少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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075-08

 

 千穂に恋人が出来た。

 

 相手は葛城良平。

 

 祭りの日、私に千穂の事を聞いて来た男だ。

 

 千穂と良平は連絡先を交換した後、順調に関係を進め恋人同士となった。

 

 私は千穂と美琴が相手の恋愛が上手く行く様に、花火大会にはそれぞれの彼氏と行く事を勧めた。

 

 二人はそんな事は気にしないと言っていたが、私の気が変わらない事を察した二人が折れる事になった。

 

 そして花火大会が終わった後、私は二人から映画に誘われた。

 

 「映画楽しみだね!」

 

 「駅前にあるから降りたらすぐ行こ」

 

 私達は今、映画館のある駅に行くために電車に乗っている。

 

 私が花火に行かないのなら、その代わりに五人で映画に行きたい、という事らしい。

 

 「クレリアちゃん、初めまして。俺は鈴原太一って言うんだ、気軽に太一って呼んでよ」

 

 私に話しかけている男が、美琴の彼氏である鈴原太一だ。

 

 直接会うのは初めてだ。

 

 見た目は軽そうで実際にも軽い男だが美琴を真剣に愛している事も、しっかりと芯が通っている事も私は知っている。

 

 「クレリア・アーティアだ。よろしくな、太一」

 

 「いいねぇ……。可愛いし、その姿と大人っぽい雰囲気のギャップがたまらないぜ」

 

 「ちょっと……!?クレリアちゃんの事、変な目で見ないでよ!」

 

 私の隣にいる美琴が太一に少しきつく言う。

 

 私は千穂と美琴に挟まれて座っていて、その隣にそれぞれの彼氏が座っている。

 

 怒られている太一だが、私には太一の気持ちが美琴にだけ向けられている事が分かる。

 

 「美琴にしか気持ちを向けていないのによく言う男だ、そんな事だから誤解を受けるのだろう」

 

 「なっ!?そんな訳ないだろ……俺は可愛い子が好きだからな」

 

 「そうか、ではそういう事にしておいてやろう」

 

 「……こりゃ参った。美琴から聞いてたけど……本当に見た目通りの歳なのか?」

 

 苦笑いして話す太一。

 

 「若いのに僕達より大人だよね、クレリアちゃんは。僕が千穂の事を聞きに行った時もすぐに理解して力になってくれたし」

 

 「え?……良平、それマジ?」

 

 良平の言葉に太一が驚いたように言うと、良平は大きく頷いて「マジだよ」と答える。

 

 「あー!そうだよクレリアちゃん!私、クレリアちゃんが良平から相談受けてたなんて知らなかったんだけど!?」

 

 珍しく千穂が「不機嫌です」と言わんばかりに声を上げる。

 

 「言って無いからな。お前達が両思いだと知っていたから、あの時私は上手く行くと言ったんだ」

 

 「もー。クレリアちゃんはー……」

 

 少し恥ずかしそうに言う千穂。

 

 「それに良平の人格に問題があったり、千穂の事を大して思っていなければ、私は千穂の事を教えたりはしなかった。下手な男に教えれば面倒な事になるのが目に見えているからな」

 

 「僕はクレリアちゃんに値踏みされてたのか……」

 

 良平も苦笑いになる。

 

 「なんかあれみたいよね。ほら……娘に彼氏が出来た父親」

 

 「あー……」

 

 美琴の言葉に三人が声を上げる、それはカミラにも言われた。

 

 

 

 

 

 

 「話題になってるだけあって面白かったね」

 

 「そうね」

 

 帰りの移動中、私達は見た映画の内容を思い返したり、感想を話したりしていた。

 

 内容は一人の日本人の少女が日本の神々の世界に飛んでしまい、元の世界に帰るために神の世界で暮らす……という物だ。

 

 地球には神が存在しないが、私が覗いた別の世界には自称神や、実際にその世界の知的生命体に神と呼ばれている者もいた。

 

 私は自分が神だと思われる事に大して興味は無いが、他者から神だと思われたい者達も居るという事だな。

 

 相手が神であろうと私達に手を出してくるなら、殺す事は変わらないが。

 

 映画に登場する日本の神々は様々な姿をしているが、私は事前情報によってその神の中の一人に注目していた。

 

