少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 私が月の世界樹の前に転移すると、すぐにのんびりとした世界樹の声が聞こえる。

 

 『お、帰って来た。おかえりー』

 

 「ただいま、お前は変わり無いか?」

 

 『特に無いかなー』

 

 「そうか、それなら良い」

 

 私は世界樹と会話しながら家へ歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 「お帰りなさいませ、主様」

 

 家に到着すると、侍女隊の者が全員待機していた。

 

 世界樹が知らせたのかも知れないな。

 

 「ただいま、皆元気か?」

 

 「問題無く過ごしております」

 

 「そうか」

 

 会話をしながら談話室へ向かうと、カミラが待っていた。

 

 「お帰りなさい、お母様」

 

 「ただいま」

 

 二年など私達にとっては長い時間では無い。

 

 私を迎えようという気持ちも勿論あるだろうが、恐らく向こうで何があったかが気になるのだろう。

 

 「あっちで何があったか聞かせて欲しいわ」

 

 そう言う彼女の目は、少し楽しそうに見えた。

 

 「構わないが、少しだけ待ってくれ。やっておきたい事がある」

 

 私はカミラの言葉に答えながらソファに座る。

 

 「分かったわ」

 

 そう言って飲み物を飲み始める彼女を横目に、私は向こうで元の世界に戻した4人の確認を行う。

 

 4人の位置は既に把握しているから簡単だ。

 

 問題は無いだろうが、礼だというのに失敗していたら話にならないからな。

 

 私は少し時間を飛ばしながら全員の様子を確認したが、問題無く戻っている。

 

 4人とも私に対する礼を口にしていたので、全員に「気にするな」と言っておいた。

 

 恐らく、この先彼らと出会う事は無いだろう。

 

 そう思いつつ確認を終える。

 

 「待たせたな、向こうでの話をしよう」

 

 そう言ってカミラに目を向ける。

 

 「楽しみだわ」

 

 すると彼女は嬉しそうに微笑んで言った。

 

 

 

 

 

 

 「魔竺族と聖朱族、そして魔神と聖神……ね」

 

 ある程度話して一息つくと、カミラが呟く。

 

 「早い段階で違和感を感じてはいたが、彼等は作られた者達だ。作った存在にも会って来た」

 

 「聞いた感じでは作られた者達はかなり弱いみたいだけど、作れるだけでも凄いわね。それで……作った存在は何処に居て、どんな奴だったの?」

 

 カミラは楽しそうだ。

 

 「惑星ドーンラグルの周囲を回っている月の様な小さな衛星があったのだが、その中に隠れていた。ソフトボール大の球体の……液体魔素重金属生命体、とでも言える様な存在だったな」

 

 「お母様を知っているから、その程度じゃ驚かないわね」

 

 「そうだな。しかし、彼は今までの知的生命体とは少し違った」

 

 「何か特殊な能力でもあったの?」

 

 「彼は私の知覚と似た様な力を使い、少ないが魔力を生み出す事が出来る」

 

 「お母様と似た力を持ってるの!?」

 

 カミラが珍しく僅かに声を大きくする。

 

 私の特性に近い力を持つ存在が見つかった事に驚いたようだ。

 

 「更に、彼……ドーラと名づけたが、ドーラは魔法の技術も知識もほとんど持っていなかった」

 

 「え……?ちょっと待って?そのドーラが魔神と聖神を作ったのよね?」

 

 「それは間違い無いだろう。彼が二人の行動を制限していたし、嘘もついていなかった」

 

 「知識も技術も殆ど無いのにどうやったの?」

 

 「試行錯誤を繰り返し形にしたそうだ」

 

 「……凄いわね」

 

 先程「作れるだけでも凄い」と発言した彼女。

 

 だが、彼が僅かな知識と技術で魔神と聖神を作り出した事を知り、漏らした言葉は先程とは重さが違うように感じられた。

 

 「それだけでは無い。初めて接触した際に、彼は恐怖から力を解放し周囲を消し飛ばそうとした」

 

 「彼自身もかなり強いという事ね?」

 

