第三者視点です。
「えーっと……『フラワープロダクション クレリア』っと……」
そう呟きながら検索する。
私がこのアイドルを知ったのは、歌番組で伝説として紹介されていたのを見た事がきっかけだった。
活動していたのは10年以上……正確には14年位?とにかくそれ位前らしいけど、今もその歌声、姿、ダンスは人々の心を引き付けているという。
確かに凄いとは思ったけど、この時点では伝説と言っても大した事は無いと思っていた。
テレビは大げさに言うし。
一緒にその番組を見ていた両親は当時を知っていて、彼女のファンだった。
二人は彼女のファンであった事がきっかけで交際し、結婚したという。
……それはどうでも良いかな
彼女のファーストシングルを持っていたから聞かせて貰ったけど、これほどの歌声を持つアイドルが実在したという事に驚き……気が付けば私もファンになっていた。
そしてもっと彼女の事を知りたくなった私は、こうして調べている訳だ。
表示された検索結果を見ると、ウィクペディアにクレリアのページがあった。
ここなら色々と書いてあるよね。
私は目を通し始める。
《クレリアは2013年9月19日から2020年9月30日までの約七年間活動していたアイドル兼歌手である。
所属はフラワープロダクション。
2013年9月19日にファーストシングルである「ヴァイオレンス」をリリースしデビュー。
変化する声質、圧倒的な歌唱力とダンス、怖ろしい程の美貌、独特の感性や歯に衣着せぬ物言いで幅広い世代からファンを生んだ。》
確かに凄かった、何もかも。
両親が世界中のファンから伝説と言われているファーストライブブルーレイを持っていたからそれも見せて貰ったけど、今のアイドルとは比べ物にならなかったし、この評価も納得出来る。
私は続きを読み始める。
《デビュー当時、彼女は26歳であり……》
えっ!?
私はそれを見て固まった。
26歳!?
……取り敢えず読み進めよう。
《デビュー当時、彼女は26歳であり、その外見と実年齢のギャップで世間を騒がせた。》
そりゃ驚くよ……ライブのブルーレイの姿は完全に子供だったし。
《後に、彼女は特殊な病気を患っており加齢による外見の変化が殆ど無い、と公式に発表された。
実際に彼女の容姿はデビュー当時から引退までの間、殆ど変わっていない》
病気かぁ……引退はその辺りが関係してたのかな。
あ、説明の横にデビュー当時と引退前の画像が載ってる。
ライブのブルーレイを見て分かってたけど、やっぱり超美少女だよね。
だけど……これ間違って同じ画像載せてない?
私はモニターに近づいて二つの画像を見比べる。
……背景が違うから、一応別の写真だと思う。
でも、本人だけコピーしたみたいに同じなんだけど。
……ん?
そう思って見ていると小さく注意書きがある事に気が付く。
《※掲載ミスではありません。間違い無く、デビュー当時と引退直前の画像です。》
指摘されたんだろうなぁ……。
《彼女のグッズと呼ばれる物はほとんど存在せず、サイン会で書いたサイン色紙が唯一のグッズと言える程である。》
作ったら凄く売れたと思うんだけど……勿体無い。
《デビュー当時から独特の感覚を持ち、愛想を振りまくという事をしなかった彼女は、雑誌の取材を受けた際、読者に対して言葉を求められ「特に無い」と発言しそのまま掲載された。》
えぇ!?
……それは良いの?
うーん……今までに無いという意味でなら良い、のかな。
《ダンスを見れば分かると思うが彼女は運動神経が抜群だった。とある番組のスポーツテストの50メートル走で6秒55を記録した事からもその能力の高さが分かるだろう。》
へー……。
かなり早いんじゃないこれ。
……ん?まだ続きがある。
《最近になり、走り終わった彼女が全く息を切らしていない事が判明。
放送された映像と、当時の関係者からも確認が取れている為、間違い無いと思われる。
しかし、現在は彼女が無尽蔵とも言える様なスタミナを持っているという事は有名な話だ。
その為、誰一人スポーツテスト程度でどうにかなるとは思っておらず、世間はただ納得しただけに終わった。》
ええ……?
