ジャンヌと信長を綾子に会わせた後も、私は順調に仕事をこなしていく。
私は歌やダンスを短期間で完成させる事が出来るので余裕があるが、本来は人気が出れば出る程スケジュールが詰まり、自由が無くなって行くらしい。
新曲のリリースは月に一曲程に落ち着き、テレビ出演も増えた。
そして、最近は海外でも人気が出始めている。
私がマルチリンガルである事が知られてから、テレビなどで様々な言語で話す機会が増えたのだが、それらがニュウチューブに投稿されているらしく、そこから海外の人気に火が付いたのではないか、京介達が話していたな。
音楽番組中心の私のテレビ出演で、京介と綾子が困る仕事の一つにドッキリ番組がある。
番組の性質上ドッキリだと言っては意味が無いのだが、私にドッキリは効かない。
誰かがいれば気が付くし、例え気配感知を遮断し突然何かが出て来たとしても、私は出てきた瞬間に対象を確認し判断してしまうので意味が無い。
私に視聴者が望むような反応は出来ないと二人も勿論知っている。
それでも出て欲しいと番組側に頼み込まれ、私も嫌な訳では無いので「望むような反応は出来ない可能性が高い」という事を伝えた上で出演した。
後日、その番組は放送されたのだが……行われたドッキリに対して完全に無反応な私に困惑する仕掛け人の芸人に、飲み物を薦める私の姿が好評だったらしい。
更に何を思ったのか、何をしても驚かない私を反応させようと言うコーナーまで作られる事になり、人気が出た。
内容は京介と綾子が問題無い事を確認させているので、顔にパイなどが飛んで来る事は無い。
私の反応が好評だったという事実を知った時の方が、驚いたという意味では上だったかも知れない。
中々良かったのは旅番組だ、他のメンバーに振られた話に受け答えしながら旅先を楽しんで終わった。
グルメリポートなどもしたが、娘達の料理を超える物は無かったな。
中には私の口に合わない事もあったが、そういった時には助言をした事もある。
あくまでも私の個人的な考えでの助言だが、後日売り上げが大幅に上がったと局に礼が届く事もあった。
それからしばらく時が経つと、ゲーム関係の仕事も動き始める。
スカイレゾナンスで歌う二曲の内、オープニング曲が完成し収録が行われた。
その際にスカイレゾナンスの音楽プロデューサーから色々と曲のイメージの要望があり、収録に多少時間が掛かる事になった。
いままでの曲も同じ様な事をしたが、あれ程細かくは無かったな。
深いこだわりがあるらしいが、そういった姿勢は嫌いでは無い。
こうしてオープニング曲は収録され、完成した。
残りは勢力曲である新曲とアレンジの収録、それからコマーシャルの撮影だな。
仕事は多くなっているが、私は基本的に京介と綾子が用意したスケジュールに沿って仕事をこなすだけだ。
会議や打ち合わせの場合は私も色々と話す事になるが、いつ会議や打ち合わせを行うかも全て二人が調整してくれている。
そう考えると、本当に忙しいのは二人の方だと思う。
倒れられても困るので、私は以前から暇を見つけては差し入れをし、時々回復魔法をかけている。
二人には休む時間を作るように言ってはいるが、あまり休めてはいない様だ。
私が色々と早く仕事をこなしてしまう為に忙しいのではないかと考えて尋ねた事もあるが、問題無いという返事が返って来た。
人類の限界がどの辺りなのかは分からないが、私が回復する前の二人はかなり疲れている様に見えた。
あのままでは近い内に倒れていたのではないだろうか。
友人や娘達との時間を大切にしつつ、様々な仕事をこなしている内に数か月が経ち、7月に入った。
現在、私は地球の自宅にやって来た娘達とくつろいでいる。
「そこにカウンターが決まったんだよ!」
「本当にヨツバは格闘技が好きですね」
ヒトハに熱く試合の事を語るヨツバ。
話を聞いているヒトハはしっかりと返事をしているが、ヒトハ自身は格闘技にあまり興味が無い。
ヒトハにとって……いや、ヒトハだけは無いな、私達には人類間の戦闘は赤子が喧嘩している様な物だ。
命を懸けて戦う者達の事を貶める気は無いが……実際には大人と赤子以上の差がある。
私達と人類の間にあるこの差は、今の所はどうにもならない。
いつか人類がその差を大きく縮める日が来るかもしれないが、それはまだ先の事だろう。
「カミラお嬢様、近い内に一緒にお料理をしませんか?」
「良いわよ、またフタバの腕を見せて貰おうかしら。何を作るつもりなの?」
ヨツバ達の横では、フタバがカミラと料理の話に花を咲かせ始めている。
すると、そんな娘達の姿を見ている私の隣でテレビに夢中になっていたミツハが声を上げる。
「あ!これ主様が出てるゲームでしょ!?」
テレビを見ると、今日から放送されているスカイレゾナンスのコマーシャルが流れていた。
