年が明け、2018年の1月に入った。
アイドルとしての活動も五年目になり、人としての年齢も30を超えているが人気は衰えていない。
見た目が若ければ実年齢はあまり関係無いらしいな。
一部のファンには「合法ロリ」や「ロリババア」等と言われているようだが。
年齢はともかく、性別は存在しないので婆では無い。
現在、私はフラワープロダクションでいつもの様に京介、綾子と話をしていた。
「今年はデビューしてから五年目という事で、五周年記念ライブツアーが予定されています」
京介がいつもの様に説明してくれる。
「いつものライブと何か違うのか?」
「やる事自体は変わりません。ただ、一回のライブの時間が多少長くなり、ツアー期間が伸びます」
「その程度なら問題は無いな」
ライブが一年だろうと百年だろうと、私には関係無いからな。
「人間であればかなりきつい事なんですが……クレリアさんからすれば大した事では無いでしょうね」
京介は苦笑いしながら話す。
「困る事は別にあるからな」
「恋愛関係とファッション関係ですね」
「そうだ」
「アイドルでファッション関係が気にならないのも珍しいですけど……それは人間の女性の話ですしね」
私を見ながら綾子が口を挟む。
「いつかファッション関係に興味を持つ時が来るかもしれないが、少なくとも今は何も思う事は無いな」
「恋愛関係は、私達としては助かりますけど」
綾子達からすれば、担当しているアイドルの男女関係に一切気を使わなくて良いのだから楽だろう。
「ファッション関係に関しては興味が無いだけで分からない訳では無いが、男女間の恋愛感情に関しては分からないままだ。分かるようになる可能性は絶望的と言える程に低いかも知れない」
「それが良い事なのか、悪い事なのか……人間の私には分かりませんけど……」
綾子が申し訳なさそうな表情をして言う。
「好意を向けられる事自体は嫌では無い。しかし、そういった感情を向けられても私には理解出来ないからな。……そう言えば、京介からは感じる物はまた別な物だな」
彼から感じる感情は、人間の雄や友人から向けられる物とは違う。
「担当アイドルにそういった感情を抱くのはプロデューサー失格です。僕は担当アイドルに愛情を持ってはいますが、それは男女間の物とも友人に対する物とも言えないと思います。……さて、時間もありませんし……そろそろ続きを話しましょうか」
京介は途中で腕時計を見てそう言うと、話を進めた。
その後、色々と仕事についての話し合いを行い、後はいつも通りあの二人の手腕に任せる。
今回は新しいゲームの仕事が入った。
「剛拳」と言う、3D対戦格闘ゲームだ。
娘達は恐らくこれも買うのだろうな。
今年行われる私の五周年記念ライブツアーの期間は、約三か月だ。
デビューした月である九月を挟み、八月から十月にかけて行う事になっていて、既にライブツアーに向けて周囲は動き始めている。
そんな中、私は仕事で剛拳のモーションキャプチャーを体験する事になった。
現在、私は専用の服に着替え、広いスタジオで説明を受けている。
「動いて頂くと分かりますが、クレリアさんの動きがそのまま正面のスクリーンに表示されているキャラクターの動きになります」
スタッフの言葉を聞いて、軽く手を振ってみる。すると正面のキャラクターも同じように手を振った。
足を上げると、キャラクターも足を上げる。
この服は私の動きを把握する為の物なのだろうな。
私が着ているこの服は体にフィットした黒に白いラインが入っている服で、所々に丸い物が付いている。
「では、今回のクレリアさんのモーションキャプチャー体験は剛拳の初回特典映像に使う事になりますので」
「話は聞いていますので問題ありませんよ、本日はよろしくお願いします」
軽く手足を動かしながらスタッフと綾子の会話を聞いていると、声がかかった。
「クレリアさん、少しだけ指示に従って動いてみて下さい」
「分かった、世話になる」
それから私は指示に従い、座ってみたり、軽く飛び跳ねたりと、様々な動きを行った。
「それでは、クレリアさんの好きな様に動いてみて下さい」
ある程度動いた後、スタッフからそう告げられる。
「では、そうさせて貰おう」
「では、そうさせて貰おう」
クレリアさんはそう答えると、いきなりバク転をした。
「おー……」
思わず感嘆の声を洩らす。
いきなりバク転した彼女を見て、周囲からも声が上がっている。
ここではこれくらい出来る人はよく見るけど、アイドルで軽く出来るのは凄い方なんじゃないかな?
