「お嬢様はマニオカートは初めてなのよね?」
「他のレースゲームはプレイした事があるが、このゲームは初めてだな」
「じゃあ説明しながらやるわね」
:お嬢様初めてかよw
:初心者に罰ゲームありの対戦を申し込む経験者w
:汚いw
「良いのよ!お嬢様がゲーム上手いのは知ってるし、これ位は良いハンデよね?」
テラノがコメントに反応した後に聞いて来るが、事前の話し合いで既に了承しているので断る理由は無い。
「問題無い。テラノが教えてくれるようだしな、すぐに慣れるだろう」
:余裕の超越者!
:罰ゲームの激辛焼きそばはお嬢様に通用するのだろうか……w
:何か平気そうw
「さて、レース開始までささっと進めるわよ。あ……排気量を決めてなかったわね……お嬢様は初心者だし、一番下の50ccでいいかしら?」
「一番上で頼む」
「……大丈夫?かなり早いわよ?」
気遣うような声を出すテラノ。
:めっちゃ強気w
:超越者に初心者扱いなど不要!
「じゃあ……一回走ってみて、駄目そうだったら仕切り直しましょうか」
テラノはそう言って1000ccを選択した。
「次はコースだけど、これはランダムで……」
彼女は次々と設定を決めて行く。
「出来た!次は操作キャラクターの選択よ」
「キャラによって何か違いはあるのか?」
「操作性や最高速度、他のキャラクターとぶつかった時の安定性などが違うわ。自分に合ったキャラを使うといいわよ」
:初プレイのお嬢様は合う合わないなんて分からないんだよなぁ……
:汚い!姐御汚い!
:これは草
:嵌める気満々w
「私は不利な事が分かった上で参加している。彼女も配信外で心配していたが、問題無い」
「あ……ちょっと!?言わないでよ!」
:優しいw
:裏では気遣う姐御最高っす!
:一生ついて行きます!
「掌返してんじゃないわよあんた達!じゃあ始めましょ……初心者は軽量なキャラが扱いやすいわよ?」
:アドバイスを我慢出来ない姐御w
:面倒見の良さが隠せないw
「私はこの重量級のキャラを使おうと思う」
「初心者には難しいキャラだけど……まあ、いいわ」
:そしてアドバイスを聞かないお嬢様w
:人の話を聞かないw
コメントでは話を聞いていないと言われているが、私は聞いた上で問題無いと判断している。
「そろそろ配信を見るのは止める。テラノのアイテムなどがバレるからな」
そう言って、私は見ていた配信画面を消した。
「ん、了解」
第一レースが始まると、テラノのキャラがスタートと同時に突然速度を上げトップになった。
「む……どういう事だ?」
:説明も読んでないのかw
:お嬢様はゲームによっては最低限の下調べするけど、今回は完全に初見ぽいね
:スタートダッシュと言って、特定のタイミングでアクセルを吹かすとスタートと同時に一気に加速出来る
私はコメントを読んで行く。
「お嬢様ごめん!他の説明を忘れてた……走りながら説明するから聞いて?」
そう言ってテラノが操作方法を説明してくれた。
:この慌て方は本気で説明忘れてたなw
:このレースは無効では?
