少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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078-03

 

 今回も娘達と共に年を越し、2014年を迎えた。

 

 現在私は初詣を終え、千穂、美琴夫婦と共に私の家で新年会の様な事をしている。

 

 酒は無しなので食事会の方が近いかも知れない。

 

 「クレリアちゃんは凄く人気出たよね、私には分かってたけど!」

 

 皆は色々と話していたが、話題が私のアイドル活動の事へと移った。

 

 千穂は変わらず保育士として働いている、優しく子供思いだと信頼されている様だ。

 

 そんな彼女はそろそろ子を作ろうという話になっているらしく、妊娠後は退職し専業主婦になる予定らしい。

 

 「そうね、テレビとかでもよく見るようになったし……曲も全部買って聞いてるわよ」

 

 美琴は小学校教諭として今も働いている、厳しくも優しい先生として生徒に慕われているようだ。

 

 彼女もそろそろ子を作ろうと考えている様で、千穂と同じく妊娠後は専業主婦になる予定らしい。

 

 「本当にクレリアちゃんは歌もダンスも凄いよね」

 

 良平は雑誌編集者から月下グループが運営する大学の事務員に転職し、千穂との時間を取り戻した。

 

 仕事にも慣れ収入も悪くない額を得ているので、子を作りたいという千穂の願いに答える事にしたようだ。

 

 「クレリアちゃんが芸能界に入ったから一緒に仕事する事もあるかと思ってたのに……まだ無いんだよなぁ……」

 

 太一は俳優として一定の人気を得ている。

 

 収入的にも全く問題無いため、美琴に子を作り専業主婦になってくれないかと相談し、美琴が了承したそうだ。

 

 彼はどんなに仕事が忙しくても私と会う機会には必ず参加する。

 

 愛する妻を救ってくれた事と、それによって皆の関係の崩壊を防いでくれた恩は一生忘れる事は無いそうだ。

 

 他の三人も色々と恩を感じている様で、太一と同じく定期的に私に会いに来る。

 

 「ドラマなどの事を言っているなら私が演じる気が無いから難しいぞ。演じる事無くそのままでいいのなら出ても構わないが」

 

 「この先も無理かもなぁ……」

 

 がっかりしている太一に、良平が声をかける。

 

 「非日常的なドラマとか映画ならもしかするかもね。後は作品内で「アイドルのクレリア」として出演するとか……」

 

 「アイドルのクレリアとしてならありそうだな」

 

 そんな事を話している良平と太一に千穂が割り込んでくる。

 

 「クレリアちゃんはまだまだ人気が出るだろうし、出て貰うための作品が作られたりするかもよ?後は色んな所とコラボしたり!」

 

 「今までもそういった事はあるし……むしろ人気のあるクレリアちゃんならコラボ企画は沢山来そうよね」

 

 美琴も千穂の言葉に乗ってくる。

 

 「私が断らなければ、この先そういった事もあるかもしれないな」

 

 「絶対ある!」

 

 千穂は胸を張って言い切った。

 

 「そうだ、クレリアちゃんに歌の事で言っておきたい事があるんだった」

 

 太一が私の方を向く。

 

 「どうした?」

 

 私が答えると彼は言う。

 

 「クレリアちゃん歌ってる時ブレス入れて無いでしょ」

 

 「ブレス?」

 

 「息継ぎだよ。クレリアちゃんは呼吸が必要無いからな……普段は呼吸しなくても気にする奴は居ないかも知れないけど、いつかおかしいと思われるかも知れないぜ?」

 

 なるほど、そう言えば呼吸音が入っている歌もあるな。

 

 「息継ぎか……忘れていたな、次からは息継ぎを入れてみるか」

 

 「既に二曲歌ってるから、全くブレスが無い事に気が付かれてるかもしれないけどな」

 

 太一がそう指摘するが、特に問題は無いだろう。

 

 「大丈夫だ。出している二曲の息継ぎに気が付かれても、色々と手段はあるからな」

 

