少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 美琴が交通事故で軽い怪我をしてからは特に何も起こる事は無く、千穂と美琴が大学に合格した。

 

 それから時が流れ、西暦は2003年に入る。

 

 大学に入学してから一人暮らしを始めた二人は、中々忙しくしているようだ。

 

 ただ、良平と太一も大学に進学しており、それぞれ同棲しているので正確には千穂も美琴も一人暮らしでは無い。

 

 四人からは今も時々連絡が来るが、実際に会って遊ぶ事はほぼ無くなった。

 

 自分達の人生の方向を定めた四人は、順調に歩みを進めている。

 

 四人の中で唯一私達の正体を知っている千穂は、私に対して少し甘えるような態度を取るようになっていた。

 

 美琴を始めとした三人には「子供に甘えるなんて」と多少呆れられていたが。

 

 千穂はどうやら姉が欲しかったらしい。

 

 姉が欲しいのなら侍女も居ると思うのだが、妹と姉を兼ね備えた私が良い様だ。

 

 私の推定年齢を考えると姉どころではないと思う。

 

 日々四人が大学や私生活で忙しくしている中、私は現在メキシコに来ている。

 

 特にこの国に来た理由は無く何となくやって来ただけだが、目的無く人類の世界を彷徨うのも嫌いでは無い。

 

 この国に来てまだ二日目という事もあり、今は昨日に引き続き昼の街を散歩している。

 

 町並みや住んでいる人類達を眺め、店などを覗きながら歩いて満足した私は、そろそろ裏路地に入る事にした。

 

 表通りから薄暗い路地に入り進んでいると、途中の横道から複数の話し声が聞こえる。

 

 私が声の方へ近づいて行くと、複数の男が一人の女を解体していた。

 

 「おい……」

 

 私に気が付いた男達の一人が声を上げた、周りの男達が次々とこちらへ振り向く。

 

 「私は通りかかっただけだ、気にせずに続けてくれ」

 

 そう言って私は彼らの隣を通り過ぎたのだが、彼らの中の一人が背後から襲って来た。

 

 私は襲って来た男が私に到達する前に、首を折って処理する。

 

 消滅させず殺したのは、「こうなりたくなければやめておけ」という他の者への警告でもある。

 

 首を折ったのは噴き出る血で周囲が汚れないという理由がある。

 

 カミラや信長などは「場合によっては派手に殺す事も有効」と言っていた。

 

 だが、私はその辺りの事は特に考えておらず、その時の気分次第だ。

 

 突然倒れ痙攣する仲間を見て、僅かな動揺が生まれた彼らに私は言う。

 

 「気にするなと言っただろう、なぜ話を聞かない。まさかとは思うが、言葉が分からないのか?」

 

 私は今もこの国の言語で話しているし、表通りの者達には通じたのだが。

 

 そう思いながら言うと、一人を除いた全員が襲い掛かって来た。

 

 通じていないのか無視しているのかは分からないが……どちらにしても会話は出来ない様だ。

 

 そう考えている間にも、男達は私に近づく事も出来ず次々と首が折れて倒れて行く。

 

 全員が死んだ後で残っていた男を見ると、小さく悲鳴を上げすぐに逃げてしまった。

 

 あの男は私に襲い掛かって来た訳では無いから特に何かする必要は無いだろう。

 

 人間には様々な者がいる、中には会話が出来ない者もいるという事だな。

 

 私はそう思いながら襲い掛かって来た者達の死体を処分し、散歩を再開した。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 私が街を散歩していると、複数の人間が私の後を付けて来ているのが分かった。

 

 相手は気付かれていないと考えているようだが、相手が悪かったな。

 

 それから人気の無い所に行くと、すぐに尾行者達が襲い掛かって来る。

 

 私はすぐに無力化すると、情報を貰って処分した。

 

 どうやら数日前に私が処分した男達は麻薬を扱っている組織の者達だったようだな。

 

 あの時、一人だけ逃げた者から私の事が知られたらしい。

 

 彼らに指示を出していた者の情報を得た私は、すぐにその人間も処分した。

 

 

 

 

 

 

