私は無力化した彼らに近づく。
彼らの感情は変わる事は無く、ずっと私に強い敵意と殺意を向けている。
この状態で話し合いは出来るのだろうか。
「色々とこの世界の事を聞かせて欲しい」
そう言って一人の男に目を向ける。
男は殺意を隠そうともせず私を睨みつけて来る。
なぜここまで敵意を向けられているのだろうか。
「何故私にここまで敵意を向ける?」
問いかけてみるが、彼らは黙ったままだ。
私の言葉に反応して変化する彼らの感情を見る限り、言葉は通じていると思う。
だが、彼らは私と話す気が無い様だ。
こういった状況になった時、大抵の場合は拷問を行って情報を聞き出すのだろうが……私には対象を傷付けず情報を得る方法があるからな。
私は黙ったままこちらを睨む彼らの知識を深く探って行く。
この方法は対象を傷付けないが、本当に何も出来ないのかと言えばそうではない。
安全と言えるのは私に十分な実力があり、傷付ける気が無いからだ。
本来ならば色々と行う事も出来るという事だな。
その為、一定以上の実力を持たない者が同じ事をした場合は安全とは言い難く、相手の精神に望まない影響を与えたり、場合によっては破壊してしまう可能性がある。
他者がこの方法に手を出そうとした場合、私は使用する前に十分に実力を付ける事を薦めるだろう。
こうして色々と考えている間も、私は役に立ちそうな情報を探す。
……彼らは魔竺(まじく)族というのか。
なるほどな……。
私にここまで敵意があるのは、彼らが自分達以外の種族を認めておらず、すべて排除するべき敵だと考えているからか。
彼らは魔神の僕として全員が平等であるという考えを持ち、敵対する聖朱族と長年争い続けている様だ。
魔法を使う際に彼らが体から放っていた黒い光は「魔力紋」と呼ばれ、使い手が強力であればあるほど強く大きな光を放つ、という事らしい。
私には本来戦闘に回すべき魔力を意味も無く放射して捨てている様にしか見えなかったが、何か意味があるのだろうか。
何か譲れない理由があるのなら止めないが、出来ればやめた方が良いと思う。
気になっていた魔竺族の独特な詠唱は、特殊な声帯を持っている彼ら独自の物で、魔法の威力を二倍にまで上昇させるか二連続で発動するかを選べるが、二連続の場合は同じ魔法のみ可能で別々の魔法は不可能な様だ。
他にも棄獣(きじゅう)と呼ばれる召喚した異世界人を使った兵器の事や聖朱族が用いる廃器(はいき)という存在。
この世界がドーンラグルと呼ばれている事や二種族が大陸を二分し、国境での争いが絶え無い事、現在も大規模な戦争が行われている事、戦士と衛士という役割の違いなどが分かった。
そして肝心の召喚魔法についてだが、彼らの種族も敵対種族である聖朱族も他の世界から戦争の道具として異世界の知的生命体を集めているという。
自分達に服従するのなら、他種族を「道具」として許容出来るのだろうか?
