少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 今回は少し短いです。

 他者視点があります。





087-07

 ドーラに様々な技術の基礎と知識を教えながら過ごし、初めてこちらに来てから二年程が過ぎた。

 

 地球の友人達の事を気にしていたからこの程度で済んだが、以前の私なら数千年、数万年は過ぎていてもおかしくはなかったと思う。

 

 そう考えると、私も成長……と言って良いのかは分からないが、変わっているのだろう。

 

 ドーラの周囲に作った地球の環境を再現した空間もすっかり定着し、彼は私が作った台座に乗ったまま日々を過ごしている。

 

 そして知識と技術を教える合間に私は彼に許可を取り、彼の体を調べたりもしていた。

 

 その結果、彼の体は見た事の無い魔法金属と魔素が結合した物で魔力より魔素の割合が多く、初めて見る構成をしている事が判明する。

 

 更に、彼は大きさの割にかなり重い。

 

 私に会う以前、彼は環境に関係なく自力で浮いていた為、彼自身に自覚は全くなかった様だ。

 

 台座に彼が初めて乗った際、台座が重量に耐えきれず圧壊しそうになり、即座に私が補強した事は記憶に新しい。

 

 ここまで調べた結果から、彼の体は液体魔素重金属生命体……と言える様な物であると判断した。

 

 もっと時間をかければ色々と分かるかも知れないが、私はこの二年間で満足している。

 

 またいつか気が向いた時に調べさせて貰おう。

 

 『クレリアー!来て!こんなの作ってみた!』

 

 私が色々な事を考えながら飲み物を飲んでいると、そんな声が聞こえて来た。

 

 「今度は何を作った?」

 

 彼の所へ行き声をかけると、空中に小さい半透明な塊が浮いていた。

 

 「これは何だ?」

 

 『粘液生命体!』

 

 なるほど、スライムの様な物か。

 

 『これくらい単純な物の方が安定するから作ったんだけど……何か僕に似てるよね?』

 

 「近いかも知れないな」

 

 液体に近く不定形な部分は近いと思う。

 

 色と持つ力は全く違うが。

 

 そう思いながら彼に教え始めた二年前を思い出す。

 

 最初の頃、彼の作り出した生命体は形にもならなかった。

 

 しばらく後、それらしい単純な生命体にはなった物の、数秒後に溶けて汁になった。

 

 次は、時間経過で体が少しずつ崩れて消えた。

 

 増殖出来ずに全滅してしまったりもした。

 

 それから約二年が経過した現在、彼は安定した生命体を作れるようになっている。

 

 私の技術と知識を教えているとはいえ、約二年でここまで出来た彼は覚えが早いと言えるかも知れない。

 

 掌の世界を使えば短時間で全てを教える事も出来たのだが……結局は使わなかった。

 

 理由は彼にある。

 

 私に教えを受けている間に、彼は試行錯誤する事に楽しみを見出した。

 

 彼は私の教えを受けながら『あの二人を作ろうと試行錯誤していた時も楽しかったのかもしれない』と言った事があったのだが、それは間違いでは無かったらしい。

 

 そして途中で掌の世界を思い出した私が彼に説明した時、彼は使用を拒否し、私はその言葉を聞き入れた。

 

 彼から楽しみを奪う気など無かったからだ。

 

 そんな事を思い出していると、浮いているスライムが体をこちらに伸ばしていた。

 

 私を捕食しようとしているのだろうか。

 

 『あっ……こら!クレリアを食べようとしてるでしょ!?』

 

 彼がそう言うと、スライムの体が球体に戻る。

 

 強引に戻された様だ。

 

 丸くされたスライムの体の中に、僅かに色合いの違う球体が浮いている。

 

 恐らくあれがスライムの核だろうな。

 

 「これをばら撒くのか?」

 

 『うん、まずはこれで試すつもり』

 

 私は会話しつつ、スライムを調べる。

 

 「ふむ……問題は無さそうだ。魂は無いが、上手く行けば進化の過程で自然と生まれるだろう」

 

 『魂の扱いは今も全く理解出来ないんだけど……。僕が作った魔神と聖神はちょっとだけ出来てたのに……あいつ等のそこだけは凄かったと思ってる』

 

 彼のその言葉を聞いて、既に消えたあの二人を思い返す。

 

 聞くのを忘れたまま処分してしまったが、魂を扱っていたのはあの二人らしい。

 

 ドーラが見ていたと教えてくれた。

 

 少し彼に魂の扱いを教えてみたのだが、あの二人への評価が一部変わる程度には難しかった様だ。

 

 娘達もドーラも、魂を扱う感覚が分からないと言っている。

 

 扱える者と扱えない者の違いは何処にあるだろうか。

 

 そんな事を考えた後、私は彼との会話に戻り尋ねた。

 

 「今地上にいる種族はどうするつもりだ?」

 

 『何もしないよ?放って置けばそのうち滅ぶでしょ』

 

 「そうか」

 

 必要無いと即座に処分されるよりは良いのかも知れない。

 

 さて……彼の最初の生命体も決まった様だし、私は地球に帰ろう。

 