 それから数日が過ぎたが狙われる事はなくなり、現在は問題無く過ごしている。

 

 今日はどうしようかと考えながら当ても無く街中を歩いていると、私の前方に止まっている車の中からスーツを着た男が一人現れ、私に話しかけて来た。

 

 「突然失礼いたします。貴女にお会いしたいという方からの命を受けてまいりました……どうか御同行をお願いしたい」

 

 意識を向けられていたのは分かっていたが、これほど丁寧に誘われるとは思っていなかった。

 

 「随分と丁寧だな」

 

 「失礼な真似はするな、と言われていますので」

 

 私の言葉にそう返す男。

 

 特に用事がある訳でも無い、ついて行ってみるか。

 

 「分かった。ついて行こう」

 

 「ありがとうございます。ではこちらへ……」

 

 私が乗り込むと、車はすぐに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 私が自宅のプールから上がった時、部下が報告を持って来た。

 

 幹部の一人が行方不明になったらしい。

 

 そして、監視カメラに実行犯と思われる人物の映像が残っているという。

 

 だが……どうにも部下の歯切れが悪い。

 

 普段は歯切れのいい部下が言い淀んでいる事に疑問を感じた私が問いただすと、その監視カメラの映像を見て欲しいと言う。

 

 まだ私に歯向かう馬鹿が居るとは……どちらにしても私達に手を出したのだ、簡単に終わらせる気は無い。

 

 そう考えながら部下に見る事を伝える。

 

 さて……私に喧嘩を売った馬鹿の顔を見せて貰おうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 ……これは部下の歯切れが悪いのも納得だ。

 

 映像ではいきなり黒髪の……気に入らないが怖ろしく美しい少女が部屋に現れて何か会話をした後、幹部が消えている。

 

 文字通り突然消えたのだ。

 

 少女もその直後に消え、この後に部下が入ってくるまで何も映ってはいなかった。

 

 外から侵入した形跡もない。

 

 幹部が消えた事に気がついた部下から事が明るみになり、監視カメラの映像を確認するまで誰も気がつかなかった。

 

 もうすぐ庭園の方が訪れると言うのに……面倒な事になった。

 

 ……待てよ?

 

 こんな事が出来る人間が居るか?

 

 ……私はある可能性を考える。

 

 この少女が……庭園の方の関係者だったとしたら……?

 

 あの方達にとって私達など大した存在では無い、庭園の関係者に手を出したとなれば簡単に消されてしまうだろう。 

 

 どんな時でもあの方達の事には最大の注意を払うべきだ。

 

 もし違えば、その時に処理すればいい。

 

 私が今の地位にいるのはあの方達の力添えがあったからなのだ。

 

 見捨てられるだけならともかく、怒りを買えば……その時点でお終いだ。

 

 幸い顔は分かっているし、あの美貌だ……探せばすぐに見つかるだろう。

 

 私は部下に彼女を探し出し、丁重に招待するように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 それから数日、予想通り彼女はすぐに見つかった。

 

 そして現在……私は部下を下がらせ彼女と二人きりで対面している。

 

 「始めまして。私はアンドレア・ペレス……ガロアカルテルのボスよ」

 

 「丁寧にありがとう。私はクレリア・アーティアと言う」

 

 私はその名を聞いた瞬間、関係者だと分かった。

 

 アーティア姓は庭園の方の物だ、あの方がそれ以外には存在しないと言っていた。

 

 私は自分の判断が正しかった事を確信し、頭を下げる。

 

 「庭園の関係者の方ですね、どうか御無礼をお許しください」

 

 「お前は月の庭園を知っているのか」

 

 間違いない……!

 

 私は庭園としか言っていない、にもかかわらず正しい名前を知っている。

 

 その時、部屋がノックされた。

 

 「来客中だ!後にしろ!」

 

 私はいら立ちを抑えながら言う。

 

 「ボス……あの方です」

 

 庭園の方が来た!?……何故!?予定は今日ではない筈!?

