少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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073-02

 

 リズリーランドへ出発する日の朝、私は車で駅へと向かった。

 

 車を降り、待ち合わせの場所へと向かうと、千穂ともう一人、女性の姿が見えた。

 

 「あ!こっちー!」

 

 千穂が私に気が付き手を振る、女性は私の姿を見て少し動揺しているな。

 

 「時間には間に合っているよな?」

 

 「大丈夫、私達が少し早く来てただけだから」

 

 彼女はそう答えてから、女性を紹介してくれた。

 

 「クレリアちゃん、この子が私の友達で篠崎 美琴(しのざき みこと)ちゃん。クラスは違うんだけど同級生だよ」

 

 「篠崎美琴よ。よろしく、クレリアちゃん」

 

 「クレリア・アーティアだ、よろしく、美琴」

 

 千穂より少し背が高く、暗い茶髪をミディアムボブにしている。

 

 少し落ち着きのある、大人びた雰囲気があるな。

 

 二人とも今時の女子高生らしい服装をしていて、それぞれ荷物を持っている。

 

 「乗る電車まで時間があるから、駅前のファストフードで朝ご飯にしようよ」

 

 「そうしましょ、クレリアちゃんもそれでいい?」

 

 千穂の提案に美琴が同意し、私に確認してくる。

 

 「いいぞ、食べに行こう」

 

 私は了承し、全員で駅前のファストフードへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 「そう言えば……私はファストフードで初めて食事をするな」

 

 こういった店は、知っているが実際に食べた事は無かった。

 

 「珍しいね、大抵は食べてるもんだけど……」

 

 美琴がそう言いながら私を見る。

 

 「あー、クレリアちゃんはそうでもおかしくないか……」

 

 「何?千穂は何か知ってるの?」

 

 私は二人が話している間に頼んでいた朝食セットを受け取る。

 

 「席が埋まる前に早く行くぞ」

 

 私はまだ話している二人に声をかけて席に向かった。

 

 席に座ると、駅前が良く見える。

 

 現在の人類の文明は魔法人類の文明よりも娯楽が多く感じる。

 

 しかし、私が魔法人類の娯楽に興味を示していなかっただけで、実際は多く存在していたのかも知れないな。

 

 「遅れたらいけないし、ぱっと食べちゃいましょう」

 

 「そうだね、食べよ!」

 

 美琴と千穂はそう言って食べ始める。

 

 私も一口食べてみる。

 

 「あまり美味くは無いな」

 

 私がそう言うと美琴が笑って言う。

 

 「安いからね、こんな物よ。クレリアちゃん育ちが良さそうだし、そう感じるのも仕方ないかもね」

 

 「お金が少ない私達には心強い味方なんだよねー」

 

 「あんたはゲームにお金かけ過ぎてるからでしょ」

 

 千穂の言葉に突っ込む美琴。

 

 言われた千穂は自覚があるのか、美琴から目をそらした。

 

 

 

 

 

 

 食事を終えた私達は、駅へと移動し電車に乗る。

 

 日本最大級のアミューズメントパークであるリズリーランドへは交通が整備されていて、ここからだと乗り換える事無く行けるらしい。

 

 電車は休日という事もあり、外出する人々でそれなり混んでいたが、三人でボックス席に座る事が出来た。

 

 「ねえ、二人はどうやって知り合ったの?」

 

 席に座り荷物は足元へ、落ち着いた所で美琴が聞いてくる。

 

 「ん?知り合ったのはゲーム屋さんだよ」

 

 千穂がそう答えると美琴が驚いたように私を見て言う。

 

 「え?あんたはともかく、この子がゲーム屋に居たの?」

 

 「私がゲームに興味を持ち、初めて店に買いに行った時に出会ったんだ」

 

 私がそう言うと、意外そうに私を見つめる。

 

 「へぇー……ゲームするようには見えないけど……人は見た目によらないわね」

 

 「美琴ちゃん、クレリアちゃんはそれだけじゃないよ」

 

 美琴に不敵に笑いながら言う千穂。

 

 「何よ?」

 

 「何と!ゲームを始めてからあっという間にバトルグラウンドの世界一位になって……今もその地位を守っているんだよ!」

 

 「ごめん千穂、何の事だかわかんない」

 

 千穂が大げさに動きながら言うが、美琴には全く伝わっていなかった。

 

 その後、千穂は美琴に詳しく説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 「それって結構凄いんじゃないの?」

 

 千穂の説明を聞いた美琴はそう言った。

 

 「凄いんだよ!」

 

 「こんな小さな子が世界一位かぁ……他の奴ら不甲斐なさ過ぎじゃない?」

 

 「実際にクレリアちゃんのプレイ見たら、そう言えないと思う」

 

 千穂は一瞬真顔になった。

 

 「ふーん……そうだ。話は変わるけど、千穂はリズリーランドの衣装に何持って来たの?」

 

 「え?私は赤いフードで赤ずきんだけど?」

 

 「まあそんなもんよね。私も魔女帽子だけだし……パーティーグッズのやつ」

 

 仮装の度合いは自由だから何の問題もないだろう。

 

 「クレリアちゃんも仮装してくれるって千穂から聞いたけど……何にしたの?」

 

 「九尾の子狐だ。家の者が話し合って決めた」

 

 「へー、いいんじゃない?似合いそう」

 

 「確かにクレリアちゃんだと子狐だね」

 

 二人はどんな物を想像してるのだろうか。

 

