今更ですが作品内の「~している様だ」等の「様」を「よう」に変更します。
すでに投稿済みの物はやる気になれば修正しますが、気にせずに流して頂けたら嬉しいです。
作品内の配信機器や配信方法など、色々と実際の物と異なる場合があります。
正式にバーチャルニュウチューバーとしてデビューが決まった私だが、決めなくてはならない事があった。
配信時に私の分身となるキャラクターの外見と、その設定が必要だと言われたのだが……「演じる」事が出来ない私にとってこれは難しい問題だった。
その後、自分だけではどうにもならないと判断した私は、娘達に相談する事を決める。
月の談話室に時間の空いている娘達を集めて相談し、事前にブイライブから「キャラクターには演じる本人の特徴を一つは入れて欲しい」と言われている事を伝えるとすぐに方針は決まった。
それは「出来るだけ私に似せ、ゴスロリ服を着せる」という物だった。
実際に着るのであれば色々と口を挟んだが、着るのはキャラクターなので私は特に何も言わずにそのまま決定とした。
残りは設定だが、「配信中は設定に沿った言動や対応をする事もある」と聞いていた私は、設定を決める前にその旨を娘達に説明する。
そして話し合った結果、娘達が一番適切だと判断したのは「本来の経歴をほぼそのまま設定として使用する」事だった。
「これが一番いいと思うわ」
カミラがそう言うと、他の娘達も頷く。
「ほぼそのままとは具体的にはどういう事だ?」
そう尋ねると彼女は考える様子を見せ、話し始める。
「そうね……例えば……『人類が生まれる前から地球に存在し世界を見続けて来た超越者。人類とそれなりの時間を過ごして居たので感覚はある程度は人類に近い。時々自分を判断基準にする事があり、人類には理解出来ない事を言う』……とか、どうかしら」
それを聞いて、他の娘達が「おぉー」と声を上げる。
「私はお前達から見るとこのような感じなのか?」
「結構合っていると思うわよ?私達にも理解出来ない事もあるし、現在の人類が理解するのはほぼ不可能だと思うわ」
なるほど。
「それは魂の扱い方の事か?」
「他にもあるけれど、そうね」
確かに皆、良く分からないと言っていたな。
「まだお前達には難しいだろうな……いや、私の説明が悪いのか」
「そんな事は無いと思うわよ」
カミラはそう言うが、相手に存在しない感覚を言葉で説明するのは難しい。
……知識だけを送る事も出来るが、それだけでは理解は出来ても実行する事は出来ないし、何よりも危険を伴う。
いつか共感が可能か試してみるのも良いかも知れない。
ただし、始めの内は別の生物で試しておいた方が良いだろうな。
魂を扱う感覚を共有した場合、その相手がどうなるかが分からない。
狂う、自我が消える、といった問題が起きる可能性は十分にある。
それ以外にも突然体が爆散するかも知れないし、魂が消滅……は流石に無いと思うが、問題無く済む保証が無い。
もし行うとしても、まずは安全性の確認からだな。
「お母様、また何か考えてるわね?」
カミラのその言葉で私は考えを中断する。
「上手く教える方法は無いかと思ってな」
「それはまた後にしたら?まずは決める事を決めましょう」
「そうだな、話を戻そう。カミラが考えた設定にしておけば、確かに何を言っても設定上の言動に出来そうだ」
私は話を設定の事へと戻す。
「考えたというか、ほとんど事実なんだけど」
「そうですね」
「カミラお姉様の言う通りだと思います」
カミラの言葉に娘達から次々と肯定の意見が出る。
しかし、「ほとんど」という事は何処かは違うという事だ。
「捏造があるのか?」
私がそう問いかけると、彼女が答える。
「お母様は自分を超越者だなんて思っていないでしょ?本当は神でも良かったのだけど、お母様は嫌うと思って別の言い方にしたのよ」
「なるほど、そういう事か。確かにそんな事は思っていないし、神は恐らく存在しないと考えているからな」
