カミラや四姉妹、侍女隊の皆に出番を作りたいですね.
出来ればの話ですが。
私は娘達との時間も大切にしながら、特に問題無く日々を過ごしていた。
そんな2012年の夏のある日、珍しく一人で千穂が家にやって来た。
しかし、どこか元気が無い様に見える。
「千穂、何かあったか?」
正面に座る千穂に問いかける。
「え?何も無いよ?」
嘘だな。
読み取るまでも無く分かる。
「話せる事ならば話してみろ、聞くだけは聞くぞ」
「クレリアちゃんには隠せないかぁ……」
千穂は苦笑いして言うと、話し始めた。
「実は……良平の仕事が忙しくてずっとすれ違ってて……」
「それほど忙しい物なのか?」
「うん……家でも全然二人の時間が無いんだ……」
だから元気が無いのか。
「子供も欲しいし、一緒に居る時間も欲しいけどこのままじゃ……頑張ってる良平に無理も言えないし……」
「時間に余裕が持てる仕事に変える気は無いのか?」
「そう思ってても忙しすぎて探す事も出来ないし……それに、絶対に次が見つかるとは限らないでしょ?だから思いきれないというか……」
「本人は出来るなら変えたいと思っているのか?」
「……多分」
確か良平は中々に優秀だったな。
「千穂、ちょっと考えさせてくれ」
「え?うん」
私は千穂に断ってからカミラに念話する。
『カミラ、今平気か?』
『大丈夫よ、どうしたの?』
『良平の事は知っているな?』
『ええ、千穂ちゃんの旦那さんよね』
『千穂との時間が全く取れないから転職したいらしい。彼の性格と能力は大体把握しているだろう?』
『お母様の友人は全員調べているから分かっているわよ。彼なら……月下グループの運営している大学の事務員はどうかしら?』
カミラは少し考えた後に言う。
事務員か、良いかも知れない。
『事務員に空きがあるのか?』
『埋まってるわよ?でも、増員する予定だからそこに入って貰おうかと思って。良平くんの性格と能力なら合ってると思うわ』
『いつからになる?』
『もしその気があるなら2013年の春からになるわね』
ふむ……それなら問題無さそうだな。
『分かった、話をしてみる。良平が引き受けた場合は任せていいか?』
『いいわよ、もし来てくれるなら一人探す手間が省けるもの。詳しい話を聞きたいなら人を送るわ』
『分かった』
カミラの言葉に返事を返し、念話を切る。
「千穂、カミラと話し合ったのだが……」
「あ、念話してたんだね」
すっかり慣れた千穂が言う。
「月下グループの運営している大学の事務員が増員されるらしくてな、その気があるのなら雇う用意があるぞ?」
「え?でも……」
「説明を聞いてから断っても構わない。本人に聞いてみてくれ」
「うん、聞いてみる……でもなんか……んー」
千穂は何か考えている様だ。
「何か問題でもあるのか?」
「縁故採用って事なのかなって……」
「千穂、私達は使えると判断したから誘っている。友人関係はあまり関係無い」
私がそう答えると、千穂はきょとんとした表情をした後に苦笑いを浮かべて言う。
「……少しは関係するんだ?」
「長い付き合いの中で、能力と性格を把握している友人の方が色々と決めやすいのは当然だろう」
「ありがと、クレリアちゃん」
「こちらとしても一人探す手間が省ける」
「私達はどうすればいいのかな?」
「説明のために人を送る。受けるかどうかはその後に聞く事になるな」
「うん、分かった」
千穂から良平の仕事の事を聞いてから一か月が経ったある日、千穂と良平が揃って私の家を訪れた。
「クレリアちゃんありがとう。僕は決めたよ」
良平はカミラが送った人員から詳しい話を聞き、転職を決めたと話した。
今の仕事は引継ぎを終えた後、退職するという。
そして来年の春まで千穂の代わりに家事などをこなしつつ改めて勉強しなおし、大学の事務員として働く事にしたようだ。
「お前のおかげでカミラは一人分探す手間が省けたと言っていた。感謝の気持ちがあるのなら力を発揮してくれ」
「頑張らせて貰うよ」
「後、千穂と子供の事もしっかり考えるように」
私がそう言うと、良平は勢いよく千穂を見た。
「クレリアちゃん、何で言うの……」
千穂は顔を赤くしたまま文句を言って来る。
「話してなかったのか?」
私がそう言うと良平が千穂に話しかける。
「千穂……子供が……?」
この言い方は紛らわしかったか?良平が勘違いしてしまった。
「違う違う!まだ出来てないよ!ただ……欲しいのに良平が忙しくて作りたいって言えなくて……」
そう答える千穂を抱きしめる良平。
「ごめん……」
「いいよ、これからは平気でしょ?」
「うん……約束するよ」
私はそんな二人を見ながら牛乳を飲んでいた。
友人が幸せなのは良い事だ。
私はクレリアちゃんの家の車で駅まで送って貰う事になった。
運転手は侍女の一人で、リンさんというらしい。
私達は移動中にリンさんと話をしていたが、その中でクレリアちゃんの話題になった。
「クレリアちゃんは色々と僕達を助けてくれて……恩も返せない程にあるんです。今回の事だってそうです」
夫である良平が真剣な顔で話す、私も良平に続いて言った。
「美琴を助けてくれて……私達全員の人生を良い方向へと向けてくれたのに、私達は何も返せていないんです。……リンさんはどうしたらクレリアちゃんが喜ぶか分かりませんか?」
するとリンさんが言う。
「皆さんが今と変わらず主様と友人で居る事が何よりの恩返しだと思います」
「そうなんですか……?」
良平がそう答えると、リンさんが話し出した。
「主様の持つお金やお力があれば、どの様な状況であっても簡単にひっくり返す事が可能です。……友人であった者達がそれを知り、変わってしまった事も一度や二度ではありません。突然媚びへつらうようになり甘い汁を吸おうとする者や、私達を手に入れようとする者……私達が救った者が主様の大切な者の命を奪おうとする事もありました」
……信じられない。
救われておきながら恩人の大切な人の命を奪おうとするなんて……。
私は人の醜さを感じて黙ってしまった、良平も何も言えずに顔をしかめている。
「主様は手を出して来た者は処分し、それ以外の者達からは記憶を消し関わりを断ちました……主様と私達にとって、それはもう友人とは言えませんでしたから」
「処分」という言葉に心がざわつく。
それはつまり……そういう事だよね……?
……でも、少しだけ気持ちが分かるような気がする。
私だってそんな人達を友達だなんて思わないし、何より私はクレリアちゃんの家族への思いの深さを知っている。
そんな彼女が家族の命を狙われて許す訳が無いよね……。
私だって、もし家族が殺されたら……どうなるか分からないし。
考え込む私達にリンさんが言う。
「主様が皆さんを助けたのは、友人であったからです。主様の事を知っても、恐れる事も利用する事も命を狙う事も無い……変わる事無く、ただ友人で居てくれたあなた方だからこそ主様は手を差し伸べた。私は皆さんがこれからも主様の友人でいてくれる事を心から願っています」
「……勿論ですよ。本当の年齢じゃ比べ物になりませんが……僕にとって彼女は妹みたいな子ですから」
良平もそう感じてたんだ、多分美琴と太一も同じ様に考えているんだろうな。
そう思いながら、私は本心を答える。
「友人を辞める気は無いですよ。私にとってクレリアちゃんは頼りになる姉であり……放っておけない妹ですから」
良平と私が微笑んで答えると、リンさんは穏やかな声で一言「ありがとうございます」と言った。
主人公に対して最後まで友人で居る者ばかりでは無いです。