最近毎週土曜日に投稿していますが、作者の中ではこの作品は不定期投稿という事になっています。
翌日、私達はクルーザーに乗り沖へと出た。
クルーザーには乗員として侍女達も乗り込んでいる。
「気持ちいいねー」
千穂はそう言って伸びをした。
「クルーザーで海に出て晴れた空と綺麗な海を見る……贅沢よね」
美琴も気持ちよさそうに目を瞑り、風を感じている。
彼女には出発時に酔い止めの薬と言って偽薬を飲んで貰い、魔法で処置している。
出発前に美琴に酔う事は嫌なのかを聞いた所、嫌だと答えたのでついでではあるが二度と酔わない様にしておいた。
私はくつろぐ二人を横目に、イルカが居る場所を探し出した。
その位置を、操舵している侍女に念話で伝える。
「イルカとかクジラとか、何処かに居ないかなー」
「居たら嬉しいけど……そう簡単に見つかるかしら?」
二人は水平線を見ながら話をしている。
「よく見る事が出来るポイントに向かっているから、運が良ければ居るかもな」
居る事は確認しているから、二人がしっかりと周囲に注意していれば見つける事が出来るだろう。
しばらく海上を進み、イルカが居る場所へやって来た。
イルカ達はクルーザーの傍に居るが、二人は気付くだろうか。
そう思っていると、海を見ていた美琴が声を上げる。
「あっ!居た!いたよ千穂!」
「えっ!?どこどこ!?」
千穂が美琴に走り寄る。
「そこ!一緒に並んで泳いでる!」
少し離れた海面を指さす美琴、そこには三匹のイルカが並走していた。
「うわぁ……並んで泳いでるー!」
「可愛いわね!」
二人は興奮して声を上げている。
私がイルカを見るために二人の隣に顔を出すと、イルカ達が跳ねた。
「凄い凄い!」
「凄いわ!」
二人は同じような事を口にして大騒ぎしている。
そんな中で、イルカ達の意識は私に集中していた。
かなり私の事を気にしているようだ。
私から何かを感じるのだろうか?
彼らは私を気にしながら並走していたが、しばらくするとクルーザーから離れて行った。
「行っちゃった……」
「そうね……」
二人は余韻に浸っているのか、イルカが去って行った方をただ見ている。
「見れてよかったー、ウミガメとも泳げたし、後はクジラだね!」
「会えるかは運だけど、出来れば会いたいわよね」
「今ならクジラにも会える気がする!」
「ウミガメとイルカに会えてる時点で運は良い方だと思うわよ?ね、クレリアちゃん?」
美琴が私に尋ねて来る。
「そうだな、一日で会えたのは運が良いと思う」
タイミングが悪いと中々会えない事もあるらしいからな。
「でも、会いたいわね」
「クジラにも会えたら一回でウミガメ、イルカ、クジラに会えたって自慢出来るね!」
周囲を見渡していた千穂はそう言って美琴を見る。
「それは確かに、誰かに話したくなるわよね」
美琴は千穂にそう言うと、期待した表情で周囲を見始めた。
私は周囲を探り、クジラを見つける。
操舵している侍女にクジラの位置を伝えると、クルーザーはそちらへ移動を始めた。
これで二人の希望は叶うだろう。
しばらく移動すると、クルーザーはクジラ達が居る場所の付近へ到着した。
子供のクジラは気にしていないようだが、大人のクジラ達は既に私へ意識を向けているな。
「二人とも、クジラはあそこにいるぞ」
「居たの!?」
「どのあたり?……分からないわね」
二人は私の所へやって来たが、まだ見えない様だ。
「もう少し待てば見えるようになるだろう」
「あっ、そっか。クレリアちゃん目が良いんだもんね」
千穂は海へと目を向けた。
「あっ……いたわ!」
やがて美琴が声を上げた。
「あそこ!」
彼女が指をさした方向にはクジラの群れが小さく見えている。
「次は私が見つけるつもりだったのにー!」
「別にいいじゃないそんな事」
「良くないー!見つけたかったー!」
「小さな子供じゃないんだから……」
そう言い合いながらも、視線はクジラへと釘付けの二人。
その後、彼女達はクジラの潮吹きを見て騒いでいた。
二人はイルカとクジラを見るという目的を達成し、クルーザーで昼食を取ってから島へと戻った。
一週間の滞在期間が終わると、二人は満足して帰って行った。
現在、私は島に残って過ごしていた。
ソファに座り、飲み物を飲みながら周囲に居る侍女達に声をかける。
「千穂と美琴は大分お前達と打ち解けたようだな」
「いい子達でしたね。「今時の子」といった感じですが、しっかりしていましたし」
私の言葉に侍女達の一人が笑って答える。
今までそれなりの数の人類と友人になっているが、私達に媚びたり、悪意を向ける者は少ない。
私が友人に選んでいるのだから当然かも知れないが……そういった理由もあり、娘達に嫌われる事も少ない。
「出来れば悪い方向に変わらないで欲しい所ですね」
別の侍女が心配そうに言う。
彼女が今言ったように、途中で性格や考え方が変わる者も居る。
変わる事自体は構わない、どう変わろうと私達が気に入れば何も問題は無く、友人のままでいられるだろう。
ただし……私や娘達、親しい友人達に手を出そうとした者はその時点で友人ではなくなる。
私達を利用するという程度ならば、私達の事を忘れさせて放置する様にしている。
更に、手を出した場合は、特別な理由が無い限り殺す事になる。
だが、わざわざ苦しめる様な事はしない。
これは魔法人類がいた頃から変わっていないと思う。
私は生物が苦しんでいる所を見て喜ぶ趣味は持っていないからな。
カミラは多少そういった嗜好を持っているが、私は娘達の考えは出来るだけ大切にしてやりたいと考えている。
勿論、私の邪魔にならない範囲での話だが。
それに、カミラは非の無い相手にそういった事をした事は無い。
今までそういった事をされていたのは、私達に手を出し彼女の怒りを買った者達や、彼女に直接手を出した者達だ。
人類は情報などを得る為に拷問をする事もあるが、私の場合は相手を深く探れば済む。
ある程度の力が無ければ、相手は情報を知られた事さえ気がつかないだろう。
そうなると私には趣味以外に特に拷問をする理由が無い訳だが……今の所はそんな趣味も無い。
この先そうしなければならない状況になる事があれば、やってみようと思う。
「牛乳をもう一杯貰えるか?」
「かしこまりました」
侍女の一人が私の声に反応し準備をしてくれる。
「お考えはまとまりましたか?」
別の侍女が微笑んで声をかけて来た。
どうやら私が考え始めたのを察して声をかけないようにしてくれていたようだ。
「大した事は考えていない」
「そうですか」
彼女は穏やかな口調で答えて隣に座る。
私は飲み物を飲みながら、周囲の侍女達との会話を続けた。
後半の島の話は省略。