少女(仮)の生活   作:YUKIもと

249 / 260
 長引かせず、サラッと解決する予定です。

 別視点があります。


 ※追記

 修正しました。





093-09

 私の事が報道された翌日の朝。

 

 配信をしようとニュウチューブのトップを開く。

 

 ……ん?

 

 いつもならば待ち時間など無くつながるのだが、今日は全くつながらない。

 

 そのまま数分待ち続けたが、最終的にエラー画面に切り変わった。

 

 ふと、千穂と美琴が昨日言っていた事が頭をよぎる。

 

 昨日の報道の影響かと思っていると、私のスマホが着信を知らせた。

 

 相手は四期生マネージャーの瞳だ。

 

 「どうした?」

 

 「クレリアさん!今からこちらに来れますか!?」

 

 電話に出た途端、挨拶も無しに彼女が大きな声で言う。

 

 その声からは明らかな焦りが感じられる。

 

 「私の事がニュースに流れた事と関係しているか?」

 

 そう確認すると彼女は一瞬言葉を詰まらせ、話し始めた。

 

 「はい……既にブイライブには電話やメールが大量に押し寄せていて、問題になっています。色々とお話したいので来ていただけませんか?」

 

 「今から行く」

 

 「ありがとうございます!お待ちしています」

 

 瞳の返事を聞いて通話を切ると、私はすぐにブイライブ本社に向かった。

 

 

 

 

 

 

 ブイライブに到着した私は、待っていた社員に誘導され会議室へと通された。

 

 部屋に入り席につくと、社長が口を開く。

 

 「クレリアさん。突然の呼び出しにもかかわらず、来ていただいてありがとうございます」

 

 ブイライブの経営陣も揃っているな。

 

 「構わない。何処から漏れたかは分かっているのか?」

 

 「……ご説明します」

 

 私が尋ねると、ブイライブから今回の事についての説明が始まる。

 

 事の発端は、テレビ局からブイライブに取材をしたいという話が来た事だという。

 

 最近人気が出始めているバーチャルニュウチューバーの特集を放送したいという事で、大手の一つであるブイライブに声をかけたようだ。

 

 放送は深夜帯であったが、テレビに取り上げられる事はかなりの宣伝効果がある。

 

 その為、この話をブイライブ側は喜んで受けた。

 

 そして取材自体は問題無く進んだ、バーチャルニュウチューバーの事だけでは無くブイライブの社内の様子なども撮影され、無事に放送される事になる。

 

 本来ならばこのまま何の問題も無くバーチャルニュウチューバーとブイライブの知名度が上がるはずだったが、視聴者の一部が社員のパソコンの画面を確認するために映像を解析したらしい。

 

 ただ、これは想定内の出来事で、ブイライブ側は取材の間だけは何を見られても平気なように準備していたという。

 

 だからこそ、事前にテレビ局側へ映像処理はせずにそのまま放送して構わない、と伝えていたらしいのだが……。

 

 ここで一つだけ誤算が起きた、とある社員が社外秘のメールを表示したまま席を立っていたのだ。

 

 単純なミスなのか故意なのかは分からないが、これが決め手となった。

 

 現在は映像技術が進み、テレビ放送に限らずどのような画像や動画も解像度が高い。

 

 そのため、気まぐれに社員のパソコンの画面を拡大解析した視聴者達は、アイドルのクレリアが「お嬢様」である事が分かるメールをはっきりと目にする事になった。

 

 引退後から全くその動向が分からなかった伝説のアイドルの情報と決定的な証拠だ、手に入れた者達は我慢する事が出来なかった。

 

 彼等は、嬉々としてその情報を動画、掲示板、ネットニュース等に証拠を添えて流した。

 

 その後、多くのファンが知りたがっていた伝説のアイドルの情報は一気に世界に拡散し、世界各国のテレビ局も食いつき動き出した……という事らしい。

 

 「これは、間違い無く……こちらのミスです……申し訳ありません」

 

 その言葉の後、全員が一斉に立ち上がり頭を下げた。

 

 皆、表情が硬く、強い後悔と不安を抱いている事が分かる。

 

 彼等がここまでするのは、私が被害を受けた本人という事以外にも理由があると考えている。

 

 私が月下グループの者である事は人類の中では有名だ。

 

 そして月下グループはブイライブに資金を提供している……いや、していた……だったか?

