キャラ覚書。
猫目 ネム(ねこめ ねむ) 本名 ナタリア・チェルニショワ ロシア人。
白亜 テラノ(はくあ てらの) 本名 ベティ・オコンネル アメリカ人。
神鳥 フジミ(かんどり ふじみ) 本名 宮内 沙織(みやうち さおり) 日本人。
最初に使用人養成所に居る候補生の視点があります。
今までと少し違う書き方で、分かりにくかったり読みにくかったりするかも知れません。
よし……。
今日も問題無く終わりそうですね。
そう思いながら部屋で本を読んでいると、部屋のドアがノックされた。
「はい、どなたですか?」
私が返事をすると、扉の向こう側から声がする。
「言った通り来たわよ」
……ああ、今日の昼に声をかけて来た新人達ですね。
「入ってかまいませんよ」
そう言って私は二人を部屋に招き入れた。
「……私の話を聞きたい?」
夜の自由時間に部屋に来た新人候補生二人に、私は突然質問された。
「うん、どんな感じでここに来たの?」
「後、ここの事とかも聞きたいわ!」
はぁ……先輩に対して敬語を使う事も出来ないのね。
……まだ幼いし、来てから一月も経っていないのならこんな物かしら。
私も最初は偉そうにしていたけれど……当時の先輩から同じように思われていたのかも知れないわね。
この子達はまだこれから。
まあ、私もまだまだだけれど。
「話したくない訳じゃないから良いけれど……面白い話にはならないと思うわよ?」
「お願い、ね?」
「聞きたい!」
「分かったわ」
私は二人に語り始める。
私がメイドとしての教育を受けるために使用人養成所に来たのは11歳の時、12歳の誕生日を迎える丁度一か月前だったわ。
周囲からとても賢い子だと言われていて、実際に私は周囲の子供と少し違っていた。
ただ……あの頃の私は特に何かをする事も無く、普通に小学校に通っていたわ。
でもある日、私が家に帰ると両親と見知らぬ女性が待っていたの。
その女性は「全国の優秀な子供達を月下のメイドに勧誘する為に活動している」と話し、私を候補生として迎え入れたいと言った。
その時、私は彼女に様々な事を聞き、彼女がそれに真剣に答えてくれた事を覚えているわ。
今思えば子供らしくない質問ばかりだったけど……私にはそれが普通だったんだから仕方無いわね。
ええ、それを受けてここにやって来たのよ。
あれから五年が過ぎたけど、この道を選んだ事は間違っていなかったと思ってる。
何せ、かかる費用は無料。
更に、学ぶ身でありながらこの時点で一般的なサラリーマン程の給料が貰えるのよ。
最初は信じられなかったわ。
小学生に対しての待遇とは思えなかったもの。
規則もあるけどきつい縛りでは無いし、休日もあるわ。
そして、勉強はメイド候補生一人に教師が一人ついて教えてくれる。
その上、力及ばずメイドとして採用されなくても、実力に見合った別の仕事が用意される事まで約束されていた。
あなた達もこれが普通ならあり得ない待遇だという事くらいは分かるでしょう?
まあ、その代わり一定期間評価が基準を下回ると使用人としての道は閉ざされるけれど。
ここは養成所という名前だけど……一般的な教育も行われているから使用人養成学校かも知れないわね。
ただ、ここでは通常の学校とは別の教育が行われている。
分かるわよね?
……そう。
「メイド学」ね。
このメイド学も専門の先生が一人に対して一人つき、基本的には卒業までその関係が続くわ。
ん?
……私の先生?
私のメイド学を担当しているのは嵐山 香織(あらしやま かおり)先生よ。
……出来るだけ早めに先生方の事は覚えておきなさい。
各地にある養成所のメイド学の先生は、引退したお嬢様のメイドの方々が行っているわ。
勿論、誰でもなれる訳では無いわよ?
教育者としても優秀な方だけが任されているのよ。
あなた達も敬意をもって接するようにね。
そしてそんな先生方の中でも、私の先生は「特別」と言える人なの。
彼女は本来ならば長くても10年程の雇用期間である本邸のメイドを20年も続けた方よ。
関係者の間では有名な人で……なに?
