少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 十月の半ばを過ぎたある日、千穂から電話が来た。

 

 「今度友達と二人で少しだけ仮装してリズリーランドのハロウィンイベントに行こうと思うんだけど、良かったらクレリアちゃんも来ない?」

 

 遊びに誘うために連絡してきたようだ。

 

 「リズリーランド……確か千葉にあるアミューズメントパークだったか?」

 

 「そうそう、どうかな?」

 

 「その友人には私が来る事は話してあるのか?」

 

 「うん、来るかもしれないとは伝えてあるよ」

 

 アミューズメントパークか、特に興味が湧かないな。

 

 「興味は無いな」

 

 「……そっか。ねえ、クレリアちゃん……過ぎた時間は戻らないんだよ?興味が無くてもやってみたら、行ってみたら……新しい発見とか楽しさが見つかるかもしれない。やれる時にやっておかなきゃ……後悔するかも知れないよ?」

 

 そう話す千穂の声は、とても穏やかだった。

 

 彼女の言う事も何となく分かる。

 

 不利益をもたらす存在を処分出来る時に処分しておく事と同じような物だろう。

 

 時間を戻せば話が変わるだろうが。

 

 本来、今の人類と文明は今だけの物だ、存在しているうちに色々やっておくべき、と言う彼女の言葉には納得出来る。

 

 私は千穂の言葉を聞いて少し考えを改めた。

 

 「分かった、私も仮装して行こう」

 

 「仮装もしてくれるの!?」

 

 「やれる時にやっておけと言ったお前の意見を採用する事にした、仮装しても良いイベントなのだろう?」

 

 「うん!」

 

 嬉しそうな返事だな。

 

 「そうなると何の仮装をするかだが、何か決まりはあるのか?」

 

 「うーん……あんまりエッチなのと危険な物の持ち込みは駄目だね。その他は特に無くて、本当に仮装パーティーみたいな物だよ」

 

 「そうか、ではメイドに聞いてみる」

 

 「困ったら連絡して?相談に乗るからね」

 

 「分かった、ありがとう」

 

 「じゃあまた連絡するね!」

 

 そう言って電話が切れた。

 

 仮装パーティーか、私だけでは分からないから皆の力を借りよう。

 

 それからメイドに聞いたのだが、どこからか月の皆にも話が伝わり、月で私の仮装を何にするか会議が開かれて熱い論議が繰り広げられた。

 

 その結果仮装は九尾の子狐が選ばれ、私がその仮装をする事を決めると、娘達は嬉しそうに仮装作りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 千穂とその友人と共にリズリーランドのハロウィンイベントに参加する事が決まってからしばらく経った。

 

 仮装の内容も決まり、侍女達が私の衣装を作り始めているが完成する気配が無い。

 

 色々とこだわっているらしい。

 

 特にフタバとミツハが張り切っている様だ。

 

 どの様な物を作ってくれるのか楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 「一度くらいは撮影されるだろうな、恐らく千穂は撮ると思う。撮影自体は構わないが、現時点で私の顔が広まる事は避けたい」

 

 月に帰って来ている私は、くつろぎながらカミラと話す。

 

 「色々面倒な事になりそうよね。でも、私達がリズリーランド全体に認識阻害をかけると千穂ちゃんともう一人の子に違和感が出るわ。まだ教える気は無いんでしょ?」

 

 「そうだな」

 

 「お母様が認識阻害を使うのなら問題無いでしょうけど、私も一応こんな物を用意して来たわ」

 

 そう言いながらカミラが何かを手渡してきた。

 

 「これを着けるのか?」

 

 「それなら違和感も無いし、みんな仮装の一部だと思うでしょう?」

 

 渡されたのは鼻から上を覆う狐の面だった。

 

 「顔さえ写っていなければ問題無いわ」

 

 そう言って笑うカミラ。

 

 「この面、魔道具だな」

 

 「お母様は騙せないわよね、これはミツハが作った魔道具のお面よ。紐無しでくっ付いて、激しく動いても剥がれないらしいわ」

 

 ふむ、中々いい出来だ。

 

 ミツハも腕を上げたようだ、これは衣装も期待出来そうだな。

 

 「認識阻害は使わず、この面を使う事にする」

 

 「ありがとう、ミツハが喜ぶわ」

 

 私が面を使う事を決めると、カミラはそう言って微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 私の仮装衣装の製作が進む中、信長が戻って来た。

 

 「確実では無いが、光秀が謀反を起こした理由が分かった」

 

 彼は私に会うなりそう言う。

 

 「そうか」

 

 わざわざそれを言いに戻って来たのか?

 

 「興味は無そうだな?」

 

 「無いな」

 

 「そう言うな、お前にも関係ある事だったぞ」

 

 そう信長が言う。

 

 「聞くだけなら聞くぞ?」

 

 「では、聞くだけ聞いてくれ」

 

 信長はそう答えて話し始める。

 

 

 

 

 

 

 彼の話をすべて聞いた私は確認する。

 

 「つまり光秀が私に惚れていて、お前がいる限り手に入らないと考えたと?」

 

 「儂はそう考えている。奴の残した手紙が発見された時、お前に入れ込んでいる事が分かる内容が書かれていた」

 

 「彼にそんな素振りは無かったと思うが……私が気が付かなかっただけか?」

 

 深く探っていなかったのだからあり得る話だ。

 

 「儂から見てもそのようには見えなかったな。奴の事だ……儂らの前では表に出していなかったのだろう」

 

 「私に男女の恋愛感情は存在しない。無駄な事をした物だ」

 

 「それを先に伝えておけば奴も……いや、信じぬだろうな」

 

