少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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089-02

 

 2036年1月。

 

 現在、私は都内のマンションのリビングに居る。

 

 家主である彩に招待されたからだ。

 

 「クレリアさんは本当に変わりませんね」

 

 見慣れた皺の増えた顔で微笑み、彩が言う。

 

 「彩は老けたな」

 

 「ちょっと!?そろそろ気にしてるんですからね!?」

 

 声を大きくする彩だが、彼女は全く怒っていない事が分かる。

 

 むしろ、そういったやり取りを遠慮無く出来る事が嬉しい様だ。

 

 「クレリアさん……私、結婚しようと思うんです」

 

 落ち着きを取り戻した彼女が、突然静かに、真剣な声で言う。

 

 「そうか」

 

 「とても良い人なんです、私の事を大事にしてくれて……少し前にプロポーズされました」

 

 「それは良い事だ」

 

 「私はクレリアさんが好きですけど、クレリアさんは私の事をどう思っていますか?」

 

 彩が突然そう言って来た。

 

 「好きだな」

 

 彼女の事は気に入っている、十分に『好き』だと言えるだろう。

 

 「……私達は親友ですからね」

 

 そう言って彩は笑う。

 

 「そうだな」

 

 「結婚式には来てくれますか?」

 

 「行く気は無い」

 

 「何でですか!?」

 

 彩が驚き、声を上げる。

 

 「興味が無い」

 

 「えぇー……」

 

 呆れたような顔をする彼女。

 

 「その代わりと言っては何だが、もしお前が出産する時が来たら問題が無い様に見ておこう」

 

 その後も彩から出席して欲しいと頼まれたが、私が折れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 「あら……お母様、彩ちゃんの所に行っていたんじゃないの?」

 

 自宅の談話室で本を読んでいると、カミラがそう言いながら隣にやって来た。

 

 「少し前に帰って来た」

 

 「あの子もすっかりお母様に慣れたわね」

 

 「そうだな。ただし、いつでも敵になる可能性は残っている」

 

 「……今までもあった物ね」

 

 カミラはそう言って少し寂しそうな表情を見せる。

 

 「今更処分するような事にはならないと思うが……どうだろうな」

 

 彼女が手を出して来るとは思えないが、それでも絶対に無いとは言えない。

 

 「お母様は相手が誰でも変わらないわね」

 

 「当然だ」

 

 誰であろうと敵になるのなら容赦はしない。

 

 生かしておく理由が無い限りはな。

 

 私の「どんな敵であろうと残しておいて良い事は無い」という考え自体は今も変わっていない。

 

 人間が気にもしない足元の小石で大怪我をする事がある様に、残しておいた事で何か大きな問題が起こるかも知れないからな。

 

 当然、残していなかった事で大きな問題になる可能性もある訳だが……どちらかを選ぶのなら私は処分する方を選ぶ。

 

 封印保存という手もあるが……今の所、珍しい個体以外に行う気は無いな。

 

 この様に基本的に敵は消す方針の私だが……最近例外を作った。

 

 それは起こる問題の影響が私だけで済む場合だ。

 

 つまり、私の娘達や友人達に直接被害が出ない状況ならば敵を生かして解放する事も考えている。

 

 そうする事で、相手が私の意表を突く様な事を行ってくれる……かも知れない。

 

 あまり期待はしていないがやって見なければ分からないし、続けていればいつかは何かが起きる可能性がある。

 

 その結果「力及ばず私が消える」といった結末を迎える事があるかも知れないが、その時はそれでも構わない。

 

 そうなる可能性があると知っていながら、その行動を取ったのは私自身なのだから。

 

 油断し、戯れに見逃し、最後には力を付けた相手に討たれる。

 

 よく目にする内容だが、私も同じ事になるのだろうか?

 

 実際にその様な相手が現れた時、私がどのような行動をするか想像出来ないな。

 

 もしも私が消された場合、娘達は悲しむ可能性が高いだろう。

 

 しかし、自暴自棄になるような事は無いと思う。

 

 もしかしたら、娘達……特にカミラとヒトハは私を超え、私を消した相手を消しに行くかも知れないな。

 

 「お母様、なんだか楽しそうね?」

 

 そんな事を考えていると、カミラに声をかけられた。

 

 「お前達の事を考えていた」

 

 「……どうしたの急に?」

 

 「お前達が私を超える時が来るだろうか、と思ってな」

 

 「それは……難しいんじゃないかしら……お母様は今も強くなり続けているわよね?」

 

 「お前達も同じだろう」

 

 「私達よりもお母様の方が強くなるのが早いのにどうやって追いつくのよ……」

 

 私は自分の力を高め続けているが未だに限界は見えず、制御出来ないなどの問題も起きていない。

 

 娘達も強くなっているが、私と比べると微々たる物だろう。

 

 確かに、これでは通常の方法で私を超える事は難しいかも知れないな。

 

 だが、その差を覆す可能性が私達の手元にはある。

 

 「掌の世界を覚えているか?」

 