私が神だと感じる程の存在に実際に会う事があれば考えも変わるかも知れないが、今の所会った事も感じた事も無い。
「超越者も神と同じような物らしいけど、神よりはいいでしょう?……それにこの設定を加えておけば、何を言っても『超越者だから』で済むかも知れないわ」
微笑みながらそう話すカミラ。
「上手く行くかは分からないが、確かに無いよりは良いかも知れないな」
こうして配信に使用される分身の外見の方針と設定が決定し、私はその日の内に決定した内容をブイライブへ伝えた。
私は現在、風香と配信前の会話をしている。
「お嬢様のデビューは近そうですね」
「いや、もう少しかかる。設定はこちらが考えた物をそのまま使って良いと言われたが、私に似せたアバターが出来上がるまで時間が必要らしい」
「なるほど……それはすぐには無理ですね」
「後は、今の内に色々と知識を付けて欲しいと言われたな」
「配信の方法などですか?」
「そうだ。とは言ってもあまり複雑では無いようだが」
少し前に支給されたスマートフォンに専用のアプリが入っていて、アプリ対応のカメラとそのスマートフォンをPCに接続するだけでほぼ準備は完了らしいからな。
「事務所に所属するとやはり違いますね」
私がアプリの事を伝えると、風香は感心したように言って紅茶を飲んだ。
「これからは、また私一人の配信になるのですか……」
紅茶を見ながらそう言った彼女は少し寂しそうだったが、どうしてそう思ったのだろうか。
「もう私と配信はしないのか?」
「お嬢様はブイライブの所属になりますし、流石に……」
「私は好きなようにして良いと言われている。こちらでアバターを使用する事は出来ないと思うが、出る事は可能だ」
「本当ですか!?よくブイライブが……いえ、お嬢様は伝説と言われているアイドルですし……本来許されないような事でも許されそうですね」
風香は声を上げた後、そう呟いて一人で納得している。
「社長を含め、ブイライブの社員の大半が私のファンだった」
私がそう言うと、風香は「流石です」と言って微笑みを浮かべた。
「こんばんは!完璧メイドの天津 凪です!」
配信が始まり、凪となった風香がいつもの挨拶を行う。
:こんばんはー
:こんなぎー!
「今回はゲームをやる予定なんですが、その前にご報告があります」
:おん?
:どした?
「先日、私とお嬢様にブイライブから所属しないかとオファーが来ました」
:マジ!?
:大手じゃん!
:個人勢からブイライブ所属になるの?
コメント欄の速度が一気に加速する。
「凪はメイドが生涯のお仕事ですのでお断りしましたが、お嬢様がブイライブに所属する事になりました」
彼女がそう報告するが、ブイライブからは話して構わないと言われているので何の問題も無い。
:うおぉー!
:マジか!
:お嬢様のお姿が見れるようになるのか!
:ん……?そうなるとこっちはどうなるんだ?
:そう言えばそうだな
:事務所に所属したらこっちはもう無理じゃないか?
「ご心配無く。姿は見せらせませんが、引き続きこちらにも出られるようです」
:おお!
:そういうのってやっても良いの?
:普通は自分のチャンネルの登録者を増やすっていう目的があるから、出来ても誰もしないんじゃね?
:ああ、お嬢はそんなの気にしなそう……
:契約内容が分からないからなー
「名前は『お嬢様』でデビューしますので、その時はよろしくお願いします」
:任せろ!
:名前はそのままなのかw
:それは名前では無いのではw
:でも俺達の中ではお嬢様=なぎちゃんのお嬢様だからな
:それなw
:うんうん
:大丈夫なの?色々とばれないように慎重だったのに良くおkしたね
「恐らく以前程お嬢様がいらっしゃる事は無いと思います……後、情報漏洩についてはお嬢様が良いと判断したのなら問題ありません」
:まあ、流石にな
:なぎちゃんとの絡みが減るのは残念だけど、お嬢様がやりたい事をやる方が優先なんだろ?
:ブイライブならその辺りも上手くやってくれそうだけど、何より本人が良いと言ってるんならいいんちゃう?
