少女(仮)の生活   作:YUKIもと

206 / 260

 ちょっと時間を飛ばしました。




086-01

 

 2031年8月。

 

 私がアイドルを引退してから約11年が過ぎ、アイドルとしてのクレリアは既に過去の存在となった。

 

 ただ、人類の間で色々と記録を残した事で伝説のアイドルとして人々の記憶に残り、現在でも時々名前が出て来る。

 

 ある日、私は千穂に呼ばれて彼女の家にやって来た。

 

 「クレリアお姉ちゃん!いらっしゃい!」

 

 私を迎えた黒髪の少女は、葛城葉子。

 

 千穂と良平の娘で、もうすぐ14歳になる筈だ。

 

 「姉貴、来たのか」

 

 家に入ると、暗い茶髪の少年がゲームをするのを止めて言った。

 

 彼は鈴原健太。

 

 美琴と太一の息子で、この子ももうすぐ14歳の筈だ。

 

 「またそんな呼び方して!せめて姉さんにしなさいって言ってるでしょ!」

 

 「うるせーな……姉貴がそれで良いって言ってんだからいいだろ」

 

 葉子と健太は言い合いを始めた。

 

 二人のこうした言い合いや喧嘩はいつもの事だ。

 

 この11年の間に葛城、鈴原の両家は家を買い、引っ越しをしている。

 

 その結果、両家は近所に家を構える事になり行き来が楽になった。

 

 そして、この二人がお互いに好意を持っている事もあり、大抵の場合どちらかの家にもう片方が居る事が多い。

 

 夏休みである現在は二人共ほぼ毎日どちらかの家で過ごしている様だ。

 

 「二人共、千穂と美琴は何処だ?」

 

 騒がしい二人にそう問いかける。

 

 「俺んちでお茶してると思う」

 

 健太がそう言って立ち上がる。

 

 彼の家は葛城家の正面にあるのだが、千穂と美琴は彼らを二人きりにしようとしているのだろう。

 

 千穂は何故私を呼んだのだろうか。

 

 「クレリアちゃんいらっしゃい!」

 

 振り返ると千穂が笑って立っていた。

 

 出会った頃に比べるとだいぶ老けたが、それでもこの笑顔はあの頃と変わらない様に感じる。

 

 「呼ばれたから来た」

 

 「ありがと。この二人が会いたいってうるさくてねー」

 

 「ちょっ!?お母さん!?」

 

 「俺達はそんな事言って無いだろ!?」

 

 千穂の言葉に、飲み物や菓子を用意していた二人が声を上げる。

 

 「えー?私が色々用意しようとしたら『自分達でやる』って……」

 

 「お母さんはもう戻って!」

 

 「おばさん!?何で言っちゃうんだよ!?」

 

 二人は千穂の言葉を遮って顔を赤くするが、お前達からの好意はずっと感じているから隠しても無駄だぞ。

 

 「クレリアちゃん。私は戻るから二人をよろしくね?」

 

 「任せろ」

 

 私の言葉に微笑んで、千穂は戻って行った。

 

 そしてしばしの静寂が訪れる。

 

 「……姉貴、取り敢えず座ってよ」

 

 気を取り直した健太に促され、私は席に着く。

 

 「二人とも私に会いたかったのか」

 

 「ちょっと!もうやめてよー!」

 

 「言ってないって!」

 

 二人は恥ずかしそうにしているが、友人の子供達に好意を寄せられて悪い気はしない。

 

 それに、友人の教育が良いのか反抗期も無く良い子に育っていると思う。

 

 親が良くても子供がどうしようもない場合もあるからな、当然逆もあるが。

 

 大抵の場合、親の接し方や教育、環境が原因で子供の性格が変質する事が多いが、稀にそのような事に関係無くどうにもならない子供や、どうにもならない環境でも影響を受けない子供もいる。

 

 「私は嬉しく思っている」

 

 「……うん」

 

 「おう……」

 

 私の言葉に、二人は返事をして黙ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 「このっ!?健太に負けるか!」

 

 「葉子はこれが苦手だからな!……貰った!」

 

 しばらく話をしていた私達はゲームをする事になった。

 

 ゲーマーである千穂の影響を受けた二人はゲーム好きになっている。

 

 しかし、運動が嫌いかというとそうでもなく、体育ではそれなりの成績を収めているしスポーツをして遊ぶ事もある。

 

 張り合う二人を見ながら、私は最近の事を考えていた。

 

 私がアイドルを引退してから10年以上が過ぎ、再びアイドルが増え始めた。

 

 それから数年の間、新しいアイドルはあまり現れなかった。

 

 京介と綾子が言うには、原因は私と比べられてしまい酷評をされる事が増えた事、だった様だ。

 

 私の事が過去となり、ようやくそういった事が無くなって来たらしい。

 

 この子達は私が以前アイドルであった事を知っているが、幼い頃から会っているため全く気にしていない。

 

 彩は既に声優、歌手として成功し、その地位を不動の物としている。

 

 その歌声は度々私と比べられ、私を超えたと言う者も存在したが、彼女はテレビの全国放送や雑誌のインタビューで「未だに彼女を超える事は出来ていない」と発言している。

 

 彼女の手元にはあの時のデータがある、彼女のあの言葉はそれと比べた時に感じた正直な感想だったのかも知れない。

 

 京介と綾子は結婚した。

 

 ……この言い方は誤解を招くか。

 

 京介は引退した元担当アイドルの女性と結婚し、今もプロデューサー業を続けている。

 

 綾子は業界外の一般男性と結婚し、しばらく仕事を続けていたが、妊娠の判明を機に専業主婦となった。

 

