猫目 ネム(ねこめ ねむ) 本名 ナタリア・チェルニショワ ロシア人。
白亜 テラノ(はくあ てらの) 本名 ベティ・オコンネル アメリカ人。
神鳥 フジミ(かんどり ふじみ) 本名 宮内 沙織(みやうち さおり) 日本人。
気が向いた時にゲームの配信を行いながら日々を過ごし、2月に入ったある日。
「クレリアさん!収益化とメンバーシップ解禁ですよ!」
電話から瞳の明るい声が聞こえる。
いつの間にか基準を満たしてしていたようだ。
「そうか」
「もうちょっと喜んでくださいよ……」
私の返答に、彼女はがっかりしたような声を出す。
「特に気にしていないからな」
ブイライブに所属している以上ある程度の利益は出すつもりだが、私の目的は稼ぐ事では無い。
もし「お嬢様」が受け入れられず利益が出ない場合は私財で補う事も考えているので、私の人気が出なくてもブイライブに被害は無いだろう。
もし人類の通貨で解決出来ない問題が起きてしまった時は、こちらも独自の方法で解決すれば良い。
「まあ……クレリアさんは今更そんな事を気にしませんよね」
軽く息を吐いた後、彼女はそう言った。
「解禁した事は分かったが、私はその事に対して何かする必要があるのか?」
「そうですね……収益化のオンオフなど、少し覚える事はありますが、それ以外はこちらで行います。皆さんには活動に力を入れて頂きたいので」
「そうか、分かった」
「改めておめでとうございます。四期生で最初の解禁ですよ」
「ありがとう。他の皆はどんな具合だ?」
時々配信を見てはいるが、解禁までの詳しい状況は見ただけでは分からないからな。
「四期生の三人はほぼ横並びですね」
「厳しいか?」
「いえ、皆さん中々上手く行っていると思いますよ。この調子なら……恐らく後二か月前後で条件を満たせると思います」
私が早く達成したのは、恐らく風香の所に居た視聴者が「お嬢様」も登録して見ているからだろう。
「今の所は問題無いか」
「そうですね」
彼女達が解禁した時には祝いの言葉でも送る事にしよう。
そんな事を考えていると、瞳が更に話を続ける。
「それでですね……お嬢様が解禁したという事で同期の皆さんから全員でお祝い配信をしたいと提案されているのですが……どうしますか?」
「断る理由は無い、参加しよう」
「そうですか!良かったです!」
彼女は嬉しそうな声を出す。
「予定はブイライブ側とも話し合うのか?」
「基本的には皆さんの話し合いに口を出しませんが、やる事を決めたら一度私に話して下さい。駄目な部分は変更をお願いしますので」
「分かった」
瞳から同期による解禁祝い配信の話を聞いた後、私は同期の三人にメールを送り、話し合いの時間を決める事にする。
しばらく待つつもりだったが、全員からすぐに返事があり、その日の内に全員で配信の予定を話し合う事になった。
内容は早々に雑談配信に決まったが、念の為に皆で出来るゲームの準備もしておく。
配信は私のチャンネルで行う。
私の解禁祝いの配信なので、これは当然かも知れない。
コラボ配信のタイトルは「お嬢様収益化、メンバーシップ解禁!お祝い四期生コラボ!」に決定したが、これは同期の三人が考えた物で私は殆ど関わっていない。
配信予定日は二日後の夜に決定。
こうして順調にすべての話し合いは終わったが、全てが決まった後も私達は雑談をして過ごした。
同期とのコラボを決定してから二日後。
私達は配信開始前の最後の確認をしている。
「全員問題は無いか?」
「はい、問題ありません」
「大丈夫よ」
「平気だよー」
私の確認にフジミ、テラノ、ネムが返事を返す。
「もうすぐ配信開始時間だ。説明した通り通話したまま開始するが、私が開始の挨拶をするまで音は出さないようにしてくれ」
「はい」
「オッケー」
「うん」
返事をした後、彼女達は静かになった。
それから約1分後、パーティー会場のような背景に私達四人が並んで表示される。
問題無く配信が開始されたのを確認し、私は口を開く。
「こんばんは人類達」
:きたー!