 「こういう言葉を聞くと、改めてクレリアちゃんがファンタジー世界の存在だと感じるわね……」

 

 私と太一の会話を聞いていた美琴が苦笑いしながら呟く。

 

 「美琴、人類は様々な事をファンタジー扱いしているが、全てが空想上の存在では無いぞ」

 

 「……問題無いなら聞かせて欲しいんだけど」

 

 美琴は私の話に興味を抱いたようだ。

 

 「何々?私も聞きたい!」

 

 「何かあったの?」

 

 そこに千穂と良平も混じって来た。

 

 「クレリアちゃんが、人類がファンタジー扱いしている事全部が空想上の存在では無いって言うのよ」

 

 「本当の事があるの!?」

 

 「クレリアちゃんがいるし、そんな事もあるのかなって僕も想像した事はあるから……聞いてみたい、ワクワクするよ」

 

 「俺も是非聞いてみたいね。クレリアちゃんが話してもいいなら、だけどな」

 

 美琴の言葉に反応し三人も興味を持った様だ。

 

 「話すのは構わないが、誰にも……いや、誰に話しても問題無い。本気にされないだろう」

 

 「だろうなぁ……」

 

 そう言った私に太一が同意する、他の三人も同意見らしく頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 聞くならしっかりと聞きたいという事で、私達はまず新年会を終えた。

 

 その後、飲み物が用意されたテーブルを挟んで、片側のソファには私、反対側のソファには四人が座る。

 

 「さて、まずは何から話そうか……」

 

 「はい!魔法を見たいです!」

 

 私が何から話そうかと考えていると、千穂から魔法が見たいと言われた。

 

 「魔法は見せていなかったか?」

 

 「時間を止めたのは見たけど……魔法としては何か違うかなって思って」

 

 千穂はそう言う。

 

 時間の操作の方が千穂が想像していると思われるゲームの様な魔法より高度なのだが、彼女には分からないからな。

 

 もっと一目でわかる様な分かりやすい物が見たいのだろう。

 

 それなら始めて魔法に触れる者に見せている簡単な魔法らしい魔法を見せよう。

 

 私は人差し指を立て、四人の前に差し出す。

 

 「この指先の辺りを見ていろ」

 

 そう言うと四人は私の指先をじっと見る。

 

 「あっ!?」

 

 千穂の驚く声を聴きながら、指先に水球を作り大きくしていく。

 

 「すっげぇ……」

 

 「これは……凄いとしか言えないね……」

 

 「これ……本物の水なの?」

 

 かなり驚いている事が分かる。

 

 今の人類には無い力と技術だからな。

 

 「本物の水だ。今で言うとミネラルウォーターの様な物だ」

 

 「これ……触っても平気?」

 

 千穂が身を乗り出して見ながら恐る恐る聞いてくる。

 

 「平気だ、そのまま口を付けて飲んでも問題無いぞ」

 

 「飲む……。い……行きます」

 

 千穂は恐る恐る水球へ口を近付け、水を飲む。

 

 「ぷはっ……なにこれ!?冷たくて凄く美味しい!」

 

 そう言って騒ぐ千穂、それを見た美琴が手を上げる。

 

 「わ、私も飲んでみたい」

 

 「良いぞ」

 

 私は水球を指先から美琴の目の前へと移動させた。

 

 「きゃあ!?」

 

 美琴は驚いて叫び声を上げる。

 

 「そこまで驚くとは思わなかった」

 

 「ちょっとクレリアちゃん!?やめてよね!」

 

 私の言葉に怒る美琴。

 

 「動かす事も出来るのか!」

 

 嬉しそうな声を上げる良平。

 

 「当然だ、技術があれば色々と出来る。美琴、もう動かさないから飲んでみろ」

 

 「もう……んっ……」

 

 美琴は目の前の水球に口を付けて水を飲む。

 

 「ふぅ……。これ……冷たいだけじゃなくて水自体が美味しいのね」

 