「そうですね、お嬢様の意思が最優先です」
:そう言い切れるなぎちゃんが凄いわ
:これって洗脳……
:言うな!消されるぞ!?
「誤解されては困りますので言っておきますが、私達には拒否する権利がありますし、今まで無茶な事を命じられた事もありませんよ」
人間のメイドに無理な事は娘達が行ってくれるからな、彼女達に頼む機会は無い。
:聞いてると凄いホワイトに感じる
:休日とかあるの?
:休み無しだったらいくら給料良くても駄目だよな
いつの間にかメイドの話になっているが、伝える事は伝えたのでこのままで良いだろう。
「休日ですか……」
風香は私が何も言わない事を確認した後、話し始める。
「私達メイドの休日は年間150日ですね、更に身内の不幸や病気などの突然の出来事にも即座に対応して頂けます」
「そう言えば、人数に余裕を持って雇っていると報告を受けた覚えがあるな。突然の欠員に対応するために多く雇用しているのか」
一般的な会社や企業ではあまりそのような事はしないそうだが、私達は気にする必要が無いからな。
:超絶ホワイトやん!?
:金に物をいわせている
:俺も女に生まれたかった……
:高い能力が無いとなれない事を忘れてるぞ
:給料が良く休日も多く、突然の出来事にも対応してくれる上に、仕えるお嬢様は最高とか……
:羨ましいよなぁ!
:私も目指したいのですが、どうすればなれますか?
驚くコメントや羨むコメントに混じり、自分も目指したいというコメントも多く確認出来るな。
「このお屋敷のメイドになる方法は二つあります」
:後輩に手を差し伸べる先輩メイド
:あんまり普通の方法じゃ無さそう
:そんな求人見た事無いしな
「一つは勧誘を受ける事、もう一つは三年以上お屋敷にいるメイドから推薦される事です」
:うはw
:キッツいw
:自分からアピールしても無駄なのか
:選ばれないといけないのかぁ……
:推薦は知り合いじゃないと難しくないか?
「その辺りは私にも良く分かりませんね。『誰かから推薦された』という話は聞かないので、恐らく勧誘がほとんどだと思いますが……」
風香がそう言いながら私を見る。
「凪が視線で尋ねているので答えるが、私もその辺りは把握していない」
「そのようなつもりは無かったのですが、申し訳ありません……お嬢様」
:お嬢様に視線で圧をかけるメイド
:答えてくれるお嬢は優しいなぁ
:まあお嬢様にそんな事わざわざ知らせないよな、誰かが管理してるだろうし
「気にしなくて良い」
私は謝る風香に告げてから話し始める。
「回答の続きだが、私自身が興味を持っていないからな、聞いた事も無ければ報告された事も無い」
:正直な所、お嬢に話しても意味無さそうだもんな
:わざわざ伝える事じゃないよなぁ……
「あと一つ、コメントの中に自分からアピールしても無駄だという物があったが、全くの無駄とは言えないかもしれない」
:そうなの?
:何となく分かったかも
「目立つ事で勧誘している者の目を引く可能性がある。見込みがあればその時点で声がかかるかも知れない」
:なるほど
:勧誘受けた人視聴者に居る?今まで学校でそれっぽい人見た覚え無いんだけど
:見た事ない
:分からん
:どこで勧誘してるんだ?
:誰にアピールすればいいんでしょうかね……?
:なぎちゃん教えて!
「私は母がここのメイドでしたので」
:え!?
:ま、まさか……
:そうだったのか
:なぎちゃん推薦だったの?
「はい、私は母の推薦でした。ですから勧誘を受けた事が無いんです」
「念の為に言っておくが、誰であろうと見込みが無ければ採用される事は無い」
:だよね
:コネとかそんな物で採用される事は無いだろ
:信用調査みたいな事されてそう
:結局どうすれば良いのかは分からないか
「大分話がそれてしまいましたね、お嬢様の事を話していたのですが……」
「話しておく事は最初に話していたから問題は無いだろう」
この日は結局ゲームをする事は無く、そのまま雑談で終わる事になった。