ゲーム内に登場する生物は作者の創作ですが、作中では過去に実在しています。
ゲームを始めてから数時間後。
単細胞生物が多細胞生物に進化してからは順調に進化が進み、大型の海洋生物が現れるようになっていた。
:最初はどうなる事かと思ったけどいい感じだね
:実際に発見された生物が出て来るから意外と勉強にもなるよなこれ
:俺もゲーム内の図鑑ちゃんと読んでたな
画面の中で何処かで見たような気がする生物が大量に海を泳いでいる。
ゲーム内の説明も見てみるか。
そう思った私は、適当な生物にカーソルを合わせた。
図鑑は別にあるが「直接生物を選んで説明を読む事が出来ます」と説明があったからな。
ふむ……こいつは「ユピトルトシス」か。
読み進める中、ある一文が目に留まる。
【全長5メートル程の細長い胴と長い五つの口を持ち、背中には前後に動く針状の背ビレが二列並んで生えている。】
そこにはそう書いてあった。
:これも実際に居たんだよな
:信じられんよね
:こんなのが沢山海を泳いでたんだもんなぁ……
ふむ……。
表示されている姿に引っかかりを感じた私は、画面をしばらく見つめた。
こいつは以前見た覚えがある……気がする。
しかし……。
「確か上下が逆だったような気がするな」
私はそう言いながら、自分の記憶を探る。
:……ん?
:どゆこと?
:逆?
私の言葉を聞いた視聴者達の、疑問のコメントが流れて行く。
皆にも話しておくか。
「ゲーム中の説明では五つの口で海底の貝などを食べていた、と書いてあるのだが……実際は上下が逆で、海中を泳ぐ魚などを捕食していた筈だ」
そう……確かその時、私は「あまりにも効率が悪い」と感じたはず。
この説明のように貝を狙った方が良い、と考えた事をうっすらと思い出した。
:あっこれは……w
:突然の超越者ムーブw
:実際に見ていたんですねw
私の言葉に反応し、更に多くのコメントが流れて行く。
今のように過去の事などを話すと視聴者達が喜ぶので、私は時々こうして思い出した事を話す。
勿論、誰も本気にしているようには見えない。
人類が研究を重ねているんだ、私が正しいと思う者などいないだろうな。
だが、私の記憶には背ビレと説明されているあの針のようなヒレで海底を歩いている姿がうっすらと残っているので、現在のこの説明は間違いである可能性が高いと思う。
わざわざ訂正する気は無いが、私が訂正しなくともいつか気が付くだろう。
そこまで考えた所で私は意識を切り替え、ゲームを続ける事にした。
それから数回全滅の危機を乗り越えながらゲームを進めると、海中の生物が陸に上がり、昆虫なども生まれ始めた。
「説明によると、現在のゴキブリは大きさ以外、この時代からほとんど変わっていないらしい」
説明を読み上げながら、私はその姿を見つめる。
:でかいゴキブリが……
:苦手な俺には衝撃映像だよ……
:今のと比べてデカすぎない?襲われたら死ぬやん
:地球守らなきゃ……
ふむ……。
以前、陸を探索している時に襲って来たのはこいつだった気がするな。
その後は多少停滞しながらも進化が進み、やがて地球上に恐竜が現れ始める。
この時代の生物と誰かが遊んでいたような覚えがあるが……。
ヨツバだったか?
いや、他の娘達も居た記憶がある。
:恐竜になったー!
:この時代が一番好き
:寝て起きたらまだやってて草
そうだ、ヨツバが恐竜と戦い、他の娘達が見物していたんだ。
:この時代にはもう人類の先祖がいたはずだよね?
:ネズミみたいなやつだっけ?
:たしかそう
私があの頃の事を思い出していると、人類達が自らの祖先について話し始めていた。
「当時、私はその生物にあまり目を向けていなかった。あの時の小動物が知性を持ち、こうして私と意思の疎通をしている事に喜びを感じているぞ」
:その頃から知ってたらそりゃ感慨深くもなるよねw
:ネズミがこうしてお嬢と話せるようになりましたw
:小さかったあの子がこんなに立派になって……
:草
当時、存在には気が付いていたが特に注目はしていなかった生物。
それが時を経て人類となり、今地上を支配しつつある。
やはり進化には様々な可能性があるな。
魔素や魔力の影響が強く出たり、更に時が流れた時……彼等は一体どう進化し、変化して行くのだろう。
今後、あらゆる障害を自力で解決出来るようになれば、彼等が滅ぶ可能性は当然減って行くだろうが……それでも何が滅びのきっかけになるか分からない。
これからも油断せずに出来るだけ存在し続けて欲しい所だ。
:そういえば配信の時間は大丈夫?
