少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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072-02

 私は現在、ある出土品の事に頭を悩ませている。

 

 ある日……十数億年前の地層から完全な形の、明らかに人の手が入っているペンダントが出土したのだ。

 

 それだけでも大事だったのだが、事態はそれだけで終わらなかった。

 

 私はこのペンダントを持ち帰り分析をしたのだが……。

 

 何一つ分かる事が無かったのだ。

 

 本当に文字通り何も分からなかった……様々な検査をしてみたが検査機は反応を見せず、何も検出されない。

 

 表面を少しだけ削ろうともした。

 

 だが、何をしても傷一つ付かない。最後は自棄になり破壊する気で工具まで持ち出したが……結果は変わらなかった。

 

 長年研究員として過ごしてきたが……この未知のペンダントはまるで魔法がかかっているように全てを拒絶している。

 

 ……オーパーツ。

 

 脳裏にその言葉が浮かぶ。

 

 しかし本当にそんな物が……?

 

 私の中で様々な感情が混ざりあっていた。

 

 「スチュアート研究員」

 

 「何かね?」

 

 そんな事を考えていると同じ研究員の仲間が声をかけて来る。

 

 「例のあれだが……分析専門機関に持ち込んでみないか?もう俺達じゃどうにもならないし……どう考えても世界をひっくり返すような大発見だ。発見者として研究に参加させて貰えるかもしれないだろ?」

 

 私はその言葉を黙って聞いていた。

 

 確かに今の時点で既にあのペンダントは異常だ。

 

 ……恐怖すら覚える程に。

 

 どう考えても常識の範囲を超えている。

 

 「あと数日だけ考えさせてくれないか?」

 

 「分かった……よく考えて、納得してからで構わない。お前が見つけた物なんだからな」

 

 彼はそう言って笑い、去って行った。

 

 数日後、私はあのペンダントを分析専門機関に持ち込む事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 私は今日もイギリスの首相としていつもと変わらない日々を過ごしていたが、報告を読んでいると気になる物があった。

 

 分析専門機関からの報告?

 

 ……未知の物質で出来たペンダントだと!?

 

 私は写真を見る。

 

 うーむ……素晴らしい。言葉に出来ない程に美しく精巧だ。

 

 そう思いながら報告書を読み進めていく、するとこのペンダントの異常さが分かった。

 

 私達の常識を超えた物……。

 

 そう考えた時、私はあの方々を思い浮かべた。

 

 私はこの事をあの方々へ知らせ、判断を仰ぐ事にした。

 

 電話を取り連絡を取る……間違いなく関係していると思いながら。

 

 

 

 

 

 

 「イギリスで未知の出土品?」

 

 日本の家にいる時にカミラがやって来たのだが、最初に言われた事は「イギリスで未知の出土品があった」という報告だった。

 

 「ええ、首相が確認をして欲しいと連絡して来たわ」

 

 「報告書と資料はあるか?」

 

 「送ったらしいからすぐ届くわよ、途中は転移だし」

 

 僅かに待ったが、すぐに侍女が届けに現れた。

 

 今回はミツハか。

 

 「確かに渡したよ、主様。じゃあねー!」

 

 そう言うとすぐに何処かへ転移していった。

 

 私は渡された報告書を読む。

 

 そこには「金属のような銀色のチェーンに、空想上の生物であるドラゴンの様な姿が精密に掘られたペンダントトップがついている」と書いてある。

 

 私は同封されている資料を取り出す、そこにはペンダントの写真が載せられていた。

 

 「……これは人類に渡す訳にはいかないな」

 

 「お母様、何だったの?」

 

 飲み物を飲んでくつろいでいたカミラに資料を飛ばして渡す。

 

 「あ……!お母様、これ……」

 

 「私とクログウェルがルーテシアに贈ったペンダントだ」

 

 あのペンダントはルーテシアが死んだ後、共に墓に納めていた。

 

 恐らく環境の変化で惑星へと飲み込まれた後も、私の保護魔法の効果で状態を維持していたのだろう。

 

 私はすぐにイギリスに連絡させ、引き取る事と見返りとして経済的に多少便宜を図る事を伝えた。

 

 そして最後に、イギリス側が納得しなくても受け取りに行く事を伝えると、すぐに了承してくれた。

 

 

 

 

 

 

 「はぁ!?忘れろと!?」

 

 私達がペンダントを分析専門機関に預けてからわずか数日で、何故か首相に呼び出された。

 

 始めは私達の研究を支援してくれるのかと期待したが……彼から出た言葉はペンダントの事は忘れて欲しいという物だった。

 

 仲間は彼に噛みつくが……。

 

 「申し訳ないが、これは君達……いや……我々にどうにか出来る事では無いんだ。納得は出来ないだろうが受け入れて欲しい」

 

 「受け入れろだと……?仲間が見つけた歴史的大発見だぞ!?はいそうですかと言うとでも思ってるのか!?」

 

 「勿論ただ受け入れろとは言わない、君達には永続的に国の援助を受ける権利が与えられる」

 

 「それは嬉しいが……!何なんだよ!スチュアート、お前も何か言え!」

 

 「今までの資料や写真はどうなりますか?」

 

 私は静かに首相へ聞く。

 

 「全て破棄して貰う」

 

 「どうしても無理なのですか?」

 

 「私を困らせないでくれ……場合によっては君達の身の安全が保障出来なくなる」

 

