少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 月の拠点の談話室で私が侍女達と過ごしていると、カミラ、ヒトハ、ジャンヌの三人がやって来た。

 

 「お母様、お話があるの」

 

 「何だ?」

 

 三人が雑談をするためにやって来たのではないと判断した他の侍女達が席を空け、空いた席に三人が座り話し始めた。

 

 「以前話した児童養護施設と学校を作る計画を進めたいのですが……よろしいでしょうか?」

 

 ジャンヌが私におずおずと言う。

 

 「いつかやろうという話はしていたな」

 

 「他の案はともかく、人間の子供達の成長に関わる児童養護施設と学校の計画は、早めに行っておいた方が良いと思いまして……」

 

 ジャンヌはそう話すが、本人が我慢出来なくなったのではないだろうか。

 

 「私は金を出すだけだ。実際に計画の中心で動くのは児童養護施設側はジャンヌ、学校側はヒトハで間違い無いか?」

 

 「はい」

 

 二人は声を揃えて返事を返した。

 

 「分かった、計画の実行を許可する。カミラ、あくまでこの二人が主体だが、侍女隊全員で手を貸してやってくれ」

 

 「勿論よ、任せて頂戴。月下グループの計画として進めるから、人間の優秀な者達も助けてくれるわ」

 

 「二人の好きなようにやると良い」

 

 「感謝いたします……主様」

 

 「ありがとうございます、主様」

 

 許可を出すと、二人は微笑んで返事をした。

 

 それから孤児の多い国のいくつかにフタバが話を持ち掛けて児童養護施設と学校を建設する許可を出させ、職員と保護する子供達の選定を始めた。

 

 大掛かりな計画ではあるが、月下グループとしての計画でもある為、大勢の人間達が動く筈だ。

 

 手が足りないという事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 12月に入り、2000年も後僅かになった。

 

 日本では季節は冬に入っている。

 

 私は冬の町並みを楽しむために北海道の都市にも家を購入した。

 

 小高い丘の上にあり、庭の雪景色と見下ろす町並みの雪景色を楽しめるので中々気に入っている。

 

 沖縄辺りにも買おうかと思ったが、南寄り島と大差無かったので見送った。

 

 「雪化粧した町並みも良い物ね」

 

 家の庭から見える町並みを見てカミラが言う。

 

 雪が降り積もる中、人間らしく厚着をした私達は、雪景色を楽しんでいる。

 

 「お二人共、そろそろお鍋が出来ますよ?」

 

 娘の一人が私達を呼びに来る、昼食の準備が出来たようだ。

 

 「一度戻ろうか」

 

 「そうね」

 

 呼びに来てくれた娘と会話しながら、私達は部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 クリスマスは千穂と美琴と共に東京の家でパーティーをし、年越しは娘達と過ごすため理由をつけて断った。

 

 「一年……たった一年かぁ……」

 

 「今まで長い時間を過ごしているのに……妙に一年が長く感じたわよね」

 

 北寄り島で年越しをしている娘達がそんな会話をしている。

 

 私も時間の感じ方が変わっている事は感じている。

 

 人類と深く関わりながら過ごす様になったからかもしれない。

 

 去年の冬と同じく炬燵に入り、みかんを摘まむ。

 

 

 

 

 

 

 テレビから聞こえる除夜の鐘を聞きながら皆でのんびりしていると年が明けた。

 

 「明けましておめでとうございます」

 

 娘達が私に声を揃えて言う。

 

 「明けましておめでとう。今日はゆっくりしよう」

 

 「こういう物ですからね、人類の文化は色々と不思議です」

 

 「朝になったらおせちを食べましょう、皆で作ったんですよ」

 

 「それは楽しみだな」

 

 私達は翌朝まで他愛のない会話をし続けた。

 

 

 

 

 

 

 「明けましておめでとうございます、クレリアちゃん」

 

 「明けましておめでとうございます」

 

