少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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073-04

 

 翌日。

 

 朝食を食べて手早く準備を済ませた私達は、ホテルをチェックアウトして再びリズリーランドへ行き、前日と同じように仮装をした。

 

 千穂と美琴はもう見ているため私の姿に大騒ぎする事は無かったが、周囲は昨日と大体同じ反応だ。

 

 今日は昨日見ていない所を回り、土産を購入し、夜になる前に帰る予定になっている。

 

 「美琴、この置物どうかな?」

 

 「こういうのって後で邪魔になって捨てない?」

 

 二人は乗り物に乗る合間に店に寄り、買って帰る物を話し合っている。

 

 「クレリアちゃん、これどう思う?」

 

 「正直に言って?」

 

 千穂と美琴が私にガラス細工の置物を見せて来る。

 

 「本人が価値を感じているのなら構わないと思う」

 

 「ほら、クレリアちゃんも構わないって言ってる」

 

 「「本人が価値を感じているなら」って言ったじゃない。それはいらないと思ってるって事じゃないの?」

 

 よく騒ぐ子達だ。

 

 しかし、楽しんでいる友人達をただ見ているのも悪くない。

 

 「ただの置物では無く、向こうのグラスにしたらどうだ?実用的だぞ」

 

 私は離れた所にあるグラスのコーナーに目を向ける。

 

 「私もグラスは考えたんだけど、使ってると割れちゃうんだよね」

 

 「置物も落ちたら割れると思うわよ?」

 

 そういう事ならば少し友人として手を貸そう。

 

 「グラスが嫌な訳では無いのなら買えば良い。私が化け狐らしくおまじないをしてやろう」

 

 「クレリアちゃんもこう言ってるし、グラスにしたら?まだ買わないけど私はグラスにする……私にもおまじないしてくれる?」

 

 美琴が私を見て聞いてくる。

 

 「いいぞ」

 

 「ふふっ、ありがと」

 

 私達が会話していると千穂が言う。

 

 「帰りまでに考える事にする!」

 

 

 

 

 

 

 「……ねえ千穂、あの子迷子じゃない?」

 

 「どこ?」

 

 美琴の視線の先を見ると一人でベンチに座っている泣きそうな小さな男の子供を見つけた。

 

 「そうかもな」

 

 私はそう言って特に気にする事無く通り過ぎた。

 

 「大丈夫?お父さんとお母さんは?」

 

 「分かんない……」

 

 声が聞こえ振り向くと、千穂が子供に話しかけている。

 

 私は彼女達の所へ向かった。

 

 千穂だからな、何となくこうなるのではないかと思っていた。

 

 「迷子相談所かキャストに言えばいいかな……?私、行ってくるね!」

 

 千穂はそう言って走ってどこかへ行ってしまった。

 

 ここに居ればそのうち戻って来るだろう。

 

 「うっ……ひぐっ……」

 

 「あー……。私こういうの苦手なんだよね……何か飲み物でもあげれば落ち着くかな……?」

 

 「私が見ているから買って来い」

 

 「……まあクレリアちゃんなら平気か……じゃあちょっとだけ待っててね」

 

 美琴がそう言って離れて行く。

 

 「好きな動物はいるか?」

 

 「ぐすっ……ゾウさん……ずずっ……」

 

 私は周りから見えない様に手元を隠しながら子供に囁く。

 

 「実は私は妖怪なんだ……手を見ていろ」

 

 私は手の上に魔力で作った小さなゾウを作り動かした。

 

 「わあ……」

 

 子供は泣き止んでゾウを見ている、今の人類の子供にも効果があるようだ。

 

 「おーい、買って来たよ」

 

 美琴が戻って来たのですぐにゾウを消す。

 

 子供は私を見ていたが、その表情に悲しみは無かった。

 

 「はい、ジュース」

 

 「ありがとうお姉ちゃん」

 

 「あれ?泣いてない?クレリアちゃん何かした?」

 

 「少し子供をあやしただけだ」

 

 「自分も子供じゃん……」

 

 美琴は笑いながら子供を挟むようにベンチに座る。

 

 しばらくすると千穂がキャストを連れて戻って来た。

 

 「この子ですか?」

 

 「はい」

 

 キャストが本人の名前や服装を確認している。

 

 「名前と性別……服装などの特徴も同じ。大丈夫、今お父さんとお母さんが来るからね」

 

 そう言ってキャストが連絡を取る、やがて両親が来るだろう。

 

 キャストは私達に丁寧にお礼を言い、後は任せて欲しいと言って来たが、肝心の子供が私の服を握って離さなかったので親が来るまで待っている事にした。

 

 やがてこちらに早足で向かって来る一組の男女が見えた。

 

 「お父さん!お母さん!」

 

 子供が突然立ち上がり走り出し、両親であろう男女は走り寄った子供を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 「本当にありがとうございました」

 

 私達に礼を言う両親と少し話していたが、お互いに予定があるだろうと分かれる事になった。

 

 「もう迷子にならないようにねー」

 

 「気を付けてね」

 

 千穂と美琴がそう言うと男の子が言う。

 

 「妖怪のお姉ちゃん達ありがとう!」

 

 「妖怪?」

 

 「私がそういう事にしたんだ」

 

 「ああ、なるほど」

 

 少年の言葉に、子供の両親とキャスト、千穂と美琴も不思議そうにしたが、私の言葉を聞いて納得した。

 

 

 

 

 

 

 無事に迷子を両親に会わせた私達は、園内を歩きながら話す。

 

 「こういう所で迷子はよくある事だから、二日も居たら一人位は見つけるよね」

 

 「千穂がいて助かったよ、私じゃ上手く扱えないし」

 

 「ふふん!」

 

 千穂は得意げだ。

 