:こんばんは!
:【メンバーシップに参加しました】参加させて貰います!
:解禁おめでとう!
:祝い金をどうぞ¥10000
:【メンバーシップに参加しました】待ってたぜ?この時を……
私が挨拶すると、祝いの言葉とスーパーチャット、メンバーシップの加入報告が一気に流れ始める。
「祝いの言葉をありがとう。スーパーチャット、メンバーシップの加入は視聴者達の自由だが、身を滅ぼすような真似はするなよ」
:上納金でございます¥50000
:お嬢はなんだかんだいって優しいな。無理はしないから平気やで¥1000
:ずっと金を払いたかったんだよ!¥5000
勢いは止まる事無く続いているが、話を進めよう。
「今回は私の解禁祝いという事で、同期の三人が参加している。では、順番に自己紹介をしてくれ」
:初コラボがお祝い配信とは!
:これを機会にコラボが増えると良いな
様々なコメントが流れる中、同期達の挨拶が始まる。
「こんばんはー。バーチャル猫獣人の猫目ネムだよー」
:こんネムー
:流石にお嬢様のコラボに遅刻する事は出来なかった様ですねw
「恐竜人ライバーの白亜テラノよ。貴方達もしっかりお祝いしなさい」
:姉貴ー!今日も綺麗だぞ!
:分かりました姐御!
「皆さんこんばんは、幻獣人の神鳥フジミです。今日はお嬢様の解禁祝いに参加出来て嬉しいです」
:フジミちゃんは今日も清楚
:可愛い
「さて、自己紹介も終わった所で……お嬢様解禁おめでとう!」
「おめでとー!」
「おめでとうございます!」
テラノの祝いの言葉に続いて残りの二人も祝いの言葉を口にした。
裏では既に祝われているが、配信では今回が初めてだからな。
「ありがとう。それと、今回の配信を提案してくれたフジミに改めて感謝する」
話し合いの際、始めに皆に提案したのはフジミだと聞いたので配信の方でも礼を言っておく。
:考えたのは富士山なのか
:流石富士山w
……富士山?
私はコメントに山の名前が流れている事に気が付いた。
「コメントに時々流れている富士山とはどういう事だ?」
「あっ……それは……」
フジミが声を上げたが、私はコメントに流れた説明を見ていた。
:フジミちゃんの事
:フジミさん→フジさん→富士山
なるほど、隠語の様な物か。
「嫌では無いですけど……改めて説明されると恥ずかしいですね……」
「可愛いと思うよー?」
「日本の有名な山に例えられるのなら悪くないんじゃない?」
言葉通り恥ずかしそうな声を出すフジミに、ネムとテラノが声をかける。
:恥ずかしがるフジミちゃん可愛いw
:仲良さそうだなw良い事だw
「こうして四期生全員で集まって話すのはまだ二回目なのよね」
「そだねー。もっと一緒に何かやりたいよねー」
「私はこれからどんどんコラボ出来たら良いなと思っています」
三人はコラボ配信を積極的に行いたいと思っているのか。
「私は誘う事はあまり無いと思うが、誘われれば断る事は殆ど無いと思う」
「では、近い内にお誘いしますね?」
私の言葉にフジミが楽しそうに答える。
「私とも一緒に配信しようねー?」
ネムも明るい声でのんびりと言う。
「やりたくない事は断るが、それ以外なら構わない」
「我が儘なお嬢様って感じだー。本当にやらないのー?」
ネムが私に言う。
「そうだな。基本的にやりたくない事はやらない」
友人や家族に頼まれたり、その先に興味がある場合は行うかもしれないが。
:我が儘w
:その時の気分次第という事かw
「貴女らしい答えだけど、具体的に何か嫌な事とか嫌いな物はあるの?」
少し笑いながら言ったテラノの問いに、私は考える。
嫌な事、嫌いな物、か……。
その時の私の気分で変わる事が多いが、恐らくこの先も変わらないと感じる物が二つある。
「二つあるな」
「何々ー?」
ネムが声を上げたが、他の二人は黙って聞いている。
:弱者とか?