 「あ、確かに……あれなら条件次第でお母様を超える事も出来る……のかしらね?」

 

 カミラは小さく声を上げ、言う。

 

 「私を超える成長限界を持ち、寿命や精神的な問題が無いのなら恐らく可能だ」

 

 倍率を変更し、掌の世界で長い時間鍛え続ければ……恐らく私を超える事も出来ると思う。

 

 「以前使ったのは……魔法金属の実験の時だったかしら?」

 

 「あれから使用していない筈だ、現在の内部環境は実験当時のままだろうな」

 

 「誰か使うかしら?」

 

 「聞いてみたらどうだ?もし誰かが使うのなら環境を整えるぞ?」

 

 「じゃあちょっと待ってね……」

 

 そう行ってカミラが黙る。

 

 恐らく全員に念話をしているのだろう。

 

 「……今のままが良いらしいわ」

 

 今更だが、念話は便利だな。

 

 「そうか」

 

 ヨツバ辺りは喜んで食いつくと思っていたが。

 

 「全員、こうしてお母様と……皆で過ごしている今を気に入っているみたい……私も含めてね」

 

 「戻ってくればいいだろう。出入りは自由だぞ?」

 

 「時間差のせいで、こちらから見ると一瞬で戻って来ては甘えて来る事になるわよ?それも連続で」

 

 「なるほどな」

 

 会いたければ一定時間で出てくれば問題無いが、私から見ると内部との時間差で僅かな時間で娘達が戻って来て甘えて来る事になる。

 

 そして、それを絶え間無く連続でされる訳だ。

 

 娘達もそれに気が付いたのだろうな。

 

 「私が会いに行けば良いのではないか?」

 

 「……確かに。ちょっと待って」

 

 カミラはそう言って再び念話をしている。

 

 「……拒否されたわ」

 

 「何故だ?特に問題は無いと思うが……」

 

 「それでも今のこの環境が良いらしいわ。後、お母様にわざわざそんな事はさせられないって」

 

 私は特に気にしていないが、彼女達がそう言うのなら無理強いはしない。

 

 「では、今の所はこのままで良いか」

 

 「そうね……」

 

 カミラは何か思う所がある様だ。

 

 「どうした?」

 

 私が尋ねると、カミラは静かに答える。

 

 「……この判断を後悔する事が無ければ良いな、と思って」

 

 後悔か……どういった物かは分かるが、私は反省はしても後悔をした事は無いな。

 

 「他者に敗れた場合か?」

 

 恐らく当たっている筈だ。

 

 「分かっちゃうわよね……きっと、あの時鍛える事を選んでいれば……と思う筈だわ」

 

 「それを考えるときりが無いぞ」

 

 私は今も力を付ける事は重要だと考えているが、現在は力の開発と強化に使う時間を減らしている。

 

 他の物にも興味が湧いているからな。

 

 興味がある物が全て無くならない限り、もう以前の様な事はしないだろう。

 

 「分かっているんだけれど、どうしてもね」

 

 カミラはそう言って苦笑いを浮かべた。

 

 割り切れない者には、いつまでもついて回る問題かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 一週間後。

 

 私は再び彩から誘われ、昼過ぎに彼女のマンションにやって来た。

 

 「クレリアさん、いらっしゃい」

 

 彩に迎えられ、部屋へと入る。

 

 「結婚式の事……考え直して貰えませんか?」

 

 私がソファに座ると、色々と用意をしながら彼女が言う。

 

 「考えを変えると思うか?」

 

 そう言うと、彼女は軽くため息をついた後、苦笑いして言った。

 

 「思いません」

 

 「分かっているじゃないか」

 

 トレイに飲み物と菓子を乗せて戻って来た彼女は、ソファに座り並べ始めた。

 

 「貴女が意見を変える事はまず無いと分かっていましたけど、後一度だけ頼んでみようと思ったんです」

 

 並べながらそう言った彼女は少し残念そうな表情だったが、すぐに気を取り直した。

 

 「どうぞ、ミルク多めですよ」

 

 そう言いながら彼女はミルクティーを私の前に置く。

 

 一口飲むと、ここ数年変わらない味がする。

 

 「いつもの味だな」

 

 その言葉を聞くと、彩が笑って言う。

 

 「私の好きな紅茶ですからね、今の所は他の紅茶に変える気は無いですよ。クレリアさんにはいまいちかも知れませんけど」

 

 「普段私が飲んでいる物とは違うが、これも悪くないと思っている」

 

 「それなら良かったです。あ、今日のお菓子は新しく買ってみた物なんですけど……」

 

 今日彩が私を誘ったのは結婚式の出席についてもう一度聞く為で、それ以外に特に用は無かったらしい。

 

 更にその答えも予想していたので、実際はただ私と話したかっただけだった様だ。

 

 私はそんな彩と、夜まで穏やかな時間を過ごした。

 

 

 





 主人公の事を受け入れる人間ばかりですが、これは作者が受け入れている人間だけを書いているからです。

 いつか受け入れられなかったり、敵対する相手との話も書きたいですね。



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