 申し訳なさそうな表情をして彼は言う。

 

 その言葉を聞いて私は悟った、彼は出来るだけ穏便に済まそうとしてくれているのだと。

 

 仲間も今度は噛みつく事は無かった。

 

 「分かりました。全ての資料とデータ、写真を渡して忘れます」

 

 「……ありがとう」

 

 彼が礼を言って来るが……何かがおかしい……。

 

 気になるのは彼の言い方と……雰囲気だ。

 

 まるで……そう……何かに怯え、従っているような……。

 

 はぁ……何を馬鹿な……。

 

 あのペンダントのせいで想像力が豊かになっているのかな……そんな映画のような事がある訳がない。

 

 私はすぐに頭を切り替えた。

 

 「私達に選べる選択肢は無いんでしょう?」

 

 「……すまない。援助は間違いなく行う……どうか納得してくれ」

 

 私達は今までの資料とデータ、写真を全て政府に渡した。

 

 その後、私達には国の援助が付き自由な研究が可能になったが……いつまでも心が晴れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 私は月の家で回収したペンダントを見ている。

 

 彼女の墓に埋めた時、そのまま彼女と共に無くなっても構わないと思っていたが……残っていたのなら持っておこうと思う。

 

 ルーテシアの形見と言える物だからな。

 

 「このペンダントを発見してくれた者達は?」

 

 「国の援助を受けてかなり良い環境になっているはずだから、お礼としては十分だと思うわよ?」

 

 私の問いにカミラが答える。

 

 「そうか。恐らく彼らから強引に取り上げる形になっただろうからな、礼をしておかないと気分が悪い」

 

 見つけた者達はそんな物よりペンダントが欲しいと言うかもしれないが、それは却下だ。

 

 「そのペンダントはお母様が使ったら?」

 

 カミラがそう薦めて来るが、私はあまりアクセサリが好きではない。

 

 「機会があればつけよう」

 

 「そう言っていつまで経っても使わない気がするわね。出かける時位は何かつけて行ったら?」

 

 「気が向いたらな」

 

 「もう……似合うのに……」

 

 そう言って残念そうにするカミラ。

 

 そんなに残念か。

 

 

 

 

 

 

 アクセサリを回収してから少し時が過ぎた現在、私はアマゾンの熱帯雨林にいる。

 

 熱帯多雨林とも言うのだったか?

 

 この場所は様々な生物が多く存在し、人類の手が殆ど入っていない。

 

 たまにはこういった環境の散歩も良い物だ。

 

 少しずつ伐採はされているようだからこの熱帯雨林もいつかなくなるかもしれない。

 

 だが、今の所はまだ問題無さそうだ。

 

 私は周囲の植物達を見ながら思う。

 

 現在の地球の素材は錬金薬に向いていない。

 

 作れない訳では無いが、その質はイシリス時代の物より大きく劣る。

 

 だからといって採集しない、という事は無いのだが。

 

 多岐に渡る素材の組み合わせと処理の方法は、素材が増えている事とわたしの技術の向上により今の所尽きる事が無い。

 

 全く違う処理をしているのに似た様な物が出来る事も多いが……。

 

 人類が作っている薬は、限られた素材と拙い技術の割に良い物を作り出していると思う。

 

 だが、まだまだ人類が見つけている物は少ない。

 

 新しい成分を発見し、技術を向上させればこの先も発展を続けるだろう。

 

 ……魔法技術を覚えれば大きく発展するだろうが、現状では難しいだろうな。

 

 そんな事を思いながら私が熱帯雨林を歩いていると、こちらをうかがう気配を感じる。

 

 この辺りだと、コヌカ族だろう。

 

 「……白黒女か」

 

 声が聞こえ、黒い肌の男が現れた。

 

 彼らは他の人類から未接触部族と言われている者達だ。以前熱帯雨林を散歩している時に出会ったのだが、何故か彼らは今でも私を名前で呼ばず「白黒女」と呼ぶ。

 

 初めて出会った時。

 

 彼らは私を見るなり警戒して攻撃して来たが、私も慣れているため優しく無力化した。

 

 それから彼らは、私が彼らの縄張りを歩いていても何もして来なくなった。

 

 「何か用か?」

 

 「……お前なら良い」

 

 私が用があるのか聞くと、コヌカ族の男は一言答えて去って行った。

 

 ただの人間だったら殺していたんだろうな。

 

 彼らの部族以外にも世界には多くの未接触部族が居るが、科学の世界に生きる人類達は今の所彼らに何かをする気は無いようだ。

 

 私が実際に見た印象だと、未接触部族の人類と科学の世界に生きる人類は、野生の動物とペットとして飼われている動物程度の差があるように感じる。

 

 生き抜くために必死な未接触部族の人類の方が肉体的にも精神的にも多少強いと思う。

 

 ただ、科学の世界に生きる人類は色々な技術があるからな。

 

 彼らが本気になれば余程の事が無い限り……例えば私が味方したりしない限り、部族側が滅ぶだろう。

 

 科学の世界に生きる人類がこの場所に手を出さないのは、ただそうするだけの価値がこの部族に、この場所に無いだけなのではないか、と考えている。

 

 もしも価値を見つけたのなら恐らく手を出すだろうな。

 

 そう考えながら去っていく男の気配を見送り、私は散歩を再開した。

 

 

 


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