少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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075-01

 2001年4月。

 

 千穂と美琴は高校三年生となった。

 

 私達の関係は今も変わっていない。

 

 基本的には千穂が私と美琴を誘い、三人で遊んでいた。

 

 しかし、二人には私以外の友人がいる。

 

 ある時、私にばかり時間を使わない様に話をした。

 

 その話をした時、二人共……特に千穂は強く拒否した。

 

 だが、私が全く譲らなかったため二人は渋々受け入れ、それ以降の関わりは以前よりも減った。

 

 そんなある日。

 

 私が東京の自宅で本を読んでいると、置いてある携帯に着信が入る。

 

 「何か用か?」

 

 「クレリアちゃん、今大丈夫?」

 

 美琴からの電話に出ると、彼女はそう言った。

 

 彼女もすっかり私に慣れて、こうして普通に電話してくるようになった。

 

 「大丈夫だ」

 

 「今度お花見しない?上野恩賜公園(うえのおんしこうえん)で」

 

 「花見か……良いな。メイドに料理を作らせよう」

 

 「私達も持って行くから、少なくて平気だからね?それと……」

 

 「どうした?」

 

 「安上がりな遊びばかりで悪いわね……お金のかかる遊びは学生にはきついのよ。毎回クレリアちゃんに奢って貰うような真似はしたくないし……今更だけどバイトでもしようかと考えてるのよね」

 

 美琴は以前に比べると大分言いたい事を言うようになった。

 

 最近の私は娘達や友人達の安全の為に、出会った相手を多少探るようにしている。

 

 人類は大抵の場合、何かしら悪意を持っているが、今の所私やその周囲にそれが向いていた事は無い。

 

 たとえ悪意を向けていても、行動に移さない限り咎める気は無いが。

 

 そう、悪意を持つだけなら構わない。

 

 持つだけならな。

 

 「金をかければ良いという訳でも無いだろう。私も嫌いでは無いから問題は無い、三人だな?」

 

 「うん、いつも通り私達だけだよ」

 

 「それと、バイトはやめておけ。お前達は今年受験だろう」

 

 「うん、そうよね。大人になれば嫌でも働く事になるんだし、それまでは自分を磨こうと思うわ」

 

 彼女のその考え方は悪くない。

 

 出来る事を増やし、自分自身の力を鍛える事はマイナスにはならないだろう。

 

 「それで、いつ行くんだ?」

 

 「天気も良さそうだし……来週の土日のどっちかに行こうと思ってるんだけど、大丈夫?」

 

 「大丈夫だ、場所取りも任せておけ」

 

 「場所取りは私達がするわ。私達が誘ってるのに、全部クレリアちゃんに任せるのは流石にね?」

 

 「そうか。それで気が済むのなら任せよう」

 

 「うん。正確な予定は決まったらまた連絡するから、じゃあね」

 

 「分かった」

 

 返事をして電話を切る。

 

 私は侍女とメイドに来週の土日のどちらかに花見をする事、正確な予定はまだ決まっていない事を話しておく。

 

 数日後、再び連絡があり土曜に行く事が決定した。

 

 それから予定日まで彼女達は学校へ通い、私は自宅でのんびりと過ごした。

 

 

 

 

 

 

 「主様と花見なんて嬉しいね」

 

 「似たような事は月でも地球でもしただろう」

 

 「それでも嬉しいんだ」

 

 「そうか」

 

 上野恩賜公園に向かう車の中で、大きな五段の重箱とクーラーボックスを膝にのせたヨツバが嬉しそうにしている。

 

 料理は少なくするように言ったのだが、重箱が大きい。

 

 これはメイド達が張り切って作り過ぎたからだ。

 

 言った事を守れないのは問題だが、私達は人類がこういった生物である事を理解している。

 

 本当に問題が起きそうな時は娘達が介入するだろう。

 

 「ヨツバ、私の事はお嬢様と呼べ」

 

 「あ。かしこまりました……お嬢様」

 

 私に指摘され、言い方を変えるヨツバ。

 

 やる時はやる子だ、大丈夫だと思いたい。

 

 「私の友人二人と、周囲に多くの人間がいる。あまり大きな騒ぎは起こすなよ」

 

 「任せといてくれよ」

 

 今日のヨツバはいつもの侍女服では無い。

 

 薄いピンクのゆったりとした長袖のセーターに黒いロングスカートを身に着け、ハイヒールの靴を履いている。

 

 私は淡い青色のアシンメトリーレースを使用したヘムラインワンピースに、やや明るめのベージュのショートブーツだ。

 

 メイド達は私が派手な服装をあまり好まない事を知っているので、落ち着いたデザインの物を用意したらしい。

 

 

 

 

 

 

 「美琴、公園に着いた。もうすぐ着く」

 

 私は公園に入り、美琴に電話する。

 

 千穂はたまに気が付かない事がある、私はこういった時は美琴に連絡するようになった。

 

 「クレリアちゃん?ええと場所はね……」

 

 居る場所は分かっているが、私は彼女の案内を遮る事無く聞いた。

 

 そのまま私達は周囲の花見客の視線と感情を受けながら、二人が待っている場所へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 「居た、あそこだ」

 

 「あの手を振ってる女性がお嬢様のご友人ですね」

 

 侍女としての言葉使いになったヨツバが視線を向ける。

 

 込み合う花見客の中で場所を取っている二人がいる、私を見つけた千穂が手を振っていた。

 

 私は軽く手を上げて返事をし、向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 「ご苦労だったな」

 

 「問題無いよ!」

 

 「ここだけ空いてたのよね……何でだろ?」

 

 私の言葉に答える二人、場所を取れないと中止になるからな。

 

