夏が終わり、秋は足早に過ぎ去り、冬が訪れる。
秋の時点で千穂と美琴は大学入試の為の準備が本格的に始まり、遠出は秋に三人で紅葉を見に行った程度で、他は近場かそれぞれの自宅で遊ぶようになった。
冬に入った時、私は二人に勉強に力を入れるように話し、遊ぶ機会は更に減った。
時々電話で話をしているので、それほど会っていないという気はしないが。
大学入試日は一月二十日らしい、現在は12月なので一か月を切っている事になるな。
二人の大学は別々になったが、公共交通機関があるので行き来するのにあまり時間はかからないと聞いている。
ヒトハを中心に計画が進行している新しい学校が出来ていれば、二人が私達の学校に来る可能性があったかも知れない。
年末はいつもの様に娘達と過ごし年が明け、西暦は2002年となった。
久しぶりに会う二人と共に初詣に行き、混み合う神社の中を手を引かれて歩く。
私は二人の様に神に祈る事は無いが、二人と初詣に行く事自体は嫌いでは無いからな。
初詣を終えた後、私達は適当なファミリーレストランで食事をしながら話をしていた。
「二人とも、今日は何も用事は無いのか?」
「うん、今日一日は空けといたよ。会うのを楽しみにしてたんだから」
「私も、せっかくクレリアちゃんと会うんだし」
少しだけ雰囲気が変わった二人が笑う。
私と会うのを楽しみにしていたのか。
随分と懐かれたが、悪い気はしない。
「大学は問題無く行けそうか?」
「今の所、千穂も私も十分に合格出来る判定ね」
「うん、このまま行けば合格出来ると思う」
二人とも自信のある表情をしている、どうやら問題は無さそうだ。
「そうか、それでも実際に合格するまでは気を抜くなよ」
「分かってるわ、大丈夫よ」
美琴が私に微笑んで答える、千穂は飲み物をストローで吸いながら頷いている。
久しぶりに直接会った事もあり会話が弾んだ。
結局、時間が遅くなりこの日は泊まって貰った。
今日は一月二十七日の日曜日。
一週間前に大学入試を終えた私達は、久しぶりに二人で買い物に出かけた。
本当はクレリアちゃんも誘いたかったけど、連絡が取れなかった。
今までもこんな事はたまにあった、また電波の届かない所に居るのね。
「あー!やっと受験から解放されたー!」
隣を歩く千穂が嬉しそうに背伸びをする。
「これからも勉強しないと夢は叶わないわよ?」
「そうだけど今日は勘弁してー」
私の言葉に千穂は苦笑いする。
確かに今日くらいは羽を伸ばしても良いわよね。
私は高校に入学してすぐに千穂と友達になった……正確に言うと千穂が強引に友達になりに来たんだけど。
……一緒に過ごす内に私は千穂の事を気に入ってしまった、そしてどんな時も変わらない明るさに助けられた。
多少周りから浮いていた私がこうして楽しい高校生活を送れたのは……千穂が私を支え、変えてくれたから。
この子はきっと何も考えずにやったんだろうけどね。
私が彼女に本心を言う事はきっと無い。
恥ずかしいから……でも私と千穂の関係はこれからもきっと変わらない。
大人になり、結婚し、子供が出来ても……家族ぐるみでずっと一緒にいれる、何となくそんな事を感じてる。
「クレリアちゃんも来れたらよかったけど……きっと海外だろうし。また今度三人で改めて来ようかな……ね?美琴?」
「今度は三人で合格祝いをしたいわね」
「あっ!それいいね!」
クレリア・アーティアちゃん……とても綺麗で優しい、でも何処かおかしな女の子。
始めに会った時は違和感が凄かった……あの見た目であんな話し方だし。
なんだかんだと友達になって、とんでもない大金持ちである事が分かった。
お金があれば自由に生活出来る、それだけならうらやんでいたかも知れない。
……でも、私は彼女に同情していた。
二人の時、千穂から話された事……。
彼女の両親は、彼女に会う事無くお金だけを与えていた。
忙しいのは分かる……世界最大のグループである月下グループのトップなのだから。
でも……どんなに大人っぽくても彼女は子供だ。
一番親の愛が必要な時期に放置されて良い影響がある訳無い。
幸いな事に叔母さんや雇われたメイドさん達、侍女さん達が彼女の心を守っていたけど、それが無ければきっと彼女は歪んでいただろう。
千穂はそんな彼女と事あるごとに関わった。
私は気がついていたわよ?
かつて私が彼女に救われたように……千穂はクレリアちゃんの心を救おうとしているのだと。
クレリアちゃんはそんな物必要無いと言いそうだけど……私が今幸せなように、彼女も幸せになっていると信じたい。
「美琴ー?おーい?」
千穂の声に私は俯いていた顔を上げた。
いけない、考え込んでしまっ……た……。
顔を上げた私の目に映ったのは少し離れた所で私に振り返り笑う千穂と……その後ろから突っ込んでくるトラックの姿だった。
「千穂っ!」
「ふぇ?」
私は叫んで駆け出した、千穂はまだ気が付いていない。
トラックは止まる気配を見せない。
雪に足を取られながら、私は千穂を力の限り突き飛ばした。
「あ……」
そして迫るトラックの車体が、私に突っ込んだ。
私は現在世界樹の枝の上に居る。
地球では千穂と美琴の大学入試が一週間前に終わった所だ。
今頃彼女達は羽を伸ばしているだろう。
『それでさー、ボクも移動出来るようにならないかなー?って』
「体が欲しいと言う事か?」
『そうそう!こう……意識だけを移して……操り人形みたいな感じで?』
確かに世界樹はここから移動する事が出来ない、自由に世界を見て回れる体を欲しがるのも分かるな。
「考えておこう、いつになるかは分からんが」
『数億年なら待つよー、今の状態が嫌って訳じゃないしね』
「そうか。もし本格的に作る時はお前の意見も聞こう」
『おー!優しい!ありがとね、おかーさん!』
「私はお前の母では無い」
『義理の母ってやつだよー』
「呼びたいなら好きにしろ」
『うん、気が向いたら呼ぶからねー』
そう言うと他の者と念話し始めた、こいつは全く変わらないな。
『お母様、今大丈夫?』
『どうした?』
カミラからの念話に答える。
『篠崎美琴さんが交通事故に遭ったわ』
美琴が?
『それで?』
『今日、二人で道を歩いていた所に雪で滑ったトラックが突っ込んだみたい。千穂さんを庇って美琴さんが轢かれ、右腕と両足を失い植物状態よ』
『そうか』
娘であるカミラや侍女達には念の為の対策がしてある。
カミラの服であったり、侍女達の体の放棄などがそうだ。
しかし彼女達には何の対策もしていない。
二人は大切な友人と言えるが、それでも友人でしかないからだ。
息子や娘である、という感覚は私の感じ方次第で……とても曖昧だ。
ルーテシアの事は娘の様に感じていたが、ケインやミナは友人止まりだった。
この差が何なのかは今の所、私にも分からない。
『お母様の友人だし、一応こちらで手をまわして大病院の個室に入院させてあるけど……どうする?』
カミラの声で意識を切り替え、返事をする。
『私は千穂に借りがある』
『えっ……そうなの?』
カミラが意外だと言いたげな反応をする。
『以前、何も分からなかった私にお勧めのゲームを選んでくれてな』
『あら、それなら借りを返さないといけないわよね?』
『当然だな』
何故か嬉しそうな声色のカミラに、私は言葉を返した。
断られたらまた別の機会に借りを返すとしよう。