作者は実際のユーチューバー活動の裏側を知らない為、設定などは全てこの作品独自の物になります。
現在、私は自宅の敷地内に用意されている彼女の家の配信部屋で待機している。
あの後、私はまず彼女の正式名称を聞いた。
私は彼女の事を「数年前にやって来た家のメイドの一人」としか認識していなかったからだ。
そんな私に、彼女は苦笑いしながら色々と話してくれた。
彼女の名は、嵐山 風香(あらしやま ふうか)。
風香は以前家に居たメイドの娘で、幼い頃は母と共に屋敷の敷地内にある家に住んでいたと語った。
父親の事を聞くと、彼女が生まれて一年程経った頃に事故死したらしい。
それから母と共に過ごし、彼女が14歳の頃に母親はメイドを引退し敷地から出たが、その時既にメイド養成所に通っていた彼女はここに残る事を許されたという。
その後、彼女は21歳で並み居るライバルに打ち勝ちこの屋敷のメイドの一人として採用された。
現在、彼女は24歳らしいが、メイドの仕事と動画配信をしっかり両立している事からもその優秀さが垣間見える。
「お嬢様」
そんな事を考えていると、配信準備をしていた私服の風香が私に声をかけて来る。
「準備は終わったか?」
「はい」
「それで、私はどうすれば良い?」
「私が紹介いたしますので、簡単に挨拶をして頂ければ。後は私が振りますが、慣れてきましたらお嬢様のご自由にどうぞ」
「分かった」
「では始めます……こんばんはー!完璧メイドの天津 凪です!」
少し黙った後、突然風香の雰囲気が変わる。
画面では彼女に声に合わせて、アバターである天津 凪が動いたり表情を変えたりしている。
容姿は金髪をポニーテールにした碧眼の犬耳メイド少女だ。
:こんばんわ
:こーん
:きた!完璧メイド(笑)!
:なぎちゃんこんばんは
コメント欄に次々とコメントが書き込まれる中、私は目に付いた物を読んで見る。
凪は完璧メイドと言っている様だが、反応を見ると本気にされていないようだな。
風香に何故犬の獣人なのか聞いた所「私の中では、メイドは何となく犬のイメージなのです」と言われた。
犬の従順さが主に仕えるメイドと被るのだろうか?
私はアバターをじっと見つめる。
混血が進んだ獣人なら耳と尻尾だけが特徴として現れる事も十分あり得る事だ。
実際に似たような特徴の獣人も多くいた気がする。
かつて存在していた獣人達を思い返している間に、話は進んで行く。
「さて……今回は私だけじゃないんです!」
:お?
:誰かいるの?
:誰だ!?
:まさか彼s……
彼女の言葉にすぐに反応が返って来る。
「何と!私がお仕えしているお嬢様が出る事を了承してくださいました!」
:お嬢様!?
:お嬢様(リア友)
:なんちゃってメイドにお嬢様が居るのか……(困惑)
「本物だから!?失礼の無い様にね!」
彼等が本気にする訳が無いな。
「配信を見ている者達、凪のお嬢様だ。今日はよろしく頼む」
:!?
:すげぇ良い声!
:よろしくお嬢!
:お嬢様!
:声めっちゃいい!
:声は女の子なのに話し方がなんか凛々しい?感じだな
次々とコメントが流れて行く。
「今回はお嬢様に見て頂きながら新しいゲームをやって行くよー」
:いえーい!お嬢様見てるー?
:お嬢様もプレイするの?
「どうしましょう……お嬢様もプレイいたしますか?」
風香……いや、今は凪である彼女が聞いて来る。
取り敢えず聞く事を聞いておこう。
「私は何をやるのかを聞いていないが?」
「あっ……」
:早速やらかしてて草
:大丈夫?クビになったりしない?
:お嬢様の悪意の無い疑問がポンコツメイドを襲う!
:これはポンコツ
彼女の緊張具合からすると本当に忘れていたのだろうな。
「申し訳ありません、お嬢様との配信で緊張していたようです」
「気にするな、いくら優秀でもお前は人間だ。緊張する事もあるだろう」
:お嬢様優しい
:これは理想の上司
:お前は人間って言った?
