追記
後半の一部を変更しました。
フラワープロダクション会議室で、僕はクレリア・アーティアさんの事について話をしている。
「……本当に26歳なのかね?」
「はい。免許証も確認しています」
履歴書を見た皆さんは疑問を持っているようだけど、気持ちはよく分かる……僕もかなり驚いたから。
「確かに美しい……これ程の女性は今まで見た事も無い。だが……礼儀正しくする気が無く、仕事も選ぶ……更に年末年始は仕事をしないと言うんだね?」
上司の皆さんの表情は厳しい。
……それはそうだろう。
どの業界であろうと礼儀は大事だし、変な仕事を持って来るつもりは無いが仕事を選ばれるのも困る。
更には年末年始は仕事をしないと言う。
こんな事を今まで要求して来た人はいなかったから正直困っている、困っているんだけど……。
僕はもう彼女を担当するつもりでいる、僕の中では採用は決まっている。
上の皆さんが駄目だと言うなら、何としてでも説得するつもりだ。
彼女は間違いなく成功する、僕の勘が暴れている……逃せばこれ以上の逸材はもう現れない……そう思ってしまう。
「その辺りは基本的にソロで活動させて、スタッフや共演者にはプロダクションの指示で常にキャラを保っている……という事にしようと考えています。年末年始はこちらで何とか調整します」
「もうそこまで考えているのか……上手く行くと思うか?」
別の上司がそう言って僕を見つめる。
僕は上司と目を合わせたまま、彼女と話して感じた事を話す事にした。
「これは話してみて感じた事ですが……確かに彼女は礼儀が無く、誰に対しても本当に態度を変えないと思います。しかし、特に高圧的な訳ではありませんし、何というか……それが自然な事であるようにあまり気にならないんです。僕も最初から敬語など使われませんでしたが、気にせずに会話をしていました」
そう、子供だと思って話していた時も……彼女の話し方は変わっていなかった。
だけど何故か気にならなかったのだ。
「……なるほど」
「何より彼女を見た時、今までとは全く違う感覚を感じました……しばらく呼吸が止まる程に」
これから先あの感覚を感じる事はきっと無いだろうな……。
「それ程か……」
「篠原くんの例のアレか……最初は疑っていたが、今では私達もその感覚を信じているよ」
「ありがとうございます。……どうか彼女の要求を認めていただけませんか?出来るだけの事はします、僕はどうしても彼女を育ててみたいんです」
僕は一度頭を下げた後、顔を上げて上司達を見つめる。
「……君がそこまで言うのなら認めよう」
上司は長い沈黙の後、そう言った。
「ありがとうございます!」
僕は彼女とトップアイドルを目指せる喜びをかみしめながら礼を言った。
「ただし!目に余る問題を起こし改善しない場合は当然解雇するし、君にも責任を取ってもらう……それでもいいか?」
「はい。覚悟の上です」
僕ははっきりとそう答えた、きっと彼女は大丈夫だ。
「……そうか。では彼女の提案を受け入れ、フラワープロダクションに所属させる事を認めよう」
「ありがとうございます!」
会議室を出た僕はすぐにスマートフォンを取り出した。
早速彼女に連絡をして時間を取って貰い、現在の彼女の実力を確かめなければ。
私の出した条件が許可された、という連絡が来た。
無理だと思っていたが、プロダクション側は私に大分期待している様だな。
ついでに次の予定も聞いた、今の実力を見るためにプロダクションに来て欲しいらしい。
時間がある日を聞かれたが、いつであっても大抵は問題無いと答えた。
連絡を終えた後、娘達にはフラワープロダクションでアイドルになる事を伝えた。
娘達の意見は様々で、私なら簡単にトップアイドルになれると言う者もいれば、私と人類の感覚の違いで何か起きそうだと考える者もいた。
それから娘達は年末年始はどうなるのかと尋ねて来たが、私が年末年始は仕事はしない事を話すと全員安心した様に微笑んでいたな。
娘達は何かあったら協力すると言ってくれた。
それを聞いた私は娘達に礼を言い、しばらく共に時を過ごした。
現在、私はフラワープロダクションに前に居る。
車を降りてプロダクションに入り、受付でダンススタジオの場所を聞く。
途中ですれ違う者達が私を見て来るが、いつもの事だ。
扉をノックし、返事を待つ。
「どうぞ」
私がダンススタジオに入ると、そこには一人の女性がいた。
「……あなたがクレリア・アーティアさん?」
何やら驚いているな。
「そうだ」
「始めまして、ダンスインストラクターの畑野 麗香(はたの れいか)よ。これから少し動いて貰って貴女の実力を見るから」
ダンスか……やり方さえ覚えれば苦労は無さそうだが、やってみないと何とも言えないな。
「よろしく頼む」
「それで、事前に伝えておいた物は持って来た?」
「Tシャツとジャージ、ダンスシューズ、タオルと飲み物だったな?持って来たぞ」
軽く持ち上げた鞄を見て麗香は頷く。
「向こうに更衣室があるから着替えて来て、急いでね」
「分かった」
更衣室に向かい手早く着替え、鞄を隅に置いてから麗香のもとに向かう。
「じゃあ、簡単な物からやって見ましょうか。私が手本を見せるから、まずは真似してみて?アドバイスはするから出来るだけやってみて頂戴」
「やってみよう、手本を見せてくれ」
私が答えると、鏡になっている壁の前で麗香が簡単な短いステップを見せてくれる。
麗香に促され、私はそれを真似してみる……特に問題無いな。
「初めてにしてはいいわね、どこまで出来るか少しずつやって行くわよ」
「分かった」
「はあ……はあ……嘘でしょ……?」
私の目の前ではクレリアさんが激しく踊っている。
始めてから少しずつ難易度を上げて行ったけれど彼女はそれを苦も無くこなし続け、今は私の全力のダンスまでこなしている。
私と同等……いえ、しっかり評価しないと。
……悔しいけれど私よりも遥かに動きが良い。
文句のつけ所が見当たらないわ……。
それに全く疲れも見えない……何なの彼女は……?
