番号分けがおかしいと感じましたが、今更直すのはきついのでこのまま行きます。
長く続いたクレリアさんの五周年記念ライブも終わりに差し掛かっている。
スタッフとして三か月の間クレリアさんのライブツアーについて回ったけど、彼女は今世紀最高のアイドルと言っても過言じゃない。
きっとこのライブツアーは伝説になるんだろうな。
……最初に聞いた時は無茶だと思った。
一つ一つのライブ時間を伸ばした上に、回数も、期間も伸ばすと言われたんだから無理も無いと思う。
いくらクレリアさんの体力が凄くても、多くの関係者は思ったはずだ。
「最高のアイドルに無茶をさせて潰すつもりか」……と。
でも、まさか当の本人が説得しに来るとは思わなかった……。
突然会議に現れた彼女は、プロダクション側の独断では無く、自分が問題無いと判断して引き受けた事を話した。
本人にそう言われては私達も引き下がるしか無く、予定通り五周年記念ライブは実行された。
今となっては無駄な心配だったと思う。
むしろハードスケジュールで、私達の方が危なかった……。
クレリアさんの差し入れが無かったら、私達は今ここにいなかったかも知れない。
気のせいかも知れないけど、クレリアさんの差し入れを食べた後は妙に調子が良かった気がするんだよね。
彼女は今まで、全てのライブで最高と言えるパフォーマンスを発揮している。
この無謀とも言えるライブツアーでもそれは変わらず、まるで疲れなど無いかの様に常に最高のステージを見せてくれていた。
この先、これ程のアイドルが現れる事があるのだろうか?
そう思ってしまう程に彼女は凄い。
女である私でも魅了される美貌、歌声、ダンス。
そして、その外見とは裏腹な男らしいとも言える性格と歯に衣着せぬ物言い。
まあ……空気を読めないと言えばそれ迄なんだけど。
でも、言いたい事を言えずに心の内に閉じ込めていた私には、彼女の歯に衣着せない言葉は爽快に映った。
恐らく私以外もそう感じたんだと思う。
そうじゃなきゃ全世界でこれほど彼女が支持される事は無かったんじゃないかな?
……やっぱりそんな事は関係なく人気は出たね……うん。
彼女は独特の感性を持っているけど、言っている事はそれ程おかしな事では無かったし……そういう所も受け入れられた理由なのかも。
勿論、中には全く理解出来ない事もあったし、共感出来ない事もあったけど……。
彼女に対する一般的なイメージは、ぶっきらぼうで冷たい、といった物が多いと思う。
でも、長く関わっていると……何と言うか……。
そう……未熟な孫を諭す祖母の様な……そんな雰囲気を感じる事があるんだよね。
まあ私がそう思っているだけだし、そんな事を感じるのは失礼なのも分かってる。
彼女はまだ30代前半だし、結婚もしていなければ子供もいない。
今度の休みは一度実家に帰ろうかな……。
今も目の前で休憩している彼女を見ているとそんな気持ちが湧いて来る。
失礼かも知れないけど、クレリアさんはいいお母さんになりそうだよね。
三か月に渡った五周年記念ライブツアーは問題無く終了し、私は自宅でくつろいでいる。
ツアー期間中は私よりも周囲の人員の負担が大きかったように感じるな。
念の為、ライブツアーが失敗しないようにスタッフ達を少し手助けしたが、その判断は間違っていなかったと思う。
大きなイベントであったツアーが終わった事で、一度仕事は落ち着いた。
近い内に残っているのはゲーム関係の仕事だけだ。
少しずつゲーム関係の仕事が増えている気がする。
今回のゲームはアイドル育成ゲームで、名前は確か……「アイドルストーリー」という名だった筈だ。
どうやら私の立ち位置は育成対象では無く、隠しライバルという扱いらしいが。
更に私の実力をゲーム内で再現する為に、近い内に簡単な能力測定をする事になっている。
これはある程度人類の範囲内で納めておけば問題は無いだろう。
アイドルストーリー開発会社の会議室で、社員達が集まり話し合いをしている。
「この結果は……本当なの?」