:言い回しからそこはかとなく感じる人外感
:この子配信では結構ポンコツなんですお嬢様
:容赦の無い報告で草
言い回しに反応している者も居るが、この状況ならば全て設定で済むから問題は無い筈だ。
「普段は完璧なんですー!」
コメントには「ご主人様にポンコツがばれたw」「必死w」「可愛い」などの書き込みがされている。
「ここでの姿がどうであれ、私の屋敷で三年間メイドとして問題無く働いているからな。彼女が優秀な事は間違い無い」
私の言葉に、彼女が驚いた表情で私を見る……そして。
「お嬢様……ありがとうございます」
嬉しそうに微笑みを浮かべ、そう言った。
:すげぇ感情のこもったありがとうございますだな……
:ワンチャン本物の可能性が?
:演技だったらそれはそれで凄いな
:本当になぎちゃんメイドだったの!?
:三年か……今何歳なんだろ?
:本物のメイドって何歳からなれるんだろうな
「んんっ……さて!お嬢様に今回のゲームの説明を致します!」
:お、復活した
:この程度やらかしには入らないからへーきへーき
:お嬢様だけじゃなくて俺達にも説明してください
「今回やるのは『白狼』です!」
:おおー!
:昨日発売した新作じゃん!
:これって配信しても良いんだっけ?
「大丈夫です。配信出来る事は確認していますので」
「これはどういったゲームだ?」
私が疑問を口にすると、彼女が説明を始めた。
「これは高難易度が売りのアクションアドベンチャーゲームですね」
「なるほど」
「事前の情報では、日本の戦国時代の様な世界で『白狼』と呼ばれる忍びの主人公が、主の為に戦う……といった内容の様です」
「戦国時代と聞くと信長を思い出すな」
「かなり有名ですからね」
:まあ、戦国って言うと大抵出て来るね
:死体見つかって無いんだよな
:光秀の謀反の理由も謎のままなんだよなぁ
私が思い出した理由は身近にいるからで、光秀の謀反は私が原因である可能性が高いが、言った所で意味は無いだろう。
「さて!では始めましょう!」
凪が声を上げてゲームを起動する。
:初見だから楽しみ
:見て面白そうだったら買うわ
:俺は発売日の朝に買って今も配信見ながらやってるけど……難しいわこれ
:事前情報ではかなり難しそうだったね
コメントが流れる中、オープニングムービーが流れる。
……なるほど、幼い主君を守り抜く訳か。
「言い忘れていましたが、このゲームはマルチエンディングらしいです」
ムービーが終わりタイトル画面になると、凪がそう捕捉した。
:結構重要な事を言い忘れるポンコツメイド
:安定のガバ
「プレイ中の判断で結末が変わるという事か」
「そうです」
凪はそう言いながらゲームを始めた。
:周回確定
:全部のエンディング目指して欲しい
私は流れるコメントを読みつつ、凪のプレイを見守る。
主人公らしき男が牢の様な場所に座り込んでいるが、天井に開いている小さな穴から手紙と鍵が投げ込まれた。
「ここは牢獄ですかね?手紙の内容からすると、まずは主君に会いに行くのでしょうか」
:牢屋スタートか
:洋ゲーで良くあるやつ
「む、敵が来ましたね」
少し進むと武装した農民の様な敵が出て来た。
凪は簡単にそれらを切り倒していく。
「意外と簡単ですねー」
:最初の雑魚を倒していい気になるメイドの姿がこちらです
:それチュートリアルの敵だぞw
雑魚を切り倒してある程度先へ進むと、それなりの装備を纏った侍が出て来た。
:でた!そいつが最初はキツイ!
:初プレイのプレイヤーを突然絶望に叩き落とす敵
既にプレイしているであろう視聴者からコメントがある。
「まだ行けますよ……ん?戦闘説明ですか」
私も一緒に読んだが、どうやら通常攻撃の他に相手の攻撃を弾いていなし、相手のバランスを崩す事で致命の一撃を入れる事が出来る様だ。
「なるほど、弾くんですね……来い!」
:威勢だけは良いんだよなぁ……
:なぎちゃんあんまりこういうの得意じゃないよね?
「ここでいなしっ……あっ!?一撃で減り過ぎじゃない!?いったん離れ……うわ、追って来る!?」
全く弾けずに攻撃を受け、逃げようとするも敵が何処までも追いかけて来る。
「待って!?ああ!?他の敵が……あーー!?」
そして、逃げた先に居た農民の様な敵と侍に囲まれあっさり殺された。
:草
:初見は大体こうなる、俺もやった
:結構タイミングシビアじゃね?