プロデューサーから実力を見て欲しいと頼まれて来たけれど……普通じゃないわ。
「はい!そこまで!」
私は内心を押し殺してダンスを止め、彼女に尋ねた。
「クレリアさんはダンスを小さい頃からやっていたの?何処かで活動していた事は?」
彼女の本当の年齢はプロデューサーから聞いている、これだけの力があるのなら幼い頃から何かやっていたに違いない。
「ダンスは今日が初めてだな、活動していた事は無い」
「……嘘つかないで頂戴。あれだけ出来て初めてな訳が無いでしょう?何で嘘をつくの?」
「嘘はついていない。信じられないなら信じなくてもいいが、調べれば分かる事だろう。こんな事で嘘をついてどうするんだ?」
……確かにそんな嘘をついても意味なんて無いわね。
それに彼女程の実力者がどこかで活動していれば間違いなく話題に上がるはず……でも、そんな話は聞いた事が無い。
本当に初めてなの……?正直ダンスの技術もスタミナも十分……いえ、十分を通り越して異常だわ。
彼女の実力に軽い畏怖を感じながらも、私は彼女の限界がどこにあるのかが気になっていた。
「大分踊ったけれど、クレリアさんの限界はどこにあるの?」
私がそう言うと彼女がスポーツドリンクを手に取りながら言った。
「何処にあるのだろうな」
平然と答える彼女。
私は彼女のその言葉に何も返す事が出来なかった。
彼女は恐らく……本当に分かっていない、それはつまり……。
「一つ……聞いても良いかしら?」
「何だ?」
「今迄……限界を感じた事はある?」
「無い」
その言葉を聞いた時、世界には常人では理解出来ない才能と力を持った者が居るのだと悟った。
こんな人間が……本当に居るのね。
冷静にそんな事を考えながらも、私の体は熱くなっていく。
真の才能と力をこの目で見る事が出来た事、その存在が新人としてフラワープロダクションに来た事を嬉しく感じている。
プロデューサーにすぐに今回の事を報告しないと……。
私はそう考えながらレッスンを終えた。
私はプロダクション内を次の目的地へと移動しながら考える。
麗香は間違いなく私がおかしいと思っているだろうが、恐らく凄い人材で納得して収まるだろうと考えている。
あまりやりすぎると不信感を持たれると思うが、あの程度ならば問題無い様だ。
この後は発声だ。
ダンスの時間が少し長引いたが、予定の時間には間に合った。
扉をノックすると返事があり、私はリハーサルスタジオへと入った。
「初めまして、私はボイストレーナーをしている花川 桜(はなかわ さくら)と言います。あなたがクレリア・アーティアさんね?」
黒い髪を三つ編みにした、太めのふんわりとした雰囲気の女性が私を迎えてくれた。
「そうだ」
「聞いていた通りの見た目だから一目でわかったわ、可愛らしいわね……本当に26歳なの?」
「本当だ、その辺りは京介も確認している」
「凄いわねぇ。……さて、プロデューサーさんに聞いてると思うけれど、今日は現在のあなたの実力を確認しますね?」
「よろしく頼む」
「よろしくね。じゃあ、ピアノの音と同じ高さで声を出してみてくださいね」
「分かった」
同じ高さの音を口から出せばいいだけか、問題無さそうだ。
「じゃあ順番に行くわよ?……この音」
私はピアノの音に合わせて声を出してみる。
「……次」
ピアノの音に合わせて声を出していく。
「良いわね」
ピアノを弾いていたからか、こういった事はそれなりに分かるな。
しばらく指示通りに声を出した後、そのまま帰って良いと言われたので待機させておいた迎えを呼び出して帰った。
クレリアさんが退室した後、私は彼女の実力に興奮していた。
「声質も素晴らしい……!でも、それよりも注目するべき所があるわ!」
それは彼女の音域。
彼女は人の可聴域全ての音が出せていた。
つまり、10から11オクターブの声域を持つ事になる。
生理的には可能であるという話は聞いた事があるけれど……本当にいるなんて!
平然と低音から高音まで出したから驚いたわ。
それに全く音が外れない……ピアノを弾けると言っていたけど、その影響かしら。
素質はこれ以上無い、と言える程ある。
トレーニングでどこまで行くのか……期待が膨らむわね。
作者はアイドルについて詳しくありません。
アイドルが何をしているか分からないのでここからの内容は想像で出来ています。
この作品の、この世界ではアイドルはこんな感じ、という事でお願いします。