 「二人とも、向こうに着いたらまずホテルにチェックインして、それからリズリーランドに行こう。三人で一部屋だが大きさは問題無いはずだ」

 

 ハロウィンパーティー期間はいつでも仮装して良いようだから、明日も仮装して行く事になりそうだな。

 

 「私達は用意して貰った側なんだし、狭くても文句なんて無いわ……ありがとうね」

 

 「私はホテルの部屋が心配だけど……」

 

 美琴は素直に礼を言ったが、千穂は何故か部屋の心配をしている。

 

 狭くは無いから心配はいらないと思うが。

 

 「どういう事?」

 

 「色々あるんだよ……」

 

 私はここで千穂が何を気にしているかが何となく分かった。

 

 恐らく、千穂の考えている事と美琴が考えている事は真逆だろう。

 

 月下グループの令嬢という表向きの私の立場を千穂は知っているからな、どんな部屋が用意されているか気になっているのだろう。

 

 「大丈夫だ。普通の部屋だと叔母が言っていた」

 

 「それはクレリアちゃんの叔母さんの普通でしょ?私知ってるんだからね。……今まで私の感覚で普通だった事なんてないもん」

 

 「ちょっと千穂?どういう事よ?クレリアちゃん……もしかしてお金持ちだったりするの?」

 

 私と千穂の会話の内容から察した美琴が私に聞いてくる。

 

 「金持ちではあるな」

 

 「……そうなんだ。ちょっと覚悟しとこうかな……」

 

 「ああ……美琴の覚悟が砕ける未来が見えるわぁー」

 

 千穂が嬉しそうに言う、楽しんでいるようだな。

 

 

 

 

 

 

 電車の中で話している内にリズリーランドの最寄り駅に到着し、駅に来ていた迎えのリムジンで移動した。

 

 「千穂、普通のホテルは泊まる客にここまでしないわよね……?」

 

 リムジンの中で少し身を固くした美琴が千穂に話しかける。

 

 「私はもう慣れたかな……最初はクレリアちゃんと私達の感覚の違いに驚いてばかりだったけど。大丈夫!美琴もクレリアちゃんと友達になったんだからそのうち慣れるよ!」

 

 千穂は全く変わらず平常心だった、ようやく慣れてくれたようだ。

 

 「千穂が悟りを開いているわ……」

 

 私はそんな二人の会話を聞きながら牛乳を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 「三人でもこの部屋は広すぎるわよ……」

 

 カミラが用意してくれたホテルが高級ホテルとして有名な「ムーンホテル千葉」である事に驚いていた美琴は、最上階の部屋を見て呟いた。

 

 「ホテルの部屋なのに私の家より広いんだけど?」

 

 「美琴……これがクレリアちゃん達の普通なんだよ」

 

 色々と感想を言う美琴の肩に手を置き、重々しく言う千穂。

 

 用意したのはカミラだ、私自身はもう少し小さい部屋でも良い。

 

 荷物をおいた後、部屋のソファで一度休憩をする。

 

 「流石に驚いたわ……ホント何者なのよこの子?」

 

 「教えて良い?」

 

 「私は別に隠してはいないぞ?好きにすると良い」

 

 千穂が言いたそうに聞いてくるので答えると、彼女は嬉しそうに言う。

 

 「何と!クレリアちゃんは月下グループの御令嬢なのだ!」

 

 「……え?月下グループってあの月下グループ!?」

 

 「あの月下グループだよ!」

 

 「うっそでしょ……?本物の……世界一のお嬢様じゃない。何でそんな子がアキバのゲーム屋にいたのよ……」

 

 美琴は驚きながらも困惑の表情を浮かべる。

 

 「偶然ってすごいよね!」

 

 「調べた時、あの店が品揃えが良いと分かってな。自分で見て決める為にあの日、あの店に行ったんだ。出会いとは不思議な物だな」

 

 これは本当にそう思う。

 

 私はカミラや今までの友人達の事を思う。

 

 最終的に私に敵対する者もいたが……私の正体を知ってもなお、変わらず接してくれた者達と過ごして来た時間は、現在の私に多かれ少なかれ影響を与えていると思う。

 

 「きっと美琴にとっても運命の出会いだと思うよ?これからも色々な事をしようね」

 

 そう話しながら美琴に微笑む千穂。

 

 「まあ私は構わないけどね。この子、若いのに千穂より大人っぽいし?」

 

 「そんな事は……無い……はず。……そう言えば!クレリアちゃんは子狐の仮装なんだよね!?どんなの?狐耳のヘアバンドとか?」

 

 やや無理矢理に話題を変えたように感じる。

 

 「いや、服も用意して来ている」

 

 「……クレリアちゃんの家の人達がそんな程度で済ます訳ないか」

 

 「へー、じゃあかなり本格的な衣装なんだね。千穂も見てないの?」

 

 「うん。相談に乗るとは言ったけど、上手く決まったみたいだから結局相談してないんだよね」

 

 「リズリーランドで着替えるからすぐに分かる。そろそろ行かないと、朝早く来た意味が無くなるぞ?」

 

 「……そうだ、千穂は準備出来てるよね?」

 

 「大丈夫!」

 

 「クレリアちゃんは?」

 

 「問題無い」

 

 「じゃあ行きましょうよ、クレリアちゃんの仮装が楽しみになって来たわ」

 

 「しゅっぱーつ!」

 

 こうして私達はホテルの部屋を出てリズリーランドへと向かった。

 

 

 


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