ミツハの声で娘達は話を中断し、テレビを見始める。
オープニング曲がオフボーカルで流れ、ゲームのカットが次々と映されて行く。
同時に女性声優のナレーションによって世界観が説明される。
《……そして長く続く戦争は、ある歌姫と一人の青年によって変化の時を迎える》
ナレーションに合わせて各勢力の歌姫達が現れてから暗転し曲が途絶え、私の言葉が流れる。
《大切な者を守りたいのなら戦え》
そして画面に大きく「2016年7月発売予定」と文字が表示され、コマーシャルは終わった。
収録された私のあの言葉は紛れも無い本心だ。
もしもこのゲームのような状況になった場合、私は恐らく全く同じ事を言うだろう。
このゲームは発売までまだ丸1年近くあるが、それまでずっとこのコマーシャルが流れる訳ではない。
別のコマーシャルも用意すると言われているからな。
「むー、主様が殆ど出てないじゃんかー!」
ミツハが不満そうに言う。
「これは作品に興味を持って貰うための映像で、私のプロモーションビデオでは無いからな」
「知ってるけど、なんかヤダ……」
そう言って不機嫌になるミツハ。
こうして私の前で不機嫌になってくれるのは良い傾向だな、今も少しずつ娘達が変わっている証拠だ。
「ゲームでは私のルートもある、それを選べば私がメインで登場するぞ」
「これ買う!」
私の説明にミツハは購入を決めたようだ、彼女は元々ゲームを気に入っているからな。
「主様が出るから、私もやるつもりでいる」
ヨツバが真面目な表情で言う。
彼女はどちらかと言うとゲームをしない方だが、私が出ている事で興味を持っているようだ。
「ミツハちゃん、買ったら私にもやらせてくれる?」
「いいよ!一緒にやろー!」
フタバがミツハに頼むと、ミツハは楽しそうに答えた。
「私もやってみようかしら、ヒトハもどう?」
「お供いたします」
カミラとヒトハもやる気のようだ。
「ゲームが面白いかは分からないぞ?」
私がそう言うと、娘達はつまらなくても一度は最後までやると答えた。
その後、スカイレゾナンスのコマーシャルはそれなりに良い評価を受け、ゲームに対する期待も高まったようだった。
8月に入り、ファーストアルバムである「オーパーツ」が発売され、初登場でアルバムランキング1位を取った。
今では1位になった事に周囲も大して驚かず、それが当然の様な反応になっているらしいな。
そんな中、プロダクションの発案で新しい活動が始まる。
国内の知名度は十分に高まったと判断し、マルチリンガルである事を武器にリリース済みの曲を様々な言語で歌い、販売しないかと提案を受けた。
これはCDでは無く、ダウンロード販売のみになるという。
理由は「どの言語がどれだけ売れるか分からないから」という事らしい。
これが想定以上の大きな反響を呼んだ。
完璧な発音と、その言語数に世界中が驚愕し、海外のファンが激増した。
ファンによると、どの言語も発音が素晴らしい事と、自分達の母国語で完璧に歌ってくれている事が嬉しいようだ。
その他には、日本の音楽だからと敬遠して聴かず、私の事を今まで知らなかった事を後悔しているような反応も多かった。
こうして、各国に多くのファンが生まれる事となる。
そして、再び日本語の私の曲の売り上げが爆発的な勢いで伸び始めた。
調べた所、各国のファン達は自分の母国語の歌を聞いて、オリジナルとも言える日本語の曲も聞いてみたいと考えたらしい。
この予想以上の反響に、嬉しくもあり困ってもいるのはプロダクション側だ。
やってしまった以上、恐らく次からの新曲は多言語でのリリースを期待されるだろう。
プロダクション側としては続けるつもりは無く、私の強みを生かした一度きりのサプライズの様な物だったらしい。
ファンからの期待はあったが、私に大きな負担がかかるという事でプロダクション側は批判覚悟で日本語のみに戻そうとしていた。
私はその時、京介と綾子に問題は無いか聞かれ、問題無いと答えた。
するとその後、多言語でのリリースが正式に決定した。
京介と綾子は自信にあふれた様子で問題が無い事をアピールしたようだ。
私自身が問題無いと言っている事と、二人のあまりの自信に押され、上も「そこまで言うのなら」と了承したようだ。
担当アイドルの事を考え無理をさせない、という信用がある二人が言ったからこそ、上も納得したのだろう。
二人は私がその程度でどうにかなる事は無いと知っているからな。
私の許可さえ出れば自信も出るだろう。
むしろ、更に二人が忙しくなるだけだと思う。
私は二人が多少楽になるように、一度に複数の言語での収録を行い、短時間で全ての曲の収録を終わらせた。
関係者は驚いていたな。
私が短時間で完成度を上げられる事は知っている筈だが……。
一つ一つを短時間でこなせば、まとめて行ってもそれ程時間がかからないのは当然だろう。