私が配信に参加するようになってから約二か月が過ぎた。
あれから天津凪のチャンネルの登録者数は10万人を越え、それなりに知名度が上がった。
現在、私は風香の部屋で配信を見ている。
「こんばんは!完璧メイドの天津 凪です!」
:こんなぎ!
:こんなぎー
「まずは雑談をしましょうか」
いつもの様に風香は雑談をしていたが、その時収益化についての話が出た。
:なぎちゃんのチャンネルも人が増えたけど、収益化は出来ないの?スパ茶投げられんぞー
:そう言えば……条件知らんけどどうなんだろ?
この事に関して、私は風香から事前に話を聞いている。
「話の途中でしたが、収益化の質問が来たので答えておきますね。収益化の条件を満たしても、このチャンネルは収益化はしません」
:しないのか
:何でしないの?
「この配信はあくまでも趣味ですからね」
:趣味を仕事にすると……ってやつかな?
:副収入にはなりそうだけど
「私はお嬢様のメイドですから……それ以外を職業にする気はありません」
:なんだろう……なぎちゃんが本当に優秀なメイドに見える
:お嬢様に忠誠を誓うメイド……良いね!
「という訳で、このチャンネルは収益化はしませんので、お金は他の方に使って下さい」
:お前に使いたかったんだよ!
:まあ、本人次第だから俺達が何か言う事じゃないな……残念だけど
「収入に関しても私は満足していますから」
:へぇ、流石に名家?のメイドとなると給料良いんだ
:流石に年収は言えないよな?
「恐らく問題は無いと思いますが……」
風香が私を見てくる。
「構わないぞ」
:お嬢の許可が出た!
:メイドの配信を見守るお嬢様
:お嬢様が良いと言えば良いんだ!
:正直な話、年収言った所で特定なんて無理だしな
:メイド喫茶以外のメイドの一般的な給料を知らないからなぁ……
:家政婦で平均年収240から300万、コンシェルジュとかは平均年収400万くらいか?
:良く知ってるな
:実力によっては時給数万とかもあるらしいぞ?
:すげぇ……
:実力があればの話しだろ?普通はさっきのコメント位の給料だろうな
コメントではメイドの給料の話題が流れている。
「念の為、少しぼかした表現をしましょうか」
「その方が良いと思うのならそうすると良い。許可はした、どうするかはお前に任せる」
私は彼女に話し方を任せた。
:ワクワク……
:果たしておいくら万円なのか……
「このお屋敷で働いているメイドの平均年収は知らないので、去年の私の年収を少し濁して言う事にします」
:はよ!
:なんで俺達はこんなになぎちゃんの年収を気にしているのか
:何となく気になるじゃないか
「私の去年の年収は約7000万円ですね」
ふむ……個人差はあるが、大体はその程度だろう。
:……は?
:……え?
:結局ネタじゃないか!
:まあ、正直に答える訳無いかw
:もうちょっと現実的な金額にしないとバレバレだぞ!
「これは……困りましたね。一般的な金額と差があり過ぎて信じて貰えません……」
風香は言葉通り、困った様な表情をしている。
「視聴者達、凪は冗談を言った訳では無い。私の屋敷のメイド達の平均年収はその程度だ」
私がそう補足する。
:本気で言ってる?
:マジかよお嬢……
:お嬢はくだらない嘘つかないだろうし……え?じゃあマジで年収7000万なの!?
次々と驚きのコメントが流れて行く。
「彼女が優秀だという事が分かったか?」
:本当なのか……?
:そら収益化なんていらんよな
:どれだけ優秀なんだよ……
:メイドにそれだけの額を出すって……どれだけ優秀……そもそもそこまで優秀じゃなくても良いのでは……?
「私としては適切だと思っている」
この金額の主な部分は働きでは無く精神に影響を与えている事への補償だが。
彼女達は私達が人を越えた寿命を生きていても気にする事無く対応し、引退後も違和感を抱く事は無く、他言しようとすれば意識をそらされる。
更に、多くの事に通常通り違和感や疑問を抱く事は出来ても、確信を得るには至らない。
以前、風香が他のメイドを配信に誘った時にメイド達が失言を恐れ話を断ったと言っていたが、そもそも彼女達は致命的な失言が出来ないのだ。
現在の配信でも風香は私に許可を求めているが、実際には全く意味が無い。
例え私が「自由に話せ」と許可しても、彼女達にかけられた制限が解除されない限り、私達に深く関係する事は話せないからだ。
この魔法が彼女達に大きな害を及ぼす事は恐らく無いだろうが、それでも金銭面で優遇する事にしている。
確か……以前は現在とは違う方法でメイドを雇っていて、給料も今より低くしていた、と聞いた覚えがある。
だがその当時から一部の業界内でこの屋敷のメイドは羨望の的であったらしい。
現在の方法については詳しく聞いていないが、各地に作られた養成所が関係している事は知っている。
他国の家にも時々滞在しているが、教育は行き届いていたので問題は無さそうだ。
当然他国のメイドも全員魔法処理されている為、祖母の代が世話していた「お嬢様」が孫の代である自分の目の前にやって来たとしても違和感を感じる事は無い。
私がそんな事を考えている間も、風香は話を続けている。
「さて……どうです?ここまで明かせば、私が完璧メイドである事を信じて貰えると思いますが……」
:お嬢に完璧は否定されてるのに頑なに言い続けるw
:凄いのは分かった!
