翌日の夜。
これから風香が用意した音楽ゲームを、私が完全初見でプレイするという配信を開始する。
「こんばんはー!完璧メイドの天津凪です!」
:こんなぎー!
:会えてうれしいぜ
:こんばんはー!
「皆さんいつもの様に元気ですね。さて、今回はお嬢様に完全初見で音楽ゲームをやって貰いたいと思います」
:おお!
:でもお嬢様なら平気そう
:性能高すぎるからな
「いつもは私が先にプレイしているので完全所見という訳では無かったのですが……今回は音楽ゲームである事は話していますが何をやるかは教えていませんし、最初からお嬢様にプレイして頂きます」
:ほう……お嬢様の初めてか……
:お前消されるぞ
:今まで一回もやった事いの?
「お嬢様に聞いた所、他のジャンルは少し手を出していたそうですが、音楽系はやっていないそうです」
:へぇー
:一番やってるのは何なのかな?
「一番多くプレイしているのはFPSだそうですよ」
風香は流れるコメントの質問に答えて行く。
:何か凄そう
:でも不意打ちとかは流石に無理だろね
:知らない間に一緒にやってたかも知れないのかぁ……
「プレイしている理由ですが、状況によっては負ける可能性があって面白いから、だそうです」
:敗北を知りたいと……?
:対等に戦えるゲームがやりたかったのか
:勝ってばかりじゃつまらないって事かね?
「では進めて行きましょうか……今日お嬢様にプレイして頂くゲームはこちら、『ソングラッシュ』です!」
:お、良いね!
:キャラが可愛くて良曲が多いから好き!
「配信でプレイしようと思い、買ってからプレイしていなかったのですが……取っておいて良かったです」
そう話す風香を横目に私はプレイを開始する。
「まずはチュートリアルですね」
風香の言葉を聞きながら、チュートリアルをプレイして一通り基本操作を覚えて行く。
少女のキャラクターをキーボードを使って操作し、音楽に合わせて流れて来る敵を殴り殺せば良い様だ。
ジャンプ、長押し、同時押し、連打、一通り操作方法を実践するとチュートリアルが終わり、曲を選ぶ画面に変わる。
「ではお嬢様、お好きな曲をどうぞ」
:さて、お嬢様の最初の一曲は何かな
:チュートリアルから感じるお嬢様の強さ
:結構曲によって難易度に差があるけど……お嬢様なら平気か
曲はタブで分けられ、選択する為に曲を表示すると、曲の一部が流れてどのような曲か分かる様になっていた。
取り敢えず最初はどれでも良いな。
そう思い適当な曲を選ぶ。
:ブレインマジック来た!
:結構難しい方だけど難易度が凡人なら平気かな?
:達人はクソムズイよなこれ
普通を選ぶと早速曲が始まる、曲としては速い方だろうか?
リズムに合わせて流れてくる敵を次々と殴り殺して行き、終了した。
結果はS、内訳を見るとフルコンボで全てパーフェクトなので、これが最高なのだろう。
:知ってた(諦め)
:初見(フルコンボ、オールパーフェクト)
:初見じゃねぇだろこれw
:白狼のアーカイブのパート1を見てくると良いよ、きっと納得するから
「……お見事ですお嬢様」
凪は冷静にそう言っているように見えるが、内心ではそれなりに動揺している様だ。
次に進めると、画面に「玄人が解放されました」と表示された。
「玄人か、難易度が上がる訳だな」
「はい。凡人を一定以上の成績でクリアする事で玄人が、玄人を一定以上の成績でクリアする事で達人が解放されます。基本的には徐々に難易度が上がりますが、曲によっては大きく難易度が変わる事もありますよ」
私の呟きに、風香が説明をしてくれる。
「なるほど、説明ありがとう」
:お礼言えて偉い
:お嬢初めてだし、視聴者にもこのゲーム知らない人居るだろうから説明はした方が良いよね
「達人の難易度を確認してみる」
私はそう風香に告げると、達人を出すため玄人を開始した。
:達人やるのかww
:でもきっとお嬢なら……
:知ってた(素振り)
玄人も同様にフルコンボ、オールパーフェクトで終了。
すぐに達人を開始したが、敵と障害物が更に増えただけで特に変わった事は無く、そのままクリアした。
結果はS。
他の難易度と同じくフルコンボ、オールパーフェクトだ。
:知ってた(本番)
:すげぇ……ブレインマジックの達人はこのゲームの中でもかなり難しい方なのに
:これ白狼見てない視聴者は初見だって信じないと思うぞ?なぎちゃん
「証明する事は難しいと思いますが……お嬢様は間違い無く初見です。お嬢様がわざわざそのような嘘をつく理由はありませんし、そのような方でも無いですから」
:確かに、初見って言ってこのプレイしたら疑われるって分かるよね
:そんな嘘つくんなら普通は初見っぽくやるもんな、少なくともスーパープレイはしない
:うん……筋は通ってるように感じるけど……凄すぎない?