どんな練習したらそうなるの?
私は何とも言えない気持ちになりながら読み進める。
《とあるテレビ番組に出演した際、同番組に出ていた評論家を正面から論破し話題になる。
そしてそれから僅か数日後に、その評論家は児童買春が判明し逮捕された。
ファンの間では彼女が何かをしたのではないか?という噂が流れたが、それを裏付ける証拠などは一切存在しない。》
その評論家は最低だね。
んー……これ彼女に関係あるのかな。
《未確認の情報だが、彼女がデビューしてから業界関係者の部署移動や退職が増えた、との報告もある。》
それは流石に無関係でしょ。
《確定情報では無いが、芸能界の大物や大御所と言われる芸能人達から丁寧に挨拶をされていたという話もある。詳しくは「こちら」を参照。》
むぅ……。
見たいけど順番に読んで行きたいから我慢しよう。
《家庭用ゲームソフトやソーシャルゲーム等とのコラボレーションも複数行っていた。現在もサービスが続いている「ドゥーム・ナイトワールド」では一定の期間ごとに復刻で彼女のイベントが行われており入手が可能である。》
後でちょっとやってみようかな?
なんだか読んでて楽しくなって来た。
《彼女は多くの言語を操るマルチリンガルであり、それを生かした展開をして行く事になる。詳しくは「こちら」を参照。》
……頭も良いんだ。
んー、気になるけどこれも我慢、読み進めよ。
《彼女は度胸も凄かった。
ドッキリ番組に出演した際、ドッキリに対して完全に無反応であった事からもその事が分かる。
その際、「全く反応が無い事に困惑する仕掛け人の芸人に対し飲み物を薦める」という彼女の行動が笑いを誘い、彼女の新しい一面として好感を得ると共に、彼女の感性が一般人とかなりズレている事が判明した。》
「ふふっ……」
私は思わず笑ってしまった。
この映像ニュウチューブに無いかな?
後で探してみよう。
《マルチリンガルである事を武器にリリース済みの曲を様々な言語で歌い、世界中から絶賛を受ける。
この事がきっかけとなり、これ以降リリースされる曲は全て多言語となった。》
あ、これがさっきの事かな……え!?
何よこの対応言語数!?
凄い……人ってこんなに話せる様になれる物なの?
《彼女は当時アイドルとして当然だと考えられていた可愛らしさなどを前面に押し出した曲を出さず、コマーシャルなどにも一切出なかった。
それは引退まで変わる事無く、今までのアイドルのイメージを粉々に叩き壊した。
彼女の引退後、彼女を真似て可愛らしさ以外を売りにしたアイドルも現れたが、彼女の人気には遠く及ばず消えている。
それからアイドル業界は約十年の間、停滞する事になった。
※確実では無いが、彼女は演技が壊滅的に出来なかった、という情報もある。》
クレリアと真似をしようとした他のアイドルじゃ色々と違い過ぎたんだろうな……。
あれは彼女だから出来たやり方だったんだと思う。
演技が駄目だった?
何でもこなせそうだけど、確かに彼女が恋する乙女や元気な少女を演じている姿が想像出来ない。
《グルメ系番組に出演した際、頑なに美味しいと言わない事が話題になる。
しかし彼女が「悪くない」といった店の料理は本当に美味しく、彼女の舌が本物である証明となった。》
ほほぅ……。
《余談だが、とある取材でどうして美味しいと言わなかったのかと聞かれた際、彼女は「今の所、美味しいと言えるのは家族の料理だけだ」と答えている。》
良い人じゃん!?
昔なんかあったのかな?