 「そうだ。魔力量とあの時の力を見る限り……能力だけならカミラより上だと思う」

 

 「そう、私よりも……」

 

 カミラは俯き何かを考えている様だが、悲観的になっている訳では無さそうだ。

 

 「ただ、彼は戦った事が無いらしい」

 

 私がそう言うと、彼女がこちらを向いて話し出す。

 

 「はぁ……私もまだまだね。お母様に育てられて強くなったけれど、生まれつき強い存在がいる可能性を忘れていたわ」

 

 そう言った後、彼女は頬杖をついた。

 

 「カミラよりも上と言ったが、彼は戦闘に関する知識と技術は勿論、経験もカミラに遠く及ばない。実際に戦えばカミラが負ける事は恐らく無いと思う。今後ドーラが知識と経験を積めばどうなるかは分からないが」

 

 「訓練の時間を増やす事にしたわ、出来ればお母様に相手をして欲しいのだけど」

 

 そう言って私を見るカミラ。

 

 最近落ち着いていたが、また火がついたか。

 

 「分かった。可能な時は付き合おう」

 

 「じゃあ早速……!」

 

 「まず千穂達に話をしてからだ」

 

 私は彼女の言葉を遮って言う。

 

 「……そうね。当事者だしきっと気になっていると思うわ」

 

 表情は変わらないが、何か違和感を感じる。

 

 子供の頃の様な反応をしてしまった事が恥ずかしいのかも知れない。

 

 「全員に一度で説明する為に時間を合わせて貰おう」

 

 そう言ってマジックボックスからスマートフォンを取り出した私は、千穂に電話をかける。

 

 「マジックボックスにスマートフォンを入れたら、持っている意味が無いわよね?」

 

 「向こうの世界に行くので入れておいただけだ」

 

 「ああ、確かにその方が良いわね」

 

 カミラに言った言葉は嘘では無いが、この話をしなければ取り出すのを忘れていたかも知れない。

 

 結果的に気がついたのだから問題は無いだろう。

 

 私はそう思いながら、電話から聞こえる千穂の言葉に答えた。

 

 

 

 

 

 

 こちらに帰って来てからおよそ一か月後、私は葛城、鈴原家族を自宅へと招いた。

 

 呼び出したのは今回の事を説明するためだ。

 

 テーブルを挟んだ私の正面には両家族が並び、全員がこちらを見ている。

 

 「約二年ぶりだが、皆元気そうで何よりだ」

 

 私がそう言うと、千穂が口を開く。

 

 「『少し話してくる』みたいな雰囲気で出掛けて二年も戻ってこないなんて思ってなかったけど……カミラさんに聞いたよ?何かに夢中になると時間を気にしなくなる……って」

 

 「そういう事もあるが今はお前達がいるからな、元々向こうに長居する気は無かった。そうで無ければ数千年から数万年は過ぎていたかも知れないが」

 

 「おぉ……相変わらず俺達の感覚じゃ訳が分からねーな」

 

 私の答えに太一が苦笑いして言う。

 

 「私達はそれが冗談じゃないって分かってる分、なおさらよね」

 

 美琴が落ち着いた様子で話す。

 

 「私達の事を気にかけてくれたんだね」

 

 「当然だ」

 

 微笑みを浮かべながら言った千穂の言葉に答え、私は話を進める。

 

 「さて……今回の事について当事者であるお前達に説明しよう」

 

 私の言葉に全員の表情が引き締まり、緊張が高まったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 「つまり……ドーラさんが暇潰しに作った二人と……その二人に作られた人達が原因だったという事かい?」

 

 大まかな話を聞いた良平がそう尋ねて来る。

 

 「そうだ」

 

 「どんな扱いをされていたか、詳しく聞いても良いかな?」

 

 「召喚された異世界の者達は戦争の道具として使用され、戦えなくなった後は兵器の材料にされていた」

 

 そう話すと全員の表情に嫌悪感が滲む。

 

 「ありがとう姉貴……俺……そんな所に連れて行かれる所だったんだな」

 

 健太は自分がどんな所に連れて行かれそうになっていたのかを知り、助けた私に心から感謝している様だ。

 