:教えながらも走りは全力で草
……なるほどな。
スタートダッシュなどの細かい技とアイテムの効果を一通り聞いている間に第一レースはテラノが12位中1位、私は6位となった。
「このレースは無効ね」
「いや、このままで良い」
テラノは無効だと言ったが、私は否定した。
「流石に今のは駄目よ」
「大丈夫だ。恐らくもう負ける事は無いと思う」
アイテムの効果は把握したし、さっきのレースでスタートダッシュ以外のタイミングや挙動も把握したからな。
「……言ったわね?じゃあこのまま行くわよ?」
「良いぞ」
「やっぱり無効にしたいと言っても聞かないからね!」
少し言葉を荒らげる彼女。
恐らく私の言葉に乗って言っているのだろうが、少しは本当に怒っているかも知れない。
:流れるように姐御に喧嘩を売ったw
:あの1レースでお嬢様は熟練者となったのだ……
:流石に一回走っただけでテラノちゃんに勝つのは無理だよ
:でも、あのお嬢様だからなぁ……
様々なコメントが流れる中、次のレースが始まる。
私はまずは適当なタイミングでアクセルを吹かす。
すると、スタートと同時にエンストし最下位になった。
ふむ……キャラごとにタイミングが違うと聞いたのでまずはテラノに合わせて見たが、失敗したようだ。
「アクセルが早いわね、そのキャラは確か2カウント目くらいからが良かったはずよ」
テラノがアドバイスしてくれる。
「ありがとう、そうしてみる」
:優しい
:素直に聞く時は聞くお嬢様
:まあ、一方的じゃつまらないしお嬢様がかわいそうだろ
出遅れた私は教えられたテクニックを使いトップを走るテラノを追いかけた。
「待って!普通に上手いんだけど!?」
テラノの焦った声が聞こえる。
最下位だった私はあれから差を縮め、約一周残った時点でトップを走る彼女の真後ろについていた。
:スタートダッシュは出来なかったけど他がスゲェ!
:ギリギリをついて走るし、ドリフトのミニターボも上手く使ってる
:やはりお嬢様はお嬢様だった
「負けない!」
きっと彼女はアイテムを持っているだろう。
私は「頭蓋骨」を持っているが、今の状況なら使わずに持っていた方が良いかも知れない。
頭蓋骨は発射すると直進し、当たると相手を転倒させるが、自分のカートの後ろにおいて後方からの攻撃を防ぐ事も出来る。
抜いた後、高確率で彼女は攻撃して来るはず。
その攻撃を防ぐ事が出来るかも知れない。
防御不可能な物だったら無意味だが。
私はそのまま彼女の背後に張り付き、最後のコーナーで抜き去った。
「まだよ!」
やはり仕掛けて来るか。
私はすぐにバックミラー視点に切り替える。
するとゴール前の僅かなストレートの途中で、彼女が「赤頭蓋骨」を発射した。
この赤頭蓋骨は、一つ前の相手を追尾し当たった相手を転倒させるアイテムだ。
このアイテムを温存しておいたのは間違いでは無かったな。
そう思いながら、私は頭蓋骨を自分の背後に設置する。
彼女が発射した赤頭蓋骨は、設置された頭蓋骨に当たり消滅した。
「あーーー!?」
彼女の叫び声を聞きながら、私は1位でゴールを通過する。
:最下位から勝ったぞおい
:これが超越者クオリティ
:お嬢様はマジで能力高いし上手いんだって……過去配信見てない奴は見て来いw
「お嬢様って本当に初見よね?」
疑っているのだろうか?
「打ち合わせで言ったようにレースゲームはした事があるが、このゲームは今日が初めてだ」
:やったのはなんてゲーム?
:何をやってたのか気になる
「プレイしていたのは『グランドレーシング』だな」
私はコメントの問いに答える。
:あーあれか
:あれはリアル系だからマニオカートとは完全に別物だね
:レースゲームの中でもかなり難易度の高いゲームじゃねぇか
:どんなゲームなん?
:あれ難しかったなぁ
:変にクラッシュすると故障して失格になるゲーム
「初心者だと思うのはやめとくわ、手加減無しよ」
テラノはそう宣言する。
:あれ慣れると面白いよね
:今度新作出るから皆でやって欲しいね
:マジで?買わなきゃ
「新作を同期の皆でやるのは良いかも知れないわね……あっ!?」
会話中に次のレースが始まったが、テラノはスタートダッシュを失敗し通常のスタートになった。
一方、私は教えて貰ったタイミングで問題無くスタートダッシュを行いトップになる。
「失敗しても問題無いわ、ここからよ」
:このゲーム順位が低いほどいいアイテム出るし、最後まで分からんからな
:実力は間違い無く必要だけど、腕に差があってもある程度いい勝負が出来るようになってる所が人気の理由だよね
確かに最下位の時は順位を上げやすいアイテムが出やすかったような気がする。
私は一位を維持したままそう考えていた。
「よし!『星の心』来た!」
彼女の嬉しそうな声が聞こえる。
:おお!運がいい!
