少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 2020/07/12追記。


086-03

 葉子と健太に私の正体を話してから約四ヶ月程の時が流れ、2032年の2月に入った。

 

 現在、私は千穂の家に訪れている。

 

 隣には美琴も居り、子供達がある程度成長してからはこうして三人で語らう事も多くなっていた。

 

 「あら……?いつも帰って来る時間はとっくに過ぎてるのに……今日は遅いわね……」

 

 私と雑談していた千穂が時計を見て言う。

 

 「健太が遅くなるって言ってたから、葉子ちゃんも待ってるんじゃないかしら?」

 

 そう美琴が千穂に話す。

 

 「こういった事はよくあるのか?」

 

 私は二人に尋ねる。

 

 「そうだねー。時々遅くなるけど……それでも門限は守ってるから何も言って無いよ」

 

 「あまり厳しくし過ぎても良くないでしょうし、私も門限を守っている内は何も言わないわね」

 

 「そうか」

 

 そのまま私達は会話を続けていたが、突然家の電話が鳴る。

 

 「はいはーい」

 

 そう言って電話に向かう千穂。

 

 「……え?帰ってないけど?……どうしたの?」

 

 千穂の言葉が聞こえるが、何かあったか。

 

 私は電話から聞こえる声を拾う。

 

 「俺が遅くなるから待っててくれるって言ってたんだけど、どこにもいないんだ!」

 

 「……健太君は今どこに居るの?」

 

 「学校の校門前!家にも帰って無いならどこに……」

 

 「他の友達の所はどう?」

 

 「まだ聞いて無い……」

 

 「それなら私も連絡してみるわ」

 

 「きっと何かあったんだ……葉子が約束をしているのに何も連絡せず居なくなるなんておかしい!」

 

 健太の叫びを聞き、千穂の体が強張る。

 

 私は彼女から不安が滲み出て来るのを感じた。

 

 「分かった、後は私達に任せて帰って来て」

 

 「でも!」

 

 「貴方にまで何かあったらどうするの!帰りなさい!」

 

 千穂が叫んだ声に美琴が反応した。

 

 私は会話を聞きながら感知を日本全域に広げた、流石に国外には出ていないだろう。

 

 勿論、見つからなければ地球全体に広げるが。

 

 「千穂!どうしたの!?誰からの電話だったの!?」

 

 千穂の上げた声に不穏な気配を感じたのか、美琴が電話をしている千穂の所へやって来る。

 

 「……健太君から。一緒に帰る約束をしてたのに、葉子が居ないって……」

 

 「それって……!」

 

 「まだ分からない……でも、警察に連絡しておかないと」

 

 「すぐに動いてくれるかしら……」

 

 「難しいと思うけど、しないよりは良いわ」

 

 私がここにいるのに二人が警察に頼るのは、私が安易に頼って来る者を嫌うと知っているからだろうか。

 

 くだらない事ならともかく、家族に危険が迫っている可能性があるのなら話くらいは聞くが。

 

 まあ、そんな彼女達だからこそこうして今も共に居る、という所もあるな。

 

 私は既に彼女の居場所も無事である事も分かっている。

 

 ただ誘拐され、監禁されているだけだ。

 

 それ以外には特に何もされていない事も確認した。

 

 さて……手を出した者達は処分するとして、まずは助けてしまおう。

 

 そう考えた私はすぐに行動に移す。

 

 遠隔で葉子を眠らせると、この場に転移させた。

 

 「二人共、警察には連絡しなくて良い。健太に葉子は無事だと伝えてやれ」

 

 私の言葉で振り向いた二人が眠っている葉子を見た。

 

 千穂が内心で喜びと感謝を爆発させ私に飛びついて来る。

 

 私が何も言わず助けた事で、娘が何か問題のある状況に居た事を悟った様だ。

 

 「グレリァぢゃん……あぃがどぅ……」

 

 「美琴、千穂は泣いていて使い物にならん。健太に連絡しろ」 

 

 私は彼女にしがみつかれながら美琴に言う。

 

 「今……連絡するわ……」

 

 完全に泣いている千穂の代わりに、目が潤んでいる美琴に連絡させた。

 

 あの子達は既に私の大切な者に入っているからな。

 

 友人やその身内がこういった事に巻き込まれる事は今までもあった。

 

 当然、守るべき者は守っているが見捨てる時もある。

 

 例え友人の身内であっても私の「守る対象」に入っていなければ何もしない。

 

 その時の友人の反応も様々だ、「見捨てられて当然だ」と潔く諦める者もいれば、「どうして助けてくれなかった」と私に詰め寄り責め立て、関係が終わる者もいる。

 

 複雑な感情に長く悩む者もいたな。

 

 中には私を恨み復讐して来た元友人も居たが、そういった者達はすぐに処分した。

 

 そんな事を考えている内に千穂は私から離れ、葉子を抱きしめていた。

 

 「葉子は寝ているだけだから安心しろ。私は少し出かけて来る」

 