悪いけど、私は店と比べてお母さんの料理の方が美味しいとは言えないなぁ……。
《2018年12月28日発売の「剛拳」にプレイキャラクターとして登場し、格闘ゲームファンの間で話題になった。》
人気出て来るとこういうの増えるよね。
《当時、彼女のキャラクターの強さに批判が起きたが、初回特典映像である彼女のモーションキャプチャー体験映像の一部がニューチューブに投稿された事で、騒ぎは終わった。その動画は「こちら」を参照。》
動画なら見てみようかな。
……え?
なにこれ……?
CGじゃないの?
《映像特典について開発元は間違い無く手を加えていない映像だと発表し、加えて「クレリアさんご本人の能力を考えると、あれ以上キャラクターを弱く出来なかった」とも発表した。》
これは……いや、でも……出来てるし……。
私は驚きを残したまま読み進める。
《ファンが書き込めるクレリア公式ホームページが開設。登録したファンが一日に一度書き込める物だった。本当に見ていたかは不明だが「クレリアが書き込みに答えてくれた」という声もある為、読んでいたと考えられている。
※現在、そのページは閉鎖されているため確認は出来ない。》
……書き込みの量凄かったんじゃないかな、これ。
《2019年4月5日に発売された「アイドルストーリー」において、クレリアがアイドルとして登場した。
しかし、彼女の実力を反映させた結果、誰も勝てない仕様になり「伝説に挑め」という、スコアアタックの様な力試しミッションとなった。》
何で調整しなかったんだろ?
きっと理由があったんだろうけどね。
《2019年4月下旬。クレリアが月下グループの令嬢であるという情報が拡散し、プロダクションと本人が事実だと認めるという出来事があった。
現在も様々な分野で多大な影響力を持つ月下グループの後ろ盾がある事が判明した彼女だったが、当時既に世界最高のアイドルとして名を知られており、彼女の背景はアイドル活動に影響を与えていなかったと考えられている。
彼女の担当プロデューサーは取材に対し「知っていたが、そんな物に頼らなくても彼女は頂点を取れると確信していた」と話している。》
「マジ!?」
思わず大声を上げてしまった。
あの月下グループ!?
あー……そりゃ色々な人が大人しくなる訳だわ……。
月下グループに睨まれたらそりゃヤバイですよ。
何、この完璧超人。
本当に人間なんですかね?
軽い嫉妬を覚えつつ、読み進める。
《友好関係は浅く広い様子だったが、例外も居た。
特に仲が良く有名なのは大物声優兼歌手の水瀬彩である。
新人声優であった水瀬彩はデビュー作である「スカイレゾナンスインフィニットブルー」でクレリアと共演し意気投合。
後にクレリアの自宅に招かれる程の仲となったという。
この事は当時の水瀬彩のブログにもハッキリと書かれている。》
へぇー……。
あの水瀬彩が新人の時に世話してたんだ。
《歌において度々クレリアとどちらが上であるか、という事が議論されるが、本人は取材に対して「未だに彼女を超える事は出来ていない」と答えている。》
確かに……クレリアの方が上かなぁ。
さて、そろそろ終わりが近いかな?
《こうして今後書き換えられない様な多くの記録と伝説を残し、2020年9月30日に彼女は引退した。》
七年で引退かぁ……まだまだ人気があったのに勿体無いなぁ。
でも……きっと病気で限界だったんだろうな……。
《引退後の2021年に歴史上最も偉大なシンガー100人に日本人として初めて選ばれる。
そして歴代の名シンガーを抑え一位という大記録を残し、その伝説を不動の物とした。》
今まで読んで来た内容と残した記録を見たら、納得するしかない。
もう少しあるから読もう。
《世界に知られている彼女だが、謎の多い人物でもあった。
例を上げると、あれだけ目立つ容姿であるにもかかわらず街中での目撃報告が一度も無い事、などが上げられる。》
一度も目撃されてない……?
どういう事?