彼らはそれ以上役に立ちそうな情報を持っていなかったが、手掛かりはあった。
どうやら魔竺族の召喚は魔法に長けた者達が「スピナウ」という都市で行っているらしい。
都市の場所も分かったが、それ以上有用そうな情報は無かった。
「ありがとう、十分に情報は得られた」
彼らは私の言葉に眉をひそめたが、その直後に全員消滅した。
この世界で初めて出会った知的生命体である魔竺族から情報を得た私は、彼等を処分してスピナウへと向かっている。
彼らに見つかるとほぼ確実に敵対する事が分かった。
認識阻害は有効だったため、以後は認識阻害を使用したまま空を飛ぶ事にする。
はっきりと覚えていないが、初めて会う種族に何事も無く受け入れられる事はあまり無かった気がする。
初めて会った相手に警戒するなとは言わないが、戦う事無く友好を結べる様な種がもっと居ても良いと思う。
しかし、私は何処かで戦いを避ける事はあまり出来ないのだろう、とも感じている。
それは力が他者との関係を決める最も簡単な方法だと感じているからだ。
……こういう事を考えているから娘達から色々と言われるのだろうか。
そう思いながら、私はドーンラグルの地を見渡した。
眼下に広がる広大な森、高い山、大きな川……こうして上空から世界を見ていると、かつてのイシリスを思い出す。
やはり生命体が少なく感じるが、これから増えるのかも知れない。
確か、私が魔法人類に出会う前もこの様な環境だった筈だ。
この先、魔竺族と聖朱族がどう動くかは分からないが、何事もなければやがて生命が溢れる世界になるのではないだろうか。
しばらく飛んでいると、遠くに目的地が見えて来た。
得た情報が正しければあの都市がスピナウだろう。
都市の上空へ到着した私は、眼下に広がる町並みを見る。
石で出来ている建物が並び、建物は高くても三階建て程度の物だ。
ほぼ円状の都市を東西南北に伸びた大通りが分割している。
上から見ると、円の中央を通して十字に線を引いている様な状態だな。
じっくりと町並みを眺めていると、ふと気が付く。
城の様な、目を引く変わった建物が全く見当たらない。
今までどの種族の文明にもそういった建物があったのだが、彼らの都市には無いのだろうか。
そこまで考えた時、私は彼らは魔神の僕として平等、という情報を思い出す。
彼らの社会には王や貴族といった「身分」が存在しないのかも知れない。
私は現在、認識阻害を維持したまま都市に入り込んでいる。
都市に住んでいる彼らの様子は普通だ。
魔法人類や人類等と特に変わらず、語り合い、笑いながら暮らしていた。
実際に生活する魔竺族を見ていて分かった事は、彼等が仲間に対しては異常に寛容だという事だ。
私が今まで見て来た種族は、同種族であっても大なり小なり衝突があった。
だが、彼らにはそれが全く無い。
表面上は普通に会話し、軽口も言っているのだが諍いは全く起こらず、外部から都市を守る兵らしき者達は居ても都市内部に兵らしき者はいない。
そういった種族だ、と言ってしまえばそれまでだが……どこか違和感を感じる。
「お前、どっちに配属になった?」
「戦士になったよ」
私の耳に、二人の魔竺族の会話が入ってくる。
一人は若く、もう一人はそれなりに年を取っている様だ。
「そうか……そうなると衛士の俺とはあまり会えなくなるな」
「そうだな、訓練を終えたら初任務に行くからもう会えないかもな」
「都市の事は任せろ、安心して戦ってくれ」
「おう、任せたぜ。俺は奴らを殺して殺して殺しまくって来るからさ!」
「お前ならやれる!死にかけても道連れにしてやれ!」
「任せとけ!一人でも多く殺してやるよ!」
明るい声で話していた二人は、笑い合いながらその場を離れて行く。
情報にあった戦士と衛士の話をしていたな。
明らかに年上に見える男と恐らく新兵である若者の間にもあるのは仲間意識だけで、特に上下関係があるようには見えない。
やはり身分差は無さそうだ。
更に、先の戦闘で好戦的な者が多いのではないかと思っていたのが、どうやら種族全体が好戦的な様だ。
侵入してからこうして複数の会話に聞き耳を立てていたのだが、どうやら彼等は知的生命体としてかなり珍しい部類の特徴がある。
その特徴とは「死に対して何も感じていない」という事だ。
地球の生命体は基本的に命の危機に敏感だ、可能な限り死を遠ざけ回避しようとする。
例外もいるが、それは全体から見れば極僅かしか居ない。
かつて地球には命を懸けて戦う事に価値を感じ、嬉々として戦う部族がいた。
だが彼等は死を理解し、命を称え、その上で全てをかけて戦っていた。
そして、その部族の中にも戦いに価値を感じない者達が一定数存在していた。
だが、この魔竺族は彼等とは違う。
誰一人死を気にしておらず、長い間聖朱族と争っている明確な理由を誰も知らないまま戦っている。
更に、これはまだ私が見つけていないだけかも知れないが……例外が存在しない。
私が見て来た地球の生命達は多種多様な複雑さを持ち、様々な例外が存在し、予想の出来ない変化をしていた。
そちらを見慣れているせいか、私には彼らが規格製造された量産品の様に見える。
この世界の生命はこの様な物なのだろうか?