:本当ならなw
全て設定だと思っている者も多い様だが、それでも構わない。
何を言っても「配信上の設定」だと受け取られるのならば、こちらとしても色々と都合が良いからな。
「お嬢様、このまま次に行うゲームを決めましょうか」
風香がそう言って私を見る。
「普段は配信が終わってから話をしているだろう、わざわざ配信中に行うのか?」
「視聴者達の意見も聞いてみようかと思いまして」
「なるほどな、分かった」
:俺達が決めて良いのか!?
:料理配信お願いします
:またホラーゲームやろうぜ
:他の個人勢とコラボとかはどう?
コメント欄には次々と要望が流れている。
「ふむふむ……皆さん色々と提案してくれていますが、まず料理配信は駄目ですね。こちらの実際の映像を見せる訳にはいきませんので」
:まあそうだな
:手元だけ映せば行けそうじゃない?
:うっかり何かが映ったら不味いだろ?リスクがある事はやめた方が良いよ
「後、ホラーゲームはしばらくやりません……私が怖いだけですので」
:草
:お嬢様のメンタルが鋼を通り越してダイヤモンドだからな
:なぎちゃんが怖がって手が止まったゲームをお嬢様が淡々と進める配信になったよね
「他の個人勢の方とのコラボも難しいですね、何処から情報が洩れるか分かりませんので」
:相手がね……
:まあ怖いよね
:裏での事をうっかり話されたら大変だしな
私達が相手に手を加えれば問題は無いのだが、今の所そこまでする気は無いからな。
「今の所はお嬢様と二人でゲームをやって行く事になりますね」
そう言いながら凪はコメントを見ている。
:オンライン対戦は駄目なん?
:配信専用のアカ作れば問題無いと思う
:お嬢様のソングラッシュ高難度制覇プレイ見てみたいな
:それいいな、覇王の達人とか見てみたい
「ソングラッシュはお嬢様が引き受けて下さればすぐに出来ますね」
覇王……聞き覚えがあるな。
作曲者の名前は何という名だったか……。
「少し一人で続けていてくれ」
私が小さくそう言うと、彼女は頷いた。
『カミラ、今良いか?』
『どうしたの?』
カミラに念話すると、すぐに返事が返って来た。
『覇王という曲を覚えているか?』
『覚えているわよ。「無貌の少女」の盗作曲よね?』
『その曲の作曲者の名前を覚えているか?』
『ちょっと待ってね……』
僅かな沈黙の後、答えが返って来る。
『覇王の作曲者は「アロイ・メイユ」という人間らしいわ』
……聞いても思い出せないな。
『分かった、ありがとう』
『いえ、私は思い出せなかったわ。侍女の一人が覚えていたのよ』
『今度月に行った時に直接礼を言おう』
『喜ぶと思うわ』
その言葉を聞き、念話を切る。
その間、風香は視聴者と次のゲームについて話していた。
そこに私は声をかける。
「凪……少し前のコメントで言われていた覇王は、アロイ・メイユが作曲した覇王の事か?」
そういわれた彼女は少し考え、口を開く。
「恐らく違うと思います。コメントで言われていた覇王は作者不明で、作者の名は無名とされていますので」
作者不明?
名前を憶えている娘が居るのだから、当時は名前を出していた筈だ。
後に名前を隠したのだろうか?
いや、単純に同名の別の曲というだけかも知れないな。
「お嬢様、気になるのでしたらやってみてはいかがでしょうか?」
考えていると、風香が私に声をかける。
「そうだな、その方が早い」
「準備はしていたので、すぐに出来ますよ」
:おお!突発ゲーム配信だ!
:お嬢の覇王が見れるぜ
:ソングラッシュ屈指の難易度を誇る覇王にお嬢が挑む……!
風香は慣れた様子で配信の準備を整え始めた。