《彼女が引退し10年以上が経過したが未だに街中での目撃報告は無く、一部のファンの間では「引退時には余命僅かであった」という説だけで無く「妖精であった」、「女神であった」などという説まで出ている。
彼女のあの美貌と功績を見ればそう考えてしまう気持ちも分かるが、彼女は間違い無く人間である。
余命については我々が知る術は無い。》
そりゃ人間でしょうよ。
でも、病魔に侵されたまま限界まで活動していたのなら彼女はもう……。
《当時彼女を担当していたプロデューサーとマネージャー(名前は伏せさせていただく)に話を聞こうとする者もいたようだが、口を閉ざし何も語ろうとしなかったという。
引退したアイドルの個人情報を流す事など許される訳が無いが、極稀に月下グループの影がちらついていたという噂もあり、現在彼女の事を尋ねる者はいない。》
「うわぁ……」
私は思わず声を上げる。
まあ、身内の事を強引に探ろうとしたら怒るよね。
《更に、彼女の歌は媒体を通しているか否かで大きく感じ方が違う事でも有名である。
販売されている彼女の歌は確かに素晴らしい。
しかし、ライブで歌声を聞いた者達の多くが「直接聞く彼女の歌は心と魂を揺さぶる」といった内容の話をしている。
ライブの方が会場の熱や歌声をダイレクトに感じる事が出来るのは当然だが、どうやら彼女のライブはそういったレベルでは無いらしい。
彼女のライブ映像は多く残っており、それらを見ても十分会場の熱を感じる事が出来るのだが……それすらも到底及ばない何かがある様だ。
何故、そこまで感じ方が変わるのか?
理由や原因は未だに分かっていないが、彼女が引退し姿を消した今となってはもう二度とあの歌声を聞く事は出来ないだろう。
運が良ければ一度きりの復活ライブなどがあるかも知れないが、可能性は低いかも知れない。
当時ライブで彼女の歌を聞けた者は幸運だったと言える。》
見せて貰った彼女のファーストライブは、凄いの一言だった。
……あれと比べて「到底及ばない」と言われる歌声……想像出来ないや……。
《彼女には色々な噂があるが、正体が何であっても人類史上最高のアイドルである事は間違い無いだろう。
引退した彼女が、現在も存命で幸せである事を祈る。》
「はあ……」
ウィクペディアを読み終えた私は思わず溜息を吐いた。
何か彼女の伝説一覧みたいだったなぁ。
売り上げ数とか、PVの再生回数とか……。
私は背もたれに身を任せて思う。
人類史上最高のアイドル……か。
彼女の事を知る前に読んでいたら、鼻で笑ったかもしれないけど……。
様々な記録は誰もたどり着けると思えない様な物が並んでいる。
彼女が引退してから10年近く人気アイドルが現れなかったのも頷ける。
誰だって彼女と比較されたく無いし、世界の人々も彼女を知っている。
きっとファン達も他の誰かの歌じゃ満足出来なかったのかも知れない。
でも……。
歌声や美貌にばかり気を取られているけど……ウィクペディアに書かれていた数々の逸話が全て本当だとしたら、度胸があるとか、身体能力が高いとか、そんな次元の話なのかなぁ?
どんな状況でも堂々と思った事を言えるのは、まあ背景を考えれば分からなくはないんだけど……。
ライブツアーで連日メドレーで休む事無く踊り、歌い続け……全日程を問題無くやり切る事は本当に可能なのかな……?
スタッフが先に潰れそうになってたらしいし……。
もしかしたら……本当に彼女は。
「……なーんてね。ないない」
そういって私は背伸びをする。
ここは現実だ、夢の世界じゃない。
ファンになった事だし、両親に頼んで色々見せて貰おっと……サインとか持ってるのかな?
流石に当時の放送は無いかなー。
有料チャンネルならあるかな?
あ、後でニュウチューブも確認しなきゃ。
私はそんな事を考えながらPCをシャットダウンし、部屋を出た。