:お嬢様が本物の完璧超人だと知った自称完璧メイド
「くっ……お嬢様が完璧なのは否定出来ません……」
風香はそう言うが、真に完璧な者など恐らく存在しないと思う。
探せば見つかるのだろうか。
:草
:メイドはお嬢様に弱かった
:仕える主だし当然なんだよなぁ……
風香と視聴者のやり取りを横目に、私は次の曲を探す。
何か気になる曲は無いかと探していると「ヴァイオレンス」があった。
表示した事で私の歌声が流れ始める。
「これはクレリアのヴァイオレンスですね、有名ですし説明は不要でしょう。この様に、このゲームは過去の人気曲も数多く収録されていますが、その殆どは追加コンテンツです。勿論、私は今回配信するにあたって全て購入しています」
無関係な様に私の曲について語る風香。
:俺もこの曲好き
:伝説のアイドルだ!今でも人気あるから知ってる!
:本人の映像見た事あるけどビビったわ、凄い可愛いし綺麗だよな
:それな、生まれて初めて一目ぼれしたわ
:彼女の歌ならイモータルプリンセスも良いぞ!
:あれも良いよな今でも古さを感じないし。今のアーティストの曲も好きだけどやっぱり彼女の曲が一番好き
:ランキングとかだと殿堂入りとして出てるよな。後、音楽の歴史の話にも時々出て来る
:殿堂入りってああしないと今でも一位が彼女だからなの?
:期間を絞れば大丈夫なんじゃないかな?全体だと断トツで彼女だね。誰も記録抜いて無いから
:来年教科書に載るらしいね、授業でやるかは知らんけど
……ん?
教科書に載る?
「凪、彼女は教科書に載るのか?」
私は自分の曲をプレイしながら風香に尋ねる。
「……その様ですね」
どうやら彼女も知らなかった様だ。
:お嬢が興味を示した
:お嬢様もクレリアのファンなの?
:なるほど、お嬢が何となくクレリアっぽい言動なのはそういう事か
:音楽の教科書と歴史だったかな。世界に大きな影響を与えたって事で決まったとかなんとか
:そういや、お嬢って声がクレリアに結構似てる?お嬢様って部分も同じだし
:向こうは天下の月下グループだけどな
:確かに声似てる……って言うかクレリアが普通に話してる声を良く知らないんだけど?素晴らしい歌声しか聞いた事無いわ
:教科書に載るってどんな気持ちなんだろうな……本人生きてるよね?
:死んだって話は聞いた事無いから生きてるとは思うけど、引退前も引退してからも公式の場以外で一度も目撃報告が無いってウィクペディアに書いてあったよ
:……確かにそういう報告見た事無いな
クレリアの話題でコメント欄の流れが速くなる。
私に何の報告も無く決まっているが、プロダクション側にはアイドルとしての私を引退後20年間は好きに使って良いと伝えてある。
勿論、行き過ぎれば娘が止めるが。
確か私が引退したのは……2020年だった筈。
つまり後三年程はフラワープロダクションは自由に私の姿や各種音声、映像などアイドルクレリア関連の物を自由に使える訳だな。
「彼女は人類の間でどう扱われようと全く気にしていないだろうな」
私がそう言うと、風香が軽く苦笑いを浮かべながらこちらを見た。
:あー……確かにそんな感じかもね
:お嬢もファンだったか
:一度でも目にしたら女の子は大抵憧れるでしょ、
:魔法少女になるとは思ってなかった
:今の子は主人公のモデルが実在したアイドルだと知っているんだろうか
:似せてデザインされたアニメキャラよりも、本人の方が可愛いんだよな……
:二次元の美少女が現実に負けた初めての事例だって騒いでたな
:なお実年齢は……
:彼女は永遠の少女なんだよ!
:正直、見た目が若ければ実年齢なんてどうでもいい
初めて聞く情報だが特に興味は湧かない。
歌以外の方へも進んでいる様だが、プロダクション側が色々と動いているのだろう。
「お嬢様、ゲームの方は順調の様ですね」
そんな事を考えていると、風香がゲーム画面を見て言う。
私はこのやり取りの間もゲームをプレイし続けているが、この程度でミスなどしない。
それからも私はプレイを続け、10曲全てフルコンボ、オールパーフェクトを出した後に配信を終了した。