 「私の感覚なので最高とは言えないかもしれないが、それでも出来るだけ美味しく作っているからな」

 

 「という事は……純水とかも作れるの?」

 

 「やろうと思えばな」

 

 私は美琴の疑問に答える。

 

 それから太一と良平も水を飲み、確かに美味いと納得していた。

 

 全員が体験し終わると私は水球を消し、四人に話をする。

 

 「さて……お前達に見せるにあたって一番安全に体験出来る水の魔法を見せたが、魔法は扱いを間違えると非常に危険な物だ。火であれば周囲を焼き尽くし、土であれば大地を崩壊させ、風であれば様々な物を吹き飛ばし切断する。更に凍らせたり電気を起こす事も出来る」

 

 私の言葉に四人は喉を鳴らす。

 

 「創作物の中でも魔法で戦い、殺しあっているだろう?魔法は便利だが、基本的に危険な物だという事は覚えておいて欲しい」

 

 使う事が出来ず、私と会うまで実在する事を知らなかった四人に言う必要は無かったかも知れないが……危険な物であるという事だけは教えておく事にした。

 

 「……クレリアちゃんの言っている事、何となくわかる気がするわ」

 

 ふと、美琴が呟く。

 

 「そうだね。私はよくゲームをしてたからよく分かるよ……ゲームの様な魔法も出来ちゃうって事だよね?」

 

 「実際はそれ以上だな。魔法人類が使っていた魔法は今のゲームに出て来る魔法よりも危険な物が多かった」

 

 「……ん?ちょっと待って……その、魔法人類ってなんだい?」

 

 良平が不思議そうに聞いてくる。

 

 「ん?……ああ、お前達人類が生まれる前に存在していた人類だ」

 

 「はあっ!?」 

 

 私の言葉に太一が変な声を上げた、他の三人も今まで見た事の無い表情をしている。

 

 どうしたんだ?

 

 「え……?流石に冗談よね?人類より前に別の人類がいたの……?」

 

 「で、でもクレリアちゃんがわざわざそんな嘘言う訳……」

 

 「太一……どうしようか……」

 

 「どうにもならないよなぁ……」

 

 四人はかなり驚いているようだが、そこまで驚く事だろうか。

 

 それからしばらく黙り込んでいた四人だが、美琴が尋ねて来る。

 

 「……詳しく聞いても大丈夫?」

 

 「大丈夫だ」

 

 何かあった時、最初に落ち着きを取り戻すのは大体美琴だな。

 

 「千穂!ほら太一も!良平くんも聞きたくないの!?」

 

 美琴は三人に声をかける、その声で三人は気を取り直した。

 

 「聞く、ここまで聞いてやめたら後悔しそうだもん」

 

 「同感だな」

 

 「そうだね。流石に聞かないという選択は出来ないかな……」

 

 全員聞く気になった様だ。

 

 「そうか、では話そう」

 

 私は過去を語る。

 

 今の人類の起源となる生命の誕生より更に前、私が知的生命体が居ないこの星で過ごしていた事。

 

 知的生命体が生まれる事を期待して休止状態のまま約一万年を過ごし、目が覚めた時には魔法人類がいた事を話した。

 

 「何十億年前なんだよ……」

 

 太一が呆然としながら呟く。

 

 「私達も正確な時間を把握していないから分からない。今の人類の説を信じるなら、四十億年以上前の事になると思う」

 

 「え?じゃあ……クレリアちゃんは四十億歳以上って事かい?長く生きていると聞いてはいたけど……流石にこれ程だとは思って無かったかな……」

 

 良平は疲れたような表情をしている。

 

 私達は魔法人類が何年存在していたか分からないし、新しく生まれた生命がどれだけの時間をかけて人類になったかも知らない。

 

 更に言えば、あの頃の一年が現在の一年と同じであるのかも分からない訳だが……特に興味は湧かないな。

 

 

 


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