少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 菓子を全て食べ終えしばらくのんびりと会話を続けていたのだが、突然子供達が本を読んで欲しいと言い始め、今は千穂が子供達に本を読み聞かせている。

 

 読んでいるのは「かぐや姫」だ。

 

 このかぐや姫だが、娘達は私の事だと考えている様だ。

 

 私は全く覚えが無かったのだが、多くの男達から求婚されては断っていた時期があった事を娘達の内の五人が覚えていた。

 

 ただ、彼女達の記憶に無い事まで描かれている為「物語にする際に色々と書き加えたのではないか」と言っていたな。

 

 私としては、それだけでは私がかぐや姫だとは言えないと思っている。

 

 他にも似た様な者が居たかもしれないからな。

 

 「どうしたの?」

 

 黙っている私を見て、美琴が尋ねて来る。

 

 「娘達がかぐや姫は私の事だ、と言っていた事を思い出していた」

 

 「え!?……まあ、クレリアちゃんの美しさなら分かるけど……」

 

 「以前、多くの男から求婚されていた時期があった事を娘達の一部が覚えていた様でな。可能性が無い訳ではないが、私は完全に忘れている」

 

 「クレリアちゃんがかぐや姫だと言われたら……私は納得するかな」

 

 美琴はそう言いながら私を見ている。

 

 「私は、多くの男から求婚されている私以外の女性の話を基に創作したと考えている」

 

 「どちらにしても、もう分らないのよね?」

 

 「分かるか分からないかで言うなら分かるが、する気は無いな」

 

 「……どういう事?」

 

 書いた本人を呼び出せば良い。

 

 ただ、相手が特定出来ているならともかく、書いた本人を一から探すのは多少手間がかかる。

 

 過去を見る事も可能だが、興味の無い事にそこまでする気は無い。

 

 そう伝えると、美琴は「まあ、深く考えないから大丈夫」と言って話題を変えてしまった。

 

 その後、遅くならない内に千穂は帰宅し、私は残って夕食を共にした。

 

 夫である太一は洗い物を引き受けたり、美琴が手を離せない時には娘の面倒を見たりしていた。

 

 彼が妻と娘に向ける愛情は本物だろう、十分に良い夫だと言えると思う。

 

 穏やかな家族の気配を感じながら時を過ごした私は、帰る直前に二人から泊って行かないかと提案された。

 

 特に問題は無かった為、その日は泊まる事にした。

 

 

 

 

 

 

 私が引退するという事がプロダクションから発表されると、その情報は瞬く間に世界中に広がり、しばらくの間テレビやネットを騒がせた。

 

 ネット掲示板の主な物は、私の引退を嘆くファンの集いと引退理由の考察だったようだ。

 

 公式の掲示板は引退しないで欲しいという書き込みで一時的にサーバが機能不全に陥った他、プロダクションに手紙やメールなどが大量に送られ関係各所に負担がかかったらしい。

 

 これはまだ大人しい方で、私の引退に反対するデモのような真似をする者達や自殺者が出たりと、中々に騒がしかったらしい。

 

 私自身は、周囲の関係者などに色々と聞かれる程度で、それ以外は今までと特に変わらない。

 

 京介と綾子に頼まれて、一度だけ引退表明の記者会見を開いたが、やった事はそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 【悲報】クレリア引退について語るスレ

 

 

 323:名無しのアイドル好き

 

 マジでショックなんだけど……

 

 

 324:名無しのアイドル好き

 

 俺はこれからどうやって生きて行けばいいんだ……

 

 

 325:名無しのアイドル好き

 

 自殺なんてするなよ?彼女は喜ばないぞ

 

 

 326:名無しのアイドル好き

 

 あれはマジでビビった、しかも結構な人数なんだよな

 

 

 327:名無しのアイドル好き

 

 ニュースで見てドン引きしたわ

 

 

 328:名無しのアイドル好き

 

 ホントな……気持ちは分かるが

 

 

 329:名無しのアイドル好き

 

 お前……やるなよ?

 

 

 

 

 

 

 565:名無しのアイドル好き

 

 まだまだこれからなのに……どうしたんだろう?

 

 

 566:名無しのアイドル好き

 

 会見では十分に楽しめた、満足したって言ってたけど何か他に理由がありそう

 

 

 567:名無しのアイドル好き

 

 結婚とか、妊娠とかな

 

 

 568:名無しのアイドル好き

 

 興味無いのはやっぱりフリだったのか?

 

 

 569:名無しのアイドル好き

 

 何を言っても推測だからなぁ……

 

 

 570:名無しのアイドル好き

 

 誰か情報無いの?

 

 

 571:名無しのアイドル好き

 

 彼女ってこれだけ世界中で知られてるのに、町中で見た報告が全く無いんだよな

 

 

 572:名無しのアイドル好き

 

 どういう事?