「間違いありません。多くのスタッフが見ている中で出した結果です」
「彼女は今世紀最高のアイドルと言われているけど、この結果を見ると納得出来るね……」
彼らの声には隠しきれない困惑の色が含まれている。
「結果から分かると思いますが、実際に見ると良く分かりました。……彼女が人類最高の才能を持っている事は間違い無いと思います」
「それで……どうするんだ?」
その言葉の後、しばらく無言の時間が過ぎる。
「……ゲーム内での能力の事ですね?」
「クレリアさんの実力を再現する、という契約をしている以上……今更変更は出来ません」
「……こちらの方針を変更するしかないでしょう。能力次第で勝てるようにする予定でしたが、現在のトップアイドルにプレイヤーが育てたアイドルで力試し出来る……という方向にしようかと考えています」
社員の一人が静かに話す。
「プレイヤーが絶対に勝てない相手をゲームに出す事になるとは……」
別の社員が眉間に手を当てながら言う。
「……これ程とは想定していませんでしたからね」
「既にクレリアさんが本人の能力を再現した状態で登場する、と宣伝もしてしまいましたし……こうするしかないと思います」
「ふう……。詳しい事はまた検討するとして、取り敢えずその方向で進めましょう」
「はい、では次ですが……」
社員達の会議は続いて行く。
五周年記念ライブツアーが終わり、約一か月程が過ぎたある日。
東京の自宅でくつろいでいる私のもとにジャンヌがやって来た。
「よく来たな」
「お邪魔したします、主様」
跪きながら挨拶をするジャンヌ。
「座ると良い」
「はい」
私がソファに座るように促すと、彼女は私の対面に座る。
「本日は主様にご協力を頼みたく、やってまいりました」
今日は用があるようだ。
娘達は特に用が無くても私に会いに来る。
それはジャンヌも同じで、他愛もない話に花を咲かせたり、時には共にゲームをプレイする事もあった。
たまに信長もやって来るが、ジャンヌや娘達と比べるとかなり頻度は低い。
「話せ」
「はい、ではまずこちらをご覧ください」
そう言ってジャンヌは懐からスマートフォンを取り出し、操作してから私に見えるようにテーブルへと置いた。
「……これがどうした?」
スマートフォンには「今世紀最高のトップアイドル遂に参戦!近日公開予定!」という文字が映っている。
これは綾子がやっている「ドゥーム・ナイトワールド」の告知画像だな。
この仕事を了承したのは一昨日だったはずだが、事前に告知の準備だけはしていたのだろう。
「これは主様の事だと考えておりますが……間違いないでしょうか?」
「そうだ。一昨日、話があって了承した」
「やはり!これで主様と肩を並べて戦えます!」
突然興奮するジャンヌ。
「訓練でも時々共闘しているだろう」
そこまで喜ぶ事だろうか。
そう思いながら私は話の続きを促す。
「ジャンヌ、本題を話せ。協力とは何だ?」
「……申し訳ございません」
私の言葉に、彼女は落ち着きを取り戻す。
「実は……主様もこのゲームで私と共に戦っていただけないかと……」
「それをわざわざ言いに来たのか?念話や電話で一緒にやりたいと言えばいいだろう」
私がそう言うと、ジャンヌは姿勢を正して話す。
「主様に協力していただくというのに、その様な真似は出来ません」
今まで散々一緒にゲームをしているのだが……彼女の中では別な事の様だ。
私はその事に対して特に何か言う気は無い、彼女には彼女の基準があるのだから。
「構わないぞ」
私は彼女の誘いにのった。
プレイするゲームが違うだけで、今までと何も変わらないからな。
「ありがとうございます!では早速インストールしてフレンド登録を……!」
彼女は聖女のような微笑みを浮かべて早口に手順を説明し始めた。
「分かった」
こうして、私はジャンヌと共にドゥーム・ナイトワールドを行う事を決めた。
数日後、ジャンヌから私の参戦を聞いた娘達もプレイを開始し、ドゥーム・ナイトワールドのフレンド欄はジャンヌと娘達で埋まった。