 

 その辺りはどちらでもいいか。

 

 とにかく、関係者である私に迷惑をかければ、月下との関係が悪くなると考えているのだろう。

 

 とは言え、彼等にずっと頭を下げさせていても意味は無い。

 

 「私は気にしていない。いつか知られると考えていたからな」

 

 これは本心だ、私達が本気で隠していない以上、いつかどこかから漏れるだろう。

 

 私の言葉を聞いた社長が頭を上げ、こちらを見た。

 

 「そうだったとしても、今知られてしまったのはこちらの落ち度です」

 

 「問題無い」

 

 「しかし……」

 

 「今するべき事は私に謝り続ける事か?」

 

 私は彼等の言葉を遮って問う。

 

 「謝罪したいのなら後で好きなだけするといい。今は全員座れ」

 

 そう言うと、全員大人しく席に着いた。

 

 「これからブイライブとしてはどう対応する?」

 

 私が問いかけると、彼等は更に表情を歪ませた。

 

 「クレリアさんが来るまでも話し合いをしていたのですが……」

 

 暫くの静寂の後、瞳が目を伏せながら話し始める。

 

 「現在起きている事態を考えると……現時点では『お嬢様』に……活動を休止して頂くしか無いと、判断しました……」

 

 全員の後悔と不安が強いのはこの決定を下した事も関係していたのかも知れないな。

 

 確かに、この状況が続けばニュウチューブ全体とブイライブに大きな被害が出る。

 

 私としては、この決定に異議は無い。

 

 「分かった。私は活動を休止する」

 

 「本当に……申し訳ありません」

 

 私の宣言の後、瞳の縛り出すような呟きが聞こえた。

 

 「あまり思い詰める必要は無いぞ?」

 

 活動を休止した事で私の周囲に危険が及ぶ訳では無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 大学での昼休み。

 

 私が食堂でスマホを操作してニュースを手早く見ていると、ある記事が目に入りました。

 

 「嘘……」

 

 私はそれを見て、思わずそう呟いてしまいました。

 

 「沙織?どうしたの?」

 

 「い、いえ……何でもありません」

 

 動揺を押さえつけ、返事をする。

 

 ……今日はもう帰りましょう。 

 

 

 

 

 

 

 「どうなっているのか調べないと……」

 

 体調が悪いと言い大学から帰った私は、そう呟きながらPCの電源を入れました。

 

 ……メールが来ているようですね。

 

 「これは……」

 

 メールはブイライブからでした。

 

 内容はしばらく間活動を控えて欲しいという事と、後日詳しく説明をする、という物でした。

 

 あのニュースにこのメール……まさか本当にクレリアさんは……。

 

 そう考えて呆然としていると、スマホが着信を知らせます。

 

 「ナタリアさん」

 

 「沙織!ニュース見た!?」

 

 私が電話に出て名前を呼ぶと、ナタリアさんが普段の会話が嘘の様な速度で言いました。

 

 「はい、一体どうなっているんですか?」

 

 「分かんない……わかんないけどネットもテレビもクレリアの話題でいっぱいだ」

 

 不安そうな声のナタリアさん、私もこれからどうなるのか分からず不安が募る。

 

 「ブイライブからのメールは見ましたか?」

 

 「うん……私は取りあえずベティと連絡取ろうと思ってる」

 

 はっ……混乱して忘れていました。

 

 「そうですね……ベティさんにも連絡しておきましょうか」

 

 何があるか分かりませんから、連絡は取り合っておくべきでしょうね。

 

 「話せた方が良いからクロスコードを使おう。ベティにも連絡しとくよ」

 

 「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 「全員いるわね?」

 

 「いるよー」

 

 「はい」

 

 私はベティさんの言葉に返事をする。

 

 あれからすぐにクロスコードを使い、今回の事について話す事になりました。

 