:戦いは数だよな
:刀で斬られると人は死ぬんだから、ダメージは大きくて当然だよなぁ?
:昔、斬られると即死する侍ゲーがあってな?
「これは逃げようとすると余計酷い事になりますね……」
彼女が再開地点で復活しながら言う。
:敵前逃亡など武士の風上にもおけぬ!
:この主人公は忍者だから……
:逃げると余計酷くなるとか鬼畜だわ
こうして彼女は再び挑戦し始めた。
「お嬢様……代わっていただけませんか?」
:泣きが入ったw
:お嬢様に頼ろうとするメイドがいるらしいっすよ?
:1000回負けてからが本番だから
:二時間か、まあまあ頑張った
あれから時々私に当り障りの無い話題を振りながら二時間近く挑んだが全く勝てず、遂に私に交代を頼んで来た。
「余裕で勝てると思うが、私が殺して構わないのか?」
:凄い自信
:これは主従でポンコツの流れ……
:お嬢様のゲームの腕はいかほどか……
:頑張ってお嬢様!
「仇を取って下さい!」
「分かった」
運が絡まない反射速度と操作の正確さが物をいうゲームは、全く知らなくても問題無い。
人類の速度に合わせて作られているので最初から遅い上に、今回は彼女のプレイを何回も見ている。
既に攻撃パターンも弾くタイミングも全て分かっているからな。
この状況で負ける事は難しいだろう。
「ここからプレイヤーはお嬢様です、皆さん応援よろしくお願いします」
:なぎちゃんの仇を取ってくれ!
:お嬢様が難易度にブチ切れたらどうしよ
:その場合、メイドがクビになります
「クビにはならないよ!」
そんなやり取りを横目に、例の侍の元へ向かう。
次々と攻撃を弾き、その間に斬撃を加えて行く。
「えぇ……?」
隣で風香が変な声を上げた。
:うっそだろおい!?
:全部弾いてる!?
:初見だよな……?
:発売は昨日だぞ?
:一日やってもここまで上手くならないだろ……どうなってんだ?
:でもやってるし……
:お嬢様はメイドとは格が違った……
あっという間に相手がバランスを崩し、致命の一撃を入れる。
「終わったぞ」
「あ、はい……」
:すげぇぇぇぇ!?
:マジで倒した!
:しかもノーミスじゃね?
:倒すのはやっ!
:このお嬢様一歩も動かずに弾きと攻撃だけで倒したぞ……
:なぎちゃんが呆然としてる
:そりゃそうだろ……
:気がついたら口開けて見てたわ……
「あの……お嬢様?」
「何だ?」
「このゲーム初めてですよね?」
:お嬢様を疑うというメイドとしてあるまじき所業w
:気持ちは分かるけどなw
:この辺り切り抜き確定だろw
「初めてだ」
「何でこんなに上手いんですか?」
「お前のプレイを見ていたという事もあるが、一番の理由はこのゲームの速度が遅い事だな。この程度なら相手の動きを見た後からでも間に合う」
:驚愕の理由!
:このゲームには速さが足りないらしい……
:お嬢様何者なんだ……?
:ただ言ってるだけなら凄いっすね、で流すんだけど……
:たった今俺達もパーフェクトキルを見てるんだよなぁ……
:超人過ぎる
コメントが凄まじい勢いで流れて行く。
私は自分のプレイは見る気にならないだろうな、やはり凪や他者のプレイの方が見ていて面白いと思う。
「この敵は復活するんでしょうか?分かる方いませんか?」
突然凪が視聴者に尋ねる。
:雑魚扱いだから休憩すると復活するよ
:何度でも出て来る
「お嬢様……申し訳ありませんが、私が倒すまで進まなくても良いでしょうか?」
コメントを読み、そう尋ねながら私を見る風香に私は答えた。
「納得出来るまでやると良い、私はお前のプレイを楽しませて貰う」
:よく言った!
:それでこそ凪よ
:お嬢様かっけぇ
:見守ってるぞ!
:このハイスペックお嬢様の下で働けるとか羨ましい
:このお嬢様は美人(確信)
:寝る時間までは付き合う
視聴者からの応援を受け、彼女は更に一時間半ほどかけて侍を殺した。
リスナーの反応やコメントを違和感無く表現出来ているかは分かりませんが、ここではこんなノリという事でお願いします。