 「もう原因となった者達は居ない。強制転移を無効化する魔法もかけているから、私の守りが破られない限り問題は無いだろう」

 

 すると葉子がふと、思いついたように言う。

 

 「お姉ちゃん……あの……もしかしてなんだけど……無効化出来るならわざわざ行かなくても良かったんじゃ……」

 

 「あっ……」

 

 彼女の言葉に、私と葉子を除いた全員が声を上げた。

 

 「そうだな。本来ならば、わざわざ行く必要は無かっただろう」

 

 言いたい事は分かるが、それは関係無い。

 

 「じゃあ何で……?」

 

 葉子が私にそう問いかける。

 

 「私の周囲に手を出した者を放置しておく気が無いからだ……意味は分かるか?」

 

 彼女は私の言葉を聞くと何も言わず俯き、黙ってしまった。

 

 「……ゲームのシーンにあるでしょ?」

 

 すると、突然千穂が話をし始める。

 

 「お母さん?」

 

 突然始まったゲームの話に、葉子が不思議そうに声をかけた。

 

 「倒した敵に情けをかけて助けたせいで、主人公の大切な人が死ぬ……見た事あるよね?」

 

 「ある……」

 

 「クレリアちゃんはそうならないように、敵に甘さを見せないのよ」

 

 以前そんな話を千穂にした覚えがあるな。

 

 千穂達は私がしていた事を知っている。

 

 それでも私に対して忌避感を見せないのは、彼等の私への信用と信頼の証だ。

 

 恐らく、その現場を見ていない事も影響しているのだろう。

 

 私がして来た事を実際に目にしたとしたら、心が揺らぐかも知れないな。

 

 それからしばらく沈黙が流れたため、私は話を進める事にした。

 

 「ドーラについては今の所は問題無い筈だ」

 

 「異世界の……なんて言えばいいんだろうな。神?超越者か?」

 

 太一がそんな事を言う。

 

 「好きに呼ぶと良い」

 

 「まあ、クレリアちゃんと友達になったのなら大丈夫よね?」

 

 美琴はそう言うが、あくまでも今の所だ。

 

 「ああいった存在は人類とは違う考え方や価値観を持っている可能性が高いと思う」

 

 「でも、今は平気なんでしょ?」

 

 「私が相手だから大人しい、という可能性もある。例えばの話だが……私と自分以外は全て材料、といった考えを持っている、もしくは持つようになるかも知れない」

 

 彼の性格を考えるとそうなる事は恐らくない……と思う。

 

 しかし、時が経つ事でどんな変化があるか分からないからな。

 

 「怖い……」

 

 葉子がそう呟くのが聞こえた。

 

 今の彼女の心には好奇心は無く、未知への恐怖と不安だけがある様だ。

 

 自分達が暮らしている現実が、想像よりも遥かに危険である事が分かったからだろうか。

 

 それでも葉子は、彼よりも危険な筈の私に全く恐怖を抱かず好意を向けていた。

 

 更に、皆も同じ様に全く私を恐れていない事が分かる。

 

 親子揃って随分気に入られたが、友人の気持ちを無下にする気は無い。

 

 「お前達はいつも通り暮らしていれば良い」

 

 「……うん。お姉ちゃんありがと」

 

 まだ不安が残る微笑みを浮かべる葉子を見ながら、私はこれからは友人にも事前に対策を施しておくべきか、と考え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 その後、伝える事を伝えた私は皆に一泊して貰い、翌日の午後に家に送り届けたのだが……一つ気になる事があった。

 

 それは健太と葉子の様子が二年前と違う事だ。

 

 私と親への対応はそう変わらないのだが、葉子と健太のお互いに対する行動が以前と大分違う。

 

 以前は殆どの時間を共に過ごしていたが、昨夜は顔を合わせても口数が少なく、すぐにどちらかが距離を取っていた。

 

 私はこの二年の間に、二人の間で何かがあったのだと考えている。

 

 お互いに向けている好意は変わっていない様だが、葉子には罪悪感が、健太には僅かな怒りと大きな悲しみが混じっていたからな。

 

 

 


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