少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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093-05

 

 ベティとコラボ配信の話し合いをした翌日。

 

 私は彩に誘われ、彼女の自宅にやって来た。

 

 彼女の夫は仕事でいないが、これは彩が狙って行っている事だ。

 

 原因は彼女の夫が私の大ファンである事。

 

 彼は私が来る事を知ると仕事を休もうとするので、夫が仕事でいない時間を狙って彩は私を誘っている。

 

 「クレリアさん、『お嬢様』というバーチャルニュウチューバーをご存知ですか?」

 

 飲み物とデザートを用意し、落ち着いた彩が突然そう言った。

 

 ブイライブとの話し合いの結果、友人達にもバーチャルニュウチューバーをしている事を伏せている。

 

 出来るだけ正体が漏れないようにするためだ。

 

 私の判断で話しても良い事にはなっているが、聞かれない限り答える気は無い。

 

 「知っている」

 

 そう答えると、彼女が苦笑しながら言う。

 

 「付き合いが長い皆さんは全員分かると思いますよ?お嬢様はクレリアさんですよね?」

 

 ……なるほど。

 

 彩はお嬢様が私であると確信している。

 

 彼女には話しておくか。

 

 声優業界に長く身を置いている彼女なら問題無いだろう。

 

 「彩の言う通り、お嬢様は私が使用しているキャラクターだ」

 

 「やっぱり」

 

 彩はそう言って微笑んだ。

 

 彼女の言う通りなら、千穂達も気が付いているのだろうか。

 

 私が訪れた時にそういった事は聞かれなかったが……。

 

 いや、お嬢様を知っているという前提で考えるのは間違いだな、彼女達がお嬢様を知らない可能性もあるのだから。

 

 見れば分かるとしても、その存在を知らなければ目にする機会はそう無いはずだ。

 

 「私、お嬢様の配信にゲストとして出演したいのですが……良いでしょうか?」

 

 そんな事を考えていると、彼女が私を見て言う。

 

 「そういった事はブイライブ側に話を通してからの方がいいだろうな」

 

 「そうですか、ではブイライブさんに話してみる事にしますね」

 

 そう言って彼女は飲み物を一口飲む。

 

 「彩がブイチューバーの配信や動画を見ていたとは知らなかった」

 

 今までそんな事を聞いた覚えはないが……話題にしなかっただけなのだろうか。

 

 「いえ、最近見始めたんです。お嬢様というブイチューバーがアイドルのクレリアでは無いか、という話を耳にしたので……」

 

 なるほど、そういった話は出ているんだな。

 

 「声が似ている別人だとは考えなかったのか?」

 

 「勿論、最初はそうかも知れないと考えましたよ?でも、すぐにクレリアさんだと分かりましたから」

 

 「そうか」

 

 「ええ……声は勿論、反応も話し方もクレリアさんそのものでしたし、何よりもあんなプレイをする人はクレリアさん以外思い浮かびません」

 

 ふむ……人に可能な範囲で行っているつもりなのだが、違和感があるのだろうか。

 

 一応、彩から見た感想も聞いておこう。

 

 「彩から見て、私のプレイは異常に見えるか?」

 

 そう尋ねると、彼女は少し考える仕草をしてから話し始める。

 

 「うーん……どうでしょう?私はゲームが上手い人がプレイしているのを見た事がありませんからね。クレリアさんのプレイを見てそう感じるのは、クレリアさんの凄さを知っているからかもしれません」

 

 「先入観があるという事か」

 

 「そうですね」

 

 私が見ている限り、私ほどでは無くても近いプレイをする者達は存在していた。

 

 それらのプレイを思えば、私のプレイが飛び抜けている訳では無いはずだ。

 

 ただ、それを延々と続けたら流石に視聴者達も「何かおかしい」と感じるかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 「お嬢様の方は準備良い?」

 

 「問題無い、いつ始めても大丈夫だ」

 

 コラボ当日、配信が始まる前に私達は最後の確認をする。

 

 「私が進行をするから、お嬢様はリラックスしていつも通りで良いからね?」

 

 「そうさせて貰う」

 

 進行がテラノなのは、彼女のチャンネルで配信されるからだ。

 

 このコラボ配信は私のチャンネルでは配信していない。

 

 「じゃあ配信を開始するわ、そのまま調整もするわね。問題無い内容なら声出しちゃってもいいから」

 

 「分かった」

 

 私の返事の後、配信が開始された。

 

 「みんな、こんばんは。白亜テラノよ」

 

 

 :こんばんは姉御!