 「明けましておめでとう、二人とも元気なようで何よりだ」

 

 2001年一月三日の朝、私達は明治神宮でお参りをするために集合した。

 

 駅へと移動する車の中であいさつし、それからは特にいつもと変わらないやり取りをして過ごす。

 

 私達は全員洋服で和服は着ていないが、電車や街中では和服の人間達を多く目にした。

 

 

 

 

 

 

 「うわー、めっちゃ混んでる……」

 

 「これでも三日だから少ないはずだけどね」

 

 人の多さにげんなりした声を出す千穂と、これでも少ない方だと言う美琴。

 

 テレビで夏の海やプールを見た事があるが、人間の間に水がある状態だった。

 

 あの状態の海やプールに好んで向かう人間の趣味は、私には理解出来ないな。

 

 目の前に広がる光景を見て、そんな事を思いながら千穂を見ると、嫌そうにしている。

 

 分かっていて来ているのになぜ嫌な顔をする。

 

 「千穂、何故そんな嫌そうな顔をしているんだ?」

 

 「だって滅茶苦茶混んでるんだもん……」

 

 「分かってた事でしょ……」

 

 千穂と美琴はそう言っている……何かおかしいな。

 

 「二人とも。夏の海やプールで混んでいるのを知っていても行くのは、混んでいるのが好きだからでは無いのか?」

 

 「え!?」

 

 「何言ってるの?」

 

 驚く千穂と困惑の表情を見せる美琴。

 

 「人間は混雑した場所で過ごすのが好きなんだろう?」

 

 「それは無いと思う……」

 

 「混みすぎてて嬉しい人は殆どいないと思うよ?」

 

 「そうなのか。では、何故混んでいるのが分かっていて行くんだ?」

 

 「あー……混んでいて居心地は良くないけど、その時にしか出来ない事をしたいんじゃないかな?」

 

 私の疑問に美琴が答えてくれる。

 

 その時にしか出来ない事……なるほどな。

 

 「みんな出来る事なら混んでない方が良いと思ってると思うけど、そんな所は遠かったり高かったりするから……仕方なく行ってるんだと思う」

 

 千穂が補足してくれる。

 

 人類はそういう趣味の者が多いのだと思っていたが、違う様だ。

 

 今しか出来ない事をしようとしているだけなのだな。

 

 「まさかそんな事考えてるなんて、お嬢様はずれてるわね」

 

 美琴が苦笑いしながら言う。

 

 娘達が「私も完璧では無い」と感じられる部分とは、こういった所なのだろうか。

 

 「今度の夏休みは私の家に来てみるか?」

 

 「プライベートビーチとか?」

 

 「日本じゃ難しいんじゃなかったっけ?」

 

 私の誘いに千穂と美琴が答える。

 

 日本でも私ならば用意出来るが、日本の海は一部を除いて透明度が低い。

 

 以前、彼女達は透明な海のある場所に行きたいと言っていた筈だ。

 

 「沖縄から東に行った所にある島の一つを私が所有している。そこなら誰もいないし海も透明度が高いぞ」

 

 「そこに招待してくれるって事?」

 

 美琴が期待を込めた声で言う。

 

 「そうだ、お前達の都合がつけばいくらでも居ていい。ただ、やる事はやれよ?」

 

 「行く行く!一緒に夏休みの思い出を作ろう!」

 

 「……あんた、もうちょっと遠慮したら?」

 

 「美琴、私に遠慮など無用だ。駄目なら最初から誘ったりしない」

 

 千穂は他の者から見ると、私に甘えて都合よく使っているようにも見えるかも知れない。

 

 しかし、私はその行動の根底に「一緒に沢山思い出を作り、寂しい思いをする事が無いようにしたい」という考えがある事を知っている。

 

 彼女が私の誘いに遠慮する事無く乗って来るのはそういう事だ。

 

 「美琴も一緒に行こうよ!三人の方が楽しいよ?」

 

 「分かったわよ。クレリアちゃん、その時はお世話になります」

 