 私が葉子を抱きしめている千穂に言うと、彼女は小さく頷いた。

 

 それなりに長い付き合いだ、私が何をするかは分かっているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 私がやって来たのは周囲が高い壁に覆われた一軒家だ。

 

 ここに葉子は捕らえられていた。

 

 玄関先にあるボタンを押す。

 

 今家に居るのは5人だな。

 

 そう思いながら待っているとインターフォンから声がする。

 

 「どちら様ですか?」

 

 「お前達が誘拐した少女の友人だ。私の大切な者に手を出したお前達五人には報いを受けて貰う」

 

 「何の事だかわかりませんが……貴女はどなたです?見覚えが無いですが」

 

 私の姿は見えているだろうが、現在の私には認識阻害がかかっている。

 

 例え彼等がアイドルとしての私を知っていても、今は気づく事は出来ないだろう。

 

 「そうか、では報いを受けろ」

 

 「はぁ……取り敢えずお話くらいは聞きましょう、どうぞお入りください」

 

 相手がそう言った後、インターフォンが切れて入り口のロックが外れた。

 

 

 

 

 

 

 「それで?我々が誘拐をしたと言いましたが……どうしてそんな話に?」

 

 私は広い部屋に案内され、一人の男と話している。

 

 部屋の外には他の男達も居る様だ。

 

 「聞きたい事がある。彼女を誘拐したのは偶々か?それとも以前から狙っていたのか?」

 

 私がそう言うと、男は溜息を吐いた。

 

 「お嬢さん……そもそも私達は誘拐なんてしてないんです。これ以上疑うなら警察に連絡しますよ?」

 

 そう言えば引き下がるとでも思っているのだろうか?

 

 「呼びたいのなら呼ぶと良い。その時には隠してある地下の部屋も見て貰おうか」

 

 「……入って来い!」

 

 私の言葉を聞いた途端、男の顔つきが変わり声を上げる。

 

 すると部屋の外にいた男達が入ってくる。

 

 「何でしょう、兄貴」

 

 「この娘を地下に連れて行け」

 

 「……へい」

 

 男の一人がそう言って私に手を伸ばし……私に触れる前に頭が落ちた。

 

 「っ!?」

 

 男の頭が落ちたのを見て、周囲の男達と座っている男が目を見開いた。

 

 「何だこのガキ!」

 

 男達は短刀と拳銃を取り出したが、次の行動を起こす前に頭が落ちる。

 

 「声を上げなかったのは中々だ、大抵の者は混乱して騒ぐからな」

 

 その様子を汗を流しながら見ていた男に、私は声をかける。

 

 だが彼は何も言わない。

 

 私は何も言わない男に更に言葉を投げかける。

 

 「私を見た目で判断し、甘く見ていたな?」

 

 すると男は絞り出すような声で呟いた。

 

 「らしいな……」

 

 「数少ない私が守る者に手を出すとは、運が無かったな」

 

 「……お前達もタダじゃ済まんぞ?」

 

 「そうなのか?」

 

 「お前の顔もカメラに写ってるし、あの女の家も分かってる……何より……俺に何かあれば東堂会が黙っちゃいねぇ」

 

 私は映されても映っていないと思うが、葉子の家が知られているのは問題だな。

 

 「東堂会か……」

 

 聞き覚えが無いな。

 

 「お前が誰に喧嘩売ってるか分かったか?」

 

 にやつきながら言葉を続ける男だが、相手の事が分からない。

 

 「諦めな、もうどうしたってお前じゃ……」

 

 言葉の途中で男の頭が落ちる。

 

 私は座ったままこれからの事を考えた。

 

 その東堂会という所のトップに話をつけておけば良いだろう。

 

 場合によっては丸ごと消えて貰う事にしよう。

 

 そう決めた時、ふとある事を思い出す。

 

 以前、乗り込んだ組織が娘達と関わりを持っていた事があった。

 

 カミラに東堂会を調べて貰おう、もし娘達に関係があるのならスムーズに話をする事が出来るかも知れない。

 

 私は残っていた死体を消し、この場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 一度自宅に帰った私は、カミラに念話する。

 

 『カミラ、東堂会という名に聞き覚えはあるか?』

 

 『え?……東堂会は東日本最大の暴力団だけど。こいつらが何かしたの?』

 

 『恐らく下っ端だろうが、葉子を誘拐した。あの子の周囲の情報も知られている様だ』

 

 『数多くいる人間達の中からお母様の友人を選ぶなんて運の無い事ね。それで、もう助けているのよね?』

 

 カミラはため息をついて言う。

 

 『当然だ。後はあの子達の周囲に奴らが手を出さないようにしておきたい、組長の居場所を調べてくれ』

 

 『丸ごとは潰さないのね?』

 

 『そうだな、少し頼みたい事もある』

 

 『分かったわ、東堂会は私達と関りがあるからその頼み事も含めてこちらでやってもいいけど?』

 

 予想はしていたが、つながりがある様だ。

 

 『いや、私が直接話す。トップに会えるように手配をしてくれ』

 

