少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 軽快な祭囃子が流れ、提灯の明かりが夜の闇を照らす。

 

 屋台が並び、多くの人間が浴衣を着て歩いている。

 

 私達も今はその一部だ。

 

 浴衣を着た私達は祭りへとやって来た。

 

 二人から浴衣姿を称賛されたが、彼女達の方が良く似合っている。

 

 今日やって来た祭りの規模はそれなりに大きく、楽しむには十分だ。

 

 「見て回る前に軽く何か食べない?」

 

 歩きながら千穂が美琴に言う。

 

 「そうね……何にする?」

 

 「クレリアちゃんは何食べたい?」

 

 千穂が私に尋ねて来る、そうだな……。

 

 「たこ焼きが良いな」

 

 「いいわね、そうしましょ」

 

 「じゃあたこ焼きだー!」

 

 私達が答えると二人は私を連れてたこ焼き屋へと向かって行く。

 

 「たこ焼き二パックね、毎度あり!」

 

 「ありがとね、おじさん」

 

 買ったたこ焼きを千穂と美琴がそれぞれ持ち、三人で分け合って食べる。

 

 ごく普通のたこ焼きだな、何も言う事は無い。

 

 「あ。私……輪投げしたい」

 

 たこ焼きを食べながら歩いていると美琴が言う、その視線の先には輪投げの屋台がある。

 

 「私もやる!クレリアちゃんはどうする?」

 

 「欲しい物が無いからやめておく」

 

 いらない物を手に入れてもゴミになるだけだ。

 

 輪投げの屋台に到着すると、二人は料金を支払う。

 

 「そこで見てて!私はあのぬいぐるみを手に入れる!」

 

 「……私も狙ってみようかな」

 

 千穂は気合が入っているな、美琴もつられて狙う気になったようだ。

 

 「お、狙うのかいお嬢さん達!下まで輪を通さないとオッケーには出来ないよ?」

 

 「やるよ!」

 

 「やってみるわ」

 

 出店の男に答えた二人は、景品に狙いを定めた。

 

 狙っているのは奥にあるぬいぐるみか。

 

 もしも取れた場合、小さいとはいえずっと持って歩く事になるが、いいのだろうか。

 

 「とぅ!……あー」

 

 投げられる回数は三回、千穂の一投目は大きく外れた。

 

 「じゃあ次は私ね……よっ……あ、惜しい」

 

 美琴の一投目はぬいぐるみの傍を通り過ぎた。

 

 投げ方が良くない気がする。

 

 「二人共、放物線を描くように投げないと入らないぞ?」

 

 輪に通すのだから上からでなければ通らないだろう。

 

 「分かってるんだけど……難しい!」

 

 「普段、輪投げをする機会がないからね……」

 

 私の言葉にそれぞれ反応が返ってくる。確かに輪投げが趣味の者に出会った事は無いし、やっている所も見た事が無いな。

 

 二投目の千穂はまたも外れ、美琴は当たりはしたが入らない。

 

 三投目、千穂は暴投した。

 

 「負けた……」

 

 「……まあこんな物よね。クレリアちゃん、最後の一回やってみない?せっかく祭りに来たんだし」

 

 美琴が私に輪を渡してくる。

 

 「代わりに投げてもいい物なのか?」

 

 「お嬢ちゃんが代わりに投げても大丈夫だよ!」

 

 店主に問うと答えてくれる、店主がそう言うのなら問題無いか。

 

 「では、代わりにぬいぐるみを取ってやろう」

 

 「クレリアちゃんも狙うのね、頑張って」

 

 「仇を取って!」

 

 美琴と千穂の言葉を聞きながらラインに立つ。

 

 「お嬢ちゃん、小学生はもっと手前から投げられるよ」

 

 「ここからで構わない」

 

 店主の言葉にそう返し、輪を投げる。

 

 私の投げた輪は綺麗な放物線を描き、ぬいぐるみに通った。

 

 「おお……」

 

 「すげー……」

 

 「一回で通したよ……」

 

 たまたま見ていた周囲の客の声が聞こえる。

 

 「凄い!やったね!」

 

 「ほんとに取った……」

 

 「参ったなこりゃ……」

 

 大喜びの千穂と呟く美琴、そして苦笑いの店主。

 

 「はいよ、おめでとう。……お嬢ちゃん凄かったよ」

 

 「ありがとう」

 

 景品を受け取って私達はまた歩き出す。

 

 私は景品を美琴に差し出した。

 

 「え?私に?」

 

 「美琴の輪で取ったからな。ゲームとして楽しんだだけで、景品が欲しい訳では無い」

 

 「私も何となくやっただけだから……千穂、これ要る?」

 

 私から景品のぬいぐるみを受け取った美琴がそう言って千穂に差し出す。

 

 「いるいる!ありがとう美琴!」

 

 「取ったのはクレリアちゃんだけどね」

 

 「クレリアちゃんありがとー!」

 