 子供が大きくなった頃に仕事に復帰するかは、夫と話し合って決めると言っていたな。

 

 「うぁー負けたぁ……」

 

 「よっし!……姉貴、俺と対戦しようぜ」

 

 色々と思い返していると、葉子との勝負を終えた健太が私に挑んで来た。

 

 「どの程度強くなったか見てやろう」

 

 「今度こそ勝つ!」

 

 気合を入れる健太。

 

 「私は健太が完封負けする方にかけるわ……お姉ちゃん、私の仇を取って!」

 

 葉子は敵討ちを頼んで来るが、私は普通に戦うだけだ。

 

 それから僅か数分後、私は健太に完封勝利した。

 

 健太は葉子に慰められていたが、彼女の表情は笑っていたな。

 

 葉子は好意を寄せている異性である健太に対しては最終的に甘くなる。

 

 そして健太も、好意を寄せている異性である葉子に強く当たる事は無く、最後には受け入れる。

 

 何事もなければ、このまま夫婦になるかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 ……んん……朝か……。

 

 俺は朝日が差す部屋で目を覚ますと上半身を起こし、着替えるためにのっそりと動き始める。

 

 まあ……今は夏休みの真っ最中だから焦って着替えたりしなくていいんだけどな。

 

 今日は宿題でもするかな……。

 

 そう思いながら伸びをする。

 

 俺はほぼ毎日幼馴染である葛城葉子と過ごしている、夏休みに入ってもそれは変わらず大抵一緒にいる。

 

 物心ついた時からずっと一緒にいるけど……最近妙にあいつが気になる……。

 

 傍に居るとなんか変な気分になるんだよな……。

 

 そんな事を考えながら着替えていると、突然目の前が薄暗くなる。 

 

 っ!?

 

 なんだ!?

 

 俺は目をこすり、瞬きをする。

 

 しばらくそうしているとフッと視界が元に戻る。

 

 「え!?何なんだ……?」

 

 痛くもなんともないけど、急に視界が薄暗くなったぞ……?

 

 「……母さんに言おう」

 

 俺はすぐにそう決断した。

 

 

 

 

 

 

 それから俺は、母さんに起きた現象を説明した。

 

 母さんはすぐに俺を眼科へと連れて行き、検査を受けたんだけど……。

 

 「異常はありませんね……」

 

 「先生、何か分かりませんか?」

 

 目の前で母さんと医者が話し合っている。

 

 検査結果は健康そのもの、何の問題も発見されなかった。

 

 それに納得出来ない母さんは、色々と話しているみたいだけど……医者にも見当がつかないみたいだ。

 

 「何とも言えません……視界が暗くなる原因は色々とありますが、検査では全て問題ありませんでした」

 

 「そうですか……」

 

 「神経内科や脳神経外科にもかかって頂いた方が良いと思います。そちらが原因である可能性もありますから」

 

 「分かりました、そうします」

 

 「紹介状を書きますので」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 どんどん話は進んで行って、他の所にも行く事になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 紹介状があった事でスムーズに検査を受ける事が出来たけど、結果は全て不明。

 

 視界が薄暗くなる現象は続いている、しかも頻繁に起きる様になって来た。

 

 このままじゃ危険な事はよく分かる、全く見えない訳じゃないけど、まともに行動出来なくなりそうだ……。

 

 父さんも「原因不明の目の異常」という報告を受けてすぐに帰って来た、母さんと色々話し合っているみたいだ。

 

 「健太……大丈夫だよね?」

 

 俺の部屋に一緒にいる葉子が不安そうに言うけど、俺にも何が何だか分からないんだよな。

 

 痛くないだけマシかも知れないけど、こんな事になるなんて……。

 

 「分からない……色々と検査したけど問題無いみたいだし、原因が分からないんだよ……」

 

 「そんな……」

 

 いつも元気な葉子が、こんな風になるのを見るのは初めてかも知れない。

 

 お互い言葉を無くし、静寂が訪れる。

 

 いつも騒がしい俺達だが、原因不明の病気になった状態で騒ぐ気にはならなかった。

 

 「健太、下に来てくれ……話がある」

 

 突然扉の外から父さんの声が聞こえた。

 

 「分かった、今行くよ」

 

 俺がそう答えると、父さんは下へ降りて行った。

 

 「私も行って良い?」

 

 立ち上がり、下に行こうとすると葉子がそう言って来る。

 

 「多分大丈夫だろ」

 

 俺はそう答えて葉子と共に下へ降りて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 「久しぶり、大変みたいだね」

 

 「葉子も来たのね。まあ、来なかったら連れて来るつもりだったけど」

 

 下に降りると何故か良平おじさんと千穂おばさんも居て、声をかけて来る。

 

 「お父さん?お母さん?」

 

 「……二人共座ってくれ」

 

 父さんに促されて俺達は席に座る。

 

 「今の検査で問題が分からないなら、俺達が取れる方法はもう一つしか無い」

 

 「また頼る事になるのは心苦しいけど、息子の事だもの……頼るしかなかったわ……」

 

 「やれるだけの事はやってみたんだから、その後に頼るならきっと平気だよ。それで……来てくれるって?」

 

 「ええ……いつも通りの反応だったわ。それと……この子達にも自分の事を話すって」

 

 「この子達なら平気だろ」

 

 親達は良く分からない事を話している。

 

 「二人共、これから貴方達が良く知っている人が来るから……出来れば受け入れてあげて?」

 

 「は……はい……?」

 

 千穂おばさんの言葉の意味が分からず、中途半端な返事をしてしまった。

 

 葉子も首をかしげている。

 

 そのまましばらく待っていると、部屋の扉が開き彼女が現れた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。