が付けば俺は彼女をメインに写真を撮り続けていたんだ。

 

 「取り敢えず撮影した写真を厳選しよう」

 

 これからの事を考えながら撮影した画像を確認する。

 

 「うん……思った通り彼女は写っていないな」

 

 彼女を撮影した画像は真っ暗だが、当然の事だ。

 

 「さて……夕食の準備を始めるか」

 

 そろそろ作り始めないと遅くなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 大会を終えて帰国してから時は過ぎ、九月に入った。

 

 まだ日本には台風が訪れていているし、人類にとって残暑が厳しいと言える気温だ。

 

 台風、地震、季節の変化などはいつの間にか地球で起きるようになっていたな……。

 

 魔法人類がいた頃はそんな現象は無かったと記憶している。

 

 イシリスも地球へと変わったのだろうな。

 

 そんな事を思いつつ、いつもの様に日本の家で過ごしている。

 

 帰宅後に始めたPC版のバトルグラウンドだが、コンシューマーよりも簡単にランキング一位になった。

 

 PC版はコンシューマー版よりもより反射と操作速度の影響が大きかったからだ。

 

 ゲームシステムという縛りが緩くなればそれだけ差が広がる。

 

 ゲームの反応速度ギリギリに合わせて操作している私に対して、人間である彼らに勝ち目は無かった。

 

 ただ、それでも無敵という訳では無い。

 

 数での攻撃や遠距離からの広範囲攻撃、不意打ちなどでは負けているからな。

 

 千穂は今も変わらない。違和感を感じていても、彼女は私と友人関係を続けている。

 

 今までの事を振り返ると彼女なら私の事を教えても問題無いかも知れないが、今の所その気は無い。

 

 彼女が自分から知りたがるのなら教えるが、そうで無いのならまだこのままで良いだろう。

 

 色々と考えながら本を読んで過ごしていると、電話が鳴る。

 

 「私だ、どうした?」

 

 私は電話を取り用件を聞く。

 

 「あ、クレリアちゃん?」

 

 「私の携帯で他に誰が出るんだ」

 

 「そんな事分からないでしょ?一応だよ」

 

 誰かが代わりに出る事はあり得るか。

 

 「それで?用件は何だ?」

 

 「あ、そうだね。良かったら12日の夜にお月見しない?」

 

 「月見?」

 

 「十五夜だよー。中秋の名月だね」

 

 月見か、断る理由は無いな。

 

 「いいぞ、どこでやる?」

 

 私の家の敷地内ならかなり良く見えると思うが。

 

 「私の家の庭か、大丈夫ならクレリアちゃんの家の庭に招待して貰ったり……?」

 

 後半を少し申し訳なさそうに言う彼女。

 

 色々と世話になってしまっている、とでも思っているのだろう。

 

 同じ人間相手ならともかく、私相手では要らぬ心配だ。

 

 「では迎えに行こう。家族も連れて行きたければ連れて行くぞ?」

 

 「いいの?じゃあ、聞いてみるからまた連絡するね?」

 

 「分かった。来る人数が決まったら教えてくれ」

 

 「うん、またお世話になっちゃうけど……」

 

 「気にするだけ無駄だぞ?大抵の事は私にとって大した事では無いからな」

 

 「……ありがと!楽しみにしてるね!」

 

 その後、私達は他愛のない話を少しだけしてから会話を終えた。

 

 

 

 

 

 

 私は月の屋敷の談話室で四姉妹、ジャンヌと共にゲーム機で交代しながらパーティーゲームをしている。

 

 お母様が月の皆もプレイ出来るようにと用意してくれた物だ。

 

 オンラインプレイは不可能だけれど、今の所は必要無いしね。

 

 「あー!?ヨツバやめてー!」

 

 「誰がやめるか、よっしゃ!一億貰い!これでミツハを抜いたぜ!」

 

 プレイしているのは世界各地を巡り物件を買い、他のプレイヤーと駆け引きをしながら総資産を競う「この野郎伝説」と言うゲームだ。

 

 私はゲームをプレイして騒ぐ彼女達を見ながらくつろぎ、ジャンヌも給仕をしながら空いた時間に見物したり会話をしている。

 

 「ミツハちゃんとヨツバちゃんは楽しそうねぇ」

 

 「私達も敵だという事を忘れているようですね」

 

 騒ぐ二人を見ながら落ち着いたプレイを見せるフタバとヒトハ。

 

 「今頃はお母様が私達がいる月を見ている頃ね……」

 

 私はふと、呟いた。

 

 「あ、知ってる!お月見だよね?そういう事も色々調べたんだー」

 

 私の言葉に反応したミツハが声を上げる。

 

 「地球から見ると綺麗ですものね、気持ちはわかります」

 

 「住んでいる私達からすると、庭を見られている様な物なのでは?」

 

 フタバは地球からの月を美しいと感じて、ヒトハは自宅の庭を見られていると感じているのね。

 

 お母様はどう感じているのかしら?私の予想だとヒトハと同じように庭を見ている気分だったと言いそうよね。

 

 

 

 

 

 

 月見を行う日、千穂とその弟がやって来た。

 

 名前は何と言ったか……春木……いや、春斗だったか?

 

 妙に硬くなっているな、千穂は私の家の事を言ってなかったのだろうか。

 

 「おおー凄い!ススキの草原だ!」

 

 「姉ちゃんそんなはしゃぐなよ……!」

 

 敷地の一部にススキの草原が作られ、月見団子とジュース、お茶、主に私用の牛乳、そして何故か酒が用意されていた。

 

 当然の様に用意された酒は千穂によって禁止された、私も酒を飲む気は無かったので問題無い。

 

 「クレリアちゃんに月の不思議な話をしてあげよう」

 

 団子を食べ、飲み物を飲みながら三つの月を見ていると千穂がそんな事を言う。

 

 「月は三つあるけど、あの一番大きい月だけ他と違う不思議な状態なの……なんだか分かる?」

 

 「不思議な状態?」

 

 「そう、分かるかなー?」

 

 住んでいる私も特にそんな事は気が付かなかったが。

 

 しばらく考えていると千穂が言う。

 

 「はい!時間切れー。正解は「あの月だけ見えている部分がずっと同じ」でしたー!」

 

 その事か。

 

 「他の月はバラバラなのに、あの月だけ公転と自転がぴったりかみ合ってて、常に同じ部分を地球に向けてるんだ。不思議だよね?」

 

 「そうだな」

 

 私がそうなるようにしたからだが。

 

 「千穂は誰かがそうなるように操作した……とは考えないのか?」

 

 「え?……あはは!夢のある話だけど、そんな事ある訳無いよー」

 

 彼女は微笑みながら答える。

 

 なるほど。不思議だとは思っても、それが操作された物だという考えは全く無いのか。

 

 「ほら……春斗もクレリアちゃんと何か話したら?」

 

 「わ、分かってるよ……」

 

 月の夜にススキに囲まれて飲み物を飲み、団子を食べて話をしていただけだが、これはこれで良い物だった。

 

 ただ、月を見るとどうしても自宅の庭を見ている気分になる。

 

 月見が終わった後にカミラにその事を話すと妙に嬉しそうだった、どういう事だ?

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。