 そう言いながら千穂は私を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 屋台を楽しんでいた私達だったが、途中で千穂と美琴の同級生数人と遭遇した。

 

 そして共に回る事になり、現在は千穂と美琴を含む何人かが食事の買い出しに行っている。

 

 その時、同級生の男の一人に声をかけられた。

 

 「えっと……クレリアちゃん……だよね?」

 

 見た目は優しく穏やかそうな男だな。

 

 「そうだ」

 

 「僕は葛城良平っていうんだ、よろしくね。それで……その、クレリアちゃんは倉森さんとよく遊んでいるんだよね?」

 

 倉森?……ああ、千穂の苗字か。

 

 千穂としか言わないので忘れかけていた。

 

 「そうだな、よく遊んでいる。それがどうかしたのか?」

 

 「何だか妙に大人っぽいなぁ……。ええと、その……」

 

 どうにもはっきりしないが、大体予想はついている。

 

 「千穂の事が知りたいのか?」

 

 「え?何で……?」

 

 「わざわざ私に千穂の事を聞いて来れば、何となく予想がつく」

 

 何より意識がずっと千穂に向けられている事を感じていたからな。

 

 そして、私に対して特に何も感じていない、中々珍しい男だ。

 

 「あっ……そうだね……。うん、倉森さんの事が知りたいんだ」

 

 変な奴に教える気など無いが、こいつは中々良いかも知れない。

 

 「分かった、教えてやろう」

 

 「本当かい!?ありがとう!」

 

 「千穂はいい子だ、真剣に想いを伝えれば真剣に答えてくれるだろう。頑張ってみる事だ」

 

 可能性は十分あると思う。

 

 「……うん。頑張るよ」

 

 そして私は彼としばらく千穂について話をした。

 

 

 

 

 

 

 「二人共、彼氏はいるのか?」

 

 「え!?」

 

 「いきなりどうしたの?」

 

 祭りが終わった帰り道、私は二人に聞いてみた。

 

 「そういった事は聞いて無かったと思ってな」

 

 「クレリアちゃんも興味出て来たのかな?……私はいないけどね」

 

 千穂は居ないか、彼にも希望が出て来たな。

 

 「私はいるよ?」

 

 「いいなー」

 

 美琴はいたのか。

 

 関わりが薄い者なら気にしないが美琴の事だしな、後で少し確認しておこう。

 

 「千穂も作ればいいじゃない」

 

 「うーん、私を好きになってくれる人なんているかなぁ」

 

 私は一人出会っているが。

 

 「そう言えば、千穂は好きな人とかは居ないの?」

 

 美琴が千穂に尋ねる。

 

 「……いるけど」

 

 ほう、いるのか。

 

 彼は駄目かも知れないな。

 

 「千穂、好きな人居たんだ。告白してみたら?」

 

 「……考えとく」

 

 「所で……誰よ?教えてよ」 

 

 「ええ……?いやだよ……」

 

 「誰にも言わないし余計な事はしないから、ね?」

 

 「分かったよ、もう。……葛城良平君って言うんだけど……」

 

 私はその名を聞いて千穂を見た。

 

 互いの気持ちに気が付いていないだけか。

 

 色々と感じる事が出来ない人類はこういった事も多い。

 

 「あー……彼か……穏やかで優しい感じだよね、彼」

 

 「う、うん……そんな所が良いなって……」

 

 「んー……私が見た感じだと、彼も千穂の事気になってると思うんだけどね」

 

 良く分かったな美琴、その通りだ。

 

 「そうかなぁ……?」

 

 「そうだと思うけど?彼が千穂の方じっと見てるの見た事あるから、今日だってそうだったし」

 

 「私とは限らないじゃん」

 

 「いや、その時私と千穂しかいなかったし。それで千穂を見てたんなら間違い無いでしょ?」

 

 「期待しちゃうからやめてよ、もう……」

 

 「千穂」

 

 「ん?なあに?」

 

 私が声をかけると千穂は私を見る。

 

 「告白しろとは言わないが、祭りの話でもきっかけにして連絡先の交換くらいはしてみたらどうだ?」

 

 私がそう言うと千穂は少し赤くなり小さい声で言う。

 

 「今日……交換した……彼から言われて……」

 

 「やったじゃん!」

 

 あの男、行動が早いな。

 

 良い事だ、お互い想っているのなら恐らく上手く行くだろう。

 

 「千穂、お前達はきっと上手く行くよ」

 

 「そうかな……?うん、頑張ってみる……」

 

 私は二人の恋愛話を聞きながら家に帰った後、美琴の相手を調べるようにカミラに伝えた。

 

 その時カミラに「娘に彼氏が居る事を知った父親みたいよ?」と言われた。

 

 家族とまでは言えないが、それなりに大切な者である事は間違いない。

 

 調べた結果、美琴の相手も十分にまともな男だったので問題は無さそうだった。

 

 

 


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