 「千穂はすぐ行ってしまったが、あの場合子供の扱いに慣れている千穂が残り、美琴が連絡しに行った方がよかっただろうな」

 

 「……確かにそうだわ。今のお礼は無しで」

 

 「ええっ!?」

 

 私の言葉に納得した美琴が感謝を取り消し千穂が声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 それから私達は園内を巡り、今は不人気な、人が殆どいないエリアに来ていた。

 

 「今のうちにトイレ行っとこうかな。人気のエリアだと込んでて入れなそうだし……」

 

 「あー、そうだね……今の内に行っとこうか」

 

 「じゃあ私はこのベンチで待っていよう」

 

 「おっけー、ちょっと待っててね」

 

 「すぐ戻るよ」

 

 そう言ってトイレに向かう二人を見送った。

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと、大丈夫?お父さんかお母さんは?」

 

 「今トイレに行っている、すぐに戻って来る」

 

 リズリーランドへは親子連れなども多く、人が少ないエリアとは言っても心配して声をかけて来る者が多い。

 

 悪気が無いのは分かるがここにいるとずっと声をかけられそうだ。

 

 先ほど声をかけて来た夫婦が離れて行ったのを機に、私もトイレの傍に向かう事にした。

 

 見知らぬ気配が五人、二人の傍に近寄っているからな。

 

 「ちょっと!?どいてよ!」

 

 「何なのよ、あんた達!」

 

 「そう言うなよ、一緒にまわろうぜ」

 

 「人を待たせてるって言ったでしょ!」

 

 千穂と美琴の声と知らない男の声か、もうすぐ帰るというのに邪魔をするとは。

 

 「千穂、美琴」

 

 「クレリアちゃん駄目!誰か人を呼んで!」

 

 「走って!クレリアちゃん!」

 

 私が向かうと五人の男に二人は絡まれていた、どんな場所でもこういった事は起こる物だな。

 

 周囲に認識阻害の空間を作り出し、近寄って行く。

 

 「おお!?なんだこいつ!?」

 

 「すげえ気合入ってんな!?」

 

 「可愛いじゃねぇか……」

 

 男達も私に近づいてくるが、気にせずに言う。

 

 「お前達。すぐに二人を放すなら許してやるが、どうする?」

 

 男達は顔を見合わせた後、笑った。

 

 「その仮装で強くなったとでも思ってるのかな?お嬢ちゃん?」

 

 「この子供も連れて行こうぜ、俺子供とやった事無いんだよ」

 

 「この屑男!クレリアちゃんに手を出したら許さないから!」

 

 「うるせえぞ!」

 

 そう言って暴れる千穂を殴ろうとする男だが、その拳は何かに遮られる。

 

 「っ!?いてぇ!?何だ!?」

 

 「放す気は無いか」

 

 その上、千穂を殴ろうとしたな?

 

 「あ……」

 

 男達は急に大人しくなり、二人を放すとフラフラと人気の無い方へ歩いて行った。

 

 「何……?どうなってるの?」

 

 「クレリアちゃん!大丈夫!?」

 

 美琴は戸惑った声を上げ、千穂は私に声をかけて来た。

 

 二人が居るから、この場は見逃そう。

 

 『奴らを処分しておけ』

 

 『かしこまりました、主様』

 

 違和感を感じている二人だが、やがて考えても仕方ないと思ったようで、元の調子に戻った。

 

 その後、二人は友人達にクッキーを買い、家族用に人数分のグラスを買った。

 

 約束通り私は二人のグラスにおまじないをして、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 二人と別れ家に戻った後、私はすぐにカミラを呼んだ。

 

 「どうしたのお母様?」

 

 「昨日と今日の私の行動で、何か問題は起きているか?」

 

 「大丈夫ね。凄い完成度の子供の仮装者がいたって事はかなり広まっているけど、誰もどこの誰だか知らないわ」

 

 かなり注目されていたが問題無かったか。

 

 「あの五人は?」

 

 「ああ、アレね……。色々やっていたみたいだし、消えても誰も何もしないと思うわ」

 

 カミラの雰囲気が少し変わる、怒っている様だな。

 

 「何でそんな者達がリズリーランドに居たんだ?」

 

 「獲物でも探してたんでしょ。お母様に手を出して人生が終わったけれど、自業自得よね」

 

 「そうか」

 

 「この様子だと……勿論、状況によっても変わるとは思うけれど、ある程度力を見せても大丈夫そうね。お母様が追い払った女達もお母様の仮装写真に色々と言っていたけど、それ以上は何も起きなかったわ。どんなに訴えても、ほとんど意味は無いみたい」

 

 「誰も信じないのか?」

 

 「証拠があったとしても、作り物だと思われてその他大勢の「そんな事ある訳無い」という意見に埋もれて消えて行くみたいね」

 

 「予想以上に問題無いようだな」

 

 「かつては起きた現象を素直に受け入れて、私達を精霊や神だと考えて受け入れていたけど……今じゃ誰も本当だと思わない様ね。映像や画像の加工技術が発達したのも理由かしらね?あまりにも現実離れした物は信じられないみたい」

 

 「機会があればもう少し色々としてみるか」

 

 「お母様の好きにして良いわよ?もし全部バレてもどうにかなるのは人類の方だし。気軽に暮らしていればいいと思うわ……なんか……昔お母様が似たような事を言ったような気がするわね?」

 

 「そうだったか?とにかく、これからも私の判断で好きなようにするとしよう」

 

 「ええ、その為に今の環境を作ったんだもの」

 

 カミラはそのまま私と紅茶を楽しみ、その日は泊まって行った。

 

 数日後、千穂と美琴は仮装した私との写真をクラスメイトに見られ、質問攻めにあったらしい。

 

 

 


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