 『それなら今日でも平気よ?もし行くならこっちに来てくれると助かるわ』

 

 『では行く』

 

 私は念話を切って月へ転移した。

 

 

 

 

 

 

 私がカミラへ話をしてから約二時間後。

 

 私とヒトハは、千葉県の東堂会組長宅に来ている。

 

 家の和風な外見と合わない洋風の部屋に案内されると、ソファに緊張した表情の男が座っていた。

 

 恐らくこいつが、事前に聞いていた東堂会現組長、東堂 泰虎(とうどう やすとら)だろう。

 

 大分ヒトハに怯えているようだが、娘達が何かしたのだろうか。

 

 「月の方……お久しぶりです」

 

 立ち上がり、独特の礼をしながら挨拶をする泰虎。

 

 「久し振りですね、今日は大切な方を連れてきました。くれぐれも粗相の無い様に」

 

 一緒に訪れたヒトハが冷たく言い放つ、私に甘えている時と全く違うな。

 

 「……はい。どうぞお座りください」

 

 私は彼を観察する。

 

 ……何処にでもいる普通の男だな。

 

 しかし、娘達の事を知っているのなら見た目通りの男では無いのだろう。

 

 私達が席に座ると、いかにもヤクザらしい男が飲み物を持って来た。

 

 「それで……今日はどんな御用で?」

 

 飲み物を持って来た男が去り、私達だけになると泰虎が話を促す。

 

 「貴方の所の人間が庭園の支配者である主様の友人を誘拐しました。彼女と彼女の周囲に居る者達の情報も送られている筈です……調べなさい」

 

 娘であるヒトハの事は深く読むつもりは無いが……そんな事をしなくても怒っている事が分かるな。

 

 「お待ちください……すぐに調べさせます」

 

 その言葉を聞いた泰虎は顔色を変えると、人を呼び調べるように言った。

 

 支配下にある人類と関わる時、ヒトハはこうなるのか。

 

 話が穏やかな内容では無いのでこの様な感じだが、普段はもっと穏やかな雰囲気かも知れない。

 

 そこまで考えた時、私はふと「授業参観」という言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 それから調べがつくまでしばらく私達は黙って待っていた。

 

 泰虎は萎縮し、汗をかき、居心地が悪い様だ。

 

 更に、かなり私の様子を気にしている事が分かる。

 

 直接見る事はしないが、意識は頻繁にこちらに向いている。

 

 気にはなってるが、ヒトハにも私にも聞けない……という状態だろうか。

 

 やがて調べがつき、誘拐を実行した者達の詳細と指示した者達の事が明らかになった。

 

 「この方にはもう手を出しません、手を出した連中もこちらで落とし前をつけます。どうかお許しいただきたい……」

 

 彼は土下座して許しを請う。

 

 「……これから主様がお話になられます」

 

 ヒトハの言葉に、泰虎は土下座のまま沈黙を続ける。

 

 確かこれは……言葉を待っている状態だったか?

 

 「主様……どうぞ」

 

 ヒトハからそう促され、私は話し始める。

 

 「今回の事に関してだが……直接手を出した者は既に処分している。それ以外にこの件に関わった者達をお前が処分し、これから言う事を守るのなら、私はこれ以上お前達に何かをする気は無い」

 

 私が話し始めると、彼に激しい動揺が生まれた。

 

 彼の様な反応はこれまでに何度か見ている。

 

 今、彼は私がヒトハが言う「主様」だと気がついた。

 

 私が娘達をまとめている事を知ると、老若男女問わず大なり小なり心を乱す事が多い。

 

 自力で私が彼女達の言う支配者、主だと思い至る者にはまだ出会っていない。

 

 この男は、私の事を経験を積むために連れて来られた見習いの類だと思っていたようだ。

 

 「お前が守る事は、得た情報を破棄する事と、葉子とその周囲をある程度守る事……この二つだ」

 

 話が終わっても、泰虎は土下座の体勢のまま固まっていた。

 

 「返事はどうしたのですか……?」

 

 ヒトハが怒気を滲ませながら声をかけるが、断るならばそれでも良かった。

 

 それなりの対応をするだけだからな。

 

 「分かりました……」

 

 そう思っていると、彼は頭を床に付けたまま搾り出す様な声で答えた。

 

 「ヒトハ、もう良い」

 

 「かしこまりました」

 

 私が声をかけるヒトハは普段の気配に戻る。

 

 人類は殺気、威圧、気当たり等の名をつけているが、私達にも似た様な事は出来る。

 

 ヒトハは加減が上手いが、注意しなければ耐えられずに相手が死んでしまう事もあるので注意が必要だ。

 

 「私は葉子達の所へ行く、後は任せた」

 

 「かしこまりました、主様」

 

 ヒトハとうずくまっている泰虎を残し、私は千穂達のもとに転移した。

 

 

 




 誘拐はあっけなく解決しましたが、主人公が助ける気になった状態で近くに居れば、大抵の問題はこの様な感じになります。



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