 この作品の中に、黒いワンピース風の和服を着た、黒髪の少女の姿をした神が登場する。

 

 その神は様々な神話を渡り歩く放浪の神として登場していたのだが、娘達の情報によるとこの神のモデルが私らしい。

 

 主人公を見守り、気まぐれに導く存在で、メインキャラクターの一人のようだった。

 

 意識して見ていると、作中の行動や登場する逸話に多少思い当たる事がある。

 

 過去の私の行動が、現代にまで残っているのだろう。

 

 考えてみれば、僅か数千年程前の出来事の筈だからな……残っていてもおかしくは無いか。

 

 「作り話だと分かっていても、神話とか過去の謎とかの話はわくわくするよね」

 

 良平が微笑みながら話す。

 

 「まあ、夢はあるわよね」

 

 美琴がそう答えると、太一が続く。

 

 「あの黒い髪の少女の神様も、実際に居たって記録が残ってるみたいだぜ?まあ……その記録自体が作り話なんだろうけどな」

 

 「でもさ……あの黒髪の神様も世界の謎の一つなんだよね。記録が残ってるのは勿論、神として記録に残らなくなった後も似たような容姿の不思議な少女の話は各地にあるらしいし?」

 

 千穂がそんな事を言う。

 

 「テレビで特集してるのを見た事あるけど……千穂、アンタ妙に詳しいわね?」

 

 美琴が尋ねると千穂は照れた様に言う。

 

 「前にそういうのに嵌っちゃって、色々調べたの……へへ……」

 

 「アンタらしいわ……」

 

 美琴が呆れた声を出す。

 

 「でも、調べたら面白かったよ?世界中の神話とか壁画とか……とにかく色々な所にこの少女の神様だけが、ほぼ共通した姿で登場してるの。だから他の神々は創作だけど、この少女の神は本当にいたんじゃないかっていう説があるんだよ!」

 

 話し終わると皆が静かになった。

 

 「皆……?どうしたの?」

 

 千穂が不思議そうに言うと美琴が言う。

 

 「千穂が賢そうに見えるわ……」

 

 「何それ!?」

 

 美琴の言葉に千穂は声を上げた。

 

 「ごめん千穂、何か違和感が凄くて」

 

 美琴が千穂に謝ると千穂が不貞腐れながら話す。

 

 「もー……でもどう考えてもおかしいのは本当らしいよ?世界中に同じ様な姿の神様が残っているなんて、普通に考えて変じゃない……」

 

 過去の私の話を友人から聞く事になるとは。

 

 「まあ、大学とかで歴史を学べばもっと詳しく分かるかもしれないね」

 

 良平はそんな事を言いながら千穂をなだめる。

 

 「なあなあ……もしかしたらその神様は今も何処かにいるかも知れないぜ?」

 

 「何言ってんのよ……」

 

 にやつきながら言う太一に美琴が呆れたような声を出す。

 

 「いや……だってさ?時代が違うのに似た姿が残ってんなら、ずっといたって事じゃん?なら今もいてもおかしくないだろ?」

 

 「うーん、まあ……そうかもね」

 

 この子達は隣に本人が座っていると思っていないだろうな。

 

 私の正体を知れば、思い至るかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 「じゃあねクレリアちゃん、俺は美琴を送って行くから」

 

 「しっかり送り届けろよ」

 

 「分かりましたお義父さん……いてっ」

 

 美琴が太一の頭を叩く。

 

 「何言ってんのよ……。じゃあ帰るわ、またね」

 

 「じゃあな」

 

 美琴と太一は私達に挨拶をして、並んで帰って行った。

 

 太一にとっては遠回りらしいが、しっかり送り届ける様だ。

 

 やはり根はしっかりとしている。

 

 「クレリアちゃんは大丈夫?」

 

 良平が心配そうに言うが、何の問題も無い。

 

 「平気だ、私は迎えが来るからな。お前は千穂を守る事に専念していろ」

 

 「……うん、わかった」

 

 「何か恥ずかしいなぁ……」

 

 そう言いながらも、結局迎えの車が来るまで千穂と良平は私と共に待ち続け、私が迎えの車に乗り込んだのを見届けてから帰って行った。

 

 

 


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