 

 

 573:名無しのアイドル好き

 

 プライベートが全く不明なんだよ。公の舞台以外で誰も彼女を見てないし、クレリア本人もそういった話はした事が無い。

 

 

 574:名無しのアイドル好き

 

 確かにそんな報告見た事無い……ワールドクラスのボッチって事かな?

 

 

 575:名無しのアイドル好き

 

 自宅にいる事は間違い無いだろ

 

 

 576:名無しのアイドル好き

 

 そうだな。水瀬彩がクレリアの家に遊びに行ったって言ってるし

 

 

 577:名無しのアイドル好き

 

 誰?

 

 

 578:名無しのアイドル好き

 

 新人声優。まだ発売されてないけど、スカイレゾナンスシリーズの「スカイレゾナンスインフィニットブルー」のヒロイン役がデビュー作になる。

 

 

 579:名無しのアイドル好き

 

 へえ、新人がクレリアの家に行くような関係になってんのか。元々知り合いだったのか?

 

 

 580:名無しのアイドル好き

 

 彼女のツニッターを見た限りじゃそんな感じじゃなさそう

 

 

 581:名無しのアイドル好き

 

 クレリアもあのゲームに出てるし、そこで知り合ったのか?

 

 

 582:名無しのアイドル好き

 

 デビューからクレリアと絡めるなんて嬉しいだろうな

 

 

 583:名無しのアイドル好き

 

 緊張して吐いてそう

 

 

 584:名無しのアイドル好き

 

 流石にそれは無い……無いよな?

 

 

 585:名無しのアイドル好き

 

 もし本当にそうなってても流石にそれは報告しないやろ……

 

 

 586:名無しのアイドル好き

 

 あの会社はホント良い判断したよな

 

 

 587:名無しのアイドル好き

 

 それな。比較的早い内にクレリアと契約したからな、他の所はいくら出したのやら……。

 

 

 588:名無しのアイドル好き

 

 今だったらかなり積まないと受けてくれんだろ……

 

 

 589:名無しのアイドル好き

 

 好きなゲームだったらタダで引き受けそう

 

 

 590:名無しのアイドル好き

 

 最低限の事は守ってるっぽいけど、基本自由だからな。信じられるか?アイドルだったんだぜ彼女

 

 

 591:名無しのアイドル好き

 

 それが良いんだよ

 

 

 

 

 

 

 私が引退を発表して世間を騒がせたが、やがてその騒ぎも消える。

 

 引退を表明してからも私のアイドル生活が変わる事は無く、時は流れて行った。

 

 「クレリアさん、お疲れ様でした」

 

 私の自宅のリビングで、京介と綾子が声を揃えて言う。

 

 現在は2020年9月30日の夕方、私のアイドル活動はもうすぐ終わる。

 

 最後の仕事を終えた私は、二人を家へと招待した。

 

 他の関係者との挨拶やお別れ会などは既に終えている。

 

 この二人が帰れば、私が約7年所属したフラワープロダクションとの関わりは終わる。

 

 ……二人には何か礼をしようか。

 

 そう思い立ち、私は二人に返事をする。

 

 「ありがとう、二人には世話になった。礼として何か一つだけ、私が許す範囲で望みを叶えようと思うが……何が良い?」

 

 私がアイドルとして問題無く過ごせたのは二人の努力があったからだ。

 

 友人としても仕事のパートナーとしても、良い関係を築いていたと思っている。

 

 二人は私の言葉に喉を鳴らしている。

 

 今更緊張してどうする。

 

 「……僕は要りません。クレリアと言う最高のアイドルのプロデューサーが出来た……それだけで十分です」

 

 「そうか、では保留にしておく。もし何かあった時は連絡してくれ、絶対解決出来るとは言えないが話は聞こう」

 

 「分かりました。その時は遠慮なく頼らせて貰います」

 

 私はその言葉を聞いて綾子へと視線を移す。

 

 「綾子は何かあるか?」

 

 「ええと……その……どうしましょう?」

 

 「私に聞くな」

 

 綾子の望みを叶えるのに、何故私に尋ねる。

 

 「では、綾子も保留で良いか?期限は無いからじっくり考えろ。出来ない事もあるだろうから、いくつか候補を考えておけよ」

 

 これは文字通り期限は無い。

 

 決めずに死んだ場合は、一度は呼び出して望みを聞く気でいる。

 

 「分かりました……考えておきます」

 

 雰囲気からすると、綾子は何か望みを言う気があるようだ。

 

 それから夕食を取りながら今までの昔話をして、今までまったく話される事の無かった彼らの努力と苦労などを聞かせて貰った。

 

 夕食後も話題は尽きる事が無く、私は二人に泊まる事を薦めた。

 

 明日も仕事があると言い難色を示した二人だったが「翌朝に転移で送る」と話すと、苦笑いしながら了承してくれた。

 

 そして翌朝に二人をそれぞれの自宅へと転移させ、私のアイドルとしての生活は終わりを迎えた。

 

 

 

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