少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 別視点があります。





089-01

 葉子と健太が交際を始めた事を知ってから時は過ぎ、2035年の9月に入った。

 

 あの二人は順調に交際している。

 

 二人が幼い頃から想い合っていた事を知っている私から見れば、最も確率の高い結果になっただけだ。

 

 両者の保護者達もこの関係を喜んでいるので、このまま気持ちが変わらなければ二人が共に居る事に障害は無いだろう。

 

 あれから私は、二人に子作りは計画的に行う様に話をしておいた。

 

 以前は子は種族全体で育てる存在であったが、最近の人類社会はそうでは無い。

 

 現状のままで子を作れば、二人はかなりの苦労する事になると思う。

 

 その話をした時、二人はかなり動揺していた。

 

 反応から察するに、もしかすると既に交尾していたのかも知れないな。

 

 私は今までの経験から、一般的な親子が生殖に関する内容を話題にする事は殆ど無いと知っている。

 

 初めてそれを聞いた時は何故種の存続にかかわる話を避けるのかと思ったが、人類が減少する事無くここまで増えている事を考えると特に問題は無いのだろう。

 

 いずれ効率的に繁殖する技術が生まれるかも知れないが、それまでは人類が生まれた頃から変わらぬ方法で増えて行きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 現在、私は東京の家でテレビを見ているのだが……こうして過ごしているとアイドルは忙しかったのだと思う。

 

 当時は移動や仕事で殆ど家に居なかったからな。

 

 《今月、国際連合総会の通常会が開催されました……》

 

 テレビではニュースが流れていた。

 

 国際連合か。

 

 確か……国際平和と安全の維持、経済・社会・文化などに関する国際協力の実現を活動目的とした人類の国際組織……だったか?

 

 第二次世界大戦を反省して設立された、と聞いたような気がするが……あまり覚えていないな。

 

 私はこういった人類の動きをあまり把握していない。

 

 世界の情勢は娘達の方が詳しいが、あの世界大戦の事はまだ覚えている。

 

 私としてはそれなりに楽しめた出来事だった。

 

 次も見物させて貰おうと考えているが、人類が嫌だと言うならそれでも構わない。

 

 故意に大戦を起こす気は無いし、平和ならば平和なりの楽しみがある。

 

 ただ、私は人類がこのまま進化、発展し続ければ、再び争いが起きるのではないかと考えている。

 

 魔法人類にも安定して発展していた時期はあったが、その時の彼等は自らその状況を手放し争い始めていたからな。

 

 現在の人類が同様の事を行う可能性は十分にあるだろう。

 

 私はそんな事を考えながらデザートを口にした。

 

 

 

 

 

 

 某日某所にて、ある条件を満たしている国家の代表が集まっている。

 

 国際連合総会の通常会が終わっても、一部の国の代表には次の会議が存在していた。

 

 内閣総理大臣である私も、日本国の代表として参加している。

 

 この部屋の中には私達以外居ないが……建物全体を軍が守り、扉の外には重装備の兵士が複数配置されている。

 

 「では、主要国連盟会議を開始する」

 

 議長であるアメリカ合衆国大統領……おっと、ここではただのアメリカの代表だ。

 

 気を緩めてはいけない。

 

 アメリカ代表がそう宣言すると、まずイギリス代表が話し始めた。

 

 「月の庭園の方々に関しては、去年と同じく大きな動きは見せていませんね」

 

 すると次々と各国の代表達が口を開く。

 

 「突然何をするか分からない方々ですからな……アイドルの件は驚きましたよ」

 

 確かにあれには驚いた、我が国でクレリア様がアイドル活動を始めるとは思っていなかったからね。

 

 「私も驚いたよ。おかげで書類を数枚駄目にした」

 

 「あれは大きな動きと言ってもよいでしょう。ですが、我々には何も要求してこなかった……いや一つだけありましたね」

 

 「手を出すなと言われましたな」

 

 「尻拭いをしなくても良いと言われたんだ、良い事だろう。奴等も自分で尻は拭ける様だ」

 

 ロシア代表がそう言うと、他の代表達が黙った。

 

 「口が過ぎるぞ」

 

 フランス代表がそう言うが、ロシア代表は止まらない。

 

 「我々はいつまでも奴等の下に居るつもりは無い」

 

 「……過去に何があったのか知らない訳ではあるまい?」

 

 アメリカ代表がそう問いかける。

 

 「知っている、だが我々なら敵では無いだろう」

 

 「……原子爆弾と同等の威力を持つ攻撃を気軽にまき散らす相手に勝てると?」

 

 当時の指導者達を強制的に集めてカミラ様がその力の一部を見せた事があったらしい。

 

 確か、核実験として処理したんだったか?

