書き溜めが増えたらまた増やします。
その後も私は都市内を歩き回り情報を集めた。
ある程度集めると得られる情報は同じような物となり、目新しさが無くなって行く。
そこで情報取集を一時中止し、実際に召喚魔法を使った魔竺族の魔法使いを探して接触する事にした。
私は知覚を広げ、高い魔力を持つ者を探る。
魔竺族の中で魔法に長けた者達が魔法を行使しているらしいので、すぐに見つかるだろう。
……いないな。
あれから私は知覚を広げて魔竺族の魔法使いを探しているのだが……高い魔力を持つ者が見つからない。
他の者達より多少魔力が高い者達はいたが……恐らく彼等では無い。
あの程度で「魔法に長けた」と表現される事は無いと思う。
仮に彼らが情報にあった魔法に長けた者達であった場合、疑問が生まれる。
あの召喚魔法は稚拙であったが、それでも他の世界から対象を強制的に転移させ隷属出来るように構成されていた。
今まで見て来た魔竺族が、あの召喚魔法を行使出来るとは思えない。
しかし実際に召喚が行われている以上、使用した者が居る筈だ。
ここに居ないのであれば別の場所に居るか、あるいは既に死んでいるのかも知れない。
他にも、私の知覚を欺ける実力者が紛れている可能性もある。
そう考えながら探し続けていると、珍しい状態の魂を見つけた。
……複数の魂と意識が一つの肉体に宿っている。
どうやら肉体がかなり弄られている様で、数も多い。
地球では見た事の無い状態だ、中々興味深いな。
捜索の途中だが……直接見てみよう。
私は高魔力保持者の捜索を中断し、発見し興味を持った珍しい状態の生命体に会いに来た。
知覚によって同じ状態の個体が多くいる事は分かっているが、まともな状態の精神が宿っている個体は非常に少ないな。
対象の状態を確認しながら格納庫の様な場所に入ると、並べられた彼ら、彼女らが目に入る。
魔竺族がいない事は確認している、恐らくここは保管庫なのだろう。
見た目は創作に出て来る魔物や魔獣の様な印象を受ける姿だが、大きさも形もそれぞれ全く違う。
私はその中で見つけた自我を維持している「彼等」に近寄った。
……一体どれだけ時間が経っているのだろう……。
学園にいた俺は突然光に包まれ、目が覚めたら異世界だった。
夢のような状況に喜んだが、それは僅かな時間だけ。
俺はすぐに奴隷にされ、戦いを強制されて生き抜く為に戦い続ける道具にされた……。
腕が四本生えた人間の様な相手を……殺して、殺して、殺して……殺し続けた。
自殺する事も出来ず心をすり減らしながらも戦い続けていられたのは、同じ境遇に陥った三人の仲間が居たからだ。
戦いで死のうと考えた時も、皆を残して逝けないと踏みとどまれた。
いつか戦いが終われば……そんな事を何処かで考えてもいた。
だけど……いつまでも戦いは終わらず、道具として殺し合う日々が続き……その日がやって来た。
……あの日。
俺達の人としての最後の日……前日に二人の仲間が戦えなくなり何処かに連れて行かれ、俺達も状態は最悪だった。
敗走し、瀕死の友人を抱えて戻った俺が意識を失う直前に聞いた言葉は「もう使えん、棄獣に回せ」だった。
そして……気が付いた時はこの体だった。
意識はあるけどこの体は言葉を話せない。
こんな事になった俺の唯一の救いは、共に戦った仲間の意識もこの体の中にある事だ。
異世界だからな……そんな事も出来るんだろう……。
『一(はじめ)?大丈夫?』
俺の意識が乱れているのを感じたのか、エリノーラが心配してくれる。
『俺達は変わってやれないからな、何でも話してくれ』
『そうね、内側から二人を出来る限り助けるわ』
ハオとヌヌも言葉をかけてくれた。
『大丈夫だよ、今更何があったってどうって事は無いさ』
『そう……今更強がったりしないと思うけど、疲れたら無理しないで代わってね?』
エリノーラが優しい声でそう言ってくれる。
『ありがとう』
弱さや格好悪い所なら、こうなる前にお互いに嫌という程見せあった。
俺達に壁なんて一切無い、今では同じ体に居るしな……。
この体が滅びれば、きっと他の皆も今度こそ死ぬだろう。
絶対に生き残る。
そう心に決め、俺は……俺達は今も生きている。
ふむ……男女二人ずつ、合計四人の魂と精神が存在しているな。
元は個別の人間の様な知的生命体だった様だ。
あの魔法で召喚されたのだろう。
私は宿っている魂と精神を確認しながら、内部で会話している彼等に近づく。
そして、静かに話しかけた。
「聞こえるか?」
肉体は全く反応しなかったが、宿っている彼等の精神が反応した。
耳は普通に聞こえる様だ。
『誰かいる!』
『私にも聞こえた!』
『誰だ?魔竺族じゃないよな?』
『あいつ等はこんな事しないものね』
『誰だっていい、あいつ等より悪い事なんてそう無いだろ』
『そうね……それより、何とか反応を返したいけど……』
『無理だ……この体は声も出ないし、命令が無いと自由に動かせもしない』
『せっかくあいつら以外の誰かがいるのに……!』
彼等が騒いでいる、声が違うのは肉体があった頃の影響を受けているからだろう。
しかし、その方が分かりやすくていい。
取り敢えず聞こえている事を伝えておこう。
「お前達の会話は聞こえている」
『聞こえているの!?』
私の言葉に女性が反応する。
『……お前は誰だ?名前は何だ?』
彼等の中の一人が警戒するように問いかけて来た。