 

 私は思わずクレリアと名乗った少女を横目で見る。

 

 「入って貰いなさい」

 

 このクレリアという少女も関係者である事は間違いない。

 

 ならば会わせても問題無いはずだ……。

 

 「アンドレア、急だけど確認したい事があるの」

 

 そう言いながら、あの方……マギ様が現れる。

 

 「……あ、主様!?」

 

 衝撃の映像だった。

 

 あの方が……マギ様がクレリアと名乗った少女に跪いた。

 

 「主様」マギ様はそう言った……つまり彼女は……。

 

 「何故ここに居る?」

 

 クレリア様がマギ様に尋ねた。

 

 「この組織は私達の資金提供元の一つです」

 

 「そうか。私はもう行く、後は任せた」

 

 「かしこまりました」

 

 マギ様が答えると、クレリア様は突然消えた。

 

 クレリア様が姿を消すと、マギ様がゆっくりと立ち上がる。

 

 「座りなさい」

 

 「はい」

 

 私はマギ様の言葉に従いソファに座った。

 

 「貴女が主様と知り合いだとは思わなかったわ、いつ知り合ったの?」

 

 ……いつもよりマギ様の雰囲気が柔らかい気がする。

 

 この方達に嘘など通用しない……私は会う事になった経緯を正直に話した。

 

 「……なるほど」

 

 私は内心で死を覚悟していたが、マギ様は特に怒っているように見えない。

 

 「……お怒りにならないのですか?」

 

 「手を出した人間には怒っているわよ?でも、もう主様が処分したようだし……殺された者達の独断なのでしょう?」

 

 「勿論です」

 

 私は即答する。

 

 「配下が勝手に動く苦労は私も知っているわ。それに……主様が何もせず帰ったという事が、貴女に問題が無い何よりの証拠ですから」

 

 「その……主様と言う事は……」

 

 恐る恐る尋ねる私に、マギ様が答える。

 

 「貴女の予想通り、あの方が月の庭園の支配者よ」

 

 その時、私は今回の判断が人生において最高の物だったと確信した。

 

 「主様に会える人間はそう多くないわ、光栄に思いなさい」

 

 そう言ってマギ様は微笑む……やっぱりこの方も美しいな。

 

 「恐ろしいほどに美しい少女でしたが……」 

 

 「勿論人間では無いわよ?人類の想像を超えた存在、いえ……私達の想像も超えていますね」

 

 マギ様がそこまで言うクレリア様……あの少女の様な体に一体どんな力があるのだろう?

 

 「そうだ。主様が居たから後回しにしたけど、確認したい事があるのよ」

 

 「何でしょうか?」

 

 私は勝った……!破滅を回避した!

 

 内心の歓喜を隠したまま私は気を引き締め、マギ様との会話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 カミラに念話で聞いた所、ガロアカルテルはそれなりに大きい麻薬カルテルらしい。

 

 他にも複数の薬屋と繋がりを持ち、資金源にしているそうだ。

 

 私は娘達の活動には関わっていないが、多少は知っておいた方がいいのだろうか。

 

 今回、彼女に対して何かするつもりは無かったが、今までに娘達の組織を消していた事もあったかも知れない。

 

 娘達はいつも私を優先してくれるので問題は無いと思う。

 

 だが、私が許せる範囲であれば娘達の都合に合わせても構わない、とも思っている。

 

 私は食事をしつつカミラと念話し、そんな事を考えていた。

 

 『カミラ、他にも聞きたい事がある』

 

 『何?』

 

 私は今までの行動で何か問題は無かったかを聞いた。

 

 『無くなっても問題無い組織だから問題無いわ、本当に必要なら事前にお母様に潰さないようにお願いするし。それに……お母様が消すと判断したのならその判断に従うわよ?』

 

 どうやら本当に大した事では無い様だな。

 

 それに今までそんな事は一度も頼まれた事が無い。

 

 つまり、どこが無くなっても問題無いという事か。

 

 『そうか』

 

 『ええ』

 

 『問題が無いのならそれで良い』

 

 『よかった、まだ何かある?』

 

 『今の所は無い』

 

 『そう、じゃあまた何かあったら連絡してね?』

 

 『分かった』

 

 私は返事をして念話を切り、食事に集中した。

 

 

 


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