少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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075-04

 

 翌朝。

 

 目を覚ました私達は着替えて歯を磨き、朝食を食べた。

 

 そして、二人は課題の続きを始める。

 

 「……私、夏休みの最初の内にこんなに課題やったの初めてだよ」

 

 千穂が課題をやりながら呟いた。

 

 「私も流石にこんなにやった事無いわね……」

 

 美琴が呟きに返すと再び静かになり、文字を書く音だけが聞こえる。

 

 私は千穂のベッドの上でそんな二人を見えていた、今は世界史と日本史か?

 

 「歴史は色々と想像出来るから面白いわよね、色々と不思議な事もあるし」

 

 美琴が突然そんな事を言い始めた。

 

 「例えば?」

 

 千穂が課題をしながら言う。

 

 「ほら、壁画とか文字とか……。今でもテレビの特集とかミステリー系の番組で必ず取り上げられているじゃない?」

 

 顔を上げて千穂に言う美琴。

 

 「あー……あれねー。確かに誰でも不思議に思うよね」

 

 それにつられて千穂も顔を上げて言う。

 

 「謎のままで色々と仮説もあるけど、少なくとも捏造じゃないみたいだし」

 

 「ちょっとわくわくするよね」

 

 課題の手が止まっている、会話に意識が移ってきたようだ。

 

 「二人とも、課題は良いのか?」

 

 「……そうだったわね」

 

 「……でも、クレリアちゃんもそういうの気にならない?」

 

 美琴は再び課題に取り掛かり、千穂は私に聞いてくる。

 

 「特に気にならないな」

 

 「えー……夢が無いなぁ」

 

 千穂はそう言って課題へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 やがて時刻は十一時半を回った。

 

 「んっ……はあ。難しかったけどやっぱり量がすごく減ってるから早いね」

 

 「クレリアちゃんが教えてくれなかったらまだかなり残ってたと思うけどね」

 

 千穂が背伸びをして言い、美琴は私を見て言う。

 

 「数学と古文だけだったが、役に立ったようだな」

 

 「本当に助かったわ、ありがとうね」

 

 私に微笑んで礼を言う美琴。

 

 数学は簡単だったし見ただけで分かる古文も問題無かったが、世界の歴史など覚えていないから教える事が出来ない。

 

 ただ、教科書にジャンヌと信長が載っていた事は納得した。

 

 二人とも人間の時にそれなりの事をしていたからな。 

 

 「残りはどの程度あるんだ?」

 

 「今やってるのが最後だね。やっぱり数学と古文がスムーズに終わったのが大きいよ、クレリアちゃんのおかげ!」

 

 私の問いに千穂が笑いながら答える。

 

 「お昼食べて休憩入れても、もう今日中に終わるんじゃないかしら」

 

 「これさえ終われば後は遊ぶだけ……んふふ……」

 

 課題の手を止めて言う美琴と、怪しげな笑いを洩らす千穂。

 

 「忘れている事は無いか?」

 

 「大丈夫、千穂の後に私も確認したから」

 

 「そうか」

 

 「なんか引っかかる言い方だけど……抜かりはないよ!」

 

 それから私達は昼食を食べるために一階に向かった。

 

 

 

 

 

 

 「クレリアちゃん料理も出来るのね……完璧じゃない」

 

 「驚いたけど、お母さんが嬉しそうだったなぁ……」 

 

 昼食は久しぶりに私が作ってみた。

 

 既に料理の腕は娘達に抜かれてしまったが、十分に美味しかったようだ。

 

 私達は千穂の部屋で食休みを取りながら会話をしている。

 

 「私は掃除洗濯はやらない。料理だけだ、それに他の者の方が私より上手い」

 

 「クレリアちゃんなら出来なくても問題無さそうだもんね。趣味みたいな物?」

 

 ベッドに寄りかかっている美琴が私に尋ねる。

 

 「そんな所だ」

 

 「クレリアちゃんは料理以外に趣味はあるの?」

 

 ベッドに伸びていた千穂が起き上がって聞いてくる。

 

 趣味か。

 

 ……知的生命体の観察。

 

 これを言うのはやめておこう。

 

 「ゲームだな」

 

 「あはは、そうだったねー」

 

 「それ以外にはないの?」

 

 私の言葉に千穂は笑い、美琴は他に無いかと聞いてくる。

 

 「趣味とは違うかもしれないがピアノも弾く、弾けるのは一曲だけだが。後は、体を動かす事も嫌いでは無い」

 

 「お嬢様っぽい趣味ね、それに運動も好きなんだ?意外かも」

 

 「美琴、クレリアちゃんはお嬢様だよ?」

 

 「そうだったわね。あまりお嬢様っぽくないから……ごめんね?」

 

 「気にするな、どう思われようと構わない」

 

 「今度ピアノ聞かせて欲しいな、いい?」

 

 千穂はピアノに興味がある様だ。

 

 「機会があればな」

 

 その後もしばらくの間話していたが、やがて二人は残りの課題へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 「終わったー!」

 

