少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 実際にここまで突然人気が出る事はあるのでしょうか。

 人外の魅力、と言う事でお願いします。

 改めて書き溜めたアイドル編を読み返すと、もう少し色々と書く事が出来たのではないか、と思いますね。





077-07

 

 私がデビューしてから約一か月が過ぎた。

 

 10月になり、季節は夏から秋に変わりつつある。

 

 アイドルとしての私の人気は悪くない様だ、京介からは今までに無い素晴らしいスタートだと聞いている。

 

 事前の宣伝効果があったのか、デビュー曲が発売された当日に店頭に用意していた分はあっという間に売り切れたらしい。

 

 そして買えなかった者達が騒ぎを起こし、それがニュースに取り上げられた事で更に知名度が上がる事になった、と関係者が言っていた。

 

 予想外の出来事で想定よりも知名度が上がる事になったが、そのおかげで発売から今まで日本の音楽ランキングで一位を取り続けている。

 

 この結果に、関係各所は大喜びしているようだ。

 

 デビューして一か月でそれなりの知名度を持つ事になった私は、自分が人類にこれほど受け入れられるとは思っていなかったため内心では少々驚いている。

 

 ファンが私の事を人間だと思っているからこその反応だとは思うが……千穂は「当然の結果!」と胸を張っていたな。

 

 現在、私は当選したファンとの握手会の準備中だ。

 

 スタイリストのされるがままになり、色々と整えて貰っている。

 

 私は今日一日で一部千人のファンとの握手を、休憩を挟みながら十回行う。

 

 つまり、合計一万人と握手をする事になる訳だな。

 

 京介の話によると、実際は一万人の制限をかなり超える応募があり、会場でも当選しなかった客との問題が少々あったと言う。

 

 握手の為になぜそこまでするのか私には理解出来ないが……きっと彼らには大きな意味がある事なのだろう。

 

 私は握手会の話をされた時、今後のサイン会の為にサインを作っておいて欲しい、とも言われていた。

 

 今回の握手会でサインをする予定は無いが、既に崩した日本語表記の私の名前に極簡単な魔法回路を組み込んだサインを作っている。

 

 勿論、このサインは実際に効果を発揮する。

 

 魔力を持つ者が魔力を通せば文字が輝くように作ったが、いつか輝く日が来るのだろうか。

 

 「……プロデューサーさん。やっぱりメイクはしない方が良いと思います」

 

 色々と考えながらされるがままになっていると、私の隣にいるメイク担当の女性が京介に話しかけていた。

 

 「そうですか……わざわざ来ていただいたのに申し訳ありません」

 

 「いえ、それは構わないのですけど……凄いですね彼女。本当に26歳なのかと疑います、今までこんな美少女見た事無いですよ。何より……すっぴんがメイク後を上回っているなんて……初めての経験です」

 

 彼女はそう言いながら私のメイクを落としていく。

 

 「彼女はメイクでこれ以上美しくするのは無理だと思います。出来るとしたら雰囲気を少し変える事くらいでしょうか、ワイルドにしたり、優しそうにしたり……」

 

 「なるほど……。今回はこのまま行く事にしますが、その時はまた力を貸していただいてもよろしいでしょうか?」

 

 京介は彼女の話を聞いて、納得した顔をしながら答えている。

 

 「もちろんです。クレリアさんような方は興味深いですから」

 

 特に化粧に対して興味が無い私は、黙って二人の会話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 やがて予定の時刻になり、握手会が始まった。

 

 「これからも応援しています!」

 

 「ありがとう」

 

 「あ、あの……大好きです!」

 

 「好意を向けられるのは嫌いでは無い」

 

 「……惚れました」

 

 「そうか」

 

 「クレリアさん!貴女を愛しています!結婚してください!」

 

 「断る」

 

 こうしてファン達からかけられる言葉に答えて行き、ひたすら数を消化していく。

 

 向けられる感情は、男の場合は多くが恋愛感情や欲望などだった。

 

 中には殺意を持った者も居たが、思うだけなら好きにすると良い。

 

 女の場合は好意や憧れが多かったが、中には嫉妬や恋愛感情を持つ者達も居た。

 

 そしてこちらにも殺意を持つ者が居たが、手を出してこないのなら特に思う所は無い。

 

 人数は居ても、向けられる感情やかけられる言葉に大差は無かった。

 

 悪意を持っている者達も口では応援をしていたな。

 

 恐らく、あの場で正直に内心を言ってしまえばどうなるか、大体想像がついていたのだろう。

 

 ファンと、一部のファンとは言えないような者達との握手会は周囲の協力もあり、特に大きく荒れる事無く終了した。

 

 

 

 

 

 

 握手会を終えてからしばらく過ぎたある日、私は京介からフラワープロダクションに来て欲しいと連絡を受けた。

 

 プロダクションに到着し複数ある会議室の一つに入ると、京介と見覚えのないスーツ姿の女性が居た。

 

 「待ってたよ、座って」

 

 席を促された私は二人の正面へと座る。

 