:行け!姐御!
「どきなさい雑魚どもー!」
星の心の効果は一定時間無敵状態となり、加速力と最高速度が上昇する……だったな。
更にライバルに接触すると相手をクラッシュさせる他、一部の障害物を破壊し無効化出来る。
流石にコースアウトは避けられないが、ゲーム中で一位二位を争う程に強力なアイテムだと聞いている。
そう考えている間に彼女の順位はどんどん上がり、私に近づいている。
私は現在アイテムが無い、出来れば何かしら手に入れておきたい所だ。
そんな時、後ろに付けているNPCからの赤頭蓋骨を受けて私は3位に転落、順位を上げていた彼女は4位になった。
ふむ……防御出来るアイテムが無ければ、ゲームの仕様上避ける事はかなり難しいな。
「良いわよNPC!よくお嬢様を狙ってくれた!」
私の順位が落ちた事を喜ぶ彼女。
そしてその直後にテラノのアイテム効果は終了し、私はアイテムを取得した。
彼女の喜びの理由は何となく分かる。
勝負は私とテラノの総合ポイントだ、何位であろうと相手より上ならば差をつけられる。
例え自分が11位であろうと、相手が12位なら問題は無い訳だ。
NPCがNPCを狙ってもお互いの差が大きく変わる事は無いが、私が狙われればそれは勝敗に大きな影響を及ぼす。
だから、彼女はNPCが私を狙った事を喜んでいるのだろう。
:少し前までの気遣いは何処に行ったのか……
:負けず嫌いだからしょうがないねw
:初プレイのお嬢様に負けたくないんだろうなぁ
「負ける気は無い」
私はそう言って最短コースを攻めて行く。
「まだ十分逆転可能よ!」
もうゴールまで後僅か、そこで私は先程取得したアイテムの「なめこ」を使う事にした。
なめこはコース上に設置する事が出来る。
そして、接触した者はグリップを失い滑ってしまう妨害アイテムだ。
私は最後のカーブでドリフトしながら、テラノが真後ろに来た瞬間を狙いなめこを設置する。
「あっ!?……うきゃーー!?」
なめこを踏んだテラノは驚きの声を上げて真っ直ぐコース外に滑って行き、叫びながら転落して行った。
その間に私はゴールを通過し、3位が確定する。
:上手い!
:姉御がすげえ声出しながら落ちて行ったw
:一気に9位に落ちたなw
「何でよー!」
悔しそうに叫ぶテラノ。
「密着していれば避けられないだろう?」
彼女はコース復帰中に後続に抜かされ、最終的に10位でゴールした、これで点数に大きく差がついた事になる。
「最後に赤頭蓋骨当てて抜こうと思ってたのにー!」
「その時は恐らくなめこで防いでいたぞ」
「くっ!それでも10位になるよりは4位の方がましだったわ……」
:どちらにしろ負けていた姐御w
:確かに10位より4位の方がましだったなw
「交差した時、私がなめこを置くよりも早く赤頭蓋骨を撃っていれば勝てたかも知れないな」
「あんな一瞬じゃ無理よ……よく出来るわね」
「私は反射神経が良いからな」
「配信見て知ってたけど……実際にやられると何とも言えない気分だわ」
:ボスの攻撃を全て弾いてパーフェクト勝利したバケモンだぞ
:初見の激ムズ音ゲーを世界で最初にオールパーフェクトでフルコンしたお嬢様
:バトロワ系FPSで複数を同時に相手して蹂躙した超越者
:並べてみるとマジで凄いなw
「本当に甘く見てたわ……あの動画の反応が出来るなら重なった一瞬を狙う事も出来るわよね」
そう言って溜息を吐くテラノ。
「そうだな、特に難しい事では無い」
「どうなってるのよ貴女……」
「どうする?負けを認めるか?」
「負ける気は無いわよ!」
私の言葉に、彼女は楽しそうにそう返した。