この世界で色々と経験したのだろう、すぐに混乱は無くなり全員が落ち着いている。
「私はクレリア・アーティアという」
『お……おう、ありがとう』
「何故動揺する」
『いや……素直に答えてくれるとは思ってなかった』
「こちらの世界ではわざわざ隠す必要は無いからな」
『こちらの世界……?あんた!別な世界から来たのか!?』
『ちょっとハオ、先ずはこっちも自己紹介しなきゃ。向こうはしっかり答えてくれたのよ?』
大声を上げる男性を諭す女性。
『悪い……自己紹介するよ』
こうして四人は自己紹介を始めた。
私は自分の事を別世界の魔法使いだと説明し、彼等の事を聞いた。
最初に会話していたのは東山 一(とうやま はじめ)とエリノーラ。
私が会話を聞ける事に驚きの声を上げたのがヌヌ・ラ・レスデル、私の名前を聞いて来たのはリン・ハオユーというらしい。
この状態になる前、東山とリンは男性でエリノーラとヌヌは女性だったという。
出身を聞くと、東山は西阿須(にしあず)国。
エリノーラはマニサル。
リンはツィツィー。
ヌヌはジャフレ・ラ・デラの住人らしい。
すべて聞いた事が無い名だ。
それぞれ違う世界から誘拐されたのだろうな。
彼等が誘拐された他世界の住人だという事は会話の内容からも明らかだったが、魂を見れば更に良く分かる。
同じ世界で生まれた魂は基礎構造が同じである、そう私は判断している。
多少他の部分が変質する事もあるが、同じ世界で生まれた魂の基礎が変化した例は見た事が無い。
その為、私は今の所、「同世界で生まれた魂の基礎は全て同じ物となる」と考えている。
四人の魂はそれぞれ基礎が違い、そのどれもがこの世界の生命体と一致しなかった。
彼等はそれぞれ別の世界から来たと考えて問題無いだろう。
「東山が主人格か」
『ああ、俺が一番適性があったんだと思う』
自己紹介を終えた後、私は彼等に現在の状態を聞いていた。
『そして、私が副人格よ。一が辛い時は、一時的に私がこの体を動かしているわ』
『俺とヌヌは残念ながら体を動かす事が出来ない……出来てりゃこの二人だけに辛い思いをさせなくて済んだのによ……!』
『そうね……』
暗い声をだすリンとヌヌに東山とエリノーラが声をかける。
『二人が……皆が居てくれるから俺は戦えてるんだ。エリノーラだってそうさ』
『そうです、皆で生き抜くって誓ったでしょう?』
『おう……最後まであがいてやろうぜ』
『私も諦める気なんて無いわよ』
彼等の感情には憎しみと怒りが満ちているが、それ以上に生き抜くという強い意志を感じる。
これ程の意思を持つ者は珍しい。
きっと最初は脆く、幾度も壊れかけただろう。
その度に支え合い、乗り越え……強靭な精神を作り上げた。
もし、彼等の内の誰かが欠けていたなら、こうはいかなかったかも知れない。
『あの……クレリアさんは他の世界の魔法使いなんですよね?』
内心で色々と考えているとエリノーラが問いかけて来る。
「そうだ」
『どうしてこの世界に来たんですか?あっ……無理に聞く気は無いです。もし良ければ聞きたいな、と……』
慌てて言い訳をするエリノーラ。
話しても構わないか。
「私の友人の息子がお前達のように召喚されそうになってな。文句を言いに来た」
『あれを防いだんですか!?』
「ある程度知識と技術があれば対抗手段はある」
『こちらで過ごす内に魔法の事も知りましたけど……あれってかなりの大魔法ですよね?確か……そう!私達が誘拐されてこちらに来た時、周りに沢山それらしい人が居ましたし、一人では難しいのではないでしょうか……?』
複数の魔竺族……。
「それは間違い無いか?」
『はい。後、全員疲弊している様に見えました。その後の出来事でそれ所じゃなくなって、今まで気にもしていなかったんですけど……』
『ああ、そう言えば……俺も覚えてるよ。間違い無い筈だぜ』
リンもエリノーラの言葉に同意する。
大人数で行う……。
そうか、儀式魔法の様な物か。
……儀式魔法の事などすっかり忘れていた。
私は高い魔力を持つ個体を探していたが、もしそうであるなら話が変わる。
魔力の大小と魔法技術は別の物だ。
人数を揃えたり、道具や設備などで魔力を確保するなら個人に高い魔力は必要無い。
彼等の情報に在った「魔法に長けた者」とは魔力が高い者では無く、魔法技術が高い者という意味だったのかも知れない。
これは儀式魔法の事を失念し「魔法に長けた者」を魔力が高い者であると勝手に思い込んだ私の落ち度だ。
「ありがとう、助かった」
『どういたしまして?』
礼を言った私に不思議そうに返事をするエリノーラ。
気付かせてくれたエリノーラに感謝しよう。
ふむ……言葉で感謝するだけでは足りないか。
『ずっと黙ってるけど、どうかしたの?』
黙っている私を気にしてヌヌが言葉をかけて来る。
「エリノーラの話で思い出した事が役に立ちそうだ。ありがとう」
『それは良かったわ』
私の言葉にエリノーラは嬉しそうに答えた。
「本人が思っている以上に役に立った。礼として何でも、とはいかないが私に可能な範囲で望みを叶えるが、どうだ?」
『望みって言われても、私達はこんなだからね……その気持ちだけで嬉しいわ……』
悲しそうに言う彼女。
そこで私は実現可能な事の中で、彼等が一番望みそうな内容を口にする。
「例えば……四人を以前の姿に戻し、誘拐された直後の元の世界に送る事も可能だぞ?」
『え……?』
エリノーラと他三人の声が重なった。