 「ドーラ、私は向こうに帰ろうと思う」

 

 『……うん』

 

 寂しそうな声を出すが、これは彼も納得した事だ。

 

 こちらで長い時間を過ごす気は無い、向こうにも友人が居るからな。

 

 百年程の寿命しかない友人達だ、もう少し共に居ようと考えている。

 

 「いつになるかは分からないが、また様子を見に来るつもりだ」

 

 『あんまり遅くならないでよ?僕だっていつまでこのままで居られるか分からないんだから』

 

 少し不貞腐れた様な声で言うドーラ。

 

 本来、彼はここに留まる事無く何処かへ行く事も出来る。

 

 本人はその事を全く考えていなかった様で、私に指摘された時は恥ずかしそうに表面を波打たせて震えていたが。

 

 その辺りは気を付けておこう。

 

 あまり長い間放って置くといつの間にか惑星ドーンラグルが消滅していて、ドーラも寿命が尽きているか何処かへ消えている……などという状況になるかも知れない。

 

 「生命の進化が上手く行けば、私がいない事など気にならなくなるかも知れないぞ?」

 

 『どうかなぁ?それとこれとは別な気がするけど……』

 

 彼から離れたくないという気配を感じる。

 

 「どうなるかはいずれ分かる」

 

 『そうだね。じゃあ……またね?』

 

 「またな」

 

 私はそう答え、月へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 「向こうで判断すると良い」

 

 そう彼女が言った直後、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 「……うや……ま……」

 

 誰だ……うるさいな……。

 

 「おい!東山!」

 

 「っ!?」

 

 はっきりと聞こえたその声に飛び起き、俺は周囲を見る。

 

 呆れた目をする女子と苦笑いを浮かべる友人達が見えた。

 

 「東山……随分と疲れているようだな?ん?」

 

 すぐ隣で俺を見て微笑む先生。

 

 笑ってるけど、怒ってるのが分かった。

 

 「あっ……いえ、すいません……」

 

 そんな先生に、混乱しながらも素直に謝る。

 

 周囲から小さく笑い声が聞こえた。

 

 「次寝たら反省文だぞー」

 

 そう言いながら先生は離れ、授業が再開された。

 

 だけど授業など全く頭に入らない。

 

 授業を聞くふりをしたまま、俺はずっと自分の体験を思い返していた。

 

 あれは夢だったのか……?

 

 違う……あれは間違い無く現実だった……。

 

 初めて敵を殺した時の手ごたえ、血の匂い、断末魔。

 

 刺された時の衝撃と激痛……仲間が瀕死になった時の悲しみ。

 

 俺達を道具のように扱う奴等に感じた怒りと憎しみ。

 

 仲間達と過ごす、僅かな安らぎ。

 

 そして、俺達が出会った……異世界の魔法使い。

 

 全て……現実だ。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 久しぶりに見る友人達の誘いを断り、俺は一目散に自宅へ帰った。

 

 「ただいま!」

 

 そう叫んでリビングに向かうと、もう会えないと思っていた母と妹が居た。

 

 「お帰りなさい」

 

 「おにいお帰りー」

 

 変わらない二人がこちらを見ている。

 

 俺は涙をこらえる事が出来なかった。

 

 「ちょっと?どうしたの?」

 

 「え!?おにい何で泣いてんの!?ちょっ……やめろー!?」

 

 泣きながら二人を抱きしめる俺。

 

 不思議そうにしながらも逃げる事無く頭を撫でてくれる母と、嫌がって暴れる妹。

 

 退屈だと感じていた平和な日々が、どれだけ素晴らしい物だったのかを思い知った。

 

 

 

 

 

 

 母と妹に本気で心配され誤魔化した後、自分の部屋のベッドに寝転がる。

 

 ……このベッド、こんなに気持ち良かったかな。

 

 あまりの心地よさにすぐに眠気が襲って来る。

 

 そんな中、思い出すのは……彼女の事。

 

 声からすると少女だと思う。

 

 でも、今はそんな事どうでも良い。

 

 「本当だった……」

 

 俺はそう呟く。

 

 正直、疑っていた、出来る訳が無いと諦めていた。

 

 それでも何処か……期待していた。

 

 ……向こうで判断すると良い、か。

 

 彼女の最後の言葉はハッキリと耳に残っている。

 

 俺がこうなっているのなら……皆もきっと同じ筈。

 

 閉じた眼から涙が再び溢れて来る。

 

 「クレリアさん……」

 

 薄暗い部屋で言葉を口にする。

 

 「貴女の言った事は本当でした。もう、届かないけど……俺達を救ってくれて、ありがとう」

 

 涙声で酷い声ではあったけど、彼女にそう感謝を告げて……俺は安らかな眠りに落ちて行く。

 

 眠りに落ちる直前、彼女の「気にするな」という声が聞こえた気がした。

 

 

 




 代表で東山君の様子を書きました。

 残りの三人も似たような感じで救われております。

 惑星ドーンラグルに召喚された他の多くの異世界人はそのままです。

 四人は帰って来た喜びで考えていませんが、落ち着いた後に誘拐された他の者達の無事を祈るでしょう。



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