翌朝。
目を覚ました二人と共に簡単な朝食を作り食べ終えた。
「今日は予定通りに探索かな?」
食後にのんびりしていると、千穂が言う。
「そうだな、弁当を持って島の森の探索をする」
この島は家や飛行場、港、プライベートビーチなどは作られているが、それ以外はあまり手を加えていない。
野生動物も多く生息していて、島の大部分は森林だ。
「しっかり準備して来たわ。もう着替えて出発する?」
美琴がそう言って私を見る。
二人共行きたくて仕方ないようだ。
「では、すぐに着替えて出発しようか」
私は二人の希望に答える事にした。
「わかったわ」
「よーし、じゃあ準備しちゃおう!」
すぐに行く事を伝えると美琴は頷き、千穂はテントに引っ込んだ。
私と美琴もそれを追ってテントに向かう。
私達は侍女から弁当を受け取り、準備を終えて森へと入って行く。
荷物のほとんどは千穂と美琴が持ってくれている。
「少し入っただけで大自然ね……」
美琴が周囲を見回しながら呟く。
「この島の森には手を加えていないからな、野生動物も多く生息している」
私が島に持ち込んだ動物達が生態系を構築し、今も島で暮らし続けているからな。
「それって危なくない?大丈夫かな……」
千穂は不安そうに声を漏らす。
私が居る限り問題は無いと思うが、二人にそんな事は分からないからな。
「私達が進む道は管理されているし、奥まで行かなければ危険な生物は居ない。それに、私も一度も出会った事は無いから平気だ」
こう言っておけば大丈夫だろう、元々二人に危険そうな生物を近づける気も無いしな。
「それなら平気ね、早く行きましょ?」
美琴がそう言って歩きだし、千穂と私も歩き出す。
ゆっくりと、私達は森の中を進んで行く。
「二人とも、あの木の上に鳥が止まっている」
「どこ……?」
「……分からないわね」
私の指差した方向へと目を凝らす二人、しかし全く見えていないようだ。
「この双眼鏡を使うと良い」
私は双眼鏡を美琴に渡す、美琴は双眼鏡を使い私の示した方を見る。
「……どこ?」
「こっちだ、一本だけ真横に伸びている枝の根元を見ろ」
美琴の頭を鳥の居る方向へと向ける。
「……あっ……いた……綺麗な色ね」
「……美琴、私にも見せて」
いつもより声を抑えて話す千穂。
「はい、このまま覗けば見えるはずよ」
双眼鏡の位置を固定したまま千穂と交代する。
「どれどれ……おお、派手だねぇ。名前は何て言うんだろう?」
「分からない」
「クレリアちゃんでも流石に分からないかー」
「私が何でも知っていると思うな。私が知っている事など僅かだ」
知らない事は数える気にもならない程に存在する筈だからな。
「千穂……いくらクレリアちゃんでも何もかも分かる訳無いでしょ?……でも、クレリアちゃんよくあの鳥を見つけたわね?」
私と千穂の会話を聞いた美琴は呆れた声を出した後、双眼鏡を使わなければ見えなかった鳥を見つけた私に感心した様な言葉を掛けた。
「他の者より夜目が利く事は以前に話したと思うが、私は視力自体もかなり良い」
「凄いわね。確か……何処かの原住民は視力が高いと聞いた覚えがあるけど……クレリアちゃんは原住民だったの?」
私を見て言う美琴。
「違う」
「あはは!ごめんごめん……でも凄いのはほんとだよ?」
私が答えると笑って謝る美琴。
違うと答えたが、原住民でも合っているかも知れない。
この惑星地球……イシリスで目を覚まし、それから現在までこの惑星を見続けているのだから。
「クレリアちゃん、双眼鏡返すね」
千穂が私へ双眼鏡を差し出してくる。
「あんたまだ見てたの?」
「見てたよ?だけど飛んで行っちゃった……」
「まだ使いたいのなら持っていてもいいぞ?」
「そう?それなら使わせて貰おうかな」
千穂はそう言って双眼鏡を首にかける。
「そろそろ先に進みましょ?」
美琴の言葉で、私達は再び歩き始めた。
その後、私達は森の中で弁当を食べて、行きとは違うルートを通り植物や動物を見ながら戻った。
行きも帰りも危険な動物が現れる事は無く、普段あまり見る事が無い環境と動植物を見た二人は満足そうだった。
テントに戻った後はバドミントンを三角形を作って行った。
事前に勝敗は無いと言っておいたにも関わらず、二人は張り合っていたな。
バトミントンの後、休憩の時間を十分に取ってから今日の夕食であるバーベキューの準備を始める。
「串に刺す場合は食材を混ぜて刺さず、同じ物を刺すようにしてくれ」
「そうなの?イメージだと色々刺してある感じだけど……」
私の言葉に千穂が言う。
「それぞれ火の通りが違う事は分かるな?バラバラに刺して焼くとどれかが生焼けだったり、逆に焼き過ぎたりする事になる。見た目は確かに色々と刺してある方が良いだろうが、私は味が落ちるのが嫌だからな。どうしてもやりたければ焼き終わった後に刺しなおして保温すると良い」
「……バーベキューと言えば色々刺さった串のイメージしかなかったけど、言われてみれば……何で気がつかなかったのかしら?」
美琴は納得したのか不思議そうに言う、染みついたイメージは中々変わらないという事だ。
食材の用意を二人に任せ、私は焼く準備をする。
炭を用意して組み上げ、バーナーで火をつけた。
「クレリアちゃん、大丈夫ー?」
「大丈夫だ」
頻繁にこちらを気にする二人、私を子供だと思っているのだから心配にもなるか。
しばらくバーナーを使い、炭に火が移ったら団扇で風を送り全体が燃焼するのを待つ。
そして十分に燃焼したら更に炭を加えていく。
加えた炭も十分に燃焼したら次に強火、中火、保温用と火力を分ける。
「準備出来たよー」
焼く準備が整った直後、丁度良く二人が準備を終えてやって来た。
虫などが付かないように用意しておいた透明なケースの中に、串に刺さった食材が入っている。
周囲は大分暗くなっているが、明かりは用意しているのでテント周りはかなり明るい。
「火の準備は出来てるみたいね。ちょっと食材を処理するのが遅くなっちゃったけど、待たせちゃった?」
美琴がそう言ってケースをテーブルに置く。
あれだけ頻繁に私の様子を見ていれば遅くもなるだろうな。
「いや、丁度終わった所だ。左から強火、中火、保温用だ、焼け具合に合わせて変えていけ」
「凄い!プロみたい!」
千穂はそう言って驚いているが、プロなど居るのだろうか?