 ヨツバは荷物を下ろし、私の少し後ろに立つ。

 

 「紹介しよう。私の侍女の一人であるヨツバだ」

 

 「お嬢様の侍女をしておりますヨツバと申します。どうぞお気軽にヨツバとお呼び下さい」

 

 私の紹介で一歩前に出て自己紹介するヨツバ。

 

 問題無さそうだ。

 

 「こ、こちらこそよろしくお願いします!」 

 

 「お世話になります。よろしくお願いします」

 

 二人は立ち上がってお辞儀をする。

 

 「綺麗な小麦色の肌……。背が高くて、美人で……いいなあ」

 

 「あれ?メイドじゃなくて……侍女の一人?」

 

 羨ましがる千穂と疑問を口にする美琴。

 

 「メイドは主に家の仕事を行いますが、私達侍女はお嬢様の身の回りのお世話をする専属のような物です」

 

 ヨツバがそう説明すると美琴が言う。

 

 「なるほど。でも……クレリアちゃんの侍女って全員こんな美人なの?」

 

 「様々な者が居るが、ヨツバを美人だと感じるなら全員似たような物だと思う」

 

 「そう……」

 

 私の答えに美琴は気の抜けたような返事をした。

 

 「さあ、準備をしますのでお花見を楽しみましょう?」

 

 ヨツバがそう言って料理を並べ始める。

 

 「美琴、私達も準備しよ!」

 

 「そうね、そうしましょ」

 

 二人もヨツバを手伝い、料理を並べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 「ではお嬢様、挨拶を」

 

 準備が終わりヨツバがそう私に言って来る、挨拶か。

 

 「では……」

 

 「お嬢ちゃん達可愛いねぇ!」

 

 いきなり大声で割り込まれ、振り向くと、酔っ払った五十代程の太った男達の集団がいた。

 

 まだ朝だが、もう酔っているのか。

 

 「お嬢ちゃん達もおじさん達と一緒に……」

 

 男達の一人が私の傍にやって来て私の肩に触れようとしたが、その腕はヨツバに掴まれた。

 

 「おい、豚……何触ろうとしてんだ……?」

 

 「ひいっ!?……いだだだだ!!」

 

 男の腕を掴む手からは何かが軋むような音がする。

 

 「主様の言葉を遮った上に触ろうとしやがって……!ぶち殺すぞ人間がぁ!!」

 

 そのまま私に近寄って来た男を投げ飛ばし、他の男を巻き込んだ。

 

 「大きな騒ぎを起こすなと言われてるからこれで勘弁してやる……!とっとと帰れ!!」

 

 「ひぁ!?こ、殺される!!」

 

 ヨツバが叫ぶと男達は一斉に逃げて行った。

 

 「ヨツバ」

 

 私がそう言うとヨツバはびくりと震えて私の方を向く、彼女は不安そうな表情をしている。

 

 「よくあれだけで済ませた、偉いぞ」

 

 「っ!?ありがとうございます!主様!」

 

 不安そうな表情から一気に表情が変わり、嬉しそうに笑うヨツバ。

 

 「その呼び方は減点だが」

 

 「えっ!?……あっ……」

 

 私の事を主様と言っていた事を思い出したのか今度は落ち込むヨツバ。

 

 侍女としてのヨツバはあまり持たなかったな。

 

 彼女は私に何かあるとこの様に激昂するが、今日はよく我慢した。

 

 彼らを殺さなかったからな。

 

 そう思っていると、周囲が静かになっていた。

 

 辺りを見回すと、全員ヨツバと私を見て固まっている。

 

 私がどうするかと思っていると、突然大きな拍手と歓声が起こった。

 

 「凄かったぞ!ねーちゃん!」

 

 「可愛い主様を守る騎士……!カッコいいよー!」

 

 突然の大歓声を受けて、ヨツバは困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 あの程度は特に問題は無い様だ。

 

 現にあの騒ぎがおさまった後、周囲の客が差し入れを持って来て料理と飲み物が増えた。

 

 誰もがヨツバを褒め、異常だとは思っていないようだ。

 

 「ヨツバさんはあれが素なんですね」

 

 「かっこよかった!」

 

 「一応侍女としての教育は受けてるから侍女らしくしようと思ったんだけどな……」

 

 美琴と千穂に話しかけられて、ヨツバはもう普通に受け答えしている。

 

 あの後、当然だが千穂と美琴に最初の態度が作った物だとバレたので、私はヨツバにいつものようにする様に言った。

 

 四人で向かい合い、増えた料理と飲み物を食べながら会話をする私達。

 

 「ヨツバさんが居ればクレリアちゃんも安全だね」

 

 「そうね、今日はついて来てくれて助かりました」

 

 「私もお嬢様と花見がしたかったし……大切な方だからな」

 

 「いいねー。そういうの」

 

 「でも、今まで侍女らしき人……というか……一度も誰かついて来た事無いわよね?」

 

 美琴がそんな事を言う、ヨツバは何と答えるのだろうか。

 

 「あー……それは……お嬢様が一人で行きたいと言えば私達はついて行けないんだ」

 

 素直に答えたな。

 

 「クレリアちゃん?出来るだけ誰か連れて行った方が良いよ?」

 

 「同感だわ。クレリアちゃん可愛いから危ないわよ」

 

 二人が私に言ってくる、何も知らなければそうなるか。

 

 「気が向いたらな」

 

 「ええ……?心配だなぁ……」

 

 「そっと後をつければいいんじゃないかしら?」

 

 ついて来ていたら分かるぞ。

 

 時々、姿を見せない様に私の付近に現れる侍女隊の者達が居る事も、私は分かっているからな。

 

 

 


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