 美琴が先に課題を終えてから二時間程が経った頃、千穂が声を上げた。

 

 「千穂、お疲れ様。後は夏休みを楽しむだけね」

 

 「やったー!!」

 

 彼女達は嬉しそうだ、これから二人は夏季休暇を満喫するのだろう。

 

 「クレリアちゃんは夏の間、何か用事はある?」

 

 美琴が私の予定を聞いてくるが、余程の事が無い限り私の予定は常に自由だ。

 

 「特にないな」

 

 「じゃあ近い内に水着買いに行こうよ、美琴も大丈夫?」

 

 「大丈夫よ」

 

 千穂が私と美琴に確認する、美琴は問題無い様だ。

 

 「島に行った時の物か?」

 

 「そうそう」

 

 「いいぞ、一緒に行こう」

 

 「じゃあ今日はご飯食べたら早く寝ましょう?数日夜更かししてるし……せっかくの夏休みに病気になったら大損だわ」

 

 「そうだね!」

 

 二人は早めに寝る事にしたようだ。

 

 さて、何か興味を持つような事が見つかるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 買い物に行く日を二日後に決めた後、一度解散になった。

 

 地球の家では無く月に帰った私は、久しぶりにグランドピアノが置いてある部屋へと向かう。

 

 二人との会話で久しぶりに友人の曲を演奏する気になったからだ。

 

 今までは娘達にせがまれた時に弾く程度だった。

 

 特に演奏する事が嫌いという訳では無いのだが、頻繁に弾いてはいない。

 

 音楽室に入り、椅子に座ってピアノの上に手をかざす。

 

 演奏するのは私が現在、唯一弾ける曲である「無貌の少女」という幻想曲だ。

 

 そして私は曲を弾き始める。

 

 始まりは穏やかに……しかし、やがて溢れるような旋律となる。

 

 多くの転調を繰り返す全体的に速く密度の濃い曲で、当時の主流の曲とはかなり違う。

 

 どちらかと言うと現代風の曲かも知れない。

 

 この曲の作曲者である友人は、私が正体を見せると恐怖し、混乱したまま逃げようと地面を這っていた。

 

 私はしばらく待っても変わらなければ、私の事を忘れさせようと考えた。

 

 だが、しばらくすると彼は落ち着きを取り戻し「済まなかった。君が何者であれ、私の友人だと言う事は変わらない。何より……新たな曲の創造には、新たな何かを知る事が必要だ」と言った。

 

 その後、彼は私と友人関係を続け、私の事を知りたがった。

 

 そんな日々の中で彼は作曲に打ち込み、やがて私を題材に曲を書き上げたのだが……出来上がった曲は人間には弾く事が難しい難易度となっていた。

 

 人間には絶対に弾く事は不可能……とまでは言わないが、弾くにはかなりの実力が必要だろう。

 

 この曲を何の苦も無く弾けるのは、今の所は私や娘達くらいだと思う。

 

 私は当時、彼の自宅にあったピアノでこの曲をよく友人に弾いて聞かせていた。

 

 「無貌の少女」は私だけの為に作られた曲で、友人もこの曲を広める事は無かった。

 

 彼が作った楽譜も一つしか存在せず、それは私に贈られている。

 

 しかし彼の死後「無貌の少女」は盗作され「覇王」と言う幻想曲として広まっていた。

 

 最初は存在すら知らなかった私だが、ある時「覇王」を聞く機会があり、その時に共通点が異常に多い事に気がついた。

 

 その後、私は「覇王」を作曲した者に話を聞いた。

 

 すると若い時に私が彼の家で弾いていた曲を聞いて感動し、大幅に難易度を落とし改編した曲を作った事を白状した。

 

 その後、聞く事を全て聞いた私は、盗作した彼に対して何もする事無く立ち去った。

 

 本人は罰を受ける事を覚悟していたようだが、彼は私達に手を出した訳では無い。

 

 ただ、感動した曲の影響を受け、新しい曲を作っただけだ。

 

 現代でも「覇王」は人気のある曲で、演奏会を始め、様々な所で使用されている。

 

 更に「覇王」に影響を受けた曲も数多く作られていて、それらもクラシックの名曲として人気が高い。

 

 私自身も、それらの曲を悪くないと思っている。

 

 こういった経緯があり「覇王」は私達の間では姉妹曲とも言えるような位置になっている。

 

 私に曲を作った友人が生きていたら何と言っただろうか。

 

 「いい曲が増えた」と言って笑うだけで、気にしなかったかも知れないな。

 

 やがて曲を弾き終えると、演奏を聞いて集まって来ていたフタバ、ミツハ、ヨツバの三人と侍女達が拍手をする。

 

 「はぁ……ご主人様の演奏は何度聞いても素晴らしいですね」

 

 「私も主様の演奏好きだよ!体がうずうずする!」

 

 「音楽は普段あんまり聞かないけど……主様の演奏だけは何故か最後まで聞いちまうんだよな……」

 

 三人がそう話すと侍女達も口々に感想を言う。

 

 今度は他の曲を覚えて弾いてみるのも良いかもな。

 

 

 

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