:もう枠変えなくていいんじゃなかったっけ?
:アーカイブの事か?
:例の騒ぎの後に時間制限なくなったぞ
配信時間を気にする視聴者達が現れているが、問題無い。
以前は12時間を超えるとアーカイブに残らなかったようだが、現在はその制限が撤廃されているからだ。
枠の変更を行わなくても済むので、好評だと聞いている。
「人類が宇宙に進出するまで続けるぞ」
:マジすかw
:今恐竜だとまだ先が結構あるんですがw
:人間では超越者の耐久力について行けませんw
:もう行かないといけないのでアーカイブで見ます
:お嬢様はそこそこの長さのゲームだと一回でやり切るよなw
:前は30時間超えてたしな
:全部リアタイで見た奴いるのかな……w
:そこそこ(30時間超え)
:お嬢が大丈夫なのか心配になる
このままクリアする事を宣言すると、コメントの勢いが増す。
30時間を超えた時は瞳から心配された。
しかし、私は本当に問題が無い事を伝え説得し、ブイライブに長時間配信を行う事を認めさせている。
瞳は「少しでも違和感を感じたら無理やりにでも止めますからね!」と言っていたが。
そういった事があり、基本的に私の配信は他の配信者よりも時間が長い。
「違和感を感じた者は無理せず休め。問題の無い者は好きにしろ」
私は念の為、無理をしないように注意しておく。
:なんか惚れそうになる言い方
:まだ10時間なのでついて行きます!
:私は限界なので寝ますー
:最初から最後までリアタイで見ようと思って事前に寝て来たからまだ行ける
それから約6時間後に人類が生まれ、それから更に4時間が過ぎた。
人類は順調に発展し、もう少しで宇宙に進出しようとしている。
:見始めてから20時間以上過ぎたか……
:もう少しで終わる!寝るな!寝たら死ぬぞ!?
:寝ない方が死ぬんだよなぁ……
:まだやってるw
:これがお嬢様クオリティ……!
開始時から見ていた視聴者は脱落しかなり減ったが、それでもまだ居るようだな。
「この宇宙開発が順調に進めば、終わりは近そうだな」
:声から全然疲れを感じないんだけどw
:お嬢すげえよ……
:体力どうなってるんですかね……?
:途中からだから、後でアーカイブも見ときます!
:30時間超えた時も変わらなかったからな……20時間なんて余裕だろうさ……
途中から参加した者達も少し疲れているようだ。
「何度も言うが、無理はするなよ」
私はそう言って、大詰めを迎えているゲームの続きを始めた。
ゲームを始めてから約21時間後、人類は宇宙へ進出し、エンディングを迎えた。
:終わったー!
:お嬢様おめでとう!
:寝落ちする前に終わって良かった……
:お疲れ様ー!
「中々良く出来ているゲームだったな」
私は感想を口にする。
ゲーム内の進化の過程が正確かは……私の記憶が曖昧なので何とも言えないが「人類が生命の進化を観察する」という点では十分楽しめる内容だと思う。
「今の人類が実際に宇宙に進出するのはまだ難しいと思うが、お前達は宇宙に生存圏を広げたいと考えているか?」
私は視聴者達にそう問いかけた。
:行けるなら行ってみたいね
:夢が膨らむー!
:人類が宇宙に行くのはいつになるかなー
:一応今も宇宙には行ってるけど
:お嬢は生存圏って言ってるから、地球の衛星軌道上に滞在するとかの話じゃなくて、大勢が普通に地球の外で生活するって事でしょ
:難しいんじゃないかなぁ……
:他の惑星の探査とかはしてるけど大勢が死ぬまで生活出来る環境となると……無理だね
流れるコメントを見ると、行きたいという気持ちはあるが実現は遠い、と考えているようだ。
「お前達ならいつか届くかも知れないな」
魔法人類には空の先を目指さなかった。
私が知らないだけで居た可能性もあるが、多くの者が目指さなければその先へは進めない。
だが今の人類には宇宙を目指す者が多く居るし、実際に私達の住む月まで来ている。
あまり今の人類に手を出す気は無いが……いつか手を貸す日が来るかも知れないな。
画面には、宇宙進出に関するコメントが次々と流れている。
私は少しだけ視聴者達と宇宙開発について語り合い、配信を終えた。