 「二人は何をどこまで知ってる?」

 

 ベティさんに私は知ってる事を話す。

 

 「知っている事は殆どないんです。ニュースを見て急いで大学から帰って来て、自宅で調べようとした所にナタリアさんから連絡を受けて……そこでベティさんと連絡を取ろうという話になったんです」

 

 「私もそんな感じ。後、ニュウチューブはもうつながらなくなってる」

 

 「そう……」

 

 「ベティもブイライブからメールは貰ってるんでしょ?」

 

 「活動を控えて欲しい、説明は後でするってメールよね?」

 

 「うん」

 

 そこで無言の時間が生まれました、二人は何を思っているのでしょうか……?

 

 「ふぅー……これってつまり、クレリアさんがあのクレリアさんだったって事よね?」

 

 「これだけ騒ぎになってるし……間違い無いでしょ」

 

 「本当に本物のクレリアさんだったんですね……急に緊張してきました」

 

 「まあ……気持ちは分かるわ。私マニオカートで勝負したし……」

 

 私の言葉を聞いて静かに答えるベティさん。

 

 ……正直羨ましいです。

 

 クレリアさんと会話してから私達はアイドルのクレリアさんの事を調べましたが、本当に凄い……いえ、凄いという言葉では収まらない方でした。

 

 二人もクレリアさんの残した記録に驚愕したと話していましたし。

 

 その時の私達は本人だなんて全く思っていませんでしたが……。

 

 「もう、出来ないかもねー」

 

 ナタリアさんが暗い声を出している。

 

 「もしこうならなかったら、オフコラボで死ぬほど驚いていたんでしょうね……」

 

 私もそう思います、ベティさん。

 

 ですが……。

 

 「こうなってしまっては……難しいでしょうね」

 

 私は今の状況を考えて、感じた事を口にしました。

 

 「だよねぇ……」

 

 「世界中に広まってるでしょうし、多分もう収拾がつかないと思うわ……」

 

 「メールでは何も言ってなかったけど、多分ブイライブに問い合わせが来てるよね?」

 

 「大量に来てるでしょうね。私達に活動を控えろと言ったのは、向こうがまともに動けないからかも知れないわ」

 

 「お嬢様の正体がその辺の有名人程度なら、こんな事にはならなかったと思うけどね……」

 

 「確かに、彼女じゃ無ければ平気だったわよね」

 

 二人は色々な事を話しています。

 

 ……この状況で私達に出来る事は何もありません。

 

 難しい事だと思いますが……出来る事なら四人のまま活動を再開したいです……。

 

 

 

 

 

 

 活動休止を了承した後、私はブイライブと今後の事を話し合う。

 

 その結果、ブイライブ側が考えた方法を試す事にした。

 

 まず「お嬢様」がアイドルのクレリアである事を正式に発表。

 

 そして、現在起きている問題が解決するまで無期限の活動休止を決定した事を報告。

 

 その後「問題が解決すれば復帰するが、長引くようなら引退も視野に入れている」といった事を話す私のインタビュー映像を放送する。

 

 これは世界中に「このままではクレリアの活動が終わる事になる」と伝える事が目的らしい。

 

 彼等は「上手く行けばファンが周囲のファンを抑え始める状況を作り出せる」と言っていたが、そう上手く行くだろうか。

 

 もし上手く行けば放っておくだけで効果があるので、取りあえずやってみる価値はあるだろう。 

 

 ただ、彼等が言うにはこの方法は一般的なアイドルや有名人では全く効果が無いらしい。

 

 世界中に膨大な数のファンが存在し、絶大な人気を誇る私だからこそ実行に移す事を決めたそうだ。

 

 この話を聞いた時、私は引退してから十数年が経っている事を話したのだが……返って来たのは千穂と美琴によく似た答えだった。

 

 一通り話した後、彼等は苦笑いを浮かべ「貴女は例外ですよ」と言っていた。

 

 私は何事にも例外があると考えているのだが……今回は私自身が例外になったようだ。

 

 その後も彼等は話し合いを続けていたが私自身が行う事はほぼ無いので、自宅に帰り待機する事にした。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。