テレビでこのやり方を覚えたのだが……その時に実演していた者がバーベキューのプロだったのかも知れない。
「二人の好きそうなタレも色々と用意してある、好きな物を使うと良い」
私は野菜や肉、キノコなどの串を焼き始める。
串に刺していない食材も取り出して網に置く。
「焼き終わった物は保温用の場所に置いておくからそれ以外に手を出すなよ?腹を壊すぞ」
「分かったー!」
「千穂、私達も交代して焼くんだからね?」
食べる気満々の千穂に美琴が釘をさす。
私達は時々焼くのを交代しながら、バーベキューを楽しんだ。
バーベキューを終えて後は寝るだけだったのだが、二人が花火を用意していたので一緒にやる事になった。
「花火大会……今度は一緒に行こうね?」
「気が向いたらな」
私は千穂に答える。
四人で行った花火大会で仲は深まったと聞いたが、それでも私に来て欲しかったという気持ちは変わっていないようだ。
私達はテントから少し離れ、暗い所に移動する。
暗くないと花火は魅力が半減してしまうからな。
花火に火をつけると、様々な色の光が噴き出る。
魔法で簡単に出来る事だが、魔法の使えない人類にはとても魅力的に見えるのだろう。
美しく人気のある夏の代表的な娯楽の一つだ。
こうした人類の小さな花火や打ち上げ花火も悪くは無いが、やはり魔法には敵わないと感じるな。
「見て見てー」
千穂が花火を両手に持って回っている。
「綺麗だけど……目を回すわよ?」
「大丈夫ー」
美琴が忠告するが千穂は回り続けている。
花火は燃え尽きるのが早いから平気だろう。
そう思ってしばらく見ていると、持っている花火が燃え尽き、彼女が戻って来る。
「ほら、平気だった」
そう言ってまた新しい花火を手に取った。
「また回るの?」
美琴が笑いながら聞く。
「やめとく、やり過ぎたらほんとに目が回りそうだし……」
千穂は時々幼い子供の様な事をするが、しっかりと考える事も出来る子だ。
まあ、保育士になろうという者が子供では話にならないからな。
出会ってからまだあまり時間は経っていないが、二人の事はそれなりに分かるようになっていると思う。
最後に線香花火の耐久勝負をして勝利した私は二人が寝ている間、世界樹と念話で語り合って過ごした。
翌朝。
二人が起きた後、皆で朝食を作り食事をする。
その後、テントなどを片付け侍女の迎えを待つ。
しばらくしてやって来た侍女に後を任せ、私達は車で家に向かった。
「お帰りなさいませ、主様」
車を降りて家に入ると、侍女が並んで迎えてくれた。
「二人を部屋まで案内してやってくれ」
「かしこまりました……倉森様、篠崎様、こちらへどうぞ」
「よろしくお願いします!」
「お世話になります」
案内しようとする侍女に頭を下げる二人。
そんな二人の様子を見て微笑んだ侍女は、二人を部屋へと連れて行った。
あの様子ならば、侍女達も彼女達の事を悪く思う事は無いだろう。
そう思いながら私はいつもの談話室へ向かい、ソファに座る。
部屋に居た侍女が飲み物を飲むかを聞いて来たので、牛乳を頼んだ。
そう言えば……この家に人間が入ったのは初めてかも知れない。
ジャンヌと信長が来た時は人では無かったからな。
「お帰りなさいませ、主様」
部屋にやって来たヒトハとフタバが声を揃えて私に挨拶をする。
「ご友人はもうすぐいらっしゃいます」
そう言って微笑んだヒトハの隣では、フタバが微笑んでいる。
「お前達も気に入った様だな」
「直接会うのは初めてでしたが……良い子達でした」
「実際に会った事で、どんな子達なのか良く分かりましたね」
ヒトハとフタバはそう言って私の近くに座る。
私は娘達と話をしながら二人を待つ事にした。