:愚か者ですかねぇ?
コメントも興味を持っているらしく予想をしている。
そんな中、私は以前から変わらない自身の考えを口にした。
「一つは敵対した者を理由無く生かしておく事、もう一つは全てが自分の思い通りに動く事だ」
:超越者的な答えだったw
:敵は殺す、慈悲など無い!
:思い通りなるのはつまらんとか、俺も言ってみたい……
:言えば良いだろw
:俺は全てが自分の思い通りになって欲しいと思ってるよ?
「全然配信に関係ないじゃない」
テラノはそう言って笑った。
「あはは!何か物騒な事言ってるー」
「お嬢様は何と戦ってるんでしょうか……」
ネムは何かが気に入ったのか話しながら大きく笑い、フジミも小さく笑いながら話している。
今の私の答えは本心だが、彼女達も視聴者もキャラクターの設定を前提とした回答だと思っている気がする。
「これからもこうして何かあった時は集まりたいですね」
まだ少し笑いながら、フジミがそう口にする。
「そうだねー。私達が収益化した時とか、登録者数が一定数になった時とか、そんな時はそれぞれのチャンネルでまた集まろうよー」
「良いわね、そういう時は皆で祝うようにしましょうか」
:四期生の仲が良さそうで何よりですw
:絡みが増えると良いな
それから私達は雑談をしながら過ごし、用意したゲームをする事無く配信を終えた。
「無事に配信が終わったな」
配信終了後、私達はそのまま会話を続けていた。
「上手く行って良かったね」
「そうね。視聴者も楽しんでくれていた様だし」
「クレリアさん」
ネムとテラノの話を聞いていると、フジミが私に話しかけて来た。
「何だ?」
「あの、本当に嫌な事はしっかり言って下さいね?」
「そうね。私達は配信で自分の嫌な事とかハッキリ言ってるけど、貴女は何も言ってないでしょ?今日も設定寄りの事を言ってたし……」
「無理せずに話してねー?私達にも出来る事があるかも知れないし」
沙織の言葉に続いてベティとナタリアが私を気遣う様な事を言う。
やはり本気にしていなかったか。
「配信で私が言った事は本心だ」
「え?」
「そうなのー?」
「本当なんですか?」
私の言葉に困惑するような声を上げる三人。
「本当だ。私は敵を理由無く放置する気は無いし、何もかも思い通りになる事も好きでは無い」
僅かな沈黙が訪れたが、すぐに沙織が口を開く。
「そ、そうですか!友達思いなんですね!」
彼女の大声は初めて聞いたかもしれない。
「かなり強気な発言ね」
「大物だぁ」
ベティとナタリアがそう言うが……通話では内心でどう感じているかは分からないな。
「癖が強くても、特徴があった方がニュウチューバーとしては上手く行くかも知れないわね」
「そうだよねー」
そう言うベティに、ナタリアが嬉しそうに同意する。
「まあ、それでも大事な初配信に寝坊するのはあまり良くないと思うけど」
「へー?そんな子いるんだー?」
ナタリアは知らないふりをしているが、それは無理があると思う。
「それはナタリアさんの事では無いでしょうか……?」
「私以外にもしてる人いるよぉ」
ついさっき知らないふりをしていたのに、寝坊を認める発言をするナタリア。
「え?そうなんですか?」
「いるよー……いるよね?」
「何で私達に聞くのよ」
「……知らないのに言ったんですか?」
騒ぐ三人の会話に時々混じりながら、その日は日を跨ぐまで話し続けた。