 美琴はそう言って私に軽く頭を下げる。

 

 彼女はまだ少し硬いな。

 

 「では行くという事で進めるが、取り敢えず細かい話は後にしよう。まずは参拝だ」

 

 「そうだね。じゃあ……美琴は反対ね」

 

 「はいはい」

 

 私は二人に挟まれ、手を繋ぎながら参道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 冬も終わり、季節は春に入り始めた。

 

 私は東京の自宅で児童養護施設と学校建設計画の進展を聞いている。

 

 「中国やインドを始めとした、優先するべき国にまず児童養護施設を作る予定だったと聞いたが?」

 

 私が聞いた話では間違いなくそうだったはずだ。

 

 だが、今聞いた報告では優先する国には勿論、優先度の低い大国などにも既に孤児院が作られる予定だという。

 

 「考えればこうなってもおかしくなかったのよね。問題は無いし、むしろ計画は早く進んだ訳だけど……説明するわ」

 

 カミラがそう言うと、ジャンヌが後に続く。

 

 「カミラ様、ここからは私達が。……発端は月下グループとして児童養護施設と学校の建設の計画を行った事でした。主様もご存じの通り、大国や重要な組織の上層部の一部は月下グループが月の庭園の表の姿だと知っています」

 

 続いてヒトハが口を開く。

 

 「……私達が月下グループとして児童養護施設と学校の建設計画を行っていると知った各国から、「是非計画に参加させて欲しい、」と打診が来たのです」

 

 そこまで二人が言うと、カミラが話し出した。

 

 「二人の話した通り、各国が積極的に協力してくれたのよ。彼らからすれば、月の庭園が孤児の対応と教育まで行ってくれるという事だもの。そして私達なら失敗はまずありえない、私達に任せておけば全て解決する……そう考えたんだと思うわ」

 

 カミラの後にヒトハが続く。

 

 「日本を始めとしたそういった方面に力を入れていない、または力を入れられない国々からは大歓迎でした。私達の児童養護施設を受け入れる際には法の改定や新法の設立を行う必要がある事も伝えましたが、どの国も長くは悩みませんでしたね」

 

 「法とは?」

 

 私はヒトハに問う。

 

 「例としては……親が親としての役目を果たしていない場合、親権をはく奪出来るようにする、といった法ですね」

 

 ヒトハが例を挙げて説明してくれた。

 

 「育児放棄された子供を、子供が作れない夫婦などに預ける事が出来るようにする、という事で合っているか?」

 

 「それだけではありませんが、合っております。法の変更作業は各国の首脳達の仕事ですので、何か問題が起きない限り私達が手を出す事は無いでしょう」

 

 ヒトハと話をしているとジャンヌが声を上げた。

 

 「主様。基本的には血が繋がっているだけの他人の下に居る子供達を、血の繋がりが無くても愛のある家族の下にゆだねるためですが……。場合によっては子供達の両親にも手を差し伸べる事をお許しいただけませんか?」

 

 「親にもか?」

 

 「はい。愛していても不幸により環境が悪化し、自分達の下にいるよりは児童養護施設の方がよいと考え……預ける者達も居ます」

 

 「成程な」

 

 「もし主様が許していただけるならそういった者達にも手を差し伸べたいのですが……」

 

 人間の親の感覚と私の感覚が近いかどうかは分からないが、私もここにいる娘達の親の様な物だからな。

 

 私は敵対するか本人が望まない限り、今の時点では自分から娘達を手放す気は無いが、人の身ではそうは行かない事を知っている。

 

 「許可する。お前達の判断で手を貸すといい」

 

 「ありがとうございます」

 

 私は彼女に許可を出す。

 

 ジャンヌはこういった感覚は一般的な人間に近く、人類社会的には善人と言われるような部類だと思う。

 

 深く探る気は無いが、内心では人類に神の慈悲を与える、などと考えているような気もするな。

 

 

 


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