あれから皆は気を取り直して楽しんでいる。
子供達はしばらく元気が無かったが、大人四人は切り替えが早かった。
私との付き合いが長いからな、精神が強くなっている様だ。
友人達とロッジで過ごしながら、私はカミラへ念話を繋いだ。
『カミラ、私はしばらく別の世界に行く』
『……何かあったの?』
帰って来たカミラの声は真剣だった。
『健太が他世界の魔法で強制転移させられそうになった』
『ああ、あの子ね。……今までも地球上でそんな事があったのかしら?少なくとも私達の情報にそれらしい物は無かったけれど……』
『恐らく今回が初めてだろうな。健太を狙った魔法は、数ある世界の中から条件に適合した者を無作為に選ぶようになっていた。私が調べた限りでは世界は無数に存在していて、その中には知的生命体が居る世界もある。それらの中から地球の人類が選ばれる確率は相当低い筈だ』
『今回、その低い確率に当たった……という事?誰かが意図的に狙った可能性は無いの?』
『魔法の構成を見る限り、そういった物である可能性は低いと思う』
『そう、それなら一先ず安心かしら。それで、お母様はその魔法を使った相手に会いに行くつもりなのね?』
『そういう事だ。他者を誘拐し奴隷にする事自体は構わないが、私の周囲に手を出したからには放って置く気は無い』
取り敢えず今の所は殺す気は無いが、相手次第だな。
『転移先の特定は?』
『既に終わっている』
『まあ、お母様ならしているわよね』
『無防備なまま魔法の構成に組み込まれていたからな』
『……それ本当?お母様が見たから無防備に見えた……という訳じゃないの?』
『本当に何も処理されていない、完全に無防備な状態だった』
『相手の力量によっては探知される事もあるのに、何もしていない……?』
警戒するような声色で話すカミラ。
『私は違和感を感じるが、カミラはどう見る?』
本来、魔法の構成は他者に簡単に解析されないように手を加える物で、完全に無防備な構成など殆ど見る事は無い。
『そうね……そんな重要な情報をそのままにしておくなんて明らかにおかしい。何か別の理由がある可能性も考えておいた方が良いと思うわ。例えば……実力の偽装とか』
『なるほど、あえて無防備にしていると?』
『あり得ると思うわ』
あの魔法は強制転移魔法としてはかなり稚拙な出来だったが……油断を誘う為ならば納得出来る。
相手は最低でも「魔法の構成から転移先の世界を探し出せる」程度の実力がある者に来て欲しいと考えているのかも知れない。
もしこの考えが正しければ、あの転移魔法は「一定の条件を満たした者を他の世界から強制転移させ隷属させる」という効果以外に「魔法に残された情報から転移先の世界へ来られるだけの実力持つ者を誘い込む」という目的もあったのかも知れない。
『転移先には慎重に侵入する事にする』
出来るだけ気が付かれないように転移する事にしよう。
あの魔法では相手の実力を測る事が出来ないからな。
本当に実力が低いのなら特に問題は無い。
しかし、そうでない可能性がある。
大きく動く前に情報を集めておいた方が良いだろう。
『そうね……その方がいいわ。魔法を使用した相手が何らかの準備をして待ち受けている可能性もあるもの』
カミラも賛成の様だ。
『私が向こうにいる間にこちらで何かあった時は念話してくれ。通常の念話が使えない場合は、私の構成物を通して念話しろ』
『分かったわ、すぐに行くの?』
『この後、千穂達と話してから行くつもりだ。娘達への連絡はカミラに任せる』
『分かったわ。でも……場所を特定して転移で行き来が出来る様になったら、他の世界でもただの外出とあまり変わらないわよね?』
『確かにそうだな』
『ふふっ、気を付けてねお母様……行ってらっしゃい』
カミラは少し笑うと、いつもの様に言葉をかけて来る。
『行って来る』
私は返事をし念話を切る。
そして皆を集めた。
「クレリアちゃん。もしかして、召喚の事で何かあったの……?」
話があると皆を集め、全員が揃うと、美琴が不安そうに聞いて来る。
「いや、それはもう問題無い。ただ、これから私が行う事について一応当事者のお前達には話しておこうと思ってな」
「何をするの?」
「私は今からあの強制召喚魔法の召喚先が存在する世界へ行く」
私の言葉に、子供達の表情が驚きに変わる。
「……何しに行くの?」
一方、付き合いの長い千穂達はそれほど動じる事は無く、すぐに質問してくる。
「少し話をしようと思っている」
地球を転移対象から除外するのなら、話だけで終わらせても良い。
断ったり、私に何かするようならばそれなりの対応をするつもりだ。
相手の出方次第だな。
「すげぇ!本当に異世界に行くのか!」
突然健太が声を上げ、目を輝かせた。
「健太……あんた、行きたいとか考えてないわよね?」
「何考えてるの!?お姉ちゃんが居なかったら誘拐されて奴隷にされてたんだよ!?」
美琴が低い声で問いかけ、葉子が声を荒らげた。
「待てって!?別に行きたい訳じゃ無いから!」
二人からの圧に、彼は慌てて否定した。
「絶対にクレリアちゃんに頼んだりしちゃ駄目よ!?」
「……お願いだから、いきなり居なくならないでよ?」
二人の言葉を聞いた彼は、頭を掻きながら言う。
「姉貴の説明を聞いた後で行く気になる訳無いだろ……皆とも別れる事になるし……」
流石に、彼も他者を誘拐し奴隷にする様な世界には行きたくない様だ。
何より、家族や葉子と離れたくないらしい。
「たださ……姉貴に魔法があると教えられて、異世界があると知って『本当に行けるんだ』って思ったら……テンションが上がったって言うか……」
行きたくは無いが興味はある、という事だろうか。
「お袋や葉子は分かんねぇかもしれないけど……千穂おばさんなら分かるだろ?」
健太は言葉に詰まり、千穂に話を振る。
「分かるわ、きっと美琴も分かってるよ」
「ちょっと千穂……」
「昔、クレリアちゃんから色々と話を聞いた時……美琴は一度もワクワクしなかった?」
美琴は千穂を止めようと口を開くが、続く言葉を聞いて黙り込み……溜息をついて口を開く。
「……ワクワクしてたわね」
「でしょー?」
千穂はそう言って笑う。
「……でも、危険な事に自分から飛び込むような事はしないで?」
そう言いながら、美琴は健太の頬に手を当てる。
「そんな事する気は無いけど……」
「けど?」
「どうしても見過ごせない理由があったら飛び込むかもしれない」
真剣な表情でそう言う健太は、太一によく似ていた。
恐らく美琴も同じ様に感じた筈だ。
「……貴方が心からそう思った時は……そうしなさい」
息子の顔を見た美琴は一瞬息を呑んだ後、微笑みを浮かべて言う。
その時私が感じた彼女の感情は、嬉しさと悲しさが混じった物だった。
「うん……我が子ながら良い男に育ったな……それにしても、俺達の妻は色々と強いと思わないか?」
「そうだね……昔からクレリアちゃんと一緒に過ごしていたから、かな?」
全く会話に入る事の無かった良平と太一は、妻と子供達のやり取りを見守りながら二人で会話していた。
少し話が長引いたが、そろそろ転移しよう。
「話は終わりだ、私は向こうの世界に行く」
私がそう言うと、全員が私に注目した。
「この事はカミラさん達は知ってるの?」
「もう話してある」
「そう」
私は美琴にそう答え、転移をしようとする。
「気を付けてね」
「勿論だ」
私は千穂の言葉に答え、目的の世界へと転移した。