 信長はそう言いながら、遠い目をする。

 

 「確か彼には妻がいたよな?」

 

 「妻は妻で愛していたようだぞ?」

 

 「私を側室にしたかったのか」

 

 「今の日本では難しいが、儂らの時代では特におかしな事では無いからな」

 

 「彼が謀反に走った理由が私である可能性がある事は分かった。愛は人の判断能力を奪う物らしいからな、そんな事もあるだろう」

 

 彼は私を手に入れようとして身を滅ぼした、どうなるかなど予想出来ただろうに。

 

 彼の妻と子供がどうなったかは知らないが、恐らく喜んではいなかっただろう。

 

 「伝えたい事は伝えた、儂はまた世界を回る」

 

 「好きにしろ、必要な時にいればそれでいい」

 

 ジャンヌと信長は友人だが「短命種の精神で長い時を生きる」と言う実験の被験者でもある。

 

 十分な期間が過ぎるまでは本人が嫌がっても手放す気は無いが、終わったら出来る範囲で望みを聞いて自由にしてやろうか。

 

 「その時には駆けつける、ではな」

 

 信長は返事をすると転移した、彼も今の世界を楽しんでいる様だ。

 

 

 

 

 

 

 ある日、私の仮装衣装が完成したと連絡があった。

 

 皆の前で着てみたのだが……これは日本の巫女服か?

 

 「ご主人様……よくお似合いです!作ったかいがありました!」

 

 フタバが絶賛しているが、私の知る巫女服と何となく違う。

 

 「ミニスカートの紅白巫女服と白いニーソックス……やるわねフタバ」

 

 カミラはそう言って私を見る。

 

 他の侍女達も微笑みを浮かべながら私を見ている。

 

 「主様、こちらの下駄をどうぞ」

 

 ジャンヌが下駄を持って来る、私は言われるままに下駄を履いた。

 

 「ふふーん……これだけじゃないんだよなぁー。主様、服に仕込まれている魔道具を起動してみて?」

 

 ミツハが得意げに私に言う。

 

 ふむ、スカートと襟にある物だな。

 

 私は魔力を供給し魔道具を起動させる、すると皆の驚く声が聞こえた。

 

 「鏡をどうぞ……主様」

 

 珍しく少し歯切れが悪いヒトハが私の前に全身鏡を用意する。

 

 鏡を見てみると、写っていたのは狐耳と九本の尾を生やした私の姿だった。

 

 黒い毛を基本に耳の先の辺りが白い狐耳と、同じく黒い毛を基本に先端付近が白い九尾の尻尾が違和感なく生えている。

 

 「なるほど。この魔道具で耳と尻尾を作り出して制御するのか」

 

 私は自分に生えた耳と尻尾を動かしてから触ってみる。

 

 良い手触りだな。

 

 「良い出来だ。これなら仮装として十分だろう」

 

 そう言って私は仮面をつける。

 

 「準備は出来た、後は約束の日を待つだけだな」

 

 その後すぐに着替えようとしたが全員に止められしばらく撮影されたが、娘達が幸せそうだったので私はしばらく付き合った。

 

 私はカミラとヒトハにスカートで外出する時はスパッツを履くように強く勧められて以来、スカートでの外出時はスパッツを履いている。

 

 この服でもそれは変わらず、スパッツを履くようになっているらしい。

 

 

 

 

 

 

 「お母様、仮装して行くのは東京リズリーランドで、日帰りなのよね?」

 

 準備が整い、出発の日を東京の自宅で待っているとカミラが予定を聞いてくる。

 

 「そうだ」

 

 私が答えると、カミラが考えるような仕草を見せる。

 

 「日帰りだとゆっくり出来ないし、近くに月下グループのホテルがあるから使ったらどう?」

 

 「私は構わないが、私だけの判断で決める訳にはいかない。千穂に確認してからだな」

 

 「当日の午前中までに決まればいいわよ、確保だけはしてあるから」

 

 「分かった」

 

 私の返事を聞くとカミラは転移して行った。

 

 今は学校だろうから確実に話すには夜だな、私は夜を待って連絡する事にした。

 

 

 

 

 

 

 「はい、もしもし?」

 

 「千穂、リズリーランドに行く事で提案がある」

 

 「いきなり内容に入るねクレリアちゃんは……」

 

 困ったような声で千穂が話す。

 

 「忙しいなら後にするぞ?」

 

 「忙しくはないけどね、提案って何かな?」

 

 「日帰りの予定だったが、泊まりでも平気か?」

 

 「え?まあ翌日も休みだし、予定も無いから平気だけど?」

 

 「……私の叔母がリズリーランドの近くのホテルを使わないかと言って来てな」

 

 つい、カミラと言いそうになった。

 

 「え!?嬉しいけど……良いの?」

 

 「問題無い、既に確保しているらしいからな」

 

 「うぇ!?もう用意しちゃってるって事!?」

 

 「そうらしい。断っても良いぞ?向こうが勝手にやった事だしな」

 

 「すでに用意してると聞かされて断れると思ってる?」

 

 「千穂には無理だと思っている」

 

 「……友達に聞いてみるから待ってて?かけなおすから!」

 

 そう言われ電話が切られた。

 

 本当に断っても問題無いのだが、彼女は断れないだろうな。

 

 しばらく待っていると千穂から電話がかかってくる。

 

 「どうする?」

 

 私は答えを聞く。

 

 「友達も「お世話になります」だって」

 

 「決まりだな」

 

 こうして日帰りだったリズリーランドへの外出は、泊まりに変更になった。

 

 

 


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