そう思っていると、今度は前宙をする。
やるなぁ。
「凄いですね!クレリアさん!」
周囲で見ていた女性スタッフが声をかける、彼女はクレリアさんの大ファンだから見れて嬉しいだろうな。
俺も彼女のライブを見た事あるけど……ライブじゃこんな動きはしないから、これ程運動神経が良いとは知らなかった。
しばらくすると、誰も何も言わなくなった。
彼女の動きが段々とおかしくなり始めたからだ。
専門のプロでも難しそうな動きを軽々とこなす彼女……色々と凄いアイドルであるとは思っていたけど、想像を超えている。
「クレリアさん、そろそろ……」
「分かった、あと一つ試したら終わる」
誰もが見入る中、彼女のマネージャーさんが声をかけた。
最後に何をするつもりなんだろう?
そう思い、俺は更に注目したが、彼女は暫くただ立っているだけで特に何もせずキャラクターの方を見ていた。
「ありがとう、今日は楽しかった」
すると、突然彼女は私達に礼を言いマネージャーの所へ向かう。
そしてその後、彼女は後片付けと挨拶を行い帰ってしまった。
……何だったんだ?
そう思いながら、これからの仕事の事を考えていると、スタッフ達から声が上がった。
「何だ?警告が出てる」
俺は彼らの元に向かい、声をかける。
「どうした?」
「ん?ああ、キャプチャーソフトに警告が出ただけだよ。でも……この警告は初めて見るな」
「何の警告なんだ?」
「ちょっと待ってくれ」
俺が尋ねると彼が調べ始める。
「分かった。対象のモーションを認識出来なかった時に出る警告だな」
「何で今、それが出てるんだ?」
「んー……分からないな。ちょっと確認した方がいいかも知れない」
それから調べたが特に問題は見つからず、原因は謎のままになった。
クレリアさんが何かしたのかと思ったが、彼女は何もせずに帰っているし……。
まあ……何かがあったんだろう。
俺はそう考え、次の予定をこなすために移動を始めた。
私は帰りの車内で考える。
綾子に声をかけられた後、最後に少し速めに動いてみたがキャラクターが同じように動く事は無かった。
反応出来る速度は大分低い様だ。
「体験した感想はどうですか?」
綾子が運転しながら話しかけてくる。
「新しい技術を体験するのは中々面白かった」
魔法人類にこういった技術は存在しなかったからな。
「私は魔法の方が面白いと思いますけど……」
「魔法が面白い物である事は否定しないが、今の私は人類の先に期待している」
以前譲って貰った宇宙を航行可能な戦艦は、魔法を使用する物では無かった。
あの艦に使われている技術と人類の使う技術が同系統の物かは分からないが、私はかなり近い物だと考えている。
もしそうならば、いつか人類も彼らの様に生まれた惑星を離れ、宇宙に広がるかも知れない。
「人類の先……ですか?」
人類の技術について考えている私に、綾子が言う。
「そうだ。私は興味を持っている間は、人類の進化と繁栄を見続けようと思っている」
「それは……そうですね……未来の人類は一体どうなっているんでしょうか……」
綾子は何かを言いかけ言葉を切り、未来を思う言葉を口にした。
「気になるのか?」
私はその事を指摘せず、尋ねる。
「それは、気になりますよ……。多くの人は一度くらい考えた事があると思いますよ」
「その辺りの感覚は私と似ているのかも知れないな」
知的生命体の進化と繁栄、衰退を見るのは中々面白い。
その上長く楽しめる。
人類も自身の未来に期待しているのだろう。
それからプロダクションに帰るまでの間、私は綾子との雑談を楽しんだ。