 

 「勝てる!」

 

 その根拠の無い言葉に、周囲からため息が漏れる。

 

 私も溜息を吐いた。

 

 無理に決まっているだろう……。

 

 「一応聞いておくが……どうやってだ?」

 

 「あのメイド服の連中を拘束し、奴らのトップを引きずり出す」

 

 馬鹿か!?

 

 ……はっ。

 

 思わず内心で罵倒してしまったが……他の国の代表も似た様な事を思っているだろう。

 

 ロシアの代表は以前からあの方達が居る事を嫌っていたが……恐らくもう駄目だな。

 

 私達に対して優位を取るために言っているのかも知れないが、そんな事が出来るのなら過去の代表がとっくにやっている。

 

 正体を世界に広めようとした国が一つ解体されているのに、なぜそんな事をしようと考えられるんだ。

 

 そして何よりその方法が不味い……不味すぎる。

 

 彼女達はクレリア様の侍女だ。

 

 そして、あの方は身内を大事にしている。

 

 彼女達を拘束する事などまず出来ないと思うが、手を出したという事実があの方に伝われば何が起きるか分からない。

 

 一国が独断で起こした事の責任を世界に対して求める様な方では無いと思うが、絶対では無いんだ。

 

 下手をすればあの核の様な攻撃が世界中を襲う事になってもおかしくないんだぞ……。

 

 「無理だ、彼女達は突然現れ突然消える。ジャパンアニメーションの登場人物の様な存在だぞ?」

 

 そう言ったのはドイツの代表だ。

 

 「消える前に拘束すればいいだけだ」

 

 色々と忙しいというのに、勘弁して欲しい。

 

 「……やるのは構わないが、我々を巻き込まないでくれよ」

 

 イタリアの代表がそう言い捨て、体の向きを変えてしまった。

 

 もう話す気が無い様だ。

 

 まあ……気持ちは分かる。

 

 「先程から何も言っていないが……貴方はどうお考えかな?」

 

 ロシア代表が私にそう問いかけて来た。

 

 面倒な……。

 

 「私としては月の庭園に敬意を表し、今後もこの関係を続けて行きたいと考えています」

 

 正直な所、あの方達がいてマイナスになるような事は殆ど起きていない。

 

 稀に無茶な事を要請されるというが、百年程前から現在まで特にそういった事も無い。

 

 にもかかわらず、あの方達の隠れ蓑である月下グループは現在も世界中で活躍している。

 

 もしも何かを要請された場合、私は日本国の内閣総理大臣として可能な限り応えたい。

 

 そう思う程に、あの方達は日本に……人類に貢献しているのだ。

 

 「日本は奴らのお気に入りの様だからな、色々と優遇されているんだろう?」

 

 そう言って私を見るロシア代表。

 

 こいつ、本当にそんな事があると思ってるのか?

 

 他の国はきっと「そのまま日本にいてくれ」と思ってるぞ。

 

 「その様な事実はありません。あの方達は人類に平等なのでしょう」

 

 これは間違い無い筈だ。

 

 ただし……それは「平等に興味が無い」という意味だと思うが。

 

 あの方達にとって人類など意思の疎通が出来る愛玩動物……いや、これも間違っているか?

 

 愛玩動物なら少なくとも常に気にするし、可愛がる筈だからな。

 

 あの方は私達人類から見て、とても理性的で、寛容だ。

 

 更に、圧倒的上位存在であるにもかかわらず、私達に対して一切高圧的な態度を取らない。

 

 だが……恐らく人類に何の感情も抱いていない。

 

 ……前総理に連れられ謁見した時、心底どうでも良さそうに私を見ていたのを今もハッキリと覚えている。

 

 そんな人類の国家など、あの方達にとっては野に散っている動物の群れの様な物だ。

 

 そもそも、現在の状況は人類が世界に勝手に住み着き、所有権を主張しているに過ぎない。

 

 人間だって軒下に子猫が住み着いた時、極端に猫が嫌いかアレルギーでもなければ、積極的に攻撃したり追い払ったりはしないだろう。

 

 そして、何とも思っていなければ何もしない。

 

 ……きっと、そういう事だ。

 

 ただ……そうすると月下グループとして人類に貢献している事や、アイドルとして人気を獲得していたのはどういう事なのかと考えてしまう。

 

 かつての私はその事を考え……人ならざる方の考えを読む事など不可能だと諦めたのだ。

 

 案外、ただやってみたかっただけなのかも知れない。

 

 「……どうだかな」

 

 彼を見ながら色々な事を考え黙っていると、そう言って彼は視線を他に移した。

 

 こいつ……ひょっとしてあの方達の恩恵が欲しいのか?

 

 ……無駄な事を。

 

 ロシアの暴走で何か問題が起きなければいいのだが……。

 

 いざとなれば主要国連盟でロシアを動けない様にするしか無いか。

 

 私は内心で盛大な溜息を吐きながら、会議を続けた。

 

 

 




 日本代表さんの考えは、あくまでも日本代表さんの考えであり、事実とは異なる場合があります。



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