 「紹介するよ、彼女は高野綾子(たかの あやこ)さん。これからクレリアさんのマネージャーを務める事になった」

 

 「高野綾子です。これからクレリアさんのマネージャーとして頑張らせていただきます」

 

 彼女は立ち上がって一度頭を下げ、私をしっかり見ながら言う。穏やかそうな印象を受ける女性だな。

 

 「クレリアだ、これからよろしく」

 

 挨拶を終えた彼女が座りなおすと、京介が話を始めた。

 

 「これから行動を共にする事が多いだろうから仲良くして欲しいかな。高野さんはクレリアさんの一つ下で、年も近いから話しも合うと思う」

 

 「京介、彼女には何を話してある?」

 

 私は京介に確認する。

 

 「クレリアさんの所属条件の話はしてあるよ」

 

 なるほど、私が月下グループの関係者だという事は言っていないのか。

 

 「そうか、苦労を掛けていると思うが取り消す気は無いからな。上手くやってくれ」

 

 「条件を飲んだのはこちらだからね、任せてくれ。でも、わざわざ敵を作るような事はしないでくれよ?」

 

 京介が釘を刺すように言って来る。

 

 「少なくとも私からそういった事をする気は無いが……相手がどう捉え、何をしてくるかによるな」

 

 「何だか不安だな……まあ、問題が起きない様に高野さんをマネージャーにした訳だしね。高野さん、これから彼女をよろしくお願いします。もし何かあれば、すぐ僕に連絡を下さい」

 

 「分かりました」

 

 「よし……クレリアさん、後は綾子さんに話を聞いて。僕は別件に出ないといけないんだ、また後でね」

 

 彼女の返事を聞いた京介はそう言って部屋を出て行き、部屋の中には私と綾子だけが残った。

 

 「クレリアさん、改めてよろしくお願いしますね」

 

 綾子は微笑んで言う。

 

 彼女は私に対して特に悪意は持っていない様だ。

 

 「よろしく頼む。所で、早速頼みがあるのだが聞いてくれるか?」

 

 「はい、何ですか?」

 

 「敬語はやめてくれ。名前も呼び捨てで構わない」

 

 「それは……分かりました。……クレリアがその方が良いというのならそうするわね?」

 

 良いな、私の頼みにすぐに対応した。

 

 そういえば京介も対応は早かったな。

 

 大抵の場合は戸惑い、こうはいかないのだが……業界関係者だから、だろうか。

 

 「何かあれば何時でも遠慮なく言ってくれ、聞くだけは聞くぞ」

 

 「それはこれから追々話す事にするわ」

 

 私の言葉に、苦笑いしながら彼女は言う。

 

 「そうか。これで今日の話は終わりか?」

 

 「いえ、まだあるわ。これからのスケジュールについての話をするわね」

 

 「分かった、頼む」

 

 綾子からこれからの仕事についての話が行われる。

 

 彼女の話によると、この一か月で急激に知名度が増したせいかそれなりに仕事が入っているという。

 

 「一応こっちでも仕事は選ぶようにするけど、駄目な時は出来るだけ早く言ってね?」

 

 ある程度仕事の話をした後、綾子が確認するように言った。

 

 「そうしよう。ただ、今の所は特に断るような仕事は無いな。他のアイドルの事は知らないが、これらはよくある仕事なのだろう?」

 

 「そうね。よくある仕事だから、特に問題は無いと思うわ」

 

 「問題のある仕事とはどのような物だ?」

 

 「問題と言うか……貴女のイメージや能力に極端に合わないような仕事の事ね。例えば……クレリアは笑いを誘うのは無理よね?」

 

 「なるほど」

 

 それは私が出たら失敗しそうだ。

 

 しかし、念の為に私の所まで持って来なかった仕事も簡単な一覧表などで見せて貰おうか。

 

 彼女達が駄目だと感じても、私がやってみたいと思う物があるかもしれない。

 

 「取り敢えず10月は数回のサイン会と複数の雑誌の取材、11月にはいくつかの歌番組への出演があるわ。まだ慣れていないだろうから今年はこの程度に抑えたけど……恐らく来年は急に忙しくなると思うわ。覚悟しておいてね?」

 

 「私は平気だ。むしろお前達の体調の方が問題だと思う」

 

 不眠不休で活動出来る私に、人の身でついて来られるとは思えないからな。

 

 「私は平気よ。それより……貴女の肉体的、精神的な負担を減らすのも私の仕事だから。辛い時は無理しないでしっかり話してね?」

 

 この先、私の体と精神に負担がかかる様な事があるだろうか。

 

 勿論、やってみなければ分からない、分からないが……恐らくこの先、肉体的、精神手な事について相談をする事は無いのだろうな、と思いつつ、彼女に返事を返す。

 

 「分かった。お前も体調に影響が出ない様にしろよ?」

 

 「ふふっ、ありがとう」

 

 彼女は微笑みを浮かべながら礼を言う。

 

 こうして、彼女は私のマネージャーとして活動する事になった。

 

 

 


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