……私も最初から知っていた訳じゃないわ。
私がその事を知ったのは、ここに来て……一年が過ぎてからよ。
……ええ。
だからあなた達には早く覚えるように言っているのよ。
……話の腰を折らないで。
続きを聞く気はあるの?
全く……。
……私が先生の事を知ったのは、養成所に集められた他の候補生達と競い合い、自分だけが特別では無いのだと自覚した頃ね。
そうそう、私の先生には娘さんが居るのだけれど、現在お嬢様にお仕えしている現役の使用人です。
……ええ、母娘共に優秀ですね。
私も早く一人前のメイドになって、お嬢様と先生の娘さんに会ってみたいわ。
あなた達もこれから頑張りなさい……応援しているわよ。
バーチャルニュウチューバー活動を再開してから一週間後。
現在、私はクロスコードで三人からオフコラボを提案されていた。
「オフコラボか」
「ええ、もう『お嬢様』がクレリアさ……クレリアだという事も分かっているし。問題無いわよね?」
ベティがそう私に聞いて来る。
あの騒動で私がバーチャルニュウチューバー活動をしている事は世界中に広まり、同期の三人も私がアイドルのクレリアだと知った。
彼女達はクレリアの大ファンという訳では無かったが、どういった事を行ったかは知っているため、改めて話した時は緊張しているのか敬語になっていた。
その際に私は以前のように話して欲しいと頼み、こうして出来るだけ以前の通りにしようとしてくれている。
多少ぎこちないが、すぐに慣れるだろう。
「無理強いはしませんが、いつかは行う事になるのですし……早い方が良いと思いまして」
沙織の敬語も少し緊張が混じっているな。
「いいでしょー?なんだかんだ言って二人は伝説のアイドルに直接会ってみたいんだよー」
既に慣れた様子で話すのはナタリアだ。
二人と違って、彼女の声はもう緊張していないように感じる。
「別にそういう訳では無いです!ただ同期として一緒に進んで行こうと……」
「本当にぃー?」
焦ったように反論する沙織に訝しげな声を上げるナタリア。
「はいはい、そういうのはもう終わったでしょ。今はオフコラボの話よ」
ベティはナタリアの言葉に反応せず、そう言って話を戻そうとする。
「そうだねー。ごめんね、沙織」
「平気ですよ。会ってみたいと思っていたのも事実ですし」
「もういいか?」
黙って彼女達の会話を聞いていた私は、そう声をかけた。
「ええ……それで、どうかしら?」
「いいぞ」
「いえーい。決定だねー」
私の言葉に喜びの声を上げるナタリア。
「何をするかは考えているのか?」
「私は考えているけど、クレリアは何かある?」
「特に考えていない。まずそちらの考えを聞かせてくれ」
「……私は四人の内の誰かの自宅に集まって『リングスポーツクエスト』をやろうと考えてるわ」
「それはどんな物だ?」
私はベティに尋ねる。
「フィットネスゲームよ」
フィットネス……体操のような物か。
「輪っかのコントローラーで実際に運動しながら進めるゲームだよー」
「楽しく体を鍛えたり、ダイエットが出来るゲームですね。他のブイチューバーさん達もよく配信していますよ」
ナタリアと沙織も説明してくれた。
「ふむ……実際に運動するという事は、ある程度の広さが必要だな?」
「ええ、ある程度は必要ね。四人で集まると少し狭いけど、配信するつもりでいたから私達も最低限プレイ出来るだけのスペースは用意してあるわよ」
彼女達の部屋では少し狭い、か。
「皆、私の家でコラボを行う気はあるか?」
自宅に配信用のスタジオが出来たので丁度良い。
複数の同時配信も可能だと言っていたので問題は無いだろう。
「お邪魔してよろしいのですか?」
「クレリアの家!?行きたい!」
「良いわね、私も行きたいわ」
私の提案にそれぞれの反応を返す三人。
ベティとナタリアは問題無いようだ。
「沙織はどうだ?」
「えっと……行きたいです」
改めて聞かれ、返事をする彼女。
「では決まりだな」
こうして初のオフコラボは、私の家でのリングスポーツクエストプレイ配信となった。