 

 :コラボだー!

 

 

 「始める前に色々と調整するわ、音量は大丈夫?」

 

 彼女の配信は私も見ているが、私の画像だけでテラノが表示されていないな。

 

 「テラノ、お前の画像が表示されていないぞ」

 

 

 :あれ?姉御が居ない

 

 :お嬢様の立ち絵はあるけどテラノ姉さんが表示されてないね

 

 

 私の言葉とほぼ同時にコメントでも指摘されている。

 

 「私が映ってない?……ちょっと待って」

 

 彼女はそう言って何か操作をしている。

 

 

 :お嬢様にも言われてて草

 

 :配信見ながら出てるんだなw

 

 

 そんなコメントが流れている間にテラノの画像が表示され、位置が調節される。

 

 「どうかしら?これで問題無いと思うけど」

 

 

 :来たー

 

 :大丈夫

 

 :お帰り

 

 

 「音量は平気よね?」

 

 「問題無いと思う」

 

 「配信を見てるお嬢様が言うなら平気そうね」

 

 

 :俺達の出番は無かったw

 

 :お嬢様優先!

 

 :俺達を頼ってくれていいのよ?

 

 

 「じゃあ、始めましょうか。改めてこんばんは、恐竜人の白亜テラノよ」

 

 「こんばんは人類達。お嬢様だ」

 

 

 :待ってたぜ姉御ー!

 

 :コラボ嬉しい

 

 :お嬢様!今日もお美しいです!

 

 

 「さて、今日はお嬢様とのコラボでマニオカート対決をするわ」

 

 

 :お嬢様ゲームめちゃ強いぞ

 

 :姉御大丈夫?

 

 

 「やるからには勝つつもりでやるわよ。負ける気なんて無いわ」

 

 

 :頑張って!

 

 :さて、勝てるかなぁ……

 

 

 強気な発言をするテラノに、応援や不安を表すコメントが書き込まれて行く。

 

 「ルールの説明をするわね、まずはこれを見て」

 

 彼女はそう言って画面に表を表示した。

 

 

 グランプリモード(10レース、他キャラクターはNPC)を行い、得たポイントが多い方が勝ち。

 

 得点は以下の通り。

 

 順位  得られるポイント

 1位  15ポイント

 2位  12ポイント

 3位  10ポイント

 4位  9ポイント

 5位  8ポイント

 6位  7ポイント

 7位  6ポイント

 8位  5ポイント

 9位  4ポイント

 10位  3ポイント

 11位  2ポイント

 12位  1ポイント

 

 同点であった場合はもう一度だけレースを行い、順位が上の方が勝ち。

 

 負けた方は罰ゲームとして今日の配信から一か月以内に激辛焼きそばを食べる配信を行う。

 

 ※時間が余ったら視聴者参加で出来る限りレースを行う。

 

 

 「見てくれた?この表のルールで勝負するわ」

 

 「回線が落ちたレースは無効だな?」

 

 私は表に載っていない部分を説明する。

 

 「そうね、どちらかが落ちてしまった場合、そのレースは無効になるわ。問題無く終了したレースの順位のみで合計ポイントを競う、という事よ」

 

 「分かった」

 

 

 :罰ゲームの定番、激辛焼きそばw

 

 :途中で回線落ちしたらレースがリセットされるの?

 

 :回線悪かったら終わらなそうw

 

 

 「回線落ちした場合、そのレースだけが無効になる。一から全てやり直す訳では無い」

 

 上手く伝わっていない者がいるようなので追加で説明しておく。

 

 「そういう事、捕捉ありがと」

 

 

 :あーなるほど、合計レース数で終わるのか……ボケてたわ

 

 :もし4レース目で落ちた時は、やり直して7レースした時点で終わるって事だよね?

 

 :そういう事か、勘違いしてた

 

 

 「さて!説明は終わったし、早速ゲームを開始するわよ。お嬢様も準備は良いわよね?」

 

 テラノが私に確認してくる。

 

 「問題無い」

 

 「オッケー!じゃあ画面出すわよー」

 

 彼